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No Fantasy  作者: 緑川
第二章

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2/6

No.2 俺は世界でいちばんの幸せ者だ

 穴倉卒業祝いの外界は洗礼に等しく、身も心も浄化の一途に負けじと足跡を辿っていく。


 そして、


「ブルルル」


 分厚い皮が踊るような音が鳴り、

 

「どうし――」


 俺は再び、一条の生きた光を掴み取った。


「来るのか」


 歯ァ食い縛って顎を引きゃ、


「あぁ」


 二つ返事を頂けタ。

 ものの、疑いの眼差しが鋭く突き刺さった。


「お前、剣を持ってきたのか」


 お飾りの杖に対する立て続けの質問攻めに折れ、渋々元の持ち主にお返しすることに。


「これはもう、必要ないんだ」


 白馬の王子様風で颯と抱えてくる片手間に本当の鞘に刃を収め、その真っ只中に俺は赤子同然の我が身を起こそうと無理を強いる。


 だが、支えに縋らず首を座らせるのですら心血を注いでいて、前を向こうものなら忽ち倒れてゆく。


「よせ」


 二度と立ち上がれない。


「やめろ」


 天を仰いだまま、奴と同じように――。

 こんなところで、俺はァ……ッッ!!


 どんなに吠ようが、きっと叫び終えた後のような声にもならない掠れが放たれただけ。


 ずっと前から体は限界だったのか。寧ろ、今まで形を保っていられたのが奇跡なんだ。


「――――」


 遂に耳鳴りが主役を乗っ取り続け様、血管を流れたドロッとした涎が滴り落ちていく。微かに見えていた隙間の光が段々閉ざされ、何処までも暗い闇があの世界が帰ってくる。


 広大な自然の空気がどうしようもなく血生臭くって、


 あれ?


 痛くない、苦しくも。


 だからこそ感じていた、抱きしめてくれるこの人がいなくなっていく。


 早く、起き上がらなきゃ。


「生きて、いたいのか」


 その問いに、俺は迷わず重力に逆らった。


「このことは……決して誰にも言わないと、誓って貰うぞ」そう告げ、体を寝かせられた。


 気を抜くと、一瞬で睡魔にやられる時間が続く。


 もう始まっているのか、それとも。

 どちらにせよ、おちるのは時間の問題だ、

ぁ。

 ――あったかい。


 神秘的な何か、違う。摩訶不思議とも取れないような、なんだろう。うーん、これは。


 そうだ子守唄だ。


 音色くらいしか覚えていないけど、暖かな太陽の下で眠りにつけるまで、ずっと歌ってくれた。それだけは今でもずっと傍にあった。


 誘う微睡みが静まる頃、


「終わった」


 目が覚めた。


「だがっ俺では、この根深く刻まれた()()までは、治せない」


 まるで顔を酷く歪めたような呟きに、

「ぃい、これが俺だ」

 貴方は間違ってないんだと、言えた。


「なら、目を開けて構わない」


 重力に阻まれず瞼を開けば、


「あぁ」


 果てしなく透き通った世界が、青さと光が見える。


 自由自在に口を動かしても中の汚ないモノを閉まったまま、いや、それだけじゃない。失った歯が綺麗な姿形になって戻ってきてる。


 嘘偽りなく。


 簡単に立ち上がれた、その先、


「俺はウォリア」


 白馬に騎乗する王子様改め、傭兵の方が相応しい重々しい装備を身に外套(マント)を背負っていた。


 少し前から生きている立ち居振る舞いは格好良いが、神々しい黄金色の髪はそよ風でマントとともに靡いて、雄々しい顔立ちを隠してしまうくらいに密度が高かった。


 俺の灰まみれよりずっと。


「コイツは」火「ノエル」馬。とても大きく陽を纏っている様に裏表のない瞳を輝かせている。


「お前のな――」


 針刺す鼓膜は澄み渡る音色へ、深く息を吸うだけで自然の匂いが鼻の奥まで伝わった。


 髪の根から指先に至るまで、動く度に神経だって細胞だって筋肉まで踊り狂っている。


 生きてるんだ、俺。


 そのまんま次々に指をさしてった。


「空」

「あぁ、雲一つないな」


「太陽?」

「もう日の入りだな」


「ウォリア!」

「そうだ」


「ノエル!!」

「大丈夫か」


 ぁあ、これは。


「――故郷へ」ウォリアの咲いた言の葉を食い尽くさんばかりに「あるの!? おれの」


 瞬きよりも一瞬、眠りにつくまでの永遠。そんな息苦しく終わらない間が続いた。


 そしてノエルが地団駄を踏み、続くように、


「そうだ」


「帰る家も、あるんだ」


「あぁ」


 おれは、おれは、


「俺は世界でいちばんの幸せ者だ」


 息を吐くみたいに零れ落ちた一言だった。


 でもこの大草原の空気を味わう何千倍も、気持ちの良い瞬間だったのを忘れられない。


「そうか、いや、そうだな。そうかもしれない」


 変な独り言を乱雑に並べていたウォリアから、徐に手を差し伸べられた。


「……!」


 また、初めてのことだ。


 夢じゃない幻でもない、この掌を包み込んでくれるごつごつとした手を掴み取って足の甲を踏み、頼もしい背中に乗っけて貰えた。


 俺を先頭に手綱を握る腕に手を添え、みんなで際限なく続く地平線の最果てに向かって、


「さぁ、()()()――夜が来る前に」


 歩む。

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