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終焉の詩唄い  作者: 匿名記号


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6/15

結界について

「こう……ですか?」

「そうそう! よく出来ました。これが一番簡単な結界陣の描き方だから、ちゃんと覚えておいてね」


 ニクスはしゃがみ込み、指先で砂をなぞる。淡い光が軌跡を追い、円環の魔法陣が浮かび上がった。

 今日、エミに教えるのは二つ──。

 ひとつは認識阻害。もうひとつは物理結界。


「まずね、陣っていうのは“魔法を形にする器”なの」


 ニクスは柔らかく言いながら手のひらで陣の線を撫でた。


「火や水を出すこともできるけど、本来は“魔力を封じる・守る”ためのものなんだよ。たとえば──防音、防臭、防視。あと、封魔陣もそう。基本は魔術師が地面に描いて、そこに魔力を流し込むのが一般的な使い方」


「……直接、地面に描くんですね」

「うん。ただ、これがまた面倒でね。ちょっとでも線が欠けたら、効果が全部消えちゃうの。だから何重にも陣を描く人もいるけど、その分めちゃくちゃ難しくなる」


「魔力がなくても、触媒があれば発動できるって……本当ですか?」

「正解。触媒さえあれば素人でも“意志”を宿せる。魔力を込めたインクとか、古い魔導書とか、お札とかだね。

 あとね──魔術師や魔族の血も強力な触媒になるよ。」


 エミが顔を引きつらせる。


「血……ですか……」

「うん、でもあまり使わない方がいいね。呪われやすいから」



「次は認識阻害陣ね。ここをこう書くと──」


 ニクスが指を滑らせると、崖の間に続く道が、ふっと消えた。


「わぁ……! 全部、崖に見えます!」

「でしょ? 簡単な幻覚術の応用。人の脳が“そう見たい”って思ったものを強制的に見せてるの。あと、同じ場所にこう線を加えると──」


 ぐるりと描き足した瞬間、エミが思わず足を止めた。


「え……? 方向がわからなくなって……足が勝手に……」

「それが“方向感覚錯乱”。森とか洞窟で迷う人が多いのは、だいたいこの術のせいだね」

「怖いですけど……すごいです!」

「まぁ、使いどころは気を付けてね。やりすぎると自分も迷うから」



「さて、補助道具も渡しておこう」


 ニクスは腰のポーチから何枚かの厚い紙を取り出す。


「これが耐水紙。魔法陣を描いて貼るのに使う。地面だとすぐ削れるからね」

「直接木に描くのは駄目ですか?」

「悪くはないけど……木は生きてるから、成長で線が歪むの。せっかく描いても一年もすれば消えちゃうよ」


「長期間保てる方法は……?」

「あるよ。魔晶石ましょうせき。転移や魔王城の結界に使われてる、高純度の触媒」

「えっ、あの魔王城にも?」

「うん。でもまぁ、あれは“外側”に置いてるの」

「外側……? 中じゃないんですか?」

「完全な結界ってね、内側にあると魔力が通らなくなるの。だから外に置いて供給するのが合理的。魔王城の近くにあるダンジョンはその魔晶石を護るためのダンジョンだね。

王都の正門も、実は完全には覆われてないんだよ」


 エミは小さく唸る。


「……うう、難しいです」

「分かる分かる。私もお師匠さまの座学は寝てたからね」

「えっ!? ニクスお姉ちゃんでも?」

「そりゃね……私だって“北の魔王を倒した勇者が何人もいた”なんて、最近まで知らなかったもん」

「……えっ、それってどういう──」

「はいっ、そこまでー! 今日の授業、終わりっ!」


 ニクスがぱんっと手を叩く。

 エミは名残惜しそうに、描いた陣を見つめた。

 陽が傾き、光る線がゆっくりと砂の中に沈んでいく。


「……ありがとう、ニクスお姉ちゃん」

「ううん。教えるのって楽しいね。……私も、昔こうして教えてもらったから」



 昼の空には、また薄く月が浮かんでいた。

 終焉の魔女と呼ばれる事になる少女は、その光を背に、次の村へと歩き出す。

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