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第51話 そのメイド、密会する。

 

『――へぇ、潜入して早々に侯爵閣下直々から目をつけられたと。……で? 自分の身を危険に晒したことに、アカーシャは何か弁明はあるのかな?』

「も、申し開きのしようもございません」


 その日の夜。私は二階にある自室のベランダにて、手すりに止まっている青い小鳥に向かってペコペコと頭を下げていた。

 念の為に言っておくと、別に私は奇行に走っているわけじゃない。小鳥を通して私はジークと会話をしているのだ。


 彼の得意とする氷の造形魔法によって作られた鳥には、魔力を込めることで自由に動き回れる機能が搭載されているらしい。このお陰で私たちは離れた相手とも会話をすることができるのだ。


 ちなみにそこまで遠距離まで通信はできないらしいので、おそらくこの屋敷の近くまで彼は来てくれているみたい。国の一大事とはいえ、重ね重ね申し訳ない。



『全く、本当に君は無茶をするよね』

「返す言葉もありません……」

『……まぁいいや。とりあえず無事そうで安心したよ。結果的に上手くいったみたいだしね』

「うぐっ……」


 そう言って小鳥さんは私の肩に移動すると、わざとらしく羽づくろいを始めた。そんな彼(彼女?)を横目で見て、私はぐうの音も出なくなる。


 確かに結果だけ見れば、今のところ大きなミスもなく順調に進んでいると思う。

 古株のメリーさんには実力を認めてもらえたし、使用人の同僚との仲もそこそこ良好。雇い主である侯爵閣下にも仕事を任されて、しかもその仕事がグリフィス家とグラン共和国との繋がりを調査するのに丁度いい内容だ。



 でも、それはあくまで結果論であって、実際はどうなのか分からない。いや、十中八九碌なことにはならない気がする。こんなに都合良くことが進むなんて、なんだか嫌な予感がする。


(もし私の正体がとっくにバレていたら……そう考えると、ゾッとするわ……)


 自分の行動を思い返して身震いしていると、ジークの声が耳に飛び込んできた。



『さて、これからどうしようか』

「そうね、まずは情報収集から始めたいところだけど――」


 魔法で誰かに盗み聞きされないよう、一人と一羽はコソコソと小声で会話をする。――と、ふとあることを思い出した。そういえば、今日の昼間の出来事についてまだ報告していなかったわね。



「……ねぇ、実は今日お屋敷の中を探検していたら面白いものを見つけたのよ」

『うん? 面白いもの?』


 興味深そうな反応を見せる彼に、私は得意げに話を続ける。



「ええ、これを見てちょうだい!」


 そして私はメイド服のポケットから一枚の紙を取り出した。これは屋敷の間取り図だ。



『ちょっとどうしたの、それ。屋敷を立てた大工でさえ図面は作らないっていうのに」


 私の肩の上で小鳥さんの小さな目が見開いた。ここまで芸が細かいのはさすがね。

 たしかに貴族というのは、防犯のためにお屋敷の内部情報をすべて明かすことはない。メイドの実習生として幾つかのお屋敷に派遣されたけれど、財産を隠した金庫部屋や緊急時の避難通路といった部分は教えてもらえなかった。私を孫のように接してくれたエミリー公爵さえも例外ではなかったのだ。


 そんな状況の中、私がどうやって間取り図を手に入れたかというと……答えは簡単!



「ふふん、そこはほら、メモ魔法を利用して自作したのよ」


 そう胸を張って答えると、小鳥さんは呆れたようにため息をついた。



『また君はそうやって危ない橋を……』

「あら、ちゃんとバレないようにコッソリとしたから大丈夫よ」


 探索をしている途中で、廊下の掃除をしていたメイド仲間のネビーさんと遭遇するというアクシデントもあったけれど……どうせ後で地図は燃やすつもりだったし、きっと大丈夫。それに下手にオドオドしているよりも、堂々としていた方が案外平気なものなのよ。


「それより、ちょっとここを見てほしいの」

『ん、どれどれ……』


 彼が肩の上から身を乗り出してきたところで、私は地図の一点を指さした。そこには部屋や廊下はなく、壁だけだ。だけど――。



「ここの壁をよく見て頂戴。何か違和感があると思わない?」

『……うーん?』


 彼は首を傾げるような仕草をする。どうやら分からないみたいなので、私はその箇所を指でなぞりながら説明する。



「この部分だけ他の場所と比べて変なスペースがあるでしょ?」

「でも隠し部屋にしては狭すぎるし、通路にしてはどこかに通じている様子はないけど……あっ、もしかして」


 そこまで言うと、彼はハッとした様子で顔を上げた。ようやく気付いたみたいね。


「普通ならそうだけど……この部屋が作られたのは、若奥様であるセレス様がこのお屋敷に来てかららしいの。つまり、彼女の魔法で何か細工がされている可能性があるわ」

『なるほど、そういうことか』


 小鳥さん(ジーク)は私の説明を聞くと納得したように頷いた。それからしばらく思案するように沈黙した後で言った。



『分かった。それなら僕の方で彼女がどんな魔法を持っているのか調べてみるよ』

「えっ!? 調べるって、そんなことができるの!?」


 思わず声が大きくなってしまい、慌てて口を押さえる。すると小鳥さんがパタパタと翼を羽ばたかせた。



『ああ、セレスの実家や社交界で関わりのある人物から当たってみるよ。何から何までアカーシャに首を突っ込ませたら、本当に命が幾つあっても足りなくなっちゃうから』

「……そ、そうですか」


 やけに自信満々な様子に少し気圧されてしまう。それにしても随分と信頼がないわね私も。もうちょっと信用してくれても良いと思うんだけど。


 まあでも確かに、これ以上はさすがに危険よね。雇い主の秘密を探るなんて、下手すればクビどころじゃないだもの。



『……ただでさえキミを危ない場所に置くことに、僕は反対なんだ。幾ら国のためとはいえ、あんまり無茶はしないでほしい』

「……ありがとう、ジーク」


 まるで小鳥さんの奥に、しょんぼりとした仔犬の顔が浮かぶような声色だ。


 彼の気持ちが嬉しくて自然と頬が緩んだ。だけどすぐに気を引き締める。今のやり取りのおかげで、やっぱり私が頑張らなきゃいけないという気持ちが湧いてくる。もちろん、国王様に頼まれたっていう理由もあるけど。一番は自分とジークの将来のため。だって私は、ジークのこっ、ここここ恋び……。



『大丈夫? 急に顔が赤くなったけど』

「こけっ!?」

『……あんまり夜風にあたると、風邪をひいてしまうな。今日はこれくらいにしておこう』

「こ、こけぇ……」


 うぅー、さっさとこんなクズ貴族なんかの悪事なんて暴いて、ジークと幸せな生活を送りたい。


 闇夜に消えていくジークの分身を眺めながら、私は今日もまた眠れぬ夜を過ごすのだった――。


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