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CALLAIS  作者: ねこじゃ・じぇねこ
人狼狩りのハンター

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13.人狼殺しの猟犬

 ドッゲの仲間たちが立ち去ってしばらく。

 居たたまれない沈黙が流れ、私は焦りを覚えた。

 落ち着かない。

 それに、苛立ちが生じる。

 ルージュは何処へ行っただろう。

 まだ近くにいようと、彼がいては姿を見せたりもしないだろう。

 せっかくの夜なのに、狩りが台無しだ。

 それも、チャンスを大きく削がれるなんて。

 さっさと興味を失って貰いたい一心で、私は彼に言った。


「協力って具体的に何だ。私に出来る事なんてないと思うけれど」


 すると、ドッゲはじっと私の顔を見つめてきた。


「そうでもない」


 彼は言った。


「俺はね、立派な人狼が狩れればそれでいいんだ。この町を荒らしている狼男もいい獲物だが、かねがね頼まれている別の依頼もあって、そちらの方が報酬も高い。残念ながら、今追いかけている野郎の毛皮は条件が合わなくてね。だから、他の人狼も捜さねばならんのだよ」

「じゃあ、さっさと捜しに行けば。今宵は満月。他に隠れている狼が見つかるかもしれない。君にとってもチャンスだろう。私に構っている暇なんてないはずだよ」


 突き放すようにそう言ったのだが、彼は私の顔をじっと見つめてきた。


「そうしたいところだが、長年の勘だろうかね。君からは奇妙な気配がする。……あれは何年前だったか。駆け出しの頃、君の所属している組合の連中に、獲物を横取りされたことがあってね。あの時は腸が煮えくり返りそうだったが、今となっては懐かしい思い出だよ。だが、ずっと気になっている事があるんだ。あの時の獲物はつがいでね。生まれたばかりの赤ん坊がいたんだ。だが、その時の依頼人の家にお邪魔した際に見せて貰った時は、夫婦の毛皮しかなかった。子供はどうなったのだろうって、ずっと気になっているんだよ」


 動揺を見せてはいけない。

 そう思えば思うほど、寧ろ顔に出てしまいそうで嫌だった。

 早く終わってくれ。

 ひたすらそんな事を願いながら、私は地面へと視線を落とした。


「あの時の赤ん坊って事は、ちょうど君くらいの年齢のはずだ」

「もしかして、私を疑っている? 満月の日に人間の姿でいるこの私を?」


 揶揄うようにそう言ってみれば、ドッゲは苦笑を浮かべた。


「ああ、勿論、それは違うって事は分かっているとも。そもそも、あの時に逃した赤ん坊は月毛のメスだ。月毛……分かるか? 麦のような色をしている人狼の事を馬の毛色みたいに月毛っていうんだ。君の毛色はどう見てもそうではない」


 だが、と、ドッゲは背伸びをしながら言った。


「本人でないからと言って、何も知らないとは限らないだろう。なあ、若き吸血鬼ハンターよ。どうだろう。そちらの組合に、怪しい同期はいないか? ちょうど月毛のメスの毛皮を求める方がいらっしゃるんだ。月毛のオオカミは古代の女神の化身と信じられてきたからね。その毛皮は今の時代でも信じられないくらい高く売れるんだ」


 些細な仕草が動揺となって伝わりはしないか。

 私はひたすら恐れていた。

 この警戒こそが、答えになってしまっているかもしれない。

 それでも、私は懸命に、ドッゲ相手に誤魔化し続けたのだった。


「悪いが、求めているような答えは示せない。組合の仲間の事は、たとえ気に入らない奴だとしても、他人にペラペラ喋るなと教えられているからね。同業者……他の組合の方ともなれば、尚更だ。あなたも大先輩なら分かっているはず。そうでしょう?」


 不安や怯えは表に出なかっただろう。

 だが、それが寧ろ彼の機嫌を損ねてしまったのかもしれない。

 ドッゲはしばし私の顔を見つめると、呟くように言った。


「その目、その態度、気に入らないね」


 直後、彼は突然動き出した。

 その瞬発力に、私は上手く反応出来なかった。

 動くという事は分かったけれど、体がついていかなかったのだ。

 結果、非常に強い力が腕に加わり、捻り上げられた。

 いつもアンバーに向けられる人狼の力よりは強くないはずだが、容赦のない男の力となれば痛みは全く違う。

 とっさに堪えるも、閉じた口からは絞り出すような悲鳴が零れ落ちた。

 その時だった。

 痛みを忘れるような殺気を感じ、私は我に返った。

 見上げてみれば、ドッゲの眼差しはすでに私から興味を失ったように別の方向へと向いている。

 先ほど、ルージュが姿を隠した場所だ。

 恐る恐る振り返れば、そこには葡萄酒色の目をさらに赤く染めたルージュが姿を見せていた。


「……なぁんだ。つまらん」


 彼女の姿をまじまじと見つめると、ドッゲはつまらなさそうに呟いた。


「コイツの言っていたことは真実ってわけだ。吸血鬼。君がルージュか。賞金首ではあるが、俺の求める獲物ではない」


 その目で確かめた、というわけだ。

 つまりは隠れているルージュの気配を正確に見抜いていたのだろう。

 ルージュはそんな彼へと視線を向けている。

 真っ赤な眼差しだが、非常に冷たい印象があった。


「ご期待に沿えず、申し訳ないわね」


 愛らしい声で彼女はそう言った。


「分かったなら、さっさと立ち去りなさいな、ドッゲ。仲間が手古摺っているようよ。ベテランのあなたがいないとダメみたい」

「有難い忠告だね。だが、その前に、君にも聞いておこう。コイツを巡ってあの組合と縁の出来た君なら、知っているんじゃないか。俺の捜している、月毛の人狼の事を」


 ──まずい。


 掴まれた手から震えが伝わっていないか心配になるほど動揺してしまった。

 まさか、吸血鬼と分かっている相手に訊ねるなんて。

 その問いを向けられたルージュがアンバーを庇う義理なんて何処にもない。

 どうなる。

 どうなってしまう。

 すぐにこの場を逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

 そんな私の動揺を嘲笑うようにルージュは薄っすらと微笑む。

 そして、彼女は口を開いた。


「悪いけれど、あなたとお話をする気分じゃないの。さっさと立ち去りなさい」


 突っぱねた。

 その意図が掴めず、私は静かに彼女を見つめた。

 ともあれ、助かった。

 ホッとする私の手を掴んだまま、ドッゲはルージュを睨む。


「気に入らないな」


 そう言うと、彼は懐から銃を取り出し、その銃口をルージュへと向けた。

 ルージュは動じない。

 ただじっとドッゲを見つめている。

 まさか黙って撃たれる事はないだろう。

 そうは思ったが、私は気が気でなかった。

 私以外の誰にも、ルージュの命を渡したくはない。

 怒りと警戒が力となり、私は獣のように暴れた。

 だが、ドッゲはルージュへの視線を逸らす事もなく、容易く私を力で捻じ伏せてきた。

 アンバー相手にも散々味わってきた力負けというやつだった。

 そのまましばらく、ドッゲはそのままルージュに銃口を向けた。

 だが、引き金を引くことはついになかった。


「……気に入らないが、やめておこう。銃弾が勿体無い」


 そして彼は、私の腕を乱暴に引っ張った。

 地面へと投げつけられ、受け身すら取れずに無様に転ばされ、痛みと屈辱が怒りを生みだす。

 睨みつけるも、彼はルージュに視線を向けたまま、静かに後退していった。


「邪魔をしたな。後はお好きなように。そいつがどうなろうと、俺には興味はない。ただ、気が変わったら教えてくれ。月毛の人狼だ」

「……気が変わったら、ね」


 ルージュが静かにそう答えると、彼は軽く笑みを浮かべ、そのまま立ち去っていった。

 再び静けさが戻る。

 だが、周囲を窺う事は出来なかった。

 銃も、ナイフも、手元に残っている。

 その事だけを確認し、私は再び彼女を睨んだ。

 そんな私を前に、ルージュは小さく笑いながら言った。


「面白い人だったわね。それに、面白い事になった。さあさ、カッライス。あなたはどうする? あなたの態度次第では、私の気が変わってしまうかもしれないわよ」


 揶揄うようにそう言われ、私はそっと立ち上がり、銃を構えた。


「言いたければ言えばいいさ」


 直後、躊躇わずに引き金を引いた。

 だが、銃弾は当たらなかった。

 狙いは逸れていない。

 動いたのは的だ。

 すでに私の目は、彼女の術にかかっていたのだろう。


 それでも、捕まったりはしなかった。

 姿を消した彼女が何処から迫って来るのか、直感で分かったのだ。

 後ろだ。

 背後から掴まれるとすれば、左右どちらになるのか。

 そのまま右側へと倒れ込むように避けて振り返れば、思っていた通りの場所にルージュはいた。

 左手を伸ばしたまま、ギロリと私を睨みつけてくる。

 右手は動かしていない。

 やっぱりそうだ。

 左利きではなかったはずなのに。


「私の切ったその手、動かないんだね」


 返答はない。

 ただ捕らえ損ねた私を見つめ、一歩、二歩とさり気なく後退した。


「待て」


 銃を構える私を見つめ、ルージュはそっと目を細めた。


「残念ね。すぐ目の前にいるのに、ただの一滴もその血を飲めないなんて」


 直後、私は再び引き金を引いた。

 しかし、銃弾はやはり当たらなかった。

 さっきまでそこにいたのに、周囲には誰もいない。

 姿を消したルージュはそのまま宵闇に紛れ、そのまま何処かへ消えてしまった。

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カッライス親衛隊のルージュさんには頭が上がりません
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