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第9話 初めてのお友達。

入学式も滞りなく進み、学園生活が始まってしばらくが過ぎた。


始めの5年間は学科に別れず、成績別に別れたクラスで基礎を学ぶ。

残りの3年を魔法学科、経済学科、歴史学科、信仰研究学科など、いくつかの選択肢の中から好きな学科を選んで進学できる仕組み。

その分野に特化した能力がある場合は、先生からお墨付き推薦もいただけて有利にもなったり。


将来の選択に特進普通科もあるけど、成績別クラスの毛が生えたみたいなゆるーい感じなので、卒業後結婚するとか、家業継ぎますとか、将来の道が決まってる人用なので私は興味なし。

でも大体女子は特進普通科が多いらしいけど。


絶対、歴史か経済学でしょう!

決意を固めるかのように、構内にあるベンチに足をかけガッツポーズ。

フフフ。


「またエステルは……。はしたないですわよ?」

口に手を当てて何やってんだこいつという目で見てくる彼女。


「あら、コーディ。5年後の進路についてどこに進むか考えていたのよ!」

「まだ入学してそれほど立ってないと言うのに、早すぎませんか……」

私の不気味な笑顔に冷ややかな視線を送る彼女はなんと。


私、なんと、友達通り越して親友ができたのです。

自分でもびっくり。


彼女はコーデリア・フランチェス嬢。

私の真向かいの部屋に入寮された彼女は、薄めのグリーンの髪色にサファイアより濃い、切れ長のダークブルーの瞳をしている。



寮に入る引越しの最中、同じ日に入寮した彼女の両親とうちの両親が世間話に花が咲き。

我々も渋々世間話する羽目になったのだが。

今思えばそれが運命の出会い。

裏表のないサバサバした彼女の性格と、太々しい私の性格がとても意気投合したのだ。


「そう言えば今日はクラス編成が決まるテストが発表される日ですわね。」

「なに?結果はどうだい、兄弟。」

「兄弟…?ではないけど。そうですわね……えっと。」

「比喩なので気にしないで。

私はそつなく普通に調整したわよ。成績良くして王子たちと同じクラスにはなりたくないし、コーディもでしょう?」

コーディは返事はしなかったが第2顔負けの黒い笑い方をした。


テスト前夜。

何としても親友と同じクラスになりたい我々は、腹を割って話し合った。


「絶対第1も第2も同じクラスになりたくない。絶対嫌。1年間も同じクラスなんて、死んだほうがマシ。」

ベッドの上でバタバタと駄々っ子のように手足をばバタつかせた。

コーディは手で私の舞上げた埃を叩きながら首をかしげる。


「その原因は前に言ってた『ジャンケン罰ゲーム婚約事件』ですわよね?」

私はピタリと動きを止め、コーディを見つめて頷いた。

「その話を聞いた時、自分の事のように腸が煮えくり返りましたわ。」

コーディの目が不意に本気になる。

その目は暗殺者の目だから。

怖いから……。


抱きかかえてるクッションに顔を埋める。

「とりあえず、BかC辺りで調節しようと思ってる。流石に彼らはAだろうからね。」

「あら良いですわね。わたしもB辺りでと思ってたところですわ。」

「同じクラスになりたいね!やろうやろう、調節!」


あ、でも。

『出来たらCが良いな』と思った。


選択授業が合同の場合AとBが合同になれば、いやでも顔を合わせなきゃいけないから。

でもB一択を言ってたコーディはきっと親とかの体裁もあるのだろうと、そこは妥協する。


「Bのクラス目指すのであれば、70〜60辺りで点を取れば良いのかしら?」

「60近いとCに落ちる可能性が近くない?」

「なら75〜65あたりかしら?」

「一つぐらい80台を入れとけば堅実と思われる」

「そうですわね、それで行きましょう。」

ガツッと手を組んでにぎり合い、不気味に笑いあうのだった。


そんな計画の結果。


「コーディ!2人ともBだよ!やった!!!」

「エステル!!やりましたわね!!」


注)ここは貴族の学校です。

普通ならAを目指し、Bになった子供達は悔しがったり、親になんて言おうか肩を落とすのが普通なのですが。

わたしたち、手を取り合って歓喜です。

メチャクチャ注目集めて浮いてます、今。


クラス替えは1年に一回学期末のテストでまた変わるので、この方法で行けば5年は安泰である。

ぐへへへ……。


喜び合い、イソイソとBのクラスにスキップしながら進もうとすると、突然現れた大きな壁に行く手を塞がれた。

「ブヒッ!」

私は顔ごと壁に突っ込んで、後ろにひっくり返った。


「エステル、大丈夫??」

コーディが私を起こしてくれた。


「ちょっとあなた、危ないじゃありませんか……!」

壁に向かってコーディが顔を上げ、人差し指を振りながら抗議をしようとして、やめる。


「エステル・カーライトと、コーデリア・フランチェス。私について来なさい。」


突然名前を 呼ばれて、固まる。

私たち2人をフルネームで呼んだこの人。

長身で白銀の長髪に瞳に合わせたグレーの眼鏡姿。

確かアーロン・ウェルズ先生だった気がする……。


呼び出される覚えのない私たちは顔を見合わす。

周りの生徒たちもザワザワし始めたので、大人しくついて行くことにした。



技術棟にある化学準備室の扉が開く。

アーロン先生は『入れ』と言わんばかりに、顎をクイっと教室の方に傾けた。

キョドりながらも、教室に入り、用意されてた椅子に腰掛ける。

テーブルを挟んで真向かいに先生は座った。


「あのー…何でしょうか……?」

沈黙が続く前に、先に用件を訪ねる作戦。

用事は早々に終わらせて教室に行かなくちゃ。

早い者勝ちなら横に並んで席が残ってないかもしれないし。


「浮き足立ってるとこ悪いが、君達2人に不正が発覚した。」

そう言うと先生は私たちの前に、私たちが書いたであろう答案を並べた。


私が72点、コーディが78点という平均点を叩き出した、クラス分けのテストたちだ。


「あの、これのどこが不正なのでしょうか……?」

コーディが手を挙げ、おずおず発言する。

私も先生を見上げて不安げな顔をする。


私たち2人の顔を見比べ、ハァ…とため息をついた先生が立ち上がる。


「この点数は一見、実力に相違ない様に見えるが、私の目はごまかされない。

君達この点数は実力以下に操作して出したね?」


確信を見破られ、ドキリ飛び上がる。

古い表現でいうなら目や心臓がビョーンと飛び出て、髪の毛も頭から分離して飛び上がってる感じ。


「何を仰ってるか、分からないのですが……。」

コーディが口に手を当てて、動揺を隠しながらシラを切る。

「そうです、先生。何か誤解をなさってる様ですが、これが私たちの実力です。」

私も両手を胸の前に組み、父直伝の精一杯の懇願ポーズ。


そんな私たちを見て、先生が口の端をあげた。

「君達一回全問正しい答えを書いてるよね?ここも、ここも、ここもそうだろう?

そして点数の合計を計算して、自信あるとこから消して間違った回答を書いた。」


ギクゥー!!


また2人で図星を突かれて飛び上がる。


と言うか何でわかったんだろう。

全体的に薄く書いて、消し後も残らない様に丁寧に消して書いた。

抜かりはなかったはずなのに。


横をみるとコーディも笑顔のまま青い顔をして固まってる。

これは、キレそうになってるのでは……!

こ、コーディ。先生にキレたらやばいから。

どうか抑えて……!


ワナワナ震えてきたコーディの手を抑える。

私が触れたことで、コーディはハッとした。

よかった、気がついた。


「返事がないと言うことは、正解ということだな?」

アーロン先生は腕組みをしてドカリと椅子に座った。


「……何でわかったのですか?消しゴム後なんてことはないですわよね?」

コーディが笑顔を崩さず、先生をチラリと見た。


「君達が完璧じゃなかったからだよ。」

フンと鼻を鳴らしながら、両手を広げ肩をすくめる。


「どこが完璧じゃなかったのでしょうか。今後の参考に教えてください。」

バレてしまえばもう、同じ間違いを犯さないため指導願うって感じ。

おっかしいなぁ。残り時間で何度も確認して、計算したのに。

自分のテストとコーディのテストを見比べて考える。

自分じゃ全く分からない。


コーディも同じ様に首を傾げてる。

その様子を見ていた先生が口を釣り上げてニヤリと笑った。


「まず点数の計算に夢中で自分の間違いに気がつかないところが、まだまだ子供だな。」

だって10歳ですから。

「これでも10歳にしては考え方が年寄りみたいだとはよく言われますが。」

「年寄りかよ!!」

先生が豪快に笑う。

いや、本人は笑い事じゃないんですけどね。

目を細めて口をすぼめる。


ひとしきり笑った先生が一枚のテストを指差した。


「ここ。ここで気がついた。」


指差した回答と問題をよく読む。

ここは2人ともわざと書き直したところだ。

本人同士は全くおかしいところが見当たらない。


「この問5は問2の基礎になる。だがこの問5が間違ってるのに、この問題の応用になる問2が完璧な回答をしていることに違和感を覚えた。

君達点数の計算に夢中で、問題把握してなかっただろう?」


同時にババっと回答を取る。


何だとーーー!!


心で叫ぶ。

コーディもきっと叫んでる。


確かに。

言われて見たらそうだ。


よく見ると、そういう間違いをちょいちょい見つける。


基礎の問題がわかってないと解けない応用問題。

その解けるはずもない応用問題の方を正解している。


油断してた……!

基礎の問題より応用の方が重点的に点数多かったので、そっちを残す方が調整しやすかったからだ。


気が抜くと魂が抜けそうになる。

口からモクモクと魂が。

私たちの努力がこんな簡単にバレてしまうとわ。


満身創痍。

まさにそれ。

2人でガックリうなだれる。

入学早々退学とか大問題になってしまうのだろうか。

がっくり肩を落とす。



「2人とも何故こんな事を?」

先生が私たちが握りしめたテストを回収しながら言った。


「目立ちたくなかったので。いまだ男尊女卑の時代ですし、女が目立っていいことありません。

家族にもどうせお前は嫁に行くから、勉強はほどほどにしとけと言われておりましたし。」


コーディが斜め下に視線を落としながら、自分の持ってたテストを先生に渡す。


「君も同じ考えなのか?エステル嬢」

脚を組みながら私を見る。


「そうですね、私も似た様なものです。」

キュッと口をつぐむ。


私の場合政略婚約の破棄を目論むために、地味に生きたいだけです!

むしろ将来設計の為、専門科目進学後に力を発揮する予定だったとは言えない。


静かに私たち2人を見比べる。


「私たち何か処分されますでしょうか?」

コーディが心配そうに先生を見上げた。


「もう一度テストを受けてもらう。今からだ。」

「え!?」

「今からですか??」


思わず席から立ち上がる。

「もうクラス発表されてますよね?今更テストを受けても……」

そうだよ、ひとクラスあたりの人数は決められているはずじゃ……?

コーディと顔を見合わせる。


「私はこれを見つけてしまったので、間違った回答と書き換えられた回答をふまえて、君らのテストを採点し直した。

コーデリア嬢、君は92点。エステル嬢はほぼ満点で、平均98点だ。

この様な優秀な生徒をわざわざBに行かせるわけにはいかないと、職員会議で話し合った結果。」


え、待って。

職員会議ってなんだ??


「本人たちがそれを認めた場合、Aクラスに昇格することになった。」


先生が口を歪ませる。

その片方だけ上がる口角を、すごく怯えて見ている私たち。


「イヤです!!Bがいいです!!」

「私もBが良いですわ……!」


2人で無駄な抵抗し続けたが、本当に『無駄な抵抗』でしかなかった。

ブツブツと言われた通り、諦めてテストを受ける。


「え?ていうか昇格決まってるなら何故テスト受けさせられてるの?」


前回と違うアーロン先生が特別に作ったという問題のテストを書き終えてハッと気がついた。

回答を真剣に書き込んでいたコーディもハッとする。


「本当ですわ!!何故!?」


ジッと先生を見る。


本を読んでいた先生が顔を上げ、私たちを見る。


「悪い子には罰を与えないと、な?」


そして口を歪めながらまた本に目を落とした。


ははは……。

渇いた笑いが口から出る。

別に笑いたいわけじゃない。

ただ、何故かもうね。

笑うしかないよね。

ははは……!!



結局。

Aには初めから私たち2人分の枠が作られていた様で。

私たちの昇格に誰かがBに落ちるということもなくてホッとする。


テストが終わった頃には1時限目のホームルームが終わっていて。

みんなの前で転校生状態で自己紹介させられるという辱めを受けた挙句、コーディと席が離れて泣きそうになった。


ちくしょー!!

アーロン先生も天敵認定。

しかもA組担任だし。


危険人物候補は手元において飼いならす的なやつか。

私は静かに生きていきたいだけなのに!


眼鏡の奥からコッソリ見渡すと、やはり。

第1、第2。

宰相の息子に、現騎士団長の次男、こないだ挨拶されたピンクブロンドの髪の毛のナントカちゃんまで勢揃いじゃないですか。

(すっかり名前を忘れたとか死んでも言えない)


他にも社交界でメイン張れそうな面子ばっかりで、背筋が凍りそうだけど。


幸い一番後ろの端っこの席なので、落ち着いたらきっと空気になれるはず…!

私の波乱万丈そうな学園生活は、始まったばかりなのだ。


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