どうも。伯爵令嬢ですが、侯爵令嬢に婚約者を取られたので第三王子と婚約します。ひゃっほう!
浮気はしない方がいいってお話
少なくとも表面上だけは、悲しそうな表情をしなければね。
はじめまして、ご機嫌よう。私、伯爵令嬢のベルリーナー・プファンクーヘンと申します。今、とても素敵なことが起こっていますの。
「すまない、ベル。僕には、他に愛する人が出来てしまった」
そう告げるのは婚約者の侯爵令息、ゲフュルター・ヘーフェツォプフ様。うふふ。わかっていましてよ。むしろいつ切り出されるか待っていましたわ。
「まあ…それは…私、何か至らない点がありましたか…?」
悲しそうな表情で聞く。フュルト様は静かに首を振る。
「君にはなんの落ち度もない。ただ、僕が彼女を愛してしまっただけなんだ」
「彼女とは…」
「…侯爵令嬢のフォレ・ノワール嬢だ」
「まあ…それでは、仕方がありませんわね。フォレ様はお美しく慈悲深い人格者であり、侯爵令嬢ですもの。私は何一つ勝てるところがありませんわ」
「そんなことは…ただ、僕が彼女に運命を感じてしまっただけだ。君も十分に素敵なレディーだよ」
「それでも、貴方様の心が離れてしまいましたもの…意味がありませんわ」
「ベル…」
さも悲しそうに毒突く。負け犬の遠吠えだとでも思って受け止めてくださいませね。
「さようなら、フュルト様」
「ああ。…さようなら、ベル」
こうして私とフュルト様は決別しましたわ。
…ということで、私は自由ですわ!ひゃっほう!
私、元々そんなにフュルト様のことを好きだった訳ではないんですわよね。まあ、いつかはこの方と結婚するんだろうと漠然と思っておりましたし、家族愛のような幼馴染同士の絆のようなものは感じていましたけれど。真実の愛に生きたいのが自分だけだとは思って欲しくないものですわ。でも、“婚約者を取られて傷心中の私”がいきなり新たな婚約者探しをするわけにはいかないですわ。良い人探しはしばらく時間をおいてからですわね。その間に私を蹴落としてくれたフォレ様にもお礼をしなくちゃね!ということで早速お礼開始ですわ!うふふ!
ー…
「ベル様…聞きましてよ、大丈夫ですの?」
「ええ、悲しいですが仕方がありません。相手はフォレ様ですもの。敵いっこないですわ」
「ベル様…」
「あら、…あれは。フォレ様?」
「あら、本当…え?」
今日は学園で、私は噂の的でした。ですから、普段この時間は誰も利用しない裏庭で友人達数人に慰めていただいておりますの。ですが、今からは貴女に噂の的になっていただきますわよ、フォレ様。
「どうしてフォレ様がゲフュルター様以外の殿方と一緒に歩いていますの?ベル様からゲフュルター様を奪ったというのに、節操もなく他の殿方に近寄るなんて…!しかもこんな、人気のない場所でなにを…っ!」
「まあ…もしかして、噂は本当でしたの…?」
「噂?」
「え、ええ…なんでも、フォレ様はその…殿方が好きで…特にお相手のいる方を奪うのが趣味だとか…」
「まあ!」
「そんな噂があったんですの!?」
「それでは、ゲフュルター様もっ!?」
「ベル様…っ!お辛いでしょう、もうこの場は離れましょう!」
うふふ。フォレ様。貴女様の趣味嗜好はここ最近の観察でわかっていましてよ。身から出た錆ですわ。せいぜい反省なさいませ。
ー…
あれから。結局フュルト様…いえ、ゲフュルター様とフォレ様は破局しました。原因はフォレ様の浮気癖。なにやらフォレ様の良からぬ噂を聞きつけたゲフュルター様が調べたところ、真っ黒だったそうですわ。結局フォレ様はその問題ある生活態度を理由として、ゲフュルター様に振られただけではなく学園も退学させられ、家でも勘当され市井に放り出されたようです。
ゲフュルター様は私との復縁を望まれましたが、私の両親がかんかんに怒って拒否されました。まあ、当然ですわね。
その代わりに、私、この国の第三王子、アプフェル・シュトロイゼル殿下と恋仲になりましたわ!うちの伯爵家も王家との繋がりが出来ますし、良いことばかりですわね!フェル様は第三王子なので、適当に爵位と領地を貰って独立することが決まっていますし、伯爵令嬢の私でも婚約者になれましたの!うふふ、幸せですわ!ゲフュルター様に振られてよかったですわ!
もちろんフェル様とはとても仲睦まじく過ごさせていただいていますわ。
「お前も大変だったな、あんな浮気男の婚約者だったなんて」
「まあ!そんなことはありませんわ。おかげ様でフェル様の婚約者になれましたもの」
「可愛いこと言うなよ。結婚まで我慢しなくちゃならない男の気持ちも考えろ」
そんなことを言いながら、私の髪にキスを落とすフェル様。かっこいいですわ。
「愛してる。一生かけて幸せにするぜ」
「もう幸せですわ」
「…本当に、可愛い奴」
今度は頬にキスを。うふふ。本当に幸せですわ!ありがとうございます、ゲフュルター様、フォレ様!せいぜいあなた方もお幸せに!
第三王子と伯爵令嬢はお互い一途に想い合う