第84話 サナギが目覚める時。
慌ただしく人が動く中、私たちは静寂の中にいた。
派遣された2ヶ所は既に『誰もいない』という報告とともに騎士が戻ってきた。
あと1ヶ所は辿り着く前に呼び戻されたので、未だまだ戻ってきていない様子。
戻ってきた騎士たちと、現在待機していた騎士たちが、セドリックと宰相の指示の中、編成し隠し部屋に向かう準備をしている。
ここの残った騎士もさっきよりは少なくなった。
外で待機している様だ。
みんなで行こうとは、男子だけで行こうの間違いだったらしい。
意気揚々と行く支度をしていたら、すごい勢いで止められた。
みんなの動きをずっと、見つめていた。
ふと、コーディが口を開く。
「どうなるのかしら…さっきサイラス様も王子に呼ばれてたみたいだけど……」
「お兄様まで?……なんでだろう……」
「何が起こっているのか、何が進んでいるのか、全くわからないから……怖いわね……」
「そう言えばさっきウトウトしてた時に夢を見たんだ。その内容をセドリックに言ったら、なんか地下の隠し部屋なんじゃないかって話がまとまって、多分今そこを探しているんだろうか……?私にもわからないんだよね」
「そうなのね……」
コーディは深く溜息をつきながら、私の横に座り直した。
マギーもその横に座る。
「ビクター大丈夫でしょうか……。あまり寝てない様なんだけど、段々と顔色が悪くて心配……」
「リオンも顔がいつもより白く見えるわ……」
セドリックと会話するリオンやビクターを見つめて、呟く。
何もできない自分たちは、心配しかできない。
そう思っているんだろうか。
彼女たちは、片時も忙しく動く彼らから目を離さず、様子を見ていた。
「そういう2人も、寝てないんでしょ?顔色悪いのはみんなだね……。サマンサ先生もアキラさんも……。」
「エステルさんも……。」
アキラが悲しそうに微笑む。
「場所、あってればいいのですが……。」
心配そうに自分の胸元の服を掴んでいる。
それをサマンサ先生がソッと後ろから肩に手を添えた。
「……多分、いるんだと思います。
いわゆる盲点です。
ここから移動したふりして転移魔法を使ったら、痕跡を探すのわかっていたでしょうし。
ここならみんなずっと居たので、痕跡が残っていてもわからない。
しかも隠し部屋なんて、ノートを奪われた私たちには分からなかった。
アキラさんのおかげです。」
私はアキラの手を握り、頭を下げた。
アキラはびっくりした様に目を見開き、唇を震わせた。
「……あの、わたし……役に立てたんでしょうか……!?」
「あの場所の共通点はアキラさんしか分からなかったと思います。
しかもエーコさんもきっと、気を許していた時にその場所を話をしたことさえ覚えてないかもしれない。
アキラさん、ありがとう……。」
アキラはわたしの言葉に、堰を切った様に泣き出した。
緊張してたのか、はたまた責任を感じていたのか。
彼女は子供の様に、泣いた。
「……誰かに、必要とされたかったんです。
こっちの世界に転生されてから、ずっと。
ずっと、『あなたが必要だ』と言われたかった。
だから、エーコの役に立ちたかった……。
やっと、わたし。
役に立てたんですね……!」
「アキラさん……」
コーディもマギーももらい泣きをしてしまい、そっとアキラを抱きしめて泣いていた。
アキラさんの気持ちは痛いほど共感できた。
私だって、必要とされたい。
誰かの役に立ちたいと思う。
それはみんな、そうなんだと思うけど。
自分が転生した環境がとても恵まれていたことに気がついた。
両親がいて、兄妹がいて。
友がいて、好きな人がいて。
自分が何かの使命を知らないからこそ、のほほんと自由に暮らせてたのだ。
そのせいで世界がゆがんでしまったのなら、なんとか協力したい。
大好きな人達を守るために。
彼女たちは違う。
初めから『役割』を知って、その通りに動いたのだ。
結果世界は初めから何処か軸がずれてしまっていて。
その辻褄合わせに狂わされた。
みんな被害者なんだと思う。
先を知る、決まった世界に生まれ変わってしまったばかりに。
『エステル』
誰かに呼ばれた気がした。
思わずキョロキョロと声を探す。
『エステル、時は満ちた』
「誰?」
見渡しても声の主はわからない。
思わず口から出る。
私の問いに、何も答えなかったが。
私は一瞬で光に包まれた。
ブワンとした光が私を隠してしまったので、その場にいた人達は全員騒然としてしまう。
「エステル!大丈夫か!」
セドリックの声が遠くから聞こえ、走り寄る足音。
聞こえる音はまるで、水の底から聞いてる様な。
ヘッドホン越しに聞く音に聞こえた。
『エステル、オレを呼べ』
「誰を?」
『オレだよ』
「……!」
暖かい光は、懐かしい獣臭を思い出させた。
「クラウド!!」
私は叫んだ。
「クラウド!会いたかった、寂しかったんだから!」
もう一度呼ぶ。
懐かしい獣臭と『キャッキャ』と笑う声。
「クラウドなんでしょ!?ねえ、どこ?」
光は強くなり、私の目も眩まされたと思ったら。
まるで、光の卵が割れた様に。
『ポンっ』と音を立てて光は弾け飛ぶ。
「「「エステル!!」」」
みんなが同時に叫んだ。
それと同時に、私も叫んだ。
「クラウドー!!」
「おはようー!」
思わずズッコケる様な、間抜けさに。
「おはようじゃないー!!呑気な……」
クラウドのほっぺをムニムニしときました。
「あはは、お待たせ!」
「すごい待ったよ、本当に。」
「そんなに時間経ってないだろぉ?」
「いっぱい経ったよ!!心配させやがって……このこの!」
「エステル痛い!痛い!」
私たちのやり取りを、みんながじっと見ていた。
「よく見たら、クラウド何が変わったの?」
「……さぁ?なんか変わんのか?」
「……さぁ……?」
クラウドを抱えながら、お互いで首を傾げた。
「……エステル。」
マギーが私達を見ながら、声をかけてきた。
「どうした?マギー……?」
「変化ならありましたね……クラウドの声が私たちにも聞こえる……」
「「えっ!?」」
クラウドと私の声が揃う。
「何!?オレの声が聞こえるのか?セドリックのバーカバーカ、おやつ返せバーカ!」
「……存分に聞こえているが?鍋にでもしてやろうか……?」
今度はセドリックにほっぺを引っ張られるクラウド。
思わず和やかに笑ってしまってたのだが、ふとサマンサ先生が口を開く。
「みんなごめん、今そんな時じゃないよ。聖獣が目を覚ましたということは、いよいよ世界のピンチってことだよ……。急いで探さなきゃ、エリナと王子が危ないんじゃ……!」
空気がピリッと張り詰めた。
セドリックは焦った様に首元に手を置いた。
「居場所、オレわかるぜ。エステル、行こう。お前が行かなきゃオレの力が発揮できないぞ!」
「あ、待って!クラウド。」
クラウドが扉に向かって走り始めた。
「みんなエステルに続け!エステルこれを持て!」
セドリックが何かをぶん投げてきた。
それが見事にスコンと頭に激突して、手元に落ちた。
「クッソいたっ!!血が出てないか!?おい!! 」
額を触るが、血は出ていなかったが、かなりの衝撃だった。
なんつうもん投げるんじゃ!!
「それ持ってれば、どこにいるか居場所が細かくわかるので、騎士達も追うことができる。首から下げてろ!」
そういうと私の手を引いて走り出した。
リオンもビクターも、コーディもマギーも、アキラも先生も。
私の後を追う様に走った。
クラウドは左右にフリフリと蛇行する様に走った。
走った後には金箔の様な光が残って消える。
足の遅い私はセドリックに手を引かれ、無理やり早く走らされ、目は光を追うのに精一杯だった。
「コケんなよ!しっかり走れ、見失う!」
「ひええええ!!」
口から出るのは変な擬音ばかり。
とにかく必死で走った。
地下に落ちる階段は、水路へ降りる階段の横に隠れていた。
流石のセドリックもこの場所を知らなかった様で、小さく何度も舌打ちをしていた。
「地図にもなかったじゃないか、こんなとこ。」
「……まぁ、隠し部屋らしいからね……」
「王家の隠し部屋なら、王族全部が知ってなきゃおかしいだろ!」
たしかに。
たしかにその通りである。
地図には載せなくてもいいが、ホウレンソウだけはして欲しいとこ。
「この城、こーいうのが後8つぐらいあるぞ。」
「……あとで徹底的に探させる。」
セドリックの怖い笑顔を見て、クラウドが楽しそうに笑った。
階段はとてもヌメヌメしていた。
急いで降りようものなら、ツルッと尻で全部を降りる羽目になりそうで、慎重に1段1段を踏みしめて降りる。
クラウドも足の裏に、冷たいヌルッとしたものが当たるのが嫌らしく、早々に私に抱っこを要求してきた。
「階段結構長いね……」
後ろでリオン達もランタンを片手に持ちながら、ついて来てくれていた。
螺旋階段の様に、壁沿いにグルグルと降りていく。
下は見ない様にしないと。
見ると吸い込まれていきそうなぐらい、恐怖心が増していった。
ギュッとセドリックの腕を掴んだ。
こういう時、ドヤ顔で『エステルもしかして怖いとかいうの?』とかからかいそうなのだが。
セドリックも何かに集中する様に、何も言わずされるがままだった。
長いこと階段を降りる。
定期的な足音と、水がピチョンと上から落ちてくる音が響く。
「エリオットの匂いがする。」
ふとクラウドが鼻をヒクヒクとさせながら、そういった。
みんなの緊張感が伝わる。
うっすらと階段の先から漏れてくる光を確認できた時。
セドリックが『静かに』と口に人差し指を当てた。
薄く開いた扉の先から、ブツブツと一定の音で声が聞こえてくる。
ギュッとクラウドを抱えたまま、セドリックを掴む腕にも力が入る。
そっと光の先をセドリックと覗いてみる。
まず目に入ったのが、見慣れた手が目に入った。
袖のカフスに王家の紋章が入っている。
それですぐにエリオットだとわかった。
その横にエリナの柔らかそうなピンクブロンドの髪の毛も見える。
2人ともどうやら何かの場所に寝かされている様子。
思わず息を飲む。
2人の周りに魔族の姿をしたエーコが長い黒い爪をカチカチと言わせながら何かを唱えていた。
白いチョークの様なもので、彼らの周りに何かを書き込み、そして何かの粉を振りまいていた。
『……儀式をしている?』
セドリックが小声で私にいった。
思わず目を見開き、頷く。
セドリックは額に手を当てて考える様な仕草をしたが、すぐに顔を上げ襟元に口を当てて何かを指示する様な事を小声で言う。
「……入ったら?意外に早くてまだ準備の途中だけど」
扉から声がした。
その声に体がびくりと固まる。
息が浅くなり、恐怖に支配されそうになると。
私の肩をセドリックが支えた。
そして、ニヤッと意地悪く笑う。
「こんなことで怖がる弱虫だったか?エステル。」
「……バカにすんな、負けてない。」
私は大きく一回深呼吸して。
ゆっくり扉を開けた。




