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終焉の詩唄い  作者: 匿名記号


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3/15

甘い判断

 数日、ホプル村に滞在した。

 理由は──気まぐれだった。


 探し人はいる。けれど、あの人が野垂れ死ぬような人じゃないことくらい、わかっていた。

 だから、少しくらい寄り道してもいい。きっと無事。



 エリィとエミに少しだけ魔法を教えた。


 エリィは、いつか魔女になって杖で空を飛びたいと笑っていた。

 だから風の初歩、つむじ風の魔法を教えた。杖で飛ぶには、風を掴む感覚が必要だから。少しずつ覚えればいいと伝えると、彼女は本当に嬉しそうに頷いた。


 エミは、暗闇が怖いと小声で言った。

 そこで、両手で包めるほどの石をいくつか拾ってきてもらい、光石の作り方を教えた。

「ゆっくり魔力を注ぐの。あたたかくて、やさしい光を思い浮かべてね」

 そう教えるとエミの目が真剣になった。

 少しでも力を入れすぎれば、石は眩しい閃光を放ち、崩れ落ちる。

 二人が驚いて目を丸くした顔──忘れられない。


 光の強さや色が石ごとに違うことも教えた。少し難しい魔法だけれど、二人とも夢中で聞いてくれた。



「もう行っちゃうの? もっといてもいいのに……」

「うーん、そうしたい気持ちもあるんだけどね。

 これは“世直し見聞の旅”だから。ずっと平和な村にいると、目的を忘れちゃいそうでさ」

「ニクスお姉ちゃん……」

「エミも、村が無事だといいね。昨日、男の人たちが偵察に出たんでしょ? きっと大丈夫だよ。

 さて──そろそろ行くね。エリィのご両親にもよろしく」


 別れ際の笑顔を残して、私は空へと浮かんだ。


 行き先は決まってない。

 村の人たちは食料をたくさん持たせてくれた。干し肉、チーズ、パン。温かい人たち。

 本当に、いい村だった。


「……なーんか、やる気出ないなぁ。。。」


 杖をゆらゆらと浮かべながら、ぼんやり呟く。

 お日様は高く、風は穏やか、お月様も仲良さげに二つ揺らめいている。世界が穏やかに見える昼下がり。


 テントを張り、火を起こして、少し早い休憩を取る。

 ゆらめく焚き火を見つめていたそのとき──。


 風の向こうで、黒い煙が上がった。


「……煙?! あの方角って……ホプル村……?」


 胸がざわつく。

 次の瞬間には、私は杖を蹴って空へ舞い上がっていた。



 村は、燃えていた。

 家も畑も、炎に包まれ、空は赤黒い煙で覆われていた。

 家畜の鳴き声も、人の悲鳴も──もう、ほとんど聞こえない。


「なんで……こんな……!」


 足が勝手に動く。

 エリィの家。煙の中でも、そこだけはまだ燃えていなかった。


「エリィ! エミ! 無事!? 返事して!」


 扉は開いていた。

 中に入った瞬間、焦げた臭いが鼻を突いた。


「……う、そ……」


 部屋を一つ、また一つ。

 誰もいない。最後の部屋の扉を開けた──


「エリ……ィ……?」


 黒焦げの人影が一つ。

 その横に、血だまりの中に倒れた女性──エリィの母。


 そして、

 ベッドの上で白い布を纏い震える小さな体。

 顔の半分が腫れ、肩にも切り傷。点々と赤いシミのついたシーツ……血の匂いが漂う。


「エリィ……」

「ナニコレ……? さっきまで、みんな笑ってたのに……ママはご飯の用意して、パパはエミとお喋りしてて──」


 虚ろな瞳がこちらを見た。

 それから、ぽつりと呟く。


「私が……呼んじゃったんだ……。あの時のヘルハウンド、あれ、あいつらの……」

「違う。あれは野生の個体だった。あなたのせいじゃ──」

「じゃあ!! なんで!? なんでパパもママも死んじゃったの!!」


 絶叫。

 鼓膜を裂くような泣き声。

 かける言葉なんて、見つからなかった。


「チッ、うるせぇガキだな。もう一回泣かせてやろうか?」


 声の主は、壁の崩れた影から現れた。

 黒い革の服にトゲ付きの装飾。傷だらけの腕。

 どう見ても、野盗。


「お前がやったのか!? 小さな女の子も居ただろ……どこに連れていった?!」


 ニクスの声が怒りに震えた。


「は? あぁ、魔女か。小さい女の子? 仲間が連れてったぜ。どうする?」

「……エミは生きてるのね。どこに連れて行ったの?」

「答える義理はねぇな」

「そう……残念ね」


 杖を向けて、詠唱した。


『爆ぜろ──』


 しかし、魔法は発動しなかった。


「……封魔陣? 村の中に……?」

「はっ、そうだよ。魔女が出入りしてるって聞いたからな。封魔の魔導具、ぼったくり商人から言い値で買ったんだ。どうやら……効果は抜群のようだなぁ?」


 男が剣を抜き、突っ込んでくる。

 ギリギリで受け流し、距離を取る。


「術式阻害型か……短縮詠唱を潰すタイプ。安物ね」

「ほざけ! 魔法が撃てねぇ魔女なんて──ただの女だ!」


 剣が振り下ろされる。

 ニクスは杖を一閃、金属音が響く。

 男の体が止まり、次の瞬間、血が吹き出した。


「……なっ……杖が……刃に……?」

「この杖、ちょっと便利なんですよ。

 あなたの敗因は──私のことを“ただの魔術師”だと思ったこと。

 さて……ただの術式阻害なら、直接触れてれば──」

「ま、待て!ガキの場所をおし」


 額に杖を突きつけ、静かに言った。


『爆ぜろ──』


 轟音。

 赤い飛沫。

 倒れる音だけが部屋に残った。


 すぐさまエリィの元へ駆け寄るニクス。


「ここはもう危険です。外へ出ましょう、エリィ」

「ひっ……近寄らないで……! 貴女も……あの男も……!

 血だらけの手で、なんで……そんな平気な顔できるの!?」


 一瞬、言葉を失った。

 けれど、すぐに顔を上げる。


「怖くていい。でも、信じて。私はあなたを守りたかったの」


 自身のローブで血を拭い、そっと手を差し出す。

 だが、エリィは震える声で言った。


「わかんない……もう、わかんないよ……動けない……」

「……分かった。少しここで待ってて。残りの野盗を──」


 ドスッ。


「っ……?!」


 胸の奥に、冷たい衝撃。

 視線を落とすと、小さな手が見えた。

 ナイフを握る、その手。


「エ……ミ……?」


 エリィの声が震える。


「うそ……エミ……どうして……?」


 世界が、ゆっくりと霞んでいく。

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