第79話 いざ☆着飾って出陣じゃー!
いつもありがとうございますm(_ _)m
ドレスが届いたのはあの話の後、3日後だった。
わざわざフロアさんが寮まで届けにきてくれて、詰めるとこを詰めたり微調節をした。
そんなに詰めなきゃダメかよ……ってぐらい詰めた。
どこかは言いませんけどね。
プライドのために。
ドレスは紺……とはいかなかったけど、少し濃いめのブルーのグラデーションがかった生地が少し不安だが、形はシンプルなものですごく安心した。
「まぁ、よく似合っているわよ!エステル嬢。」
「……ありがとうございます。こんな色着たことがないので、ちょっと戸惑っていますが、形はすごく好きです。」
フロアさんは嬉しそうに笑った。
「エステル嬢は細いからベルライン似合うと思ったのよねぇ。スカートの裾は後ろ下がりにして、首から袖にかけてレースで隠す感じにしたの。あんまり色々出したくなさそうだったから!」
「……よくご存知で!だしたくないですね…肌とか。」
「色が白いからもっとだしていけばいいのにー!」
「お断り致す!」
「えー、どうしてー!?」
そんな会話を織り交ぜながら、フロアさんの手は着々と進んで行った。
「……すごい!」
よく見ると腰からスカートにかけて、紺色の刺繍も施されている。
刺繍をまじまじと見つめていると、フロアさんが『ふふっ』と微笑んだ。
「その刺繍はリオンとお揃いなのよー!」
「え、そうなんですか?てか、お揃いとかリオン嫌がってませんでしたか……?」
「嫌がってる風に見えたの?」
「いえ、恐ろしいぐらいに笑顔だったので、ひとりの私を不憫に思ってくれたのかと思いました……」
私の言葉に目をまん丸くしていたフロアさんだったが。
すぐにまた笑い出した。
「……そう。あの子ニコニコしてたんだ……!大丈夫、全然嫌がってなかったわ!むしろ喜んでいたわぁ」
「……なら、良かったです。」
私もニッコリと返した。
フロアさんあれからずっと「リオン……!」て言いながら笑っていた。
思い出し笑いなのだろうか?
後半は肩が震度3ぐらい震えていて、だいぶ笑い疲れていたけど……。
ドレスは瞬く間に出来て、エルによって装飾品が決められていった。
当日のリオンのフォーマルな姿も楽しみにしつつ。
ただ一つ気がかりなことができてしまった。
エルに注意された事についてだ。
「お嬢様、いいですか。リオン様は眼鏡をかけておられるじゃないですか?
お嬢様もかけていかれると、眼鏡コンビになってしまいます。
なので当日はお嬢様は眼鏡を置いていってくださいね!」
「……そ、そんな……!いいじゃないの!眼鏡コンビで!」
「ダメです!絶対ダメですからね!お嬢様は眼鏡をすると地、味……に、なってしまいますから!
それでなくても、次は逃してはいけないチャンスなのですよ?
王子に破棄されてそんな日が経ってないですけど、是非リオン様にはお嬢様をもらっていただかないとです!」
「エルちょっと暴走しすぎてるよね!?」
そしてなんで地味を微妙にゴニョったのだろう。
はっきりいうと申し訳なく思っているのだろうか。
ずっと私を地味だからフラれたと思ってたのだろうか……。
「私はお嬢様が心配でー!!」
エルの中でとてつもない勘違いが生まれていることがわかったが、小さい頃からお世話をしてもらっているので中々逆らえないところがあるのも事実……。
侍女の立場もわきまえているからこそ、よっぽどの発言なのかもしれないと。
その彼女が『私の相手』として狙いを定めたらしい、リオンの存在。
リオンが私なんぞ好きになるわけがないので、申し訳ないのでサッサとエルには諦めてもらおうと思っているが……。
次の標的が誰になるかなんて、思わず我が身を心配する私……。
メガネはとりあえず、取り上げられる予定なので……。
当日は久々の素顔を晒すという、恐ろしい1日になりそうだ。
婚約発表の夜会の準備に、瞬く間に過ぎていく。
あっという間に当日の朝。
お休みの朝なのに、早くから叩き起こされ、準備に取り掛かられる。
たいしてついてない肉を、やわらかジューシーな焼き豚にされるのかと思うぐらい、揉み込まれ。
塩コショウ……もとい、サラダ油……いや、香りの良い油を全身、髪の毛まで塗られ。
こんがり焼き目をつけて。
……いやつけられてないけど!
あっという間にツルピカ柔肌の別人が出来上がる。
「いやぁ、やっとさせて貰えて腕がなりましたよー!」
爽やかにキラキラと輝く汗を拭うエルさん。
「……ありがとう、美味しそうな柔らかいお肉になれた気がします……。」
エルに『え?』と首を傾げたけど、そっと意味のない笑顔でごまかした。
続いてメイクである。
メイクなんてあまりしたこともないのだが……。
エルさんの魔法の手にかかれば!
あーら不思議、ツリ目が、ややツリ目に!!
言葉の表現では微妙だろう!とお思いだろうが。
この微妙な差は本人にとっては感動ものなのである。
「……おおお!目がぁー!目がぁぁー!!」
バルスはされておりませんが、感動によってちょっと何かが入ってます。
「どぉですか!お嬢様。ずっと気にされてた目をメイクで下げるように見せることもできるのですよ!」
「すごいです、エルさん……本当に尊敬します……」
「あ、ちょっと!泣かないでくださいよ!!落ちますから!メイク!」
「……そうだった!ナカナイ、フンバル!」
グッと目に力を入れながら、なぜかカタコトな言葉。
なんか揉まれたり、塗られたりしていたら、あっという間にお昼過ぎ。
リオンが迎えに来る時間までそんなにない事に気がつく。
「わぁー!早く着替えなきゃー!」
お陰で涙は引っ込みました。
慌ててコルセットで締め上げられ、フロアさんのお手製のドレスに着替え、髪を結い上げる。
直毛なので、サイドに編み込んでもらって後ろで花と蝶々の飾りをつけてもらい、後ろは結わずに長いまま。
あんまり髪の毛を下ろしていることがないので、首や頬に当たる髪の毛が頬を刺激してかゆい。
あと、数本うっかり食べそう……。
思わず頬を両手で搔きむしりたくなると、エルが怖い顔してこちらを見ていた。
……しませんからね?
本当にしませんから。
何度もエルに頷いて、怖い顔をやめて頂いた。
なんとか時間ギリギリに支度は終わり、兄が部屋に様子を見に来た。
「やぁ、エステル……?」
「なんで疑問形なんですか……」
「いや……うん。ビックリして、さ?」
「なんでびっくりするんですか……!」
「うん、これはビックリだよ。へぇ〜これはいい仕事したんじゃない?エル」
エルは満面の笑みでニッコリと満足そうに頷いた。
「ええ、そうでしょうとも。私頑張りましたよー!」
得意げに手を腰に当てて、フンっと鼻を高くした。
「……そんなにか……。そんなに変わったのか……。」
顔は手鏡で見たが、全体像は見ていない。
兄が驚くほど変わったと思うと、逆にちょっと癪な気持ちが生まれてくるのは、私が天の邪鬼なだけだろうか。
兄に遅れて、同じく朝からチャーシュー2号となっていたコーディも部屋を訪ねてきた。
「まぁ……エステルなの?」
「……なの?とか聞いてる時点で察するけど、失礼だからね?」
私の返答にコーディは吹き出して笑うのだった。
コーディも兄とお揃いのコーデで、深いグリーンのAラインのドレスが、コーディの髪の色とグラデーションしている感じで似合っていた。
「コーディ、ドレス素敵!似合ってるよ!」
そういうと恥ずかしそうに笑い、クルリと一周回って見せてくれた。
そして、お互いを褒め称え合い、士気を高めていく。
今から夜会という戦場に行くのだ。
恐ろしいほどの肥えた目を持つ女性達の、チェックが厳しい戦場に。
褒め合い、高めないと私なんて豆腐メンタルはやっていけないのだ。
……この際ティッシュでも詰めて、耳栓しとくべきか……。
「お嬢様、グレイス様がいらっしゃいましたよ。」
エルが別の侍女からの伝言を私に伝えて、ニコニコしながら肩をグイグイと押した。
「……え?あ、はい。行くから。行きますから!」
グイグイに耐えきれず、早足でエントランスに向かう。
「コーディ、後でね。」
馬車が違うので先に出る私に小さく手を振るコーディ。
その横に兄がソッとコーディの腰に手を回しているのを見て、なぜか私が照れてしまうという失態。
そーいうのは見てないのを確認してからやれ!
「リオン、お待たせー」
階段の上から声をかけると、リオンが私を見上げた。
黒髪を綺麗にセットされ、その黒に映えるように、私と同じ色の生地と刺繍で作られたフォーマルな衣装はとてもよく似合っていた。
「リオンすごいよく似合ってるよ!さっすがフロアさんだ!」
横から前から後ろからと、舐めるように観察する私を、惚けた顔で立ち尽くしているリオン。
あまりにポカーンと立っているので、目の前を覗き込んだり、手をヒラヒラと目の前で振ったりしたが、一向に動かない。
「……立って寝てんの?ねぇ?私も眠いけど我慢してるのに!」
「……いや寝てはいないけど…化けたね……」
「化けたって!他に褒める言葉は見つからなかったのか!賢い癖に!」
ここまで誰も褒めてない事に不服申し立てる。
エルは褒めてくれたけど、あれは自分でやったからっていう気もするが……。
「いや、うん。……これは、……参ったなぁ……」
リオンは目を見開いたまま、驚きを隠せないというように、口元を隠すように片手を添えた。
「いいよもう、無理に褒めてくれなくても。」
「……そういうわけじゃないけど、ごめん。夜会に連れて行きたくなくなったよ……」
「……そんなに酷いのかよ!」
リオンは『今何言っても裏目にでるから』と感想を早々に控えやがりました。
ブーブー文句を垂れ流しながら、エスコートしてもらい、馬車に乗り込む。
なんとなくドナドナの気分で馬車に揺られる。
目指すはビクターと合流し、エリナの休憩の時間を知る事だ。
そしてなんとしても、彼女と話さねばならない。
……うまく行くか不安だけど、なんとしても……!
私の決意を他所に、リオンはまだ私を見つめて、ボーッとしていた。
……ボーッとしすぎ!




