川と滝と夜
足が宙を蹴り身体が僅かな無重力を感じそのまま法則に従って落下していく。
顔を強張らせ、回らない頭の代わりに目が状況を把握しようと上下左右に揺れ動く。しかし、何かを考える前に身体はバシャンと大きな音をたてて水面にぶつかった。
ガボボと驚きのあまり少し空気を吐き出してしまうが何とか水面に顔を出す。
「ぷはぁ!な、流れが結構速い!」
水は透き通っており川幅もそこまで広くはないが足は着かず着の身着のままでは浮く事が精一杯な状況。
くそっ、服が水を吸って重い!しかも岸からどんどん離れていってる。
必死に水中でもがきながら何とかこの状況を打開しようとするがただ泣かされ続ける、そうして行くうちにザザァーと水が叩きつけられる音が聴こえてきた。
「ま、まさか、勘弁してくれよ」
川下を見ると明らかに先がなくなり流れ落ちている、その先がどれ程落ちるのかにより鈴太の命運は決まると言ってもいいだろう。
そして迎える運命の時、視界が一瞬開け下が見えるが直ぐに身体全体にトラックとぶつかったらこんな感じかというような衝撃が走り水中をグルグル回る。
幸いにして岩などにぶつかることはなく高さ自体もそれ程ではなかったため気絶する事なく痛む身体で必死に水面に出る。
何とか呼吸し滝壺抜け出す、先程よりは流れが緩やかなこともありようやく岸にたどり着き、仰向けに倒れ込み荒い息を整えていると視界がボヤけていることに気づく。
「マジか、コ、コンタクト失くしちまった?眼鏡もさっき置いてきちまったしこれじゃあ視界最悪だぞ」
鈴太の視力は0.1を下回るので本当に手元以外はボヤけてよく見えない。
どうしよう…と森の中で視界最悪という状況を嘆きつつ立ち上がると足の裏に痛みが走る、それでようやく「あ、」と靴がないことに気づいた。
森に来たばかりはまだ少し興奮していたこともあり、またボーイスカウトの経験があることであった余裕がどんどん削られていく。
正直泣きたい、このまま進めば靴下はあるとはいえ足の裏はボロボロになるだろう。そして進む方向を確かめようにもこんな視界では木に登ることにも大きな危険が伴うし先程まで程正確な情報は得られないだろう。
「つーか、身体も結構痛くて重いし腹も減ってきた。こんなんじゃあそんなに移動できねぇよ」
何でこんなことに…という絶望感やまた巨人のような化け物に出くわしたらという不安感に押し潰されそうになる。
しかし何とか生き延びねば、と自分を叱咤しまず足を保護するための大きな葉や蔓を探すため目を顰めつつノロノロと動き始めた。
それから体感で1時間程であろうか、何とか硬く大きな葉と力を入れ過ぎるとブチリと千切れる蔓を発見して既に所々血の滲む足を悪戦苦闘しつつ覆っていく、どうにか葉と蔓でグルグル巻きにして出来た靴もどき若干の達成感を感じつつ今度はうまく休めそうな所を探し始めた。
日はもう傾いてきているし夜などは動けるわけがないので川の近くで安全に身体を休められる場所を探す、がいい所がなさそうなので靴もどきに使用した大きな葉を何枚かとり、太く低い場所で二股に枝分かれした大きめの木に登り簡易過ぎる寝床を作る。
正直殆ど寝られる気はしない場所ではあるが地面に直で寝るよりも安全であろうし、いざとなれば川に逃げることも可能であるので精一杯葉で覆い周りから隠れるようにし身体を休ませる。
「まだまだ水や食料、どうやって街を目指すかといった問題は多いなぁ。はぁ、人生ハードモード過ぎて泣きたい、午前ティーが飲みたいしピザ食いてぇなあ」
ボヤくように小さな声で愚痴りつつ目を閉じて身体を休めていった。
幸いなことに夜でも雲はなく大きな3つの月のおかげで視界はいい・・・まぁボヤけて殆ど見えないが。
こうして時々ガサガサという音や獣の鳴き声にビクビクしつつも何とか夜を越した鈴太であった。
今のところ不定期の予定です。