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終焉の詩唄い  作者: 匿名記号


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14/15

 轟音が凍てつく空気を震わせた。

 氷の街の中心、水晶柱を背に──巨体が立つ。

 ニクスは咄嗟に杖を掲げ詠唱を走らせる。

 指先から熱が滾る。

 空気が振動し、赤い光が杖の先に収束していく。


「──爆ぜろ! 轟く災火! 破滅の鼓動

 今ここに鳴り響き──爆葬(ばくそう)しろ!!」


 轟、と空が鳴った。

 放たれた魔力弾が地を穿ち、眩い爆炎が迸る。

 爆風が渦を巻き、氷の地面を焼き、遺都の空気を裂いた。


 だが、次の瞬間──


 その爆炎を青い光が押し返す。

 レムナントの身体を覆う結晶装甲が衝撃を吸収し、熱を散らしていく。

 その瞳が赤く輝き、ニクスの放った爆葬をそのまま撃ち返した。


「なっ……!? 魔導障壁?! そんなの反則じゃな……きゃあっ!!」


 爆風の反動でニクスの身体は後方に吹き飛んだ。

 氷の床を滑り、瓦礫に叩きつけられる。


「ぐっ……!はっ……?!」

『ニクス!! 下がれ、奴は高位の魔導防壁を持っておる!』


 視界が揺れる。遠くで巨大な影が歩を進める音。

 まるで都市そのものが動いているかのような重圧。

 シエラが駆け寄り、翼を広げて氷砂を巻き上げた。

 風が唸り、視界が白く霞む。


『無事か? ……あやつ、全身を魔法返しの魔晶石で覆っとる。何か策はあるか?』

「魔晶石といっても……常に展開出来る程の魔力はないはず。感知距離外から狙撃します。シエラ、陽動を頼みます」



──静寂が落ちた。

 レムナントは見失った獲物を探すように青い光を周囲へ走らせる。

 氷面に反射した光が亡霊のように遺都の壁を染めた。

 轟音と共にシエラが翼を広げ飛び出した。


『ははは! 木偶の坊め、こっちだ! 我が相手だ』


 雷撃と風の刃が次々と放たれる。

 だが、それらは全て魔晶装甲にはじかれ、火花を散らしただけだった。


『ぬう……少しは効くと思ったんじゃがな……全くの無傷とは……』


 その声の背、遠方の高台で静かに杖を構える。

 風が凍り、空気が凪ぐ。

 白い光を纏い、静かに立つ少女の姿。


「闇を討ち、穢れを貫く純白の矢と成り貫け! ──黎閃(れいせん)!!」


 世界が光に包まれた。

 純白の光線が空を貫き、一直線にレムナントの胸を撃ち抜く。


──とてつもない轟音が竜の都に響き都全体を震わせる。


 瞬間、巨体の中心に刻まれていた紋章が崩れ落ちるように砕けた。

 白光が霧のように散り、静寂が訪れる。

 巨人は一歩、二歩と後退し、やがて氷の上に崩れ落ちた。

 金属の軋みが遠くまで響く。


──次の瞬間だった


 レムナントの胸部、ひび割れた結晶の隙間からドロドロとした翠色の光が噴き出していた。


『……マナだな。純粋なマナが、こんなに……』

「どうしてマナが……? このマナ……地下からも噴き出している……?」


 ニクスは膝をつき、崩れた床の隙間を覗き込む。

 そこには淡く光る渦のようなものがあった。

 ゆっくりと翠色の粒子が吹き上がる。

 それは生命の息吹のようであり、同時に……世界を蝕む毒のようでもあった。


「あの奥……マナの……噴出口? あんな大きな物が……。でも、ここには楔はないはず……」


 ニクスは眉を寄せ、冷たく光る翠光を見つめた。


──《楔》とは、古代の封印の地。

 異界の門から噴き出すマナと()()を抑えるため、()()が封じた十の地のこと。



 だが、ここレグリスはそのひとつではない。

 にもかかわらず、この地下からは異様なほどのマナが湧き上がっている。


『……この異様なマナの量と噴出口……そしてこの封印。誰が造った? それにニクスお前……《楔》とはなんだ?』

「私も詳しくは……お師匠さまからは、"全ての楔の封印が解かれたとき、この世界は滅ぶ"と。《楔》をこの目で見るのもこの旅の目的の一つです」


 直後、氷の地面が震えた。

 金属が擦れるような低い軋み。

 崩れ落ちたレムナントの背後──氷壁の奥から青い光の筋がいくつも走る。


『……ニクス、まさか……!』

「ええ…………嫌な予感……」


 氷壁が砕けた。

 そして、その奥からいくつもの影が姿を現した。

 大小さまざまなレムナントたち。

 胸に同じ紋章を刻み、青い光を灯しながら。

 ひとつ、またひとつと、その瞳が開かれた。

 空気が震え、冷風が流れを変える。


『……数が多すぎる! 退くぞ、ニクス!』

「わー! なんでー!? 一体であんなに苦戦したのに……!! 何体いるのこれぇっ!?」


 少女の叫びがこだまする。

 振り返れば、無数の光が追いすがるように灯っていた。

 白い渓谷の空に吹雪が舞う。

 遺都レグリスが再び眠りを破られた夜。

──その底には《深淵》が口を開けていた。

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