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第7話 そのメイド、漢女を知る。

 

 入学するための面談まで、どうにかこぎつけられたのは良かったんだけど……。



「アタシがここの教師で面接官を担当するプリマよ。よろしくねぇん」

「……アカーシャです。よろしくお願いします」


 目の前に立っているのは、メイド服を纏った筋骨隆々のオッサ「何か失礼なこと思ってなぁい~?」……オネェさんだった。


 伸ばした金髪を縄のような三つ編みに。胸には鍛え上げられた大胸筋、引き締まったお尻は……これ以上考えるのは止めよう、うん。



「奉仕の心に、性別は関係ないのよぉん? 見た目で判断しちゃノンノン♪」

「はい……すみません……」


 プリマ先生はほっぺをプクーと膨らませると、人差し指をキュピクルリン☆と振って抗議する。


 私は思わず、後ろに控えていた守衛さんに高速で振り返った。



「……守衛さん?」

「……俺は面接には関知しない」


 守衛さんは天井を向いていて、私の目を一切見てくれない。


 どうやら助け舟は期待できないみたいだ。


 くっ、守衛なら屋敷内にいる不審者を捕まえなさいよ!!


 つまり、この状況を私独りでどうにかしろと……?



 ――はっ!? まさかこれが入学のための試練なの!?


 予想外の事態でも動揺しない心を持っているか、私は試されているのよ……!!



「はやく部屋に入りなさいな。アタシが()()()()()のこと、産毛の先から毛穴の奥までキッチリ見てあげるわよっ!」


 そう言うや否や。プリマ先生は私の手を取ると、グイグイと部屋の中へ引き摺って行く。


 大丈夫、彼女(?)は美少女だから。私を取って食おうだなんて思ってないはずだわ。


 だから守衛さん……これから私が悲惨な目に遭っても貴方のことを恨んだりしないからね……。



 プリマ先生は私を部屋に案内すると、ソファーに座るよう促した。



「どうしたの、ソワソワしちゃってぇ」

「いえ、何でもありません。大丈夫です」

「ふふ、おかしな子ねぇ」


 ソワソワじゃなくて震えているんですよ……!!


 でもまさか「貴方が怖いんです」とは言えないし。


 プリマ先生はクスクスと笑いながら私の正面に座ると、「それじゃあ、まずはこの学校について説明するわね」と真っ白な歯をキラッとさせた。



「この学校は理事長であるキーパー侯爵夫人が開校したの。その目的はメイドという仕事を学校で学び、メイド業界全体の質を上げること。理事長はメイドという職種に対する評価を変えさせた、素晴らしい御方なのよぉ」


 大きな身体を大きく使いながら、メイド業界について熱く語るプリマ先生。


 何でもこのメイド学校ができるまでは、メイドは使い捨て同然の酷い扱いだったらしい。



「理事長が育った家でもね。幼い時にお世話になったメイドさんが、周囲から不当な扱いをされていたらしいのよぉ」


 恩のあるメイドがいつも泣かされていたことに、理事長は昔から心を痛めていた。そこで理事長は私財を投げ打ち、十年の歳月をかけてこの学校を設立したという。



「でも設立はあくまでもスタートラインよ。そこからも長い道のりだったわ」


 メイドの教育という手探り作業の中、どうにかメイドの卵たちに一定以上の技術を身に付けさせられるようになった。


 さらには夫人と、夫である侯爵家の権力も使いつつ、貴族の中でのメイドに対する認識を少しずつ改善してきたそうだ。


 お陰様でメイドはただの雑用ではなくなり、貴族生活に欠かせないパートナーとなった。


 今ではそんな優秀な人材を求めて、貴族たちがこの学校に殺到するようになったらしい。



(凄い執念ね……でもそのおかげで私はメイドになるチャンスを掴めたわけだし、感謝しないとだわ)


 ちなみに今年で御年七〇歳になる理事長は、今度は執事の学校も作る予定なんだとか。


 なんだかバケモノみたいな人だわね……。



「そんなわけで、今やメイドは王族からも重宝される人気職業なのよぉ。だから全国津々浦々から、アタシみたいなうら若き乙女が集まって来てるって、ワ、ケ♪」

「はぁ……そうなんですか」


 無駄に長い睫毛を鳥の羽根のようにバッサバッサと広げながら、キメ顔でウインクを飛ばす漢女(おとめ)


 筋肉モリモリのこの人だったら、兵士としても重宝されそうだと思うんだけどなぁ。



「というわけでぇ。次は授業で具体的にどんな事をしているか、実演して見せるわね!」

「はい、お願いします」


 おおっ、どんな授業をするのか見れるのは楽しみだ。


 それがたとえ、ゴツいオネェ先生でも。



「じゃあ、ちょっと待っていてくれる?」


 そういってプリマ先生は一度教室から出ていき、私は一人部屋に残された。



「……プリマ先生が教えるって、何を教えるんだろう?」


 メイド流格闘術とか?



 ――トントントン。


 そんなくだらないことを考えていたら、ノックの音が聞こえてきた。きっとこれが実演なのだろう。


 ちょっとドキドキしながら「どうぞ」と応えると、そこにはやはりプリマ先生の姿が。


 いや、それはプリマ先生であってプリマ先生では無かった。


 凛とした佇まいでありながら、威圧感の無いふんわりと柔らかな雰囲気。


 手には茶器を乗せたトレーがあり、それはまるで空間に縫い止めたかのようにピタッと動かない。


 そんな状態のまま、彼女はどこをどう分度器を当てても綺麗な角度を示す、一分の隙も無い礼をした。



「これが……一流のメイド……」


 これはもう、男だとか性別は関係なかった。


 そこにはただ、客を持て成す本物のメイドが居るだけなのだから。



 そこからの記憶は、正直言ってあんまり覚えていない。


 紅茶とお菓子を出され、何か世間話をしたような気がする。


 心地よさと優雅さに包まれて、どこか懐かしい、夢のようなひと時を過ごすことができた。


 こんなド庶民な私でも、お嬢様の気分を味わえたのだ。


 とても――そう、とても幸せな時間だった。



「どうだったかしらぁ? 素敵な時間を過ごせた?」

「はい……すごかったです……」


 彼女の巧みなメイド術を目の当たりにして、私の語彙力は軽く吹き飛んでいた。


 正直言って、今の私には彼女に対して『尊敬』という二文字しか頭に浮かんでこない。



「私、プリマ先生みたいなメイドさんになりたいです……」


 気付けばそんなことまで口から漏れていた。


 でもそれぐらい凄かったのだ。



 女としても、仕事人としても研鑽と努力の証が見て取れた。


 一瞬で憧れてしまったと言っても過言じゃないかもしれないわ。



「アーちゃん……アタシ、嬉しいっっ!!」


 感じたことをありのままに伝えたら、プリマ先生が急に涙ぐみ始めた。


 潤んだ瞳を可愛いレースがあしらわれたハンカチで押さえながら、空いている手で私の手を握ってきた。


 ……女子力が私よりも高いなこの人。



「ふふふ、アタシのことは“プリちゃん”って呼んでも良いわよ!! あぁ、嬉しいわぁ。この学校を卒業するころには、間違いなくアーちゃんもアタシみたいに立派なメイドさんになれるわよ!!」

「はい!!」


 私もプリマ先生……プリちゃんの手を握り、「一緒に頑張ろうね!」と友達のようにキャッキャと理想のメイドについて語り合う。


 見た目で人を判断するなんて、私が間違っていたよ……プリちゃんは立派なメイドさん(乙女)だった!!



「……さっそく仲良くなれたようで嬉しいわ。でもそろそろ私も混ぜてもらってもいいかしら?」

「「――えっ?」」


 紅茶を淹れる練習をしながらプリちゃんと女子会をしていたら、唐突に背後から声を掛けられた。


 手を止め、プリちゃんと一緒に声のした方へ振り返ると……



「り、理事長先生!? いつからそこに!」

「まったく、プリマはいつもそうなんだから。貴女は校長なんだから、もっとしっかりしなさい?」


 嘘でしょう? この人(プリちゃん)、校長先生だったの!?


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