助けた少女が二人
「おーい! お待たせ! ごめんね……まさか丸一日かかるとは……」
木立の向こうから、息を切らしながらニクスとエリィが駆けてきた。
「この子? 昨日、私と間違えて助けた女の子って……小さな子じゃない」
テントの影から現れた少女は、十歳くらいの年頃だった。
「ぁ……ずっと帰ってこないから、見捨てられたのかなって……」
「あゎゎ、ごめんごめん! エリィも見つかったし、とりあえず村まで行こうか!」
ニクスは慣れた手つきで簡易テントを畳み、荷物を背負う。
旅の手際はすっかり板についていて、ローブの裾が風に揺れた。
そして、三人の歩みが森の道を進み出す。
「ねえ、この子……どういう経緯で助けたの?」
「えっとね、エリィを探してる時に、道端で座り込んでたの。
住んでた村は……野盗に襲われたって。今どうなってるかもわからないみたい」
「そうだったのね……こんにちは、お嬢さん。私はエリィ・トーリナー。
私もこの人──ニクスに助けてもらったの。あなたのお名前は?」
「…………エミ、です……」
名を告げた少女は、ニクスの外套の影に小さく身を隠した。
「あれ、嫌われちゃったかな?
もうすぐ私の村だから、そこまで辛抱してね。
最近はどこも物騒で、王都の兵士さんもなかなか来られないけど……
エミちゃんの村、どうなったかはうちの人たちにも確認してもらうから。ね?」
「……うん、ありがとう、エリィお姉ちゃん」
「わっ、ちょ、ちょっとエミ、そんなに引っ張らないで~! 荷物重いの~!」
「ふふっ、いつも飛んでんでしょ?飛んだらいいのに」
「ダメダメ、みんな歩いてるのに一人だけ飛ぶなんて!
みんなで飛べたらいいんですけどねぇ。魔法って案外不便なんですよー。……あっ!
見えてきたかも、エリィの村! お腹減ったー!」
◆
──ホプル村
穀物と酪農で栄える、丘の上の小さな村。
昼の風が柔らかく、遠くから牛の鈴の音が聞こえる。
◆
「エリィ!」
「パパ! ママ!! ごめんなさい……ほんとに近くの山菜採りのつもりだったの!」
「いいんだよ、エリィが無事なら」
抱きしめ合う家族。その光景を見て、ニクスは安堵の息をつきながら木陰に荷物を下ろした。
「ふー、重かった……」
「魔女さま! なんとお礼を言っていいか……、魔女さまも帰らないので村の若い衆で捜索隊を作るところでした」
「あわわ、ほんとにすみません! 軽い気持ちで受けたのに数日帰らなくて……
自信満々で出てった手前、戻りづらくて……へへっ」
──ぐぅ。
ニクスのお腹が鳴る。
エリィの母がくすりと笑った。
「初めて来た時もお腹鳴ってたわね。さ、ご飯にしましょう」
「やったー!」
ぴょんぴょんと跳ねる魔女を見て、母は微笑みながら家へ入っていく。
その時、エミが少し離れたところで俯いていた。
それに気づいたエリィの父が、やさしく声をかける。
「おや、この子は? 顔色がよくないようだけど」
「あ、そうだった。この子、近くの村の子で……
昨日、エリィと間違えて声をかけたら、違ってて。
村は……野盗に襲われたそうなんです」
「……なんだって?!」
父の表情が引き締まる。
「君、どこの村の子かな? 名前はわかるかい?」
「えと……川の向こうで……クラフ……」
「クラフ村か……。ずいぶん遠くから来たね。
すぐには行けないけど、近隣の村と相談して、早めに様子を見に行こう。
まさか子どもが渡れるほど川が干上がっていたとは……川の様子だけでもすぐに確認に行かないと」
ニクスは出された食事をもぐもぐと頬張りながら、村の構造に興味津々で尋ねた。
「こんなに美味しいご飯が出るのに、野盗とか大丈夫なんですか?」
「この村はね、地形に守られてるんだ。
入り口以外は崖ばかりで、登るのも難しい。
魔物の襲撃も一方向からだけだから、他の人手を農作に回せるのさ」
「なるほど~。私の村とは全然違うなぁ……。
そんな安全な場所があるなんて、ちょっと羨ましいです」
「ふふっ。
この村は王都や街の“魔物避け”みたいな位置にあるからね。
周辺に食料を分けたりして、お人好しの村なんて呼ばれることもあるのよ。
でもね……助け合うことって、大事だと思うの」
エリィは誇らしげに笑った。
「うん、そうだね。助け合えるのは……素敵なことだと思う
……あれ? エミ? いない……!」
ニクスがあたりを見回す。
村の外には出ていないはず。
エリィと家族、皆で探し始める。
──二、三十分後程辺りを探し回る。
「いた! あそこ!」
村の裏手、崖の縁。
白い鳥たちが、ぱっと舞い上がる。
「エミ! どうしてこんなところに? 危ないよ!」
「あ……村で見た鳥がいたから、追いかけてたら……こんな場所に来ちゃってた。ごめんなさい」
「もう……よかった……。さ、帰ろ。お風呂、一緒に入ろう?
髪、ボサボサだよ。……それとニクスもね。ずっと入ってないでしょ。ちょっと臭うよ」
「なっ!? あ、嵐のあと水浴びもできずに……その後エリィ探して……!
よ、嫁入り前の女子にその言葉は酷いよぉ!」
「ふふっ、嫁入り前なら私もエミもですよ~?さ、早く帰ろ」
夕暮れの風が、三人の笑い声を運ぶ。
エリィが口ずさむ子守歌に、エミが小さく声を重ねた。
「……私も、その唄知ってる。お母さまが寝る前に、よく唄ってくれたの」
並んで歩く小さな影が、夕陽に長く伸びていく。
◆
──あの帰り道
三人で唄った夕暮れは、私の宝物のひとつ
数日後に私は村を出た
そして、後悔する
あと一日、滞在すればよかったと




