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第46話 そのメイド、立候補する。

 

「ほう、それがアカーシャ嬢のメモ魔法か……」


 謁見の間を出て、城内にある客室へと案内された私は、そこでジークたちに例の手帳を披露していた。


 この部屋は来客用なのか、かなり豪華な造りになっている。


 今私が座っている椅子ひとつをとっても、木や革の素材が違う。なんだか高級品の匂いがする。『いや、高級品の匂いってなによ』って思うけど、今まで私が目にしたことのある物とは匂いすら違う気がする。


 自分ごときが座ってしまったら汚してしまうんじゃないか……なんて不安に駆られた私は少しだけ腰を宙に浮かせていた。



「うっ、これは辛い……でもちょっと足腰が鍛えられそう……」

「どうぞ」

「えっ? あっ、ありがとうございます……」


 椅子の上で挙動不審になっていると、自分の背後に年配のメイドさんが銀のトレイを片手に立っていた。そして一切の淀みがない手つきで、お茶とお菓子を提供してくれた。



「すごい、いい香り……」


 さすがは王城というべきか、一流のおもてなしね。自分は孤児生まれの平民だけど、メイドを齧ってきただけあって、プロの凄さが分かって気がする。憧れにも似た視線を送っていると、メイドさんは微笑んでから一礼して部屋から出ていった。



「ふむ、この魔法は中々に興味深い。ジークが気に入るのも分かる気がするな」


 アモンさんが興味深そうに手帳を覗き込みながら、そんなことを呟いた。


 今開いているページには、私が実習で学んだことがビッシリと書かれている。

 っていうかジーク、貴方はアモンさんたちに私の魔法についてどんな説明をしたの!? なんだか照れるわ……。


 だけど当のジークは、まるで自分が褒められたかのようにニコニコしながら、私の顔を見つめていた。



「アカーシャ。他のページにはどんなことが書いてあるの?」

「ちょっ、見ちゃ駄目ぇええ!!」

「え? どうして??」


 次のページを開こうとするジークの手を止める。



「なんで分からないの!? 恥ずかしいからに決まってるでしょ!」


 思わず声を荒げて制止すると、彼は首を傾げた。いや、可愛い顔をしてもダメだから。



「(無理よ! だって日常のことを日記代わりに書いているんだもの! )」


 日常ということはもちろん、ジークとのことも書いてある。というより、最近はほとんど彼のことばかり書いていた気がする。


 中にはジークの似顔絵や、彼がどんな料理を気に入ったかとか……他にも人に言えないことやあんなことも……。



「とにかく! 乙女には秘密の一つや二つあるのです! それを覗き見るだなんて……いくら恋人関係になったとはいえ、すべてのプライベートを公開するつもりはありません!」


 きっぱりと言い切ると、ジークは不機嫌そうな顔で黙ったまま、私の手の中にある手帳をジッと見つめる。


 いや、そんな目で見てもダメなものはダメです。



「そんなに手帳が分厚くなるほどの秘密があるの? この僕に?」

「あるんです!!」


 そんなやり取りをしていたら、アモンさんの笑い声が聞こえた。


 そちらに目をやると、彼は口元を押さえながら肩を震わせている。その隣ではゼロムス陛下が額に手を当て、呆れた表情を浮かべていた。



「あぁ、すまない。二人とも仲が良くて何よりだと思ってな……ぷっ、くくく!」

「そ、それは……」


 そんな風に言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。客室に何とも言えない空気が流れ始めたところで、陛下がゴホンと咳払いをした。



「それよりグリフィス家の動きだが」

「はい。すでにグリフィス家は動き出しているようですね」


 先程、謁見の間で話していた内容を手帳で確認し終わったみたい。


 するとアモンさんが腕を組み、難しそうな表情で考え込む。



「しかし、どうやってグリフィス家を断罪するかだが……」

「相手が侯爵家ですからね。決定的な証拠を突きつける何かが欲しいところだけど……」


 アモンさんの言葉に、ジークも難しい顔で同意する。


 二人の言う通り、相手が爵位の高い貴族である以上、下手に動くことはできない。


 ましてやここは貴族の力が強い国だ。平民の反乱ならまだしも、王族並みの権力を持つグリフィス家では証拠不十分で有耶無耶にされる可能性もある。下手すれば他の貴族に罪を擦り付けてしまうかもしれない。

 だから言い逃れのできない証拠を掴まなければならない。


 でもそれは簡単なことじゃない。これまで何年も誰にもバレずに、着々とグラン共和国と一緒に暗躍を続けていたんだから……。



「グリフィス家の屋敷は広い。強制的に捜索しようとしても、おそらく隠ぺいされてしまうでしょうね」

「あぁ、そうだ。だからこそ慎重に動かなければ」


 ジークが顎に指を添えて、思案するように言った言葉に、陛下も賛同する。


 確かに屋敷の中を調べている最中に証拠を消されたらアウトだろう。



「でもそんな方法なんてありますか?」

「いっそのこと侯爵を逮捕して拷問してみるか? 何か吐くかもしれないぞ」

「馬鹿なことを言うな、アモン。そんな無茶をすれば、逆に我らが総叩きにあってしまう」

「じょ、冗談ですよ父上……」


 そんなやり取りをする父子の姿を見ながら、私は迷っていた。


 どうしよう。一つだけ思い付いた案があるんだけど、声を掛けて大丈夫かしら……。



「うーん……ならばどうすれば……」

「あのぅ、それなら私、そのグリフィス家のメイドになりましょうか?」


 その瞬間、三人が一斉にこちらを見た。


 待って、またこのパターンなの!?



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