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雨の日は君と踊りたい 〜魂の半分を探して…切ない練習生BL〜  作者: tommynya


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9/10

第9章:舞台の煌めき

 

 デビューショーケースの日、コンサートホールは熱気に包まれていた。数百人のファンとメディア関係者が会場を埋め尽くし、空気が期待で震えている。


 僕は最前列の席に座り、手のひらに冷や汗をかいていた。今日はレオの夢が叶う日。「彼の半分」として、この瞬間を見逃すわけにはいかない。


「これから、スターエンターテイメントの新人グループ『ネクセラ』のデビューショーケースを始めます!」


 MCの声に会場が沸き、一斉に歓声が上がった。僕の喉が緊張で乾いていく。


 ステージが暗転し、7つのシルエットが浮かび上がる。中央に立つのはレオ。彼だけが気づくほどの小さな仕草で、レオは僕の方を一瞬だけ見た。それは「見ていてくれ」というサインだと感じた。


 音楽が流れ始め、ネクセラのデビュー曲「Miracle」が会場に響く。僕はその曲を知っていた。レオが寮の部屋で何度も練習していた曲だ。


 7人のシンクロしたダンスは完璧だった。特にレオは、風を操るかのような流れる動きで観客を魅了していく。彼の周りだけ、空気が違って見えた。


「次の曲は、メインダンサー・レオのソロダンスパフォーマンス『風の記憶』をお送りします」


 アナウンスに会場がざわめき、僕は椅子の端に体を乗り出す。これが僕の一番見たかった瞬間だ。


 ステージ中央に立つレオ。彼はゆっくりと目を閉じ、深呼吸する。そして音楽が始まると同時に、まるで別人のように変貌した。


 レオの踊りは息をのむほど美しい。幽玄の美の化身としか思えない。彼の手が空気を切り裂くたび、会場全体に風が吹き抜けているような錯覚を覚えた。観客は固唾を飲み、レオの一挙手一投足に見入っている。


 特に印象的だったのは、両腕を広げ、天を仰ぐシーン。まるで天から舞い降りた天使のよう。


 僕は、あのとき雨の中で踊ったレオを思い出していた。あの時と同じ、けれど今はもっと洗練されている。レオは毎回自分の殻を破り、限界を知らない男だ。


 レオの周りには、見る人によって違って見える淡い光が漂っていた。一般の観客には、照明効果と思われるだろう。でもこれが彼の特別な才能なんだと僕には分かる。


 ソロパフォーマンスが終わると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。僕も立ち上がり、頬を伝う熱い涙を拭きながら拍手を送る。「自分の半分」がこんなにも輝いている姿を見られることに、誇らしさが込み上げてきた。


 ◇


 ショーケースは大成功に終わった。会場を後にする人々の表情は、一様に感動で満ちていた。僕は他のファンに紛れて、ゆっくりと出口に向かう。


「レインくん」


 振り返ると、スタッフさんが僕に近づいてきた。


「レオさんから、楽屋に来るようにと」


 その言葉に、僕の血液が沸騰する。楽屋に?それは危険じゃないのかな?でも、レオに会いたい気持ちが勝った。


「分かりました」


 僕はスタッフさんについて行き、裏口から楽屋エリアに入る。他のファンには許されない特別な招待だった。


 楽屋前に着くと、スタッフさんは「5分だけですよ」と言い残して去っていく。僕はドアをノックして、中に入った。


「レオ?」


 楽屋には誰もいないようだ。いや、違う。シャワールームのドアが開き、タオルで髪を拭きながらレオが出てきた。上半身は裸で、鍛え上げられた胸板が視界に飛び込んでくる。思わず生唾を飲み込んだ。


「来てくれたんだ」


 レオの顔に花が咲いたような笑顔が広がり、彼は素早く僕に近づいて抱きしめた。シトラス系のシャンプーとレオのいつもの森の香りが混ざった匂いが、鼻をくすぐる。


「素晴らしかったよ、本当に...君の踊り、言葉にならないほど美しかった」


 僕の言葉に、レオは照れたように微笑んだ。


「見てくれていたんだね。最前列で」


「当然でしょ。約束したんだから」


 事務所のアイドルのライブでは、いつも最前列は、撮影機材と練習生たちで埋められている。


 僕たちは見つめ合い、レオがゆっくりと僕の唇に近づこうとした瞬間——。


「レオ、次のインタビューの準備ができたよ」


 突然のノックと声に、僕たちは飛び上がるように離れる。レオの同じグループのメンバー、アントニーの声だった。


「わかった、すぐ行く!」


 レオは慌てて返事をし、小声で僕に囁いた。


「ごめん、時間がない。でも...今夜、俺の部屋に来て。皆、打ち上げパーティーで帰りが遅くなりそうだから、抜けて早く帰るよ」


 僕は目を丸くしながらも、首を縦に振る。


「おめでとう、デビュー。レオの夢が叶って本当に嬉しい」


 僕は心からの祝福を込めて言うと、レオは微笑み、ドアの近くに人がいないことを確認して、素早く僕の唇にキスをした。


「これからが本当の始まりだ。そして必ず...レインを待っている。同じステージに立つぞ」


 その約束を胸に、僕は楽屋を後にした。


 ◇


 夜、僕はレオの部屋のドアの前で足がすくんだ。ノックする手が小刻みに震える。これまでも二人きりになったことはあったけれど、今夜は何か特別な空気が漂っていた。


 コンコン、と小さくノックすると、すぐにドアが開く。レオは僕の腕を掴み、部屋の中に引き入れ、抱きしめた。


「おめでとう、本当に素晴らしかったよ」


 僕がそう言うと、レオは僕の髪に顔を埋めた。


「ありがとう。レインが見てくれていたから、全力を出せたよ」


 部屋の中は静かで、かすかに香るアロマの匂いがした。プルメリアかな。レオが好きな香りだから。ベッドの上には、カラフルなバラの花びらが散りばめられている。深紅、白、ピンク――まるで絵画のように美しい。


「これは……?」


 僕が戸惑いの表情を見せると、レオは少し恥ずかしそうに笑った。


「ちょっと、特別な夜にしたくてね。レインの19歳の誕生日もまだ祝えてないし」


 彼の言葉に、全身に電流が走った。そう、先週誕生日だったけど、レオはショーケースの準備が忙しくて、まだ祝ってもらってなかったんだ。すっかり忘れていたけど、レオが覚えていてくれた事が胸に染みた。


 レオは僕の手を取り、ベッドの方へと導いていく。


「今夜は、レインだけのために時間がある。明日の朝まで……」


 その言葉に、耳まで熱くなった。


 レオは僕の顎に手を添え、ゆっくりと唇を近づけてくる。唇が触れ合った瞬間、半年間積み重ねてきた愛しさが一気に溢れ出す。


 今日のキスは、いつもと違う。深く、激しい。レオの舌が僕の唇をなぞり、隙間から侵入してくる。僕も応えるように舌を触れさせる。互いの息を奪い合うような、濃密なキス。


「んっ……」


 思わず声が漏れる。レオの手が僕の背中から腰へと滑り、シャツの中に入ってくる。温かい手のひらが素肌に触れると、身体がビクッと震えて、熱を帯びていく。


 その瞬間、僕の視界の端に淡い光が見えた気がした。


 レオのオーラ?いや、僕のオーラ?


 水色と若草色が、かすかに揺らめいている……。


「レイン……誕生日おめでとう」


 レオの声が、いつもより低く、色気を帯びて響く。今日はいつもと違うなと感じた。彼の手が僕のシャツのボタンを1つずつ外していく。その指先が肌に触れるたび、身体が固くなる。


「緊張してる?ダメかな?」


 レオの問いかけに、僕は首を横に振った。


「レオ……誕生日プレゼントくれない?」


 その言葉に、彼は驚いた表情を浮かべる。


「何が欲しい?プレゼント。今日はケーキとかしか用意してないから。今度買ってくるよ。何でも言ってみて」


 彼の目は優しい光を宿している。


「何でもいいの?じゃあ……レオが欲しい」


「えっ、俺?」


 彼は目を丸くした。僕がこんな事を言うとは思っていなかったのだろう。僕は19歳になったんだ。もう子供扱いはさせない。


「うん。誕生日だからいいでしょ?」


 彼は僕の額にキスをして、囁いた。


「ゆっくりでいいんだよ?レインが傷つくのは嫌だよ」


「大丈夫。1つになりたいんだ。レオと」


 そう言って僕からレオの唇にキスした。


 するとレオも僕を受け入れ、甘いキスを深めていく。舌が絡み合い、唇が離れても、すぐにまた求め合う。半年間、こうして愛を確かめ合ってきた。でも今夜は、その先へ進む。


 レオの手が、僕のシャツを肩から滑り落とす。布が肌を離れる感触に、急に恥ずかしくなってしまう。レオの視線が、僕の裸を愛でるように辿る。


「綺麗だね……レイン……」


 彼の囁きに、顔が火照ってしまう。でも、レオの手が僕の腰を抱き寄せると、恥ずかしさは渇望に変わっていく。


 僕も震える手で、レオのシャツのボタンに手をかける。1つ、また1つと外すたびに、彼の鍛えられた胸板が露わになっていく。


「レイン……触っていいよ」


 レオの許しに、僕は恐る恐る彼の胸に手を置く。とっても温かい。心音が手のひらに伝わってきて、彼も緊張しているのかもしれないと思った。僕の音と同じくらい大きく速いから。


 やがて二人は、薔薇の花びらが散りばめられたベッドに身を沈める。


 レオの指が僕の首筋から鎖骨へと滑り、そのまま胸を撫で、敏感な部分に触れると思わず声が漏れる。


「あっ……」


「可愛い声……もっと聞かせて」


 レオの唇が、さっき指が辿った道を辿り始める。首筋、鎖骨、胸……熱い舌が肌を這うたび、身体の奥から熱が溢れ出す。薔薇の花びらが、レオの動きに合わせて肌の上を滑っていく。


 この時、僕の視界に光がはっきりと見え始めた。


 レオの身体から立ち上る、淡い若草色のオーラ。そして僕自身からも、水色のオーラが溢れ出している。2つの光が、触れ合うたびに混ざり合い……そして――。


「レオ……光が見える……」


「僕も見えてる。レインのオーラ、綺麗だ」


 レオの手が、さらに下へと滑っていく。その手が敏感な場所に触れた瞬間、水色と若草色のオーラが激しく、パレットの中の絵の具のように混ざり合う。まるで2つの炎が、お互いを求めて燃え上がるように。


「んっ……レオ……」


「レイン……本当にいい?」


「うん……怖くない。レオとなら」


 レオが優しく僕を抱きしめる。薔薇の花びらがシーツの上で踊り出す。甘い香りが、僕たちを包み込む。


「愛してる、レイン」


「僕も……レオ……」


 その瞬間、僕たちの周りで光が爆発した。


 水色と若草色のオーラが激しく絡み合い、混ざり合い、溶け合っていく。まるで2つの川が合流し、1つの大河になるように。


 レオとの距離が、どんどん近くなる。心も、身体も、魂も。


「レイン……」


 レオが僕の名を呼ぶ。その声には、愛おしさと渇望が混ざり合っている。僕も彼の名を呼び返す。何度も、何度も……。


 二人は深く抱き合い、互いの鼓動を確かめ合う。薔薇の花びらが、二人の動きに合わせて舞い上がる。深紅、白、ピンク――光の粒子のように、空中を漂う。


 二人のオーラは完全に混ざり合い、もう水色と若草色の区別がつかない。純白の光が、僕たちを包み込んでいく。薔薇の花びらも、その光を浴びて輝いている。


 時間の感覚が消えていく。あるのは、レオの温もりと、二人の魂が溶け合っていく感覚だけ。


 二人は宇宙の果てまでも深く愛し合い、やがて、2つの魂は完全に1つになった。


 その瞬間、僕は強くレオの背中にしがみついた。少しの痛みはあったけれど、それ以上に心が満たされていく。


 まるで2つに分かれていた魂が、やっと1つに戻ったかのように――。


「レオ……」


 僕が彼の名前を呼ぶと、レオは僕の瞳をじっと見つめた。


「愛してる、レイン」


 彼が僕を満たして、溶け合っていく。二人の息は荒くなり、部屋には吐息が響いていく。やがて、至福の波が押し寄せ、まるでこの世界から解き放たれたような感覚に包まれた。


 その瞬間、純白のオーラが眩い光を放ち、キラキラと砕けたダイヤモンドのような光の粒子が、部屋中に舞い散った。薔薇の花びらも一緒に舞い上がり、まるで祝福の雨のように降り注ぐ。


 この時、純白の「1つの魂」が僕たちの周りを回っていた。キラキラと砕けたダイヤモンドのように光の粒子も一緒に輝いて。


 その光景に感動して涙が溢れてくる。レオと「1つの魂」になれたことの喜びと共に。


「レイン……泣いてる?」


 レオが優しく僕の涙を指で拭う。


「嬉し涙……レオと1つになれて」


「俺も嬉しい。やっと……1つになれたんだな」


 レオが僕をそっと抱きしめ、汗ばんだ額に優しいキスを落とす。薔薇の花びらが、僕たちの髪に絡まっている。


「……半分同士がやっと1つになれたね。心も肉体も。もう離れられないぞ」


 レオの言葉に、僕は頷く。二人の魂は見事に溶け合って混ざり合い1つになったのだ。もう何も二人を引き離すことはできないと確信した夜だった。


 薔薇の花びらに埋もれながら、僕たちはただ抱き合って眠る。純白のオーラが、優しく二人を包み込み、僕は幸せを感じていた。



 ◇


 デビュー後のレオは、想像以上に忙しくなった。テレビ出演、ラジオ、雑誌の撮影...スケジュールはびっしりと埋まり、二人が会える時間は限られている。


 それでも、彼は時間を見つけては僕に会いに来てくれた。僕の部屋、閉館後の練習室、時にはレオの部屋で……二人だけの大切な時間を過ごした。


「最近、全然寝てないでしょ?」


 ある夜、僕の部屋でレオの顔を見て、心配になった。彼の目の下にはクマがくっきり浮き出ていたから。


「大丈夫、これも夢のため。それに……」


 レオは僕の手を取り、胸に当てる。


「レインと会える時間があるから、頑張れるんだ」


 僕はレオの胸に頭をつけ、彼の心臓の音を聞いてみる。その鼓動が、僕の体の中で共鳴するようだった。


「いつか、この秘密を打ち明ける日が来るのかな...」


 僕の言葉に、レオは黙って僕の髪を撫でた。


「いつか必ず。だから、一緒に頑張ろう。レインも練習をサボるなよ?」


 僕は頷く。僕もまた、休む暇なく練習と作曲の勉強に打ち込んでいた。レオと同じステージに立つという誓いを果たすために。


「あのさ...」


 レオは少し照れくさそうに言った。


「実は、次のアルバムのための曲を作ってほしいんだ。もちろん、まだ社長には言ってないけど...レインの作った曲で踊りたい」


 その言葉に、僕は息を呑んだ。


「本当に?でも、僕なんかの曲で大丈夫?」


「大丈夫どころか、最高だよ。レインと俺の感性が1つになる曲...想像しただけでぞくぞくする」


 レオの言葉に、言葉にできない感情で胸が満たされた。これは二人だけの秘密の計画。でも、いつか実現させる。必ず。


「分かった。精一杯の曲を作るよ。レオのために...僕たちのために」


 二人は互いを強く抱きしめ、月明かりに照らされながら、長いキスを交わした。外の世界では二人は別々の道を歩いているように見えても、心は常に1つだった。二人で1つだから。


「僕も必ず、デビューするから...待っていて」


 僕の言葉に、レオは強く頷いた。それは約束ではなく、必ず果たすべき誓い。


 二人の物語は、まだ始まったばかりだ。


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