迷宮のアルフォンス ~出会い編~
――― キーンッキンッ ―――
―― ガキーンッ! ――
「おい、こいつはヤバいぞ!」
「ああ、そうらしいなっ! うぐっ」
「下がれ!」
「どりゃぁーーー!!」
― ザンッ! ―
― キンッ! ―
― ガキンッ! ―
「うわぁーっ!!」
ここは、アルトラス国オロンジェ領のはずれにある森。
今ここにいる者達はオロンジェ領主に雇われた兵であり、領内のこの森に危険な魔物の目撃情報があって、討伐に駆り出された5人である。
そうして100年程前に発見されたダンジョンの傍で、ネメアーという獅子の魔物に出くわしたのだ。
しかもこの個体は体長が4m程、単体で行動しており気が立っていた事も手こずる要因となる。
これは、たった5人では到底無理な話だと一旦下がろうとするも、一度標的にされたからには街まで追いかけてくる可能性も出てきた。
そこで何とか討伐しようと、かれこれ10分ほど、5人は奮闘していたところである。
―― ズバッ! ――
『グオォー!』
5人で囲み正面の2人が気を引いたところで、後方の3人が一斉に攻撃を仕掛け、少しずつだが傷を負わせることに成功する。
そうして魔物も体から血を流し、息も荒くなってきた頃にそれは起こった。
「どりゃー!」
― カンッ ―
「うぉおー!」
― ザクリッ! ―
『グァァァーッ!!』
また傷を受けひとしきり大声を上げた獅子は、後方からタイミングをうかがっていた一人の雇兵に狙いを定めたのか、深く重心を下げると、そこを目掛けて高々に跳躍した。
「アル!危ない!!」
「うおっ」
じりじりと移動していた戦場は、いつの間にかダンジョンの前まで来ていた。
そして飛び掛かってくる魔物に身を翻した青年が、その洞窟に身を滑らせて回避するも、魔物が洞窟に体当たりした事で、彼の目の前には大量の土砂が降り積もってきたのである。
――― ドドンッ! ―――
「おわぁーっ!!」
― ガラガラッ ガラガラガラッ… ―
―― ズーンッ! ――
「ゲホッゲホッ…ゲホッゲホッ…」
アルと呼ばれた青年が薄目を開ければ視界は暗く、洞窟の入口が塞がれてしまったのだとそれで気付く。
「おいアル、大丈夫か」
くぐもった仲間の声に、こちらからも大声で返す。
「あ…ああ!何とか生きてるぞ!」
少しして気遣う声がかかるも外ではまだ戦闘が続いており、剣が当たる音と仲間たちの掛け声が聴こえていた。
「俺は後で良い!先に魔物を!」
「わかった、待っていろ」
アルと呼ばれた青年は、真っ暗な洞窟で口元を塞ぐ。
目視は出来ないが、まだ洞内には土埃が立ち込めているらしく、息が少々苦しいのだ。
「はぁー」
と取り敢えず一呼吸し、目の前に積まれたであろう土砂を退かそうと手を伸ばして押してみるも、それは薄い物でもないらしく明かりすら入ってこない。
手に持つ剣を使い掻き出してみるも、大きな岩もある為に一人では無理だと早々に肩を落とす。
「これは困ったな…外に出られなければ、魔物の討伐どころではなさそうだ」
そうして独り言ちる青年がその土砂に耳を当てれば、その頃には外は静かになっており、魔物との戦闘は終わったようだと安堵する。
「おーいアル、大丈夫か?」
そこで仲間の声が聴こえ、どうやら助けに来てくれたらしいと知る。
「ああ!取り敢えずは無事だが、中からでは土砂を動かせない!」
「ちょっと待ってろ」
そう言って4人が土砂を退かしてくれているのか、ザクリザクリと音が聴こえるも、一向に洞窟の中に光は降って来なかった。
「おーいアル」
「おう!」
「悪いがこの土砂を撤去するのは、土魔法の使い手でなければ無理そうだ。人の手だけだと、大分時間が掛かるだろう」
「そうか…」
やっぱりなと内心思いつつも、アルはガクリと肩を落とした。
「中の空気は大丈夫か?」
と、そこで別の仲間の声が聴こえる。
「ああ!空気は流れているから、大丈夫らしい」
土埃もどこかに流れたらしく、その頃には呼吸も楽になっていた。
そして少しの間があって、再び声が聴こえる。
「アル」
「おう!」
「俺達は魔物の事もあるから、一度領主の所に戻って報告する。そんで土魔法の奴を連れてくるから、少し待っていてくれ」
「……わかった!悪いが早目に頼む!」
「勿論だ、じゃあ待っててくれな」
そう言った後仲間たちの気配は次第に薄れ、もう移動していったのだと知る。
「早く頼むぞ…」
心もとなく独り言を呟いたアルは、その場に項垂れた様にしゃがみこむのだった。
洞窟に一人残されたアルは、自分の荷物を手繰り寄せる。
今日持ってきた物は水と携帯食の干し肉、後は外套と傷薬などで全部だった。
元々一日で戻る予定にしていた為に基本の物しか持ってきておらず、カンテラや火打石など火を熾す物さえ持っていない。と言うのは、一緒に行動していた者の一人が火魔法を使えたためで、何かあれば彼が火を熾してくれる手筈となっていたからだ。
「なにもないな…はぁ…」
取り敢えず口元を濡らすだけでもと、水を一口含む。
≪お前は、……ではないのか?≫
そんな気落ちしている時にどこからか声が聴こえ、アルは慌てて顔を上げて周辺を見渡すも、やはり真っ暗で何が見えるはずもない。
だがその声は老人の様で、アルはこんなところに人がいる事に気を取られる。
「じいさん一人か? ダンジョンは魔物が跋扈する場所なんだ。一人じゃ危ないぞ?」
≪ほっほっほ。ワタシの事は構わんで良い。それよりも、お前は“シド”ではないのか?≫
「構わんで良いって…まぁ本人が分かってて来てるなら良いけど…。それでシドって言ったのか? 悪いが俺はシドって人じゃない。俺の少し前の先祖に、“シド”って名乗る人はいたらしいけど…」
その言葉に、老人は少しがっかりした気配になったようだが、アルには意味が分からない。
≪そうか…人の生は儚いものよ…≫
そう言った切り言葉が途切れる。
真っ暗闇の中に白い人影が薄っすらと見えるが、明かりがない為にはっきりと姿は見えない。
声が途切れた事で老人に何かあったと思ったアルは、暗闇の中で精いっぱい手を伸ばし、手探りで老人の方へと近付いて行く。
「おいっ、じいさん、大丈夫か?」
そう声を掛ければフワリと辺りに薄明りが灯り、そこに人影が見えてホッとする。
しかしその人影は白くフワフワと漂うようで、どう見ても真面な人間には見えずにアルは後ずさった。
「じいさん…?」
≪ふむ。シドではなかろうが、ワタシが視えているという事はそういう事であろう。これは僥倖であると云えような。ほっほっほ≫
勝手に話す老人にアルは咄嗟に剣に手を添えるも、その人影はその場所から動く事も怯える事もなかった。
そうしてひとしきり笑い、納得したのかアルに声を掛けてきた。
≪お前、名は何と申す?≫
「……じいさん。人に名を聞く前に、自分が名乗るのが礼儀ってもんだろう?」
アルは何だか拍子抜けして、剣に添えた手を離す。
≪ほっほっほ。そうじゃな。今はワタシの名も隠れているがゆえに、改めて名を名乗るとしよう。ワタシは“イーリス”というものだ≫
アルは何処かで聞いた名だと考え、それがこのダンジョンの名であったことを思い出す。
「なっ…じいさん、適当に言っただろう。それはこのダンジョンの名前だぞ?」
≪ほっほっほ。さよう、ワタシはこの迷宮そのものであり、迷宮として存在するものであるからな≫
「はあぁぁぁー?!」
こうしてイーリスとの出会いによって、アルフォンスの新たな迷宮との出逢いが、ここに幕を開けたのであった。
-----
▼シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』より
【オロンジェ領は右側です】
皆さま、ご無沙汰しております!(でよろしかったでしょうか^^;)
そしてはじめましての方も、拙作にお付き合いいただきありがとうございます!
このお話は、「シドはC級冒険者」のその後…といって良いのかはわかりませんが、シリーズとして書いた新たな主人公のお話です。
筆者の脳内へ急に降って湧いた「アルフォンス」の存在に、急ぎペンを取った次第です。笑
こちらは今回約3000文字という短いお話になっておりまして、今後(需要があれば!)連載にして行こうかとも考えております。笑
このお話で、皆さまに少しでも楽しんでいただけましたら幸いと存じます。
そして続きが読みたい! 頑張れ! 応援しているよ!
などなどございましたら、是非★★★★★やブックマーク、いいね!など入れていただけると執筆の励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>
それでは次作にて、またお会いできることを楽しみにしております!!!