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第81話 一体どっちが正解?

控室に入るとすぐに、『間も無く準備が整いますので、入場のご準備を』なんて声をかけられる。


部屋の4人が『ハァハァ』と息も絶え絶えに椅子に座り込んでる様子を見て。


「どうかいたしましたか?」


と聞かれたようですが。


「ちょっと気分が悪くなった彼女をトイレに抱えて往復したもので……」


とかいう気の利かない男のセリフに意識を取り戻すのであった。


「ちょっと!私の評判絶対下がったよね!?なんでトイレとか!!」


お陰で金魚の脳みそは、キスされた事を怒りですっかりとなかったことにしていたのだった。

まったく、プンプンだ!


そんな私を横目で見ながら、頬に伝う汗を手で拭おうとするリオン。

流石に衣装が汚れてしまってはと思ったので、その手を止めて、持っていたハンカチでそっと拭き取った。


汗を拭き取っているときに、ふとリオンと目があった。

なぜかリオンはとても悲しそうな顔をしていた。


「どした?リオン……」


私が目をパチパチとさせながらリオンの顔を覗き込む。


不意にリオンは私を抱きしめた。

ビクターとマギーは顔を見合わせると、気をきかせるように2人で私たちに背を向けたのだった。


「え?リオン?」


思わず抱きしめられた背中をポンポンと、慰めるように叩いた。


リオンの抱きしめる力が強くなる。


「僕には手を背中に回せるんだね。」


「……ん?どういう意味?」


抱きしめられた力が強く、顔を上げることができないので、今リオンがどんな顔をしているかなんてわからなかたけど。

なんだか泣いてる気がしてならなくて、一生懸命顔をリオンに向けようとモゾモゾした。

力が一瞬弱まる。

リオンの胸に手をついて押すように、顔をリオンの方へ向けようとした時。


頬にリオンの唇が触れた。


「あああああ!」


さっきのエリオットのキスも蘇り、しかもエリオットにされた方とは逆にされたし。

また叫ぶ。


「なんなの!?流行ってんの??ほっぺにチューが!!」


「もう本当にばかなんだけど、この子……」


リオンが私に向かって吹き出した。

なんだよ、泣いてるかと思って慰めようと思ったのに!


「はぁ!?バカって何!?」


「エステルは鈍感だよね、鈍感でおバカさん。」


「ぶ、侮辱しかされてないけど!?」


「だけど、そんなエステルが好きだよ」


「は!?」


「そんなエステルが、みんな好きなんだよ。

もう勝ち目がないことぐらいわかったから、最後に踏ん切りつけさせてよ。」


「リオン何言って……」


リオンの腕がまた力がこもる。

ギュッと抱きしめられて、息も苦しくなるけど。


と、いうかさ。


「……リオン汗かいたのになんでこんないい匂いすんの?

私汗かいたらすごい臭いけど、リオン私をそんな抱きしめて臭くない……?」


私の素っ頓狂な空気を読まない疑問に、リオンは盛大に吹き出し笑った。

もちろんビクターも笑い転げ、マギーは私を痛い子を見る目で見ていた。

そう、まるでカツラの人に『ねえママあの人カツラ?』『しーっ!!みちゃいけません!』的な会話をする親の気分の顔をしているマギー。


「さすがだ、エステル。

俺もそーいうとこは尊敬するぞ」


ビクターに褒められた意味。

……まったくわからない。


「……もう好きなだけ嗅いでいいよ、もう。……あー、もう横っ腹が痛い……」


リオンがまだ肩を震わせながら『おいで』のポーズで両手を私に広げた。


「……いやもういいです。私臭かったらやだし……」


「……俺も嗅ぐか?」


ビクターも手を広げてみせる。


「……お断り致す!!」


私は頬を膨らませてそっぽを向いた。

それを見てまた3人は笑うのだった。


ゴタゴタのせいで長らく時間が過ぎ、やっと入場となった。

リオンの腕に手を添えて、扉から入場する。


コーディたちとも合流して、順番に王様に挨拶をしに行った。

ふと、王様の横に王妃の姿が見当らない事が気になる。


「……お久しぶりです、王様。」


スカートの裾を持ち、お辞儀をする。

それに合わせてリオンも頭を下げた。


「エステル、顔を上げよ。体調はどうだ?」


「お陰様で、だいぶ良くなり学園でも普通に過ごせております。」


「そうか、あまり無理をせぬようにな」


「ありがとうございます、王様。王妃様にもご挨拶をしたいと思いましたが、王妃様は……?」


「クロエは今日の夜会は欠席だ。挨拶はまたで良い。」


「……そうでしたか、それは失礼いたしました。次の方もお待ちしているようなので、これで失礼させていただきます」


「うむ、下がって良いぞ。」


静かに下がったすその方で、思わずリオンと顔を見合わせる。


「……息子の婚約発表で欠席って大丈夫なのかな?王妃様」


「……王様の反応だけだとわからないなぁ……」


「お母様が見つかれば何かわかるかもだけど……」


「ま、とりあえずはバルコニーにでもいてよ。飲み物とってくる。」


リオンがそう言って私から離れていった。

私はバルコニーに向かって歩く。

マギーたちの姿を目で探すが、見当たらないのでそのまま1人で歩き出した。


そろそろまた春が過ぎ、夏が来る。

当たる夜風もまだまだ冷たい。


私は空に向かって息を吐いた。


エリナに会えた。

私を覚えているエリナに。


思わず嬉しさが反芻して、目頭が熱くなる。

後はエリナがどこまでエーコから反抗できるかだ。

逃げる手伝いをしよう。

この発表が終わったら、エリナをそっとここから連れ出そう。

エーコとエリナが離れてしまえば、エーコは怒って、精霊王としての化けの皮が剥がれるかもしれない。

いつも行き当たりばったりだけど、今回はうまくいってよかった。


この婚約はどっちに転んでも、エリナが自分を保てていれば、きっとエリナは大丈夫。


そんなことを思いながら、1人で思い出し笑いをしているところをリオンに見られて、また笑われるのであった。

もうほんとプンプンだ。


バルコニーで話していると、不意に会場が騒がしくなる。

どうやらエリナがエリオットのエスコートで王の横に並ぼうとしていた。


リオンと急いで会場に戻り、出来るだけ前の方へ急ぐ。


エリナはとても挙動不審でエリオットのエスコートにも頬を染めたりしなかった。

エリオットもしきりにエリナを気にしていて、心配そうな顔で見つめている。


エリナの後ろにふと、エーコが現れた。

エーコは精霊王の格好で、笑顔のままエリナの肩に触れた。


エリナの顔が強張る。

それを気がつかれないように、エリオットがエリナの手を強く握って自分の方を向かせている様子。


今のところエーコの行動に気づかれた様子は見られなくてホッとする。

エリナを応援するように見つめるしかできないが、何かあったら飛び出す覚悟を持っておこうと。

ヒールを脱ごうとしたところで、リオンに止められた。


「本日は我が息子、エリオット第1王子の婚約発表に、これほどまでの方に祝福に駆けつけくれたことを嬉しく思う。」


王様が言葉を続けながら、エリオットとエリナを紹介し始める。


エリナは戸惑い、キョロキョロと誰かを目で探し始めた。

エリオットはそれに気がつき、何かを耳打ちする。


だがすぐにエリオットの紹介となり、エリオットはエリナの手を引いて前へと出てきた。


私の耳はシーンとした無音になっていた。

王様が話す言葉や、エリオットがエリナに手を添え、何かを話す声が全く耳に入らなくなる。

思わず自分の耳を押えたり離したりしてみたが、変わらない。


口の動きだけをただ見つめていた。


リオンが私の肩を支えた。

私はパッとリオンを見る。


私の様子がおかしいことに気がついて、心配そうに見つめていた。


『大丈夫だよ?』


小声で伝えたけど、私を支える手が離されることはなかった。


次の瞬間、歓声と拍手が響き渡った。

エリオットの言葉に会場の人が拍手喝采を送っているらしい。


エリオットがお辞儀をして、エリナに手を出した。


不安そうに俯いていたエリナがパッと私を見る。


エリナが一歩前に出たことで、会場が静寂を取り戻す。


私を見つめるエリナが口を開いた。


「……婚約なんかしない……しません……。私、聖女じゃないから……。

え、エステル……!!助けて……!

……私、聖女じゃな……!!」


エリナが不意に走り出し、私に手を差し伸べた。


少し高い位置にいたエリナの伸ばされた手を、私は必死で掴もうとする。

まるで世界はスローモーションの様な。


泣きそうなエリナの目が私を捉えている。


エリナの伸ばされた手の指先に、私の手が触れようとした瞬間。


「エリナ!!」


手は、掴めなかった。

エリナはその場で意識を失い、エーコに抱えられたからだ。


気がつくと、その場にエリオットも倒れていた。


どこからか悲鳴が上がる。

私は目を見張った。


「ええい、静まれ。王子の婚約発表はこれにて終了とする。

本日はこれでお開きだ。」


エーコがよく通る声を張り上げ、叫んだ。


会場はザワザワと今の状況を戸惑っている。


エリナが最後に叫んだ言葉を、みんなが不安と困惑に包まれた。


エーコはエリナを抱えたまま、怒りを静かに露わにしていく。


倒れたままエリオットの横に意識のないエリナを寝かせた。


こんな状態なら護衛がすぐにでも飛んできてもおかしくないのに。

いつまでも倒れたままのエリオットに私走り寄った。


「エステルダメだ!」


リオンが叫んだ。


ドレスで壇上に上がり、エリナとエリオットに手を伸ばす。


その時、エリナとエリオットの下に転送魔法陣が現れた。

私が触れる前に、2人はどこかへ飛ばされていく。

あっという間に床の模様が消えてしまい、私がその場で困惑した様にエーコを見上げると。


「……この者が王子と聖女の婚約を恨んで連れ去った!みんなが証人だ……捕まえろ!!」


エーコが私を指差して叫んだ。


私は一瞬で騎士に取り押さえられる。

ただ動けず、強く押される肩や足に痛みが残る。

何が起こっているのか理解ができず、されるがままでいると……。


「……手を離せ。」


気がつくとセドリックが立っていた。

姿はひどく汚れ、息も絶え絶えでフラフラしている。


「セドリック……!!」


私は叫んだが、床に取り押さえられているので動けない。


「エステルを離せ……。その『精霊王』の言うことは聞けても、『僕』の命令が聞けないの?」


「おや、セドリック王子。ご病気でずっと臥せっているとお聞きしてましたよ。お元気になられた様で幸いでございます」


ワザとらしくセドリックに向かってお辞儀をするエーコ。

それを全く見ずに騎士たちの手を払った。


「……もう一度言うぞ、手を離せ」


騎士たちはエーコとセドリックを見比べながら、困惑している。


何人かの騎士が私から少し力を弱めた時。


「みておっただろう!罪人を逃す気か!」


エーコがまた叫んだ。

その声に騎士の手がまた力がこもる。


「罪人はどっちだ?」


セドリックは震える声で叫ぶ。


「おやおや、第2王子。まだまだ体調が優れないのではないか?無理はせず部屋へ戻った方がよいかと……」


「うるさい、これもお前の仕業じゃないか!」


「またそんなことをおしゃって……」


エーコはセドリックをあざ笑うかの様に口角を歪ませて見つめる。


「僕を部屋から出さないで監禁したのは誰?

食事もロクに与えず、衰弱させるつもりだったんだろうけど、この城にまだ、お前を疑うものが残っていた事を知らなかっただろう?」


セドリックは1人の騎士に手を添えた。


私を取り押さえていた騎士が数人無言で立ち上がり、セドリックの後ろに着く。

おかげで私の体は起き上がれた。


他の騎士はまだ困惑したまま、オロオロとエーコを見つめている。


その間に私はセドリックに引き寄せられた。


「エステルは魔力がほとんどない。魔法陣を作り出すことなんて2桁しかない魔力には無理。

それは学園に入学するときにも、最近だったら進級する時も測っているので証拠もある。

魔法陣を作るには2桁では無理なことぐらい、この会場にいる高貴な客人なら誰しもわかるはずだろ?」


……そんな2桁を暴露されて、複雑な思いの私。

いや、わかってるよ?その2桁のおかげで私は無実の証明ができるわけですけど……。

なんだか悲しくなるのはなぜだろう…。


「この子が出来なくても、魔物や魔力を持つ者に使えば出来るだろう?この子はいわゆる首謀者だ。

逃走している魔族の王とその仲間も匿っているのだから。」


騎士や会場の人たちが一斉に私をみた。


「魔族とは、何を指している?『精霊王』」


「アキラという者の事だ。聖女が予言しただろう?」


「だが『聖女』は今さっきなんといった?『自分は聖女ではない』『助けて』と言っていたのは?」


「聖女は操られていたのだろう?この子に。」


「ふーん、操っていた人に『助けて』と、『聖女』が言ったんだ?それっておかしいよね?」


エーコは笑顔のまま黙った。


「『聖女』は一体、『誰』から助けて欲しかったんだろうか?」


セドリックは私を1人の騎士に任せ、静かにエーコに近づいていく。

そして無言のエーコに言葉を続けていった。


「『聖女』がエステルに助けて欲しかったのは、あなたからじゃないのか?『精霊王』」


「王子よ、私が誰かわかって申しているのか?」


「待ってよ、質問に答えて?

そもそも『聖女』とはなんだっけ?……はい、リオンいってみて?」


セドリックはフラフラする体を自分で抑える様に立ち、リオンに指をさした。


「……聖女とは、精霊が見え、精霊の加護・祝福を持つ者。」


「そう、『聖女』とはそうだよね?『精霊王』

それなのに、『精霊王』から逃げたくて、誰かに助けを求める『聖女』って……ね、ほんとに『聖女』?

本人も違うって最後に叫んでたよね?

ていう事はさ、ねぇ、『精霊王』


あんたほんとに精霊王?」



気がつくと、会場は静寂に包まれていった。

でも視線は一心に『精霊王』の集まっている。


「……エーコ……!」


静寂を破る様に、エーコを呼ぶ声がする。


エーコは目を見開き、声のする方向を見た。


「……アキラ……?」


騎歩み寄ってくる1人の騎士の後ろに、アキラが立っていたのだ。

その姿はいつものアキラではなく、いつか見た恐ろしい魔物そのものだった。


会場から悲鳴が上がる。

この場から逃げ惑う様に外につながる扉に大勢が走り寄っていった。


不意にその様子を見ていたエーコは笑い出す。

さも嬉しそうに。


「見よ!魔族の王が来た。この子の罪がこの魔族との繋がりだ!!みな、見るがいい!真実を!!」


エーコは叫び、笑い声をあげながら両手を広げた。


扉はどこも開かず、悲鳴は絶望へと変わる。

泣き叫ぶ声、叫ぶ声など、地獄絵図の様な状態になった。



毎日頑張って続けられるのは、読んでくれる方がいると思うからです。

いつも楽しみに見てくださり、ありがとうございます。

誤字、脱字…ほんとすいません。

そういう時は、だいたい寝ぼけているのかもしれません…。

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