表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【短編】

おっぱいの話

 ある日、夢に神様が現れた。


 どうして神様だって、分かったかって?

 だって、”私は神様だ”って名乗ったんだから、そうでしょ?

 僕は素直に信じることにした。


「あの、それで、神様はどうして僕の夢に現れたのですか?」

 僕が当然な疑問を神様にぶつけると、神様は立派に蓄えられた顎髭を摩りながら、余裕たっぷりに笑った。

「おめでとう。君は見事に当選したのじゃ」

「えっ、何に当選したんですか?」

「”自己複製の権利”じゃ」

「へっ……じ、じこ、ふくせい……?」

 僕が聞き覚えのない言葉を飲み込めずにいると、神様がほっほっと笑った。

「まあ、聴き馴染みがないのも無理がないじゃろう。君は高卒でフリーターじゃからのう」

「神様にバカにされた!」

「儂からすれば、人類など皆馬鹿の集まりじゃ。じゃが、君はその中でも、際立って馬鹿と言える」

「ひどい」

 職場でもよく、馬鹿だと笑われるが、まさか夢の中で神様にまで馬鹿にされるだなんて……

 僕がガックリと項垂れていると、神様がほっほっと、また笑った。

「まあ、そんなことを気にしている場合ではないぞ。君は馬鹿だが、今から人類で一番幸福な男になるんじゃからのぅ」

「へ……?僕が、幸福……幸せになれるってことですか?」

「そうじゃ。この”自己複製の権利”を上手く使うことが出来ればのぅ」

 神様が勿体つけて話すので、僕はその”じこふくせいのけんり”って奴が何なのか、うずうずと気になってきた。

「教えてください、神様。その、”じこふくせいのけんり”っていうのは何なんですか?」

 僕がそう尋ねると、神様はコクリコクリと首をゆっくり縦に振った。

「では、馬鹿な君にも説明してやろう……君は、自分の肉体がどうやって成長しているのか知っているかな?」

 自分の肉体が、どうやって成長しているか……へ、なんだろう?

「あっ、わかった!ご飯を食べるからです!」

 僕が自信を持って答えると、神様は静かに首を横に振った。

「残念ながら、不正解じゃ。じゃが、いいとこを突いておるぞ」

「うーん、正解だと思ったんだけどなぁ」

「答えは”細胞分裂”を繰り返すから、じゃ」

 全然近くないじゃないか……僕がそう思っていると、神様の説明は続いた。

「勿論、ご飯を食べないと人間は大きくなれないがのう。本質的には、人間は細胞という小さな要素の塊じゃ。その細胞が成長と自己複製を繰り返すことで、人間の肉体は大きくなっていくのじゃ」

「なるほど、さっぱり分かりません」

「うむ、君は馬鹿じゃからな」

 神様がほっほっと楽しげに笑った。

 僕は、少しムッとしてしまう。神様なのに、ひどい奴だ。

「まあ、そんなことはいいですから、その”じこふくせいのけんり”ってやつがなんなのか説明してくださいよぉ」

「じゃから、説明しとるじゃろうに……まあ、簡単に言うと”全く同じものを作り出すことが出来る権利”ということじゃ」

「全く同じものを……」

「そうじゃ。君が指定したものを一つだけ、”それと全く同じもの”を用意してやることが出来るのじゃ!」

「お、おお……!」

 僕は、全身が喜びで震えた。つまり、クローンが出来るってことなのね。

「な、何でもいいってことですか?」

「うむ、何でもよいぞ。自分自身でも良いし、食べ物でも衣類でも……この地球を複製することだって可能じゃ」

「お、おお……すごいですね、それは」

「そうじゃろう。さて、どうする……決まったら儂に、教えてくれ」

 神様はどっこらしょ、とその場に胡坐(あぐら)をかいた。

「さてさて、気長に待つとしようかのぅ。十分に悩むが良いぞ」

「いえ、神様。もう決まりましたよ」

 僕がそう言うと、神様は目を見張った。

「えっ、もっと慎重に考えるべきじゃないかのう。言ってなかったけどこれ、何千万年に一回の奇跡なんじゃけど……」

「いや、これ以外考えられません」

「そ、そうか。じゃ、じゃあ言ってみるがよいぞ」

 僕は深呼吸をして息を整えると、神様に答えを告げた。

「おっぱいにします!」

「お、おっぱい……!?」

 神様が、口を大きく開けたまま、ポカーンとしている。僕は首を傾げた。

「ど、どうされたのですか?神様、具合が悪いんですか?」

 僕が心配して尋ねると、神様はブンブンと首を横に振った。

「あ、悪夢じゃ……じゃから、儂はこんな若造に権利を与えるな、と言ったのに……」

「何をぶつぶつと喋っているんですか……神様」

「ああ、すまんのぅ。君があまりにも凄いことを言い出すもんじゃから、びっくりしてしまって」

「そうでしょう。いやー、やっぱりおっぱいは2つあってお得ですし、沢山あった方がいいですもんね」

「……もうあんまり君とは喋りたくないのう……」

 神様は大きなため息をつきながら立ち上がる。

「で、誰のおっぱいを増やせばよいのじゃ?」

「えっ、この世の全女性のおっぱいに決まってるじゃないですか!」

「いや、それは流石に無理じゃ。一人だけにせい」

「えー」

 僕は不満を漏らしたが、ここで神様に逆らって権利が没収されては堪らないと思い直し、渋々おっぱいを増やす相手を決めることにした。

「では、僕の彼女のおっぱいを増やしてください」

「……可哀相に」

「へ、何か言いました?神様」

「いや、もうよいぞ。はいはい、増やしときますよー」

 神様は”後悔するでないぞ”と呟くと、その姿を煙のように眩ませてしまった。

 


 僕が目を覚ますと、隣で寝てた彼女が僕の肩を揺さぶっていた。

「ねえ、聞いて。彩斗。おっぱいが4つになっちゃった」

「おーやったじゃん。昨日、夢で神様に頼んどいたんだよ」

 僕がそう言うと、彼女が僕の頬を思い切りビンタをした。





おっぱいの話   -終-

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ