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第12話 そのメイド、マヨネーズに怒る。

 

 さっそく次の日から、私のメイド学校での生活がスタートした。


 ルーシーは結局、夜中まで泣き続けていたみたいだけれど、朝はキチンと起きてきた。



「……なに? (わたくし)の顔に何かついてますの?」

「ううん、なんでもないわ」


 相変わらずツンとした釣り目のまま。ルーシーは食堂で私の対面の席に座り、ギロリと睨んでくる。



 ――この様子だと、私が泣き声を聞いていたとは気付いていないみたい。


 ルーシーは私に向かってやっぱり変な子ね、と呟きながら朝ご飯に手を付け始めた。



 ちなみに本日の朝ご飯は、ゆで卵のスライスと葉野菜のサラダだ。


 腹立たしいことに、サラダには聖女印のマヨネーズが添えられている。



 マヨネーズは聖女オリヴィアが開発し、数年の歳月をかけて最近発売された新しい調味料だ。


 このマヨネーズは王家に献上され、彼女が聖女として認められるキッカケとなった商品でもある。


 聞いた噂では、聖女の実家であるグリフィス侯爵家が王都の一等地に工場を作り、日々マヨネーズを量産しているんだとか。


 お陰で国中で一大マヨブームが起こり、聖女オリヴィアの名は平民の間にまで知れ渡っていた。



 ――だけど私は、それが無性に腹が立つ。


 マヨネーズのレシピは元々、サクラお母さんのものだったのに。



「美味しいわよね、このマヨネーズって。王都で流行っているらしいわよ?」


 食堂のおばちゃんに教えてもらったのか、ルーシーはドヤ顔で私にそう告げた。


 ――悔しいけど、確かにマヨネーズは美味しかった。だからといって、サクラお母さんが作ったマヨネーズの味とは程遠いのだけれど。



「……このマヨネーズって、グリフィス家で作っているらしいよ」


 私が追加情報を教えてあげた瞬間、それまで笑顔だったルーシーから表情が抜け落ちた。



「グリフィスって……あの貴族潰しのグリフィス侯爵……?」

「うん、そのグリフィス侯爵だと思うけど……」


 へぇ~、あの家ってそういう二つ名で有名なの。


 私と違って貴族令嬢だったルーシーは、そんなことまで知っているのね。



「って、貴族潰し? もしかして、ルーシーの家って……」

「……そうよ。私のお父様を騙し、ヨルンガルム伯爵家を潰したのがグリフィス家なの」

「グリフィス家が、伯爵家を潰した……!?」

「第三王妃がグリフィス家の親族だからって、やりたい放題なのよ。ああ、思い出しただけでも気分が悪くなってきたわ!!」


 あれだけ綺麗な食事マナーをしていたルーシーが、フォークでブスブスとサラダを突き刺している。絶賛していたマヨネーズなんて、ナイフを使ってお皿の端によけてしまった。


 それだけ、彼女の父親ヨルンガルム伯爵を騙して陥れたグリフィス家が許せないのだろう。



 グリフィス家はヨルンガルム伯爵家から爵位を奪っただけでなく、領地まで奪い取った。


 伯爵家の領地を乗っ取られたヨルンガルム伯爵は、当然抗議をしたそうだ。


 だけどグリフィス侯爵は全く相手にしなかったという。それどころか、ヨルンガルム家に罰を与えるべく、当時ヨルンガルム家に仕えていた執事やメイド達を次々と解雇していった。


 そしてヨルンガルム伯爵家に残ったのは、一人娘のルーシーただ一人。



 大事な家を奪われた彼女は、グリフィス家に復讐を誓った。


 父親の反対を押し切り、王都の学校に入学したのだという。


 メイドとなり、聖女オリヴィアに近付くために。



「……(わたくし)、先に部屋へ戻るわね」

「あっ、ちょっとルーシー!?」


 言いたいことだけ言って満足したのか、ルーシーは席から立ち上がる。


 そして食事も途中なのに、さっさと食堂から去ってしまった。



「私も話があったんだけどな……仕方ないか」


 ……まぁ、自分の事はいつか話せる時で良いよね。その時は私も仲間なんだよって言えたらいいな。



 そんなやり取りをしていると、朝の自由時間があっという間に終わってしまった。


 私たちは授業を受けるため、本館(ホーフ)へと向かう。



 教室に入ると、自分と同じメイド服姿の生徒たちが二十名ほど席に着いていた。黒板も机も、すべてがピカピカに磨かれている。


 新参者である私が気になるのか、はたまたルーシーと仲良くしている人間に驚いているのか。生徒たちは私とルーシーを交互に見て、物珍しそうな顔をしている。


 その中の何人かは、不躾にクスクスと笑っていて……なんだか気分が悪い。



 ルーシーの隣りの席が空いているということだったので、私はその席に座って授業の開始まで待機する。


 しばらくすると監視塔にある予鈴が鳴り、同時にメイド服を着た中年の女性が教室に入ってきた。



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