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第56話 そのメイド、見つかる

 

 そんな……まさか私を育ててくれたサクラお母さんが聖女!?


 最初は同姓同名の他人かと思った。けれど珍しい黒髪や背格好といった容姿の特徴や、言動の節々に出てくる妙な貴族らしさ。


 そして貰った手帳に古い王都の地図があったこと。数々の要素が私の知る人物と一致させたのだ。



「でも、なんで聖女だったサクラお母さんが孤児院をやっていたの……?」


 自分が知っているサクラお母さんは、私を含めた子供に囲まれて幸せそうに暮らしていた普通の人だった。とてもじゃないけど、一国を救ったような凄い人とは思えなかった。



「たしかにお母さんはずっと、何かを隠してる様子だったけど……」


 時々、誰も見ていないところで苦しそうな表情を浮かべていることがあった。もしかすると過去を思い出して心を痛めていたのかも。


 美しかったはずの記憶を振り返れば振り返るほど、疑問ばかり浮かんでしまう。


 あの街で孤児だった私を拾ってくれたのは偶然かもしれない。でもそこで何もせずに帰ることもできたはず。それに私を捨てるという選択肢もあったと思う。



「でもお母さんはそんなことはしなかった。だから私はこうして生きてこられた」


 サクラお母さんが何者だろうと、私の恩人であり、かけがえのないたった一人の母親なのは変わらない。


 あの時に偽聖女さえ孤児院にやってこなければ、今も私はお母さんと幸せに過ごせていたはずなのに。


 たまたまオリヴィアと出逢ってしまった私が、マヨネーズのレシピをあの女に話さなければ……。



「――ちょっと、待って。もしかして……偶然じゃ、ない?」


 グリフィス侯爵のオリヴィアが、サクラお母さんは聖女だったと知っていたとしたら?


 そもそもこのグリフィス家の隠し部屋に、聖女についての記述があったこと自体が怪しいじゃない。


 十数年前、オリヴィアが孤児院にやってきたのが偶然じゃなかったら。

 最初からお金を産む聖女の知識を手に入れようと、私に近付き、騙していたとしたら。



「まさか、最初から狙われていたの? 私だけが知らなかったっていうの?」


 私は自分の愚かさに呆れてため息を吐いた。


 するとその時、背後から何者かの気配を感じ取った私はハッとして振り向く。


 いつの間にか部屋の扉が開かれており、そこから数人分の人影が入って来ていた。



「――誰ッ!?」


 咄嵯に身構えるも、彼()らは構わず私との距離を詰めてきた。



「――動かない方が良いわよ」

「っ!? あ、貴女は……!!」


 咄嗟に声のした方へと携帯ランプを向ける。その灯りに照らし出されたのは、二度と忘れないと誓った仇の顔だった。



「――久しぶりね、アカーシャちゃん。元気にしていたかしら?」

「オリヴィア……! 貴女が裏から仕組んでいたのね……!」


 艶のあるブロンドの長髪に派手な赤いドレスを身にまとったオリヴィアは、口元に手を当てながら妖しく微笑む。その仕草はまるで獲物を前に舌なめずりをする肉食獣のようだった。



「ふぅん、そう。ようやく気が付いたのね」

「この悪魔……よくもお母さんをっ!」

「あら怖いわ。私はただ、貴女とお話をしに来ただけなのに……」


 駄目だ。これまで抑えていた怒りの感情が勝手にあふれ出す。頭がカッと熱くなり、今すぐ目の前の女を殺してやりたいと思考が支配される。


 だがオリヴィアの隣に居た人物を見た瞬間。私は全身から力が抜け落ち、その場に膝から崩れ落ちた。



「ネビーさん、どうして……」

「ごめんなさい、アカーシャさん。貴女を廊下で見掛けて追いかけていたら、オリヴィア様に捕まってしまって……」


 そこに立っていたのは、この屋敷での同僚であるネビーさんの姿だった。


 彼女は申し訳なさそうに眉を下げると、隣に立つオリヴィアを睨み付ける。


 一方、睨み付けられた当の本人はというと、どこ吹く風で平然としていた。だが右手に持ったナイフはネビーさんに向けられている。私が下手な真似をしたら彼女を殺す、というアピールなのだろう。



「オリヴィア……貴女の狙いは、いったい何なの?」


 私は床に手をつきながらも必死に立ち上がる。この二人が一緒に居るということは、きっと私のことも調べ上げたに違いないわ。


 手の平で転がされていたことが悔しくて、思わず涙が出そうになる。それでも今はなんとかして少しでも情報を得ないと……。



「私はね、アカーシャちゃんのことをずっと探していたのよ」

「はっ。それはお互い様ね。私もずっと貴女に復讐する日を待ちわびていたわ」


 そう皮肉を込めて返すと、オリヴィアは困ったように肩をすくめた。



「この世界のどこかにいるであろう、次なる本物の聖女。そして私の可愛い妹……それが貴女なのよ、アカーシャ」


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