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終焉の詩唄い  作者: 匿名記号


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始まりの記録

「……う、ん」

「──あっ! 起きた! お医者さん呼んでくるから、そのまま寝ててね!」


 エミが駆けていく背中を、ぼんやりと目で追う。


「………………はっ! 村は!? 私、どれくらい気を失ってたの!?」


 奥の部屋からエミが顔を出す。


「えっと……まだ半日くらい。明け方に倒れて、今はお昼だよ。

 村も無事。私の村もだよ。ニクスお姉ちゃんのおかげ。今、みんなで燃えた家の片付けしてる」

「……そう……よかったぁ……」



「魔女さまー! もう歩いて大丈夫なんですかー?」

「はい、大丈夫です。傷も浅いですし、倒れたのは修行不足のせいですから!」


 腰の小枝の杖が、もぞもぞと動いている。

(……後でちゃんと封じておかないと……)


 魔法で瓦礫を片づけ、ニクスは村の復興を手伝っていた。


「……あれ? そういえば……封魔陣はどうなったんですか?」

「あぁ、これですかね? 我々では分からず、あとでお見せしようと……」


 村の男が持ってきたのは、ボロボロの古い本だった。


「……なるほど。やーっぱり安物じゃない。

 もう少し無理やり魔法を使ってたら、勝手に壊れてたか……

 やっぱり私、まだまだ未熟だなぁ。お師匠さまなら力ずくで解除してただろうな」


 無詠唱の小さな火で本を燃やし、再び片づけに戻るニクス。



 作業が一段落したころ、村長がエミを連れて、見て欲しいものがある、とやってきた。


「野盗は……裏手から入ったんですね。この崖を……?」

「……ごめんなさい。ニクスお姉ちゃんに教えてもらった光る石で目印をつけて……。

 それで、村の外に待機してた人と……村の伝書鳥でやり取りしてました……」


 やはりエミの手引きは本当だった。


「結界を敷くこともできますけど……定期的に魔力を補充しないと効果が薄れます。

 魔力を扱える人はこの村にいますか?」

「この村はずっと平和でしたから……そういう者はおらぬのです」


 ニクスは腕を組んで考え込む。

 魔力供給型の結界なら自分の魔力が尽きた時点で解除されてしまう。

 再び倒れたら、それで終わりだ。


「……困ったなぁ」


 ため息をついたそのとき、エミが一歩前に出た。


「わ、私が……やります。

 結界の管理、定期的に見ます。光石もいっぱい作れたから……。

 罪滅ぼしにはならないかもしれないけど、私にしかできないなら……やらせてください」


 エミの掌の上で、光石がほのかに暖かく輝いた。


「……うん、魔力の扱い、筋がいいね。

 あとはこの村の人たちが、どう判断するかだけど……」

「この子のしたことは罪かもしれません。

 ですが……脅されてのこと。──まずは、これからの働き次第、ですな」


 村長の言葉に周囲の村人たちも静かに頷いた。


「……ごめんなさい、ごめんなさい……! 頑張ります、絶対!」

「じゃあ、後で一緒に結界を張ろう。作り方も、管理の仕方も教えるからね。

 クラフ村の方は……自分でやるんだよ」

「……! はいっ!」


 空がゆっくりと茜色に染まっていく。

 作業を終えた村人たちは、壊れずに残った家やテントへと戻っていった。


「さて……今日はこの村で泊まるかぁ。

 エミ、エリィのところには行けた?」

「……まだ。どんな顔して会えばいいか、わからなくて」

「そっか。じゃあ、私の最後の仕事だね。行くよ!」

「えっ、ちょっ、えぇ!? ニクスお姉ちゃん、まってぇ!」


 ニクスはエミの手を取り、小走りにエリィの家へ向かう。



「……何しに来たの?」


 家に入るなり、エリィの声は冷たかった。


「仲直り、してないって聞いたから」

「──出来るわけないでしょ!

 こいつが何をしたか、知ってるでしょ!? 私のパパもママも……死んじゃったんだよ!」


 エミは目を閉じ、震える声で「ごめんなさい」を繰り返していた。


「エミの両親は無事だったんだってね。よかったねぇ!

 親を失った気持ちなんて、分からないでしょ? ニクスだって……!」

「…………私は、父を知りません。母の……お仕事中に出来た子……って……祖父に聞かされました。

 その母は……祖父の虐待で、私の前から消えました。エミと同じくらいの歳の頃に、です」

「…………え……ぁ……」


 エリィの声が、急に小さくなる。


「エミもね……両親は無事だったけど、大事なものを失ってる。

 “りーちゃん”って聞いたでしょ? エミが生まれた時から一緒に育った、家族同然だった犬が……殺されました」

「……!」

「誰も悪くないんだよ。

 エミもエリィも、同じくらい苦しんでた。ただ、それを伝えたかったの」


 ニクスの言葉に、エミが一歩前に出て、涙をこぼしながら語る。


「最初に、ちゃんと話せばよかったの。

 村が燃えて、エリィお姉ちゃんのパパとママが殺されるのを見たとき……もう戻れないって思った。

 ニクスお姉ちゃんが助けに来てくれた時も、背中を刺せって脅されて……。

 ……毒を塗ったナイフで」

「えっ!? あのナイフ、毒ついてたの!?」

「……服で拭って……」

「そ、そっか……あっぶな……。ご、ごめん、続けて」

「……ごめんなさい。ほんとに、ごめんなさい。

 一生かけて償います。エリィお姉ちゃんと、この村のために」


 エリィは静かに息を吐いた。


「……モヤモヤしてたけど、少しスッキリした。

 もうこんなこと、二度と起こらないようにしよう。

 エミ……頑張ろ。私も頑張る。……あ、でも“一生”は重いよ。

 償いじゃなくて……友達、でいよ。いてくれる?」

「……! うん! うん……!」


 二人は泣きながら抱き合った。


「ふぅー……よかったぁ。入った時、刺されるかと思いました」

「包丁は持ってたけどね?」

「なっ!? 私また刺されるところだったの!? 回復魔法使えないんでやめてー!」

「冗談よ」


 くすりと笑うエリィ。

 直後、真剣な顔で話しかけてくる。


「ニクス……あの集団。まだ残党がいるんでしょ? 魔女さまの力で、全部やっつけて」


 ニクスの目も真剣になる。


「任せてください。”双杖の魔女”ニクスの名に懸けて──奴らは後悔させます。私を怒らせたこと」


 ぐぅ〜。


「……の前に、腹ごしらえですね」

「締まらない魔女さまだねぇ。じゃあ、ママの得意料理、作ろっか」

「あ……私も手伝う! エリィのお母さんの料理、大好きだったから……教えて!」

「しょうがないなぁ」


〜〜♪


「その唄、好きだねニクス」

「英雄譚って、男女問わず憧れません? あーあ、私もお姫様になりたかったなー」

「どう見てもニクスは英雄側でしょ。囚われの王子でも助けて姫から寝取ってきなさいよ」

「なんで襲うの前提なんですか!?!?」


◆ ◆ ◆

昼の月 蒼と紅の影を纏い

焦土に立つ魔女を見下ろす

彼女の名は──────

終焉を背負い 再生を誓う者


少女の涙は 石を照らし

少女の罪を洗い流す光となる

許しと絆が交わるその地に

新たな護りの陣が刻まれた


友は傷つき 敵は嵐に消えた

赦しは罰よりも重く 強き鎖となった

魔女の言葉が風に乗り

残骸の中に希望を撒く


こうして語られる、始まりの記録

終焉の魔女が歩み出した最初の記録

世界はまだ 沈まぬ月の下

静かに 新しい夜を迎える


◆ ◆ ◆


夜更け。


「……ふぅ、疲れたー!」

「唄も詩も好きなんだね。踊りまで」

「綺麗だったよ。魔法でキラキラって!」

「この村に来た記録みたいなもんだよ。

 唄も詩も踊りも魔法も──全部、世界を変える大魔女のサインなんです!」

「……それ、何百年後の話になるの?」

「ひどいっ! なるはやですよ、なるはや!」


魔女の腹の音と唄で閉じる幕

──終わりの魔女の、始まりの記録

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