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第62話 そのメイド、衝撃を受ける。

 

「――なッ!!」


 陛下とアモン殿下が負傷したという知らせに、ジークと私は思わず息を呑んだ。


「どういうことだ! 詳しく説明しろ!」


「先ほど何者かが城壁を乗り越えて侵入したのです! その者によって城内は混乱状態に陥っておりまして……!」


 嵐が近付いているのか、王城の上空は強い風が吹いている。ワイバーンに乗った騎兵は振り落とされぬよう、そして声が風にかき消されぬよう大声で叫んだ。


「なに? まさか、例の逆賊が……それで犯人の姿は確認できたのか!?」


「それが――」


 その瞬間、激しい風圧と共に巨大な鳥が私たちの真横を通り過ぎていった。


「なっ、なにあれ!?」


「あれはグリフォン――ブローネ様が使役する召喚獣だ……こんな夜中にどうして?」


「ブローネ様? ってたしか、グリフィス家から嫁いだ第三王妃よね!?」


 慌てて振り返るも、飛び去って行く巨鳥はすでに遠く、その姿はあっという間に闇夜へと消えてしまった。



「ジーク様……実はブローネ王妃殿下と、第三王子であるカイル殿下のお姿が見えないのです」


「なんだと!?」


 どういうこと? 自分の身を守るために王城から逃げ出したっていうの? 夫である陛下が危篤状態だっていうのに?


「待ってジーク。たしか第三王妃様とグリフィス家の当主は姉弟よね?」


「ん? アカーシャの言う通りだが……」


「オリヴィアが去り際に言ってたのよ。もうすぐお父様たちの計画がどうのって……」


「――っ!? まさか義母上がこの騒ぎを起こしたっていうのか!?」


 私の予想通りだとしたら、グラン共和国側がもうすでに動き始めたということかしら。

 この国に混乱を起こし、その隙を狙って戦争を起こそうっていうの? ……いえ、もしかしたら戦争よりも酷いただの侵略をするつもりなのかも。


 もしそうならば、このまま黙って見過ごすことはできない。



「とにかく、僕たちも父上のところへ!」


「そうね、急ぎましょう!」


 私は鳥にお願いして、王城の中庭へと降り立った。



「そ、んな……うそだっ!」


 ジークと共に部屋に駆け込んだ時にはもう、陛下の呼吸は途切れかけていた。

 生気をほとんど感じられないあの目――。部屋は奇妙なほど静かで、控えていた侍女たちの啜り泣く声だけがどこからともなく聞こえてきていた。


「ひどい……」


 他にも数人が運び込まれていた。騎士や使用人だけでなく、貴族たちも犠牲になったようだ。私の視界に入っただけでも五、六人が犠牲となっているのが見えた。


 そしてその中には、アモン殿下も含まれていた。

 陛下に寄り添うように隣のベッドに横たわっている。専属の医師たちが応急処置を施しているけれど、手の施しようがないのか彼らの表情は非常に暗い。


「許せない……どうしてこんなことをっ」


 陛下の手を握りながら、ジークは悲痛な顔でそう言った。感情が昂り、彼の手は小刻みに震えている。


「……ジーク」


 私が声をかけると、彼はハッとした様子で顔を上げた。その顔は今にも泣き出しそうで、見ているこちらまで辛くなるほどだ。


「アカーシャ……どうしよう。このままじゃみんなが……」


 震える声で彼は呟いた。彼の動揺ぶりから察するに、現実を受け入れられないでいるのだ。


「……とりあえずここを出ましょう」


 私はそう言って彼を連れて部屋を出た。そしてすぐに人払いをし、誰も近付かないように命じておく。この部屋の近くに人がいると、今のジークには辛いだろうから。



「アレは僕たちの母上が殺されたときと同じ症状だ。やっぱり犯人はブローネ様……でも本当に家族を殺そうとするだなんて……」


 ジークは涙を流しながら、必死に訴える。


「えぇ、私だって信じられないわよ。でも、今起きていることは事実なの」


「うぅ……」


 私は彼をそっと抱きしめ、落ち着かせるために背中をさすった。


「ジーク、大丈夫よ。きっとアモン殿下を助ける方法が見つかるわ。そうだ、解毒薬は無いの?」


 私の問いかけにジークはゆっくりと首を横に振った。


「母上のようなことを二度と起さないように、僕と兄上で治療法を探したんだ。だけどその成果はあまり良くなかった」


 詳しく調べようにも使われたのは未知の毒で、時間が経つと消えてしまうものだったそうだ。


「できることと言えば、解毒と治療の魔法を使い続けるしかない」


「……わかったわ。じゃあ今から医者たちと協力してどうにかするしかないわね」


 項垂れるジークを引っ張るようにして、私たちは再び部屋の中に戻った。

 だけど――



「治療魔法の使い手が足りない?」


 私の目に映る医師たちは精々が三人。

 なんと現在王城で活動できる治療師たちは、この場にいる者で全員だった。


 しかも解毒魔法を使えるのは、たった一人きり。本来ならその何倍かは居たらしいんだけど……。


「まさか、彼らも……」


「えぇ……非常勤の者まで狙われました。犯人は内部の事情に余程詳しかったのでしょう」


「――くそっ!」


 状況を見るに、やはり第三王妃の犯行みたいだ。

 そしてどうやら陛下たちが受けた毒は、魔法による治癒を阻害する効果があるらしい。つまりただの治療魔法を使っても、彼らの体を回復させることはできないのだ。強い解毒魔法を掛け続けなければならない。



「ジーク殿下。お辛いでしょうが、どうかご選択を。我々が助けられるのは、陛下かアモン殿下……どちらかお一人です」


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