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終焉の詩唄い  作者: 匿名記号


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再び渓谷の村

 白い渓谷が遠ざかっていく。

 背後に霞むのは竜住まう都──レグリス。

 崩れかけた塔の残骸が陽光を反射し、砕けた氷晶が風に舞っていた。

 あの戦いの爪痕を残したまま、遺都は再び眠りにつこうとしている。


「……はぁ……はぁ、なんとか……戻ってきましたね。もう……また魔力すっからかんだよぉ……」

『うむ。よう逃げおおせたものだ。あの数は洒落にならんかったのう……どうやら都から離れたら追っては来ないようだな』


 渓谷から戻り、乾いた風の吹く村──サハルへと戻る。

 陽は高く、冷たい風が砂を巻き上げていた。

 紅い月が昼の空に滲み、淡い蒼月がその脇で揺らめいている。

 村の入り口には以前戦った野盗たちの姿があった。

 血に汚れた鎧を脱ぎ捨て、頭を垂れ、膝を折っている。


「お、お前は……あの時の魔女……」

「村を襲っていたあなたたちが、今さら何を?」


 ニクスの声には氷のような冷たさがあった。

 男は唇を噛み、やがて砂に膝をつく。


「……リーダーが死んだんだ、もう争うつもりはねぇよ。それに……あの箱に、黒い槍。俺たちも逆らえなかったんだ」

「……貧者の箱。とても人が扱えるような代物ではないです」


 男の肩がわずかに震える。


「あんなものを使ってたら、いずれ俺たちも喰われる。もう、やめだ。残った連中でこの村を守る。償いをさせてくれ」


 ニクスは目を細めた。

 その掌にはまだ血がこびりつき、消えない罪の跡が残っている。

 けれど、その指先には微かに温もりもあった。


「……あなたたちが本気でこの村を守るつもりなら」


 杖を構えるでもなく、彼女は静かに言った。


「村人たちを助けて。あなたたちの力でここを立て直して」


 男は深く頭を下げた。その姿を村人たちがそっと見守っていた。

 サハルには、まだ人の温もりがあった。


◆ ◆ ◆

渓谷を越えるも 風は凍り

乾いた村に 魔女が落つ

貧しき箱は 嘆きの口

開けば哭くは 人の欲


炎を呼びて 魔を焼けど

灰の底には 嘆きの地

憎むべきは 誰の業

罪を裁き 箱は沈む


都は眠りて (ひょう)の胎

竜の夢見し 亡き時代

凍てつく光 彼方より

真実告げる 声は無く


目覚めし巨は 記憶の護

封ぜし地より 溢るる翠

我は問う 楔の意を

この世界 繋ぐもの


◆ ◆ ◆


──夜。

 焚き火の灯りが小さな宿屋を照らしていた。

 風が吹き抜け、軒先の風鈴がひとつ鳴る。

 ニクスは暖かいスープを啜りながら、机に広げた地図を見つめていた。


『……で、そのバルドという野盗の頭領は、どこに根を張っているんじゃ?』

「彼らの話だと、野盗団の拠点の一つは南の峡谷をさらに越えた、ハル=ガレンという旧砦都市。副頭領のレインが指揮を執っているそうです。そこに行けば頭領の所在もわかるかも」


 スープの湯気がゆるやかに立ち上り、硝子越しの夜空で星が瞬く。

 砂と風と冷気の混じるこの地で、空の蒼さは一層深かった。


『ニクス、無理をするでないぞ。レムナントも、マナの噴出口も、楔も、ワレらの手に余ることもある』

「分かってます。でも……今は、進むしかない。それにハル=ガレンの近くですしね。シエラが地図に指し示した……最後の場所」


 ゆっくりと立ち上がり、杖の先に手を添える。

 杖の宝石が淡く灯り、青い光が頭上を撫でるように走った。


「次はハル=ガレン。ホプル村の件もきっちり償わせてやりますか」


 風が宿の窓を叩いた。まるで次の嵐の到来を告げるかのように。

 炎が揺れ、二つの影が壁に伸びる。

 一人の魔女と、一柱の風の精霊。

 彼女たちの旅は更に南へと続いていく。

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