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雨の日は君と踊りたい 〜魂の半分を探して…切ない練習生BL〜  作者: tommynya


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第10章:雨の日は君と踊りたい

 

 曇り空の朝、僕は社長からの急な呼び出しに、緊張と不安を抱えながら事務所へと向かっていた。突然の呼び出しは大抵、極端な内容を告げるものだ。良い知らせか、悪い知らせか。


 社長室の前で深呼吸をして、ドアをノックする。


「どうぞ」


 中から社長の声が響く。


 ドアを開けると、社長は広いデスクの向こうで書類に目を通していた。僕が入室すると、顎を上げて柔らかな表情を見せる。


「座りなさい、レイン」


 この一年、20歳になった僕は、作曲家として成長してきた。ネクセラの最新アルバムの収録曲を2曲提供し、ファンの間では「ネクセラの隠れた才能」と呼ばれるようになっている。


「実は今日、君に重要な話がある」


 社長は僕の瞳をまっすぐ見つめ、口を開いた。


「君の曲が素晴らしい反響を得ている。特に『虹の彼方へ』はネクセラのファンだけでなく、業界内でも高評価だ」


「ありがとうございます」


 僕は頭を下げた。『虹の彼方へ』はレオとの思い出から生まれた曲。雨の中で踊った、あの夜の記憶を音符に乗せたものだった。心に虹がかかって晴れやかになった気持ちを書いたものだ。


 リード曲ではなかったけど、ファン投票1位に選ばれる程の人気曲になっていた。片思いの相手に贈ると、恋が叶うなんて言われていて。ロマンチックで本当に良い曲なんだ。我ながら気に入っている。


「それで」社長は一呼吸置き口を開く。


「我々は君をデビューさせることに決めた」


 耳を疑う僕。信じられない……。


「デ、デビュー……ですか?」


「そう。作曲ドルとして。ピアノ演奏とボーカルを軸に、自作曲をパフォーマンスする新しいタイプのアーティストとしてね」


 作曲ドル?その言葉が頭の中でぐるぐる回る。まだ信じられなかった。


「でも、僕はダンスが……」


「君はダンサーとしてデビューするのではない。君の強みは作曲力とピアノ。それを前面に出す戦略だ」


 社長は席を立ち、窓際へ歩み寄る。


「現在、作曲ができて演奏もこなせるアイドルは少ない。君はその希少な存在だ。オーディエンスは君のような才能を求めているんだよ」


 鼓動が早鐘のように高鳴る。アイドルとしてデビューする夢が、別の形で実現しようとしている。


「デビュー曲は『水の記憶』。先日のミーティングで君が見せてくれたデモ曲だ。あの透明感のある旋律は素晴らしい」


『水の記憶』――僕が自分の特別な能力をテーマに作った曲。水が感情によって形を変え、動きだす能力を音楽で表現したものだ。


「そして、デビューショーケースには特別ゲストとしてレオを招く予定だ。彼の『風の囁き』の能力と君の『水の記憶』が共鳴すれば、素晴らしいパフォーマンスになるだろう」


 言葉を飲み込みそうになる。レオと共に舞台に立つ。それは僕たちの夢で誓いだった。


「準備期間は2ヶ月。来月末にデジタルシングルでデビューだ。デビューショーケースも行う。楽曲のアレンジやコンセプト、衣装など、全てのミーティングに参加してほしい」


 社長の言葉に、僕は目に涙を浮かべながら立ち上がる。


「ありがとうございます。必ず成功させます」


 社長は満足げに頷き、「期待しているよ」と告げた。


 事務所を出た僕は、すぐにレオにメッセージを送る。


「今日会える?重要な話がある」


 しかし返信はない。レオは今日、地方でのファンミーティングがあるはずだ。おそらく移動中か、イベント中なのだろう。夜には東京に帰ってくるはずだけど、会えるのかな……?


 全身に電流が走るような興奮を抑えられず、練習室へ向かった。ピアノに腰掛け、指を鍵盤に走らせる。喜びと興奮が旋律となって流れ出す。


 ショパンのノクターン第3番 ロ長調。ワルシャワの思い出が詰まった曲だ。カレル橋の誓いもやっと叶えられる。疎遠だった両親にもやっと嬉しい報告ができる。日本に来て4年で僕の夢が花開く。大好きなこの曲に感謝の気持ちを込めて弾いた。


 ◇


 夜になり、やっとレオからの返信が届いた。


「今、寮に戻ったところ。何かあった?」


 僕はベッドから飛び起きて、返信する。この重大ニュースは直接伝えたい。


「寮の屋上で待ってる。今から来て!」


「分かった。10分後に行く」


 レオの返信を見て僕はすぐ部屋を飛び出した。


 夜の屋上は静寂に包まれている。今日は満月だ。いつもより空が近く感じられた。星空の下、スマホの時計を見つめながら待つ。約束の時間から10分経っても、レオの姿はない。


「遅いな...」


 もう少し待ってみようと思った矢先、屋上のドアが開く。レオが少し息を切らせながら姿を現す。


「ごめん、メンバーに引き止められて」


 レオはすぐに僕に駆け寄り、抱きしめてくれた。その行動は子犬のように愛らしい。


「何だ?重要な話って?」


 僕は少し離れて、レオの顔をじっと見つめる。彼の瞳に期待と緊張が混ざっているのが分かった。


「僕、デビューすることになったんだ」


「えっ?」


 レオの表情が一瞬で輝きに変わる。そして次の瞬間、彼は大きな声で「やった!」と叫び、僕を抱き上げて回転させた。


「本当に?嘘じゃないよね?」


 僕は笑いながら頷く。


「本当だよ。しかも……デビューショーケースには特別ゲストとして、レオが来るらしい」


 レオの唇が弧を描く。


「もちろん!レインのデビューが決まったら、ぜひ参加させてほしいって社長に言ってたんだ!まさかこんなに早く実現するなんて」


「え?レオから言ってたの?」


 レオは少し照れた素振りで頷く。


「実は、レインのデモ曲『水の記憶』を社長に強く推薦していたんだ。君の才能をもっと多くの人に知ってほしくて」


 感動で言葉を失う。レオはずっと影から僕を支えてくれていたのだ。


「ありがとう...本当に」


 僕は涙を堪えながら言う。レオは僕の両頬に優しく包み、キスをした。


「これで僕たちの誓いが叶う。同じステージに立てるんだ」


 二人は星空の下で、長い抱擁を交わした。レオの腕の中で、幸せを噛みしめる。


 ◇


 デビューの準備は予想以上に忙しかった。楽曲のアレンジ、振り付け、衣装合わせ、プロモーション撮影……毎日がめまぐるしく過ぎていく。


「レイン、この部分のピアノソロをもう少し延ばしてみない?」


 プロデューサーの提案に、僕は頷く。デビュー曲『水の記憶』は、僕の能力を最大限に表現する曲になりつつあった。透明感のあるピアノの旋律が、水の流れのように聴き手を包み込む。


「そして、ここでレオさんが登場して、二人のデュエットパフォーマンスに繋げていく」


 振付師が説明する。その言葉を聞くだけで、胸が高鳴る。レオと共にステージに立てる。それは長年の夢が叶う瞬間。その日が来るのが待ち遠しい。


 ◇


 デビューショーケース当日がやって来た。夢が実現する日だ。僕は今日、新たな一歩を歩き出す。この日は雲1つない晴天で、僕の心もこの空のように澄み渡っていた。


 会場には業界関係者やメディア、そしてファンクラブの会員が集まってくれている。僕は舞台袖で深呼吸をし、緊張を落ち着かせようとしていた。


「緊張してる?」


 後ろからレオが声をかける。彼は今日のためだけに作られた特別な衣装を身にまとっていた。僕と色を合わせた、水色と若草色と白を使った衣装。風と水、そして「1つの魂」のイメージだ。


「死ぬほどね」


 僕の正直な答えに、レオは笑う。


「大丈夫。レインの力を信じてる。それに……俺がついてるから」


 レオは人目を気にせず、僕の手を握りしめた。その温もりが、不安を少し和らげてくれる。


「5分前です!」


 スタッフの声に、二人は顔を見合わせた。


「行こう、半分さん」


 レオの言葉に、僕は頷く。


 そして幕が開いた――。


 ステージはブルーの照明に包まれていた。センターにはグランドピアノが置かれ、その周りには水を思わせる透明なオブジェが配置されている。


 客席にはファンの方の色とりどりのペンライトが僕を照らしてくれる。憧れていたこの場所に僕はいる。大切な人、僕の「魂の半分」と。


「本日はスターエンターテイメントの新人アーティスト、レインのデビューショーケースにお越しいただき、ありがとうございます」


 MCの声が会場に響く。


「レインは、ピアノの演奏と作曲を得意とする新世代のアーティストです。そして本日は特別に、人気グループ・ネクセラのメインダンサー、レオをゲストに迎えます」


 会場からどよめきと拍手が起こった。ネクセラの人気は着実に高まっており、レオのソロ活動も注目を集めている。


 暗転すると、一筋のスポットライトがピアノに集まる。僕は静かに入場し、ピアノの前に座った。


 神聖な空気が会場を包み込む中、僕は鍵盤に指を置く。そして、『水の記憶』の最初の音符が響き渡った。


 透明感のある美しい旋律が会場を満たしていく。僕はピアノに全身全霊を込めて演奏した。指から水が滴り落ちているかのような感覚さえ覚える。


 曲が中間部に差し掛かると、新たなスポットライトが舞台の端を照らした。レオがゆっくりと現れ、僕のピアノに合わせて踊り始める。


 レオの動きは風そのものだった。彼の周りには、かすかな風が渦巻いているように見える。その風が僕のピアノから生まれる水飛沫と絡み合い、ステージ上に不思議な現象を生み出していく。


 観客は息を飲み、この幻想的な光景に見入っていた。水と風の共演。それは自然の調和そのものだった。


 曲のクライマックスでは、レオがピアノに近づき、僕の演奏に合わせてさらに激しく舞う。僕の指から生まれる水飛沫とレオの周りに生まれる風が交わり、舞台上に虹色の光が浮かび上がった。


 会場からどよめきが起こる。この現象は、単なる照明効果ではない。僕とレオの能力が完全に共鳴したときに生まれる、奇跡の瞬間だった。


 最後の音符が鳴り響くと同時に、レオはピアノの前で静止した。二人の姿勢が、まるで鏡写しのように完璧に調和している。


 一瞬の静寂の後、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。観客は全員立ち上がり、スタンディングオベーションを送ってくれる。


 僕は呆然としながら立ち上がり、レオと共に深く頭を下げた。目には涙が溢れる。長年の夢がついに叶った瞬間だった。


 ◇


 舞台の幕が下り、僕とレオは興奮と感動で言葉も出ない。スタッフが駆け寄り、水を差し出してくれるが、僕たちの指は震えている。あまりにも完璧な共演だった。


「風と水が1つになったね」


 レオが小声で囁く。


「うん、ずっと夢見てたことが...」


 言葉を詰まらせる僕。


 楽屋に戻ると、社長がすでに待っていた。彼の顔は興奮で紅潮している。


「素晴らしかった!想像以上の成功だ!」


 社長は僕の肩を力強く掴み、「今日のパフォーマンスは業界の歴史に残る」と興奮気味に語る。


「実は重大な発表がある」社長は声を落として続けた。


「今夜のパフォーマンスをきっかけに、二人のユニット結成を決定した。『エレメント』という名前で、レオとレインの特別ユニットを立ち上げる」


 僕とレオは驚きのあまり言葉を失う。思ってもみなかった展開だった。


「レオは引き続きネクセラの活動もこなしながら、ユニットとしても活動してもらう。そしてレイン、君は個人活動と平行してユニットでもパフォーマンスをしてもらうよ」


 社長の言葉が耳に入ってこない。思考が宙に浮いたような感覚。レオとユニットを組む……それは夢の上の夢だった。


「風と水の融合は、想像以上の効果を生み出した。あの虹のような光……あれは素晴らしい演出だった」


 社長は本当の現象だとは気づいていないようだ。それは僕とレオだけが知る秘密。二人の魂が共鳴したときにだけ現れる奇跡。


「それからレオ、君の提案通り、次のネクセラのアルバムにレインの曲を採用することにした。『風と水の記憶』というコンセプトで、二人のコラボレーション作品を作ってほしい」


 レオと僕は驚いて顔を見合わせる。レオが社長に頼んでいたことが、こんなにもスムーズに実現するとは。


「ありがとうございます」


 二人は同時に頭を下げる。


 社長やスタッフが楽屋を後にすると、ようやく二人きりになれた。レオはドアをロックして、僕に駆け寄った。


「信じられない...」


 僕の声は感動で震える。


「夢じゃない、現実だよ」


 レオは僕を引き寄せ、ハグをした。二人の間にはかすかな光が宿り、水と風の気配が交わる。


「僕たちの誓いが叶ったね」


「うん、もっと素晴らしい形で」


 僕は目に潤みを感じる。


 レオは僕の頬を優しく撫で、「これからは同じステージに立てる。もう隠れる必要はない」と囁く。


 今までの秘密の恋。寮の屋上での密会、閉館後の練習室での抱擁、雨の中でのキス……全ての苦労が実を結んだ。


「でも、二人の関係は?」


 僕の問いに、レオは少し考え込む。


「まだ時間が必要かもしれない。でも、いつか必ず……世界中に伝えたいし、認めてもらいたい。風と水の物語を」


 そう言ってレオは僕を抱きしめた。二人の間には、言葉以上の絆があった。永遠に引き離せない魂の繋がり。


 ◇


 祝賀会が終わった後、僕とレオは一緒に帰ることにした。事務所の車が用意されていたが、二人は歩いて帰りたいと言って断ったのだ。この特別な夜、二人だけの時間が欲しかった。


 静かな夜の街を歩きながら、僕たちは未来について語り合う。ビルの谷間から見える星空の下、新しい人生が始まろうとしていた。


「これからどうなるんだろう」


 僕は不安と期待が入り混じった声で言う。


 レオは僕の手を強く握り、優しく答える。


「どんな未来でも、二人一緒だよ。半分同士だからね」


 その時、空から一滴の雨が落ちてきた。そして、またひとつ。やがて、優しい雨が二人を包み込み始める。


「あ、傘忘れちゃった」


 僕が言うと、レオは口元を緩めた。


「傘なんていらないよ。雨の日は君と踊りたいから」


 レオは手を差し出し、僕はその手を握る。二人は雨の中で踊り始める。通りがかりの人は不思議そうに二人を見るが、僕たちの世界には他の誰も入れない。


 街灯の下、雨に濡れながら踊る二人。


 レオの手に導かれ、僕は踊る。


 ダンスが苦手な僕でも、レオと一緒なら自由に舞えるんだ。


 雨粒が二人の肌を打つ音が、美しいメロディを奏でる。


 それは、僕たちの原点。最初の夜に戻ったような気分だった。


「半分さん、幸せ?」


 レオの問いかけに、僕は満面の笑みで頷く。


「うん、すごく。レオと同じステージに立てて、一緒に踊れて……これ以上の幸せはないよ」


 レオは僕を引き寄せ、雨の中でキスをした。雨粒が二人の頬を伝い落ちる。まるで祝福の雫のように。


「ねぇ、作ってみない?」


 レオは突然言った。


「何を?」


「僕たちの新しい曲。ユニットのデビュー曲」


「いいね...タイトルは?」


 レオは空を見上げて、雨を顔に受け止める。そして、にっこりと笑った。


「『雨の日は君と踊りたい』...でどう?」


 その言葉に、僕の目から涙があふれた。それは密かに僕がレオへの想いを込めて作った曲のタイトル。どうして知っているんだろう?


 レオに内緒で作っておいて、僕のPCの中でしか聞けないはずなのに……いつの間に聴いたのだろう?まあいいか。今度は二人の想いを乗せた曲になるから。


「最高だよ……」


 雨に濡れながら踊る二人の周りで、水飛沫が風に舞い上がり、かすかな虹色の光を放ちはじめた。


 誰も見ていない夜の街で、僕たちの周りだけに虹が架かっていく。


 それは「1つの魂」が歓喜する証。


 レオは僕を優しく抱き上げ、くるくると回転させる。僕たちの笑い声が雨音に混ざり、夜空へと響いていく。


「これからも、雨の日も晴れの日も、ずっと一緒に踊ろう」


 レオの言葉に、僕は深く頷いた。


「うん、永遠に」


 僕たちは互いの半分を求めて彷徨い、ついに出会った。


 風と水が交わったあの日から、僕たちの運命は静かに、確かに結ばれていった。


 僕たちはきっと最初から――互いを見つけるために生まれてきたのだ。


 僕の中に映る君の姿は、永遠に僕を探し続けてくれていた証。


 どれほど傷ついても、迷わず抱きしめてくれる君がいるから、今、僕はここにいる。


 僕は君の中に、君は僕の中に宿る。


 2つが1つになる奇跡。二人で1つの完全な魂。


 僕の魂の半分は、確かに君だった。


 いつか僕たちの奇跡を、世界中の人々が目にする日が来るだろう。

 でも今はこの雨の中で—ただ二人だけの秘密の踊りを楽しめばいい。


 雨は静かに降り続け、僕たちは雨が止むまで踊り続けた。幸せに浸りながら。

 風と水が重なり合い紡ぎ出す旋律は、新たな物語の始まりを静かに告げていた。





              Fin.





          tommynya


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