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第24話 そのメイド惚れられる。

 

「……だからこそ、ああいうタイプの女に惹かれてしまったのかなぁ」

「そういえばアモン様。聖女といえば、グリフィス侯爵の令嬢ならどうですか?」


 聖女……? あぁ、オリヴィアとかいう高飛車の……


「アモン様も気に入っていたじゃないですか、聖女印のマヨネーズを……」

「うぐっ……その言い方じゃまるで、俺が食い物で釣られたみたいじゃないか。たしかに、あのマヨネーズは旨かったけどさ……」


 あのオリヴィアが復活させたという聖女のマヨネーズは当然、王家にも献上されている。

 市民の間でも既に多くの者を魅了させている、白くてふわふわのマヨネーズ。アレは、俺も虜になった。

 サラダに肉、そして魚。とにかく何に合わせても美味なのだ。まさに旨味の爆弾。初めて食べた時の衝撃は計り知れなかった。


 同じくマヨネーズの虜となった父上も、聖女オリヴィアを王妃にどうかと勧めてきたのだが……。


「あのオリヴィアとかいう女……会ってみたら悪魔みたいなやつだった。商売で成功を収めているグリフィス家なだけあって、アレはやり手だぞ。絶対に裏がある」


 城で聖女が国王に謁見した時に、マヨネーズの礼がてら会話をしたことがあった。

 その時は言葉をいくつか交わしただけだったが、王族に対して物怖じしないし、心を鷲掴みにする巧みな話術は明らかに異様だった。


 それに精神が引っ張られるような不思議な感覚。あれは何かの魔法を使われていたのかもしれない。


「それにグリフィス家はトリスタンの家系だろ? 弟との関係がまた拗れるじゃないか」


 アレクサンドロス王国には三人の王子がいる。

 長男であり、次期国王の候補とされる俺。

 次男がジークハルト王子で、トリスタン王子は末の王子だ。

 三人とも父親は一緒だが、母親が違う。


 そのトリスタンの母親がグリフィス家の縁者だったはずだ。



「ですが誰とも繋がっていない女性なんて、探す方が難しいでしょう」

「それは、そうなんだが……うーん」



 レイリーの言葉を聞いて、あのずけずけとした物言いをする生意気なメイドが脳裏をよぎる。

 そんな俺の事を見透かしたのか、レイリーは溜め息を吐いた。


「今の国法では、平民を王妃にすることはできるかもしれません。しかしそれは聖女か、それと同等の働きをした者に限られるでしょう。彼女はメイド学校の生徒のようですし、将来はどこかの貴族の屋敷で勤めることになります。そうしたら益々、アモン様と結ばれる可能性は……」


 そんな事は俺も分かっている。

 レイリーの心配や懸念も承知している。


 影武者という職務を越えて、心を鬼にしてでも忠告してくれている。

 俺はその思いに答えなければならない。

 ましてやコイツは俺にとっての大事な友人でもある。



「ああ、心配するな。……それに彼女は綺麗なドレスを着せるよりも、ああしてメイド服を着ている方が似合っているしな。ああいうのは、野で咲くからこそ美しい」

「アモン様……」


 俺だって、本当は分かっている。

 普段はふざけているが、責任感を誤魔化そうとしているだけなんだ。

 次期国王としてのプレッシャーをその身に受けながら、期待を裏切らないように誰よりも努力を続けてきた。だからたまにこうして気の置けない影武者と話すことでガス抜きをしているだけ。


 だからこそ、コイツの期待に応えるためにも良い結婚相手を見つけたい。

 ……まぁ、その結果はお察しではあるが。


「あの暗殺事件さえなければ……」

「もう過ぎたことはしょうがない。俺たちができるのは、二度とあんなことを起こさないことだ」


 ジークハルトと仲が良かった頃を度々思い出す。

 アイツと俺たちの母親の四人で、晴れた日には良く共にお茶会をしていた。

 普通は次期国王の座を狙って険悪になりそうなものだが、俺たちはそんなことはなかった。


 だがそれも二人の母親が亡くなってからは、その関係も様変わりしてしまった。

 第一王妃と第二王妃が相次いで謎の死を遂げてからというもの、俺とジークハルトの仲は険悪になってしまった。

 本来であれば、こういったことを相談できる最適な人物であったはずなのに……。



「あの、ジークハルト様には……」

「相変わらずだ。互いに、話し掛けてすらいない」

「――城の者は心配する声も聞こえております」

「お前は心配しなくていい。アイツは俺以上に慎重で、頭もキレる。王座にも興味は無いだろうさ」



 しかしそれ以上の言葉を発することも無く、再びアモン王子は馬車の窓から外を眺め始めてしまった。


「最近、ジークハルト様も変化があったようですよ。元気を取り戻しつつあるとか

「――そうか」




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