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第19話 そのメイド、ツンデレに溺愛される。

今回より第3章となります。

 

 私がキーパーメイド学校に入学してから、約半年が経った。



 元々メイドとして働いていた経験が活きたってこともあるけれど、やはりプロが教える学校は凄い。男爵家に居た頃では知らなかったような、高級な茶葉の扱いや貴族の礼儀作法もしっかり学ぶことができた。


 クラスもブロンズからカッパーへと上がり、学ぶことも格段にレベルアップしている。もちろん、ルームメイトのルーシーも一緒だ。



 ツンツンしていたルーシーだったけれど、どうやら吹っ切れることができたみたい。メキメキと才能を伸ばし、私なんて到底追いつけないほどの実力を見せていた。たぶんそれまでの彼女は貴族のプライドが邪魔していただけみたい。自身の鎖魔法に対しての苦手意識が無くなってからは、日常的に活かせるようになっている。



「う~ん、紅茶は習った通りに淹れられるようにはなったんだけど。どうしてか、ルーシーが淹れた方が美味しいのよね。何故なのかしら?」



 私は今、シルバークラスに上がる為の試験勉強をしている最中だ。

 今回の課題は基本的な給仕から始まって、客人への応接がひと通りできればオッケー。

 念願のシルバークラスになれば、実習という形でお屋敷で働くことができるのだ。



 そう、やっと働くことができるのだ!

 つまりお賃金が発生するということ!!


 ちなみに私が騎士様に貸していたお金は戻っていない。でもお給料が手に入るようになれば、少しずつでも生活費を返済できるし、いずれは自立して生活できるようになる……はず。



「アカーシャさん! 授業の合間にケーキを焼きましたの! 味見をしてくださらない!?」

「え? いつの間に!? うわぁ、美味しそう~っ!! ありがとう!!」

「うふふふ。そんなに喜んでくださると、作った甲斐がありますわ」



 実習室で紅茶を淹れる練習をしていたら、後ろからニコニコ顔のルーシーがやって来た。

 手に持っているトレーの上には、作りたてのフルーツケーキ。

 赤や黄色などの色とりどりの果実がバランスよく飾られ、一種の芸術品のよう。


 確かに試験には料理の項目もあったよ?

 でもこんな本格的なケーキなんて誰も求めていないし、そもそも作ろうとしたって普通は作れないと思う。ルーシーったら、パティシエの才能まであったのかしら……。


「アカーシャさんが以前、好きだって言っていたドライフルーツを使ってみましたの。お口に合うといいのですが……」


 そういってルーシーはキラキラとした瞳を向けながら、私の反応を窺っている。

 出逢った当初はあれだけ不愛想でツンツンしていた、あのルーシーがだ。


(な、なんなのよ……この可愛い生き物は……!!)


 まるで恋する乙女のような振る舞いだ。このまま見ていたい気もするけれど、出来立てのケーキを放置するわけにもいかないし……。


「い、いただきます……」


 ありがたく差し出されたケーキを、フォークとナイフを使ってひと口食べてみる。



「おいしーい!! 甘酸っぱいベリーと完熟した桃の甘さが交互にやってきて、幾らでも食べられちゃう!……はっ!? まさかこのフルーツの配置って、全部計算されているんじゃ……!?」

「ふふふっ。それはどうでしょう~?」


 悪戯が成功したと微笑むルーシーは女の私でも心を奪われそうになった。この場に男が居なくて良かったわ……。


 胸をドキドキさせながら、残りのケーキを咀嚼していく。ケーキなんて贅沢品、こんな時でしか食べられないからね!



「アカーシャさんも、淹れ方がとても上手になったわ。私、貴女の淹れた紅茶好きよ」

「やめて、ルーシー。褒め殺しまでされたら、私の中でいけない扉が開いてしまいそうになるわ」


 以前にも増して洗練された所作でカップを傾ける彼女は、禁断のバラのように美しい。ぶっちゃけ前よりも綺麗になったっていうか……高貴なオーラが増した気がする。


 女の園であるこのメイド学校でも、ルーシーの人気は爆上がり中だ。最近じゃなんと、彼女のファンクラブができたらしい。しかもファンクラブの会長はなんと、ルーシーを虐めていたあのハイドラさんなんだっていうんだから驚いた。



 ある日、急に廊下に呼び出されたかと思ったら


「アカーシャさんも当然、入会するわよね?」


って満面の笑みで迫られた。あの時は私も、ただ頷くことしかできないほど戦慄したっけ……。



 でも友達であり、メイドの先輩だと思っているルーシーに褒めてもらえたことは単純に嬉しい。



 最近は校長のプリちゃんだけじゃなくって、ルーシーも一緒になって私を指導してくれるようになった。


 ルーシーはプリちゃん以上に厳しくって、普段の生活の時から私がだらしないと叱ってくる。でも上手くできれば今みたいに褒めてくれるから、私も頑張ろうっていう気になれるのよね。


『食器はなるべく音を立てないように。姿勢も猫背になっていますわ。顔も笑顔で!! そう、とっても可愛いわ……』


 褒め言葉に若干熱が入ることが多いんだけど、まぁそれは御愛嬌、よね。


 他にもやたらとスキンシップも増えた気もするけど、きっと彼女なりの愛情表現なんだと思う……たぶん。



「ねぇ、アカーシャさん。今日もアレを……」

「ん? あぁ、アレね。ルーシーも好きね。分かったわ」


 教えてもらう一方っていうのも悪いので、代わりに私はルーシーに手帳に書いてあるちょっとした知識を教えることにした。

 もちろん、偽聖女の時と同じ過ちを繰り返さないように、内容にはすごく気を使っている。


 だけど、誰も知らない知識だという事を理解したルーシーの学習意欲は凄かった。教えたことをあっという間に自分のモノにして、さらには応用までするようになってしまったのだ。


「空気には私たちが生きるのに必要な要素があるの。その他にも色んな現象を起こすものがあるのよ」

「この間教えてもらった、火が燃えるのに必要なサンソという要素ですわね! サンソが燃えれば別の物質となり、不燃性のものに変わるという……」

「え、えぇそうよ……本当に物覚えが早いわね、ルーシーは」


 これじゃあ、私のメモ魔法が霞んでしまいそうになるわね。


 でもまぁこっちとしては教え甲斐があるから、もっと教えたくなっちゃうんだけど。



 それに彼女が凄いのは、執念とも言える努力の賜物だっていうことを、私も良く理解している。


 ――おそらく、彼女は貴族に戻ることを諦めていないのだ。



 この半年の間に、私もあのグリフィス侯爵家に育ての親を殺されたことをルーシーにも教えた。そうしたら彼女はとても驚いていたけど……。


『やっぱり私は……あの家を到底許すことはできないわ。どんな手段を用いても、お父様たちの無念は晴らしてみせる』



 ルーシーはそう言って、アイスブルーの瞳の中に復讐の炎を燃え上がらせていた。


 彼女にとって、復讐こそが全ての原動力なのだ。その気持ちは、彼女にしか理解できないもの。他人である私が「復讐なんてやめたほうがいい」なんて、とてもじゃないけれど言えなかった。


(普段はこんなにも可愛いんだから、素敵な男性でも見つけて幸せになって欲しい……なんて思ってしまうのは、ちょっと烏滸(おこ)がましいわよね)


 そんな事を思いながら、私は更なる知識を彼女に教えていく。



「すごいわ、アカーシャさん!! 貴女こそホンモノの聖女よ!!」



 紅潮した顔で私に頬擦りするルーシー。そのうちキスまでしてきそうな勢いだ。


 ……うん、やっぱりどっかで良い男を宛がった方が良いかもしれない。




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