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終焉の詩唄い  作者: 匿名記号


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4/15

嵐の理由

 背中に鋭い痛みが走った。

 意識の外から、しかも後ろからの一撃。

 だが──致命傷ではない。


 腰のポーチから止血剤を取り出し、手早く処置をする。

 回復薬は……テントか──


「っ……く。エミ……今のは……あなたが?」


 振り向いた先で、小さな手が震えていた。

 ナイフを握る指先が白く、今にも落ちそうだった。


「わ、わたしの村……襲われたの……。

 次はお前の家族だって言われた……。

 言うこと聞けば、家族は助けてやるって……でも……りーちゃんが……目の前で……!」


 嗚咽混じりの声。涙は止まらず、震えた刃先が小刻みに揺れる。

 ニクスは、息を整えながらその手にそっと触れた。


「エミ……つらかったね。気づいてあげられなくて、ごめんね」


 ナイフを包み込むようにして、そっと抱きしめた。


「もう大丈夫。あなたの村も、エリィも、みんな……私が守るから」

「ほおぉ──でかい口叩くじゃねぇか、手負いの魔女さまよ」


 嘲る声が響いた。

 見れば、男が三人。

 そのうち一人は派手な革鎧をまとった男──リーダー格。

 そして鎖で繋がれた、巨大な影。灰色の肌、黄色い眼──トロルだ。


「なるほど。魔女ひとり怖くて、封魔の陣を使って村ごと封じる臆病野盗……あなたがリーダーさんかな? 私を怒らせた事、後悔させてあげる!」

「調子に乗るな。仲間を殺された借り、きっちり返してもらうぜ」

「……エミ。この村を襲ってるの、全部でどのくらい?」

「ま、まだ……頭領も他にいるし、トロルも……もっといる……。」

「……っ?! そう……ありがと」


 エミをエリィのいる部屋に逃がす。

 ニクスの顔が曇るのをリーダー格の男は見逃さず、薄笑いを浮かべた。


「今さら詫びたって許さねぇぞ?」

「謝る相手……どこにいるんですかねぇ?」

「この小娘がッ!」


 ひとりの野盗が剣を抜き、突進してくる。

 だが、踏み込んだ足が何かに絡まった。


「なっ!? 糸……?!」

「魔法が使えないなら、使えないなりにやれることはあります」


 ニクスは静かに立ち、倒れた男の背中に杖を押し当てた。


「ねぇ、エリィのお父さん、どうしてあんなに焦げてたんですか?」

「し、知らねぇ! 俺は関係ねぇ! 男は殺して女は攫う、それが決まりで……へへっ、母親は最後まで抵抗してたからよ…………!」

「……そう。あなたも、関わってたのね」


 ニクスの瞳が冷たく光る。

 小さく息を吸い、詠唱が紡がれた。


『燃えろ、我が手の誓火!集い、紅蓮の理を成し──焔葬(えんそう)しろ!』


 赤く大きな火柱が手に灯る。

 それを男の背に放ると、すぐに爆ぜ燃える。

 火が全身に立ち昇り、悲鳴が上がる。


「あああああッ!? 助け──!」

「そんな剣じゃその糸……切れませんよ。どうぞ、ゆっくり苦しんでください」


 ニクスの声は静かで、どこか遠かった。


「さて……残りは二人と一匹」


 余裕の表情を浮かべるニクス。だが、内心は違った。

 微弱ながら封魔の陣が生きている……短縮詠唱では魔法は放てない。だが、長時間の詠唱を許すような相手でもない。

 逃げるなら今しかない──けれど、エリィたちを置いては行けない。


 思考を巡らせ……出した結果は


「ふぅ……仕方ない……か。封魔陣を使ったのはそっちが先。責任、取ってもらいます」

「何を──」

「少し前に、季節外れの大嵐があったでしょ。あれ、私です」

「はぁ? 魔女ひとりで嵐なんざ起こせるかよ!」


 ニクスは小さく笑い、杖をクルクルと回した。

 金属の先端が地を叩く。


カーン──


 と澄んだ音が響いた瞬間、彼女は小枝の杖を天へ放り投げた。


「詠唱はやらせねぇ! トロル、行けぇっ!」


 鎖が解かれ、トロルが咆哮する。

 地響きとともに突進してきた──その瞬間。


 風が唸り、空が裂けた。

 轟音。大気そのものが震える。

 トロルの巨体が宙に浮き、裂かれ、霧のように散った。


「なっ……!」


 男たちの視界を、蒼い閃光が駆け抜ける。

 ニクスの周辺の嵐が形を取り、声が降りてくる。


『控えよ──我こそは蒼穹を裂き犯し、雷霆を従える者。

 天と地の理を破りし嵐王シエラなり』

「精霊……だと!?」

『小さき魔女の最後の命に従い、汚らわしい賊どもを滅す』

「くそっ! 自爆覚悟かよ、あの女!」


 風が唸る。

 嵐の刃が走り、男たちは声を上げる暇もなく、風に飲まれていく。

 やがて静寂。風だけが残った。


『ふはははは! これで終いか。さて、この村は犯してはならぬと聞き及んでおるが……あの娘に封ぜられた鬱憤、この辺りで晴らさせてもらうぞ!』


 嵐王が両手を掲げる。

 渦巻く風が形を持ち、雷光が走る。

 振り下ろそうとしたその瞬間──


 空から小枝の杖が落ちてきて


ペチーン!!!


 と嵐王の頭に当たった。


『なっ!? この小娘……こんな策を……!? あーれぇぇえええ!!』


 風が収束し、光が杖に吸い込まれていく。

 空が晴れ、静寂が戻った。


「…………っは! はぁ、はぁ……。あ、あっぶなかったぁ……。

 自分の体を媒介にして喚ぶもんじゃないね……」


 肩で息を吐きながら、ニクスは膝をついた。

 頭の上の杖を見上げ、苦笑する。


「シエラ、思ったより義理堅かったな……。

 でも、辺り丸ごと吹き飛ばす気だったでしょ……だめだよ?」


 そう呟いた直後──


「ニクスお姉ちゃん!」


 エミの声がした。

 顔を出した彼女の目に、倒れ込むニクスの姿が映る。


「あはは……契約なしの強制召喚なんて、無茶しすぎたな……。魔力、もう……すっから、かん……」


 そう言って、ニクスは意識を手放した。

 直後、遠くから声が聞こえた。


「村が燃えてる!?」「消火を急げ!」「こっちは人が──!」「う……なんだこの血溜まり……」


 ホプル村とクラフ村の間の川の調査に出ていた若者たちが、煙を見て駆けつけていた。


 炎と血の匂いの中、朝日に照らされた彼らの目に映ったのは──

 魔力切れでぶっ倒れた魔女と、泣きじゃくる二人の少女だった。

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