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第68話 隠れ家に来ての日々

もちろん、寝不足の私たち。

ヨロヨロと朝食に呼ばれ、席に着く。


「やはり、昨日は眠れませんでしたか?」


アキラが心配そうに私たちを見た。

きっと貴族の令嬢だし、こんな危険な場所で寝付くとかできなかったんだろうなと。

きっとそう思われただろうが……。

我々そんなことも忘れ、恋バナで夜更けまで過ごしたなんて、絶対言えない。


「……ええ、まぁ……。」


と、曖昧にコーディが答える。


「サマンサのことも不安だったんでしょう……でも彼女はだいぶ落ち着いてきましたし、きっとすぐ起きれる様になります……!」


アキラが気を使っていってくれるのが、心苦しい。

思わず『オホホ』と笑い、目をそらす。


「さぁご飯を食べたら地下で作業だ。」


リオンが私たちに気合いをいれる。

寝不足の妙なテンションで「よっしゃぁ!」と答えると、凄い顔をされた。


手分けをする。

だが整理された棚ではないので、関係ないものもたくさんあり、大変な作業となった。

1日、また1日と時間が刻々と過ぎていく。

日が過ぎるたびに私たちは焦っていった。


3日目、ようやくサマンサ先生が意識を取り戻した。


「みんなぁ、ごめんよぉ……。」


開口一番で謝罪しまくる先生をなだめて、再び地下へ。

セドリックからも連絡がなく、護衛もまだ着かない状態。

このままリューさん達の姿隠し魔法だけだと、守る力も弱いということで…。

今日からリオンとビクターが交代で護衛に回ることになる。

その分夜に人が取られるため、調べる速度も落ちることになる。

みんなに不安が広がっていく。

だけど、励まし、信じあってその場は乗りきれた。


ここへ来て1週間が過ぎる。

みんなに疲労が見え始め、体調を崩すものも出てきた。

サマンサ先生が起き上がれるようになったので、その分期待も高まった。


サマンサ先生はまず、魔法で本を『探知』することから始める。

膨大な壁のように積み上がった本が、魔法の光にゆっくりと包まれていく。


「サマンサ、無理はしないで!」


ずっと寝込んでいたサマンサ先生を心配するように、アキラが駆け寄る。


「もう大丈夫だよ、アキラ。魔力もほぼ戻ったからこれくらいは朝飯前だよ!」


ウインクしながらアキラに微笑んだ。


魔法がジワジワと本を包んだ光は、ヒョイヒョイと壁から数冊の本が抜き出て、目の前に並んで行く。


「……それでもこんなに……。」


コーディが目の前に並べられる本を見て、息を飲む。


「……ごめんよ、探し物の言葉に反応する魔法にも、少しアバウトなんだ……。

かなり大きく探知しているから、『姿 交換』『変身を解く』などの一文でも載っていたら拾ってしまうから、量が増えるね……」


「それでも前進だよ。……逆にこれで済むって思えば。」


少しても前向きに。

そう思ってポジティブな発言。

それでもどんどんと増えていく本の量に、みんなの意欲を削いで行くのがわかった。




「アキラさん、姿交換した時の詳しい状況を教えて。」


アキラは本から顔を上げて、目を見開いた。


「……詳しい状況ですか?」


本に集中してたからか、言われた事を反芻する様に繰り返した。

そして本を広げたまま置くと、『うーん』と考えた。


サマンサ先生の本サーチはまだ続いていて、出ている本から各自で読み進めていた時に、ふと。

姿隠しには場所が関係しているのでは?という本の問いに、突然質問してみたのだった。


アキラは暫く考えて、静かにポツポツ話し始めた。


「……あの時、私はエーコに呼ばれました。

場所は……今ちょっと思い出せないのですが……。

私が散々会いたいといっても取り次いでくれなかったので、私は自分の思いが彼女に伝わったのだと喜びました。

彼女に呼び出され、待ち合わせた場所に行くと、向かい合った同じ形の白い椅子が2つあって、片方にエーコが座り、もう片方を指差して私に座る様に促しました。

私の後ろにリュー達を立たせ、自分の後ろに自分の側近を立たせて、対照的な感じになってたのが印象に残っています。

そして私は彼女に『一緒にヒロインを探そう、希望を捨てずに。』と言いました。

エーコは私の言葉に静かに笑みを浮かべ、『まだそんな事を言っているの?いないものを探したって無駄よ。』と呆れた様に……。」


辛い記憶なのかもしれない。

そこまで言ったら、アキラは下を向いて黙ってしまった。


私はかける言葉も見つからないまま、アキラを見つめていた。

私の表情を読んだのか、アキラが私に寂しそうに微笑んだ。

私もなんとも言えない顔で微笑んだ。


「彼女は私にヒロインを探す条件を言いました。

『アキラが私に一つだけなんでもいう事を聞いてくれるなら』と。

私はそれを受けてしまった……。

私が頷いたら、彼女は椅子から立ち上がり、呪文の様なものを唱えました。

そうしたら魔法陣が浮き上がり、稲妻の様な衝撃があって、私は呪いを受けたかの様な身体中に黒い模様ができたかと思うと、激しい体の痛みに襲われ、その場に倒れてしまった。

気がつくと、エーコもその場で倒れていて、お互いの姿が入れ替わっていました……。

『これで本来元どおりの姿に戻った。約束通りヒロインは見つけてあげるわ』エーコはそういうと、その場から消えていなくなってしまいました……。」


アキラは悔しそうに自分の服の裾を握り締めた。


「私だけが変わったのなら良かったのです。でも精霊達も呪いを受けてしまった……。

……私のせいです。そのせいで精霊達は自然から力を分けてもらうことができなくなった……。」


アキラはずっとこうやって自分を責めてきたのだろう。

私はやりきれない気持ちを胸に、アキラの手をソッと自分の手で包んだ。


今不確かな『大丈夫ですよ、きっと元に戻りますよ』なんて言葉は言えなかった。

そんな言葉、慰めにもならないから。

同情するより確実なものを提示したいから。

私は質問を続けた。


「……それは呪いなのですか?なぜ呪いだと思ったのです?」


「体に文字が現れた後、焼ける様な痛みがありました。

それは呪いを受けた時に現れる文字と似ていると思ったからです。」


「……ということはやっぱり呪いなのかなぁ……。呪いって魔術や魔法ができる人が簡単にかけられるものではない様ですね。

『呪い』と『魔法』は別物ということになります。

ここに書いてある本とさっき見た本を参考にしたなら、呪いは『術師』という人が使える様で、術師はもう数十年前に滅んだと書いてあります。エーコが術師を雇ったのか、それともエーコ自身が術を支えたのか…そこは謎なんですが。

あと、『呪い』はかけた本人しか解けないらしく、解除するには本人が解くか本人が死ぬかなので、全く違う術師が解くこともできないと。

そこを踏まえて考えると、術師は現在も生きているということになります。

……そこで濃厚なのは、かけたのはエーコ自身ではないかということです……。」


「つまり、エーコが解くか死ぬかしないと、元には戻らないということか……。」


静かに聞いていたリオンが口を開いた。

私は大きく頷いた。


「呪いについてなら、これにも書かれていた。

姿を交換する事はとても容易ではないから、それ相応の対価が必要だと。

もしこれをエーコがしたなら、一体対価はなんだったんだ?

しかし何故そこまでしなければならなかったんだろ?」


リオンは私に一つのページを見せながら考え込んだ。


「エーコ様が変わってしまった理由は、きっと亡くなった王子に関係してると思うんだけど……」


本のページをゆっくりめくりながら、コーディは頬に手を当てていた。

マギーが『休憩がてらお茶を入れてきますね』と席を立ったその時。


扉がガタガタと音を立てた。

ゆっくりと扉の開く音に、リオンが剣を構える。

リューさんもアキラを守る様に立ち、精霊達が一斉に私たちの前に立った。


複数の足音が静かに誰かを探す様に部屋を歩き回る音が頭上から聞こえる。


「……僕見てきます。」


リオンが注意深く上に上る階段の方へと移動した。


緊張感が走る。

サマンサ先生がやっと本の検知が終わり、上を見上げた。


「……やっと来たか。」


そう言って私に微笑んだ。


私は階段を駈け上がる。

途中でリオンがギョッとした顔で私を制止しようとしたが、私が『大丈夫らしいよ』というと一緒に駆け上がった。


「……セドリック!」


姿を見ると同時に名前を呼んだ。


セドリックはゆっくりと振り向いて悪い方の笑い方で私を見る。


「……遅くなった。調べるのも苦労したが、こっそり護衛を連れて転送使うのも時間かかった。

先生の気配がやっと繋がるまで、めっちゃ無事か心配したし。」


「先生ずっと意識失ってたからかな?今やっと本を魔法で検知できるほど回復したみたい。」


「……そうか。エステル心配したよ…。無事でよかった……」


そういうとセドリックが私に向かって腕を広げた。

『この胸に飛び込んでおいで』のポーズで。

……それを私に向けるという事は、私にそこに飛び込んでこいと?


まるで恋人が再開を祝う様な抱擁の図である。


「……いや飛び込みませんけど!?」


これがさっきの黒い笑いの正体か。


セドリックは面白そうに『クック』と笑った。

……元気そうでよかった。

何より何よりよ……。


リオンがセドリックが腕を広げた時点で私を見ながらすごい顔して固まっていたので。

『私の代わりにリオンが飛び込んでいっとく?』なんて合図すると、目を白黒させながら全力で拒否していた。

……まぁ、ですよね。


「とりあえず、ダイアン警備の指示は頼んでいい?」


「……ほんと今回だけですからね!これバレたら俺クビなんですから……!

それでなくてもセドリック王子を城から出すなという命令にも背いてしまったし……!

俺クビになったら嫁と子供が……」


頭を抱えてえらく動揺するダイアンさんに、セドリックはにっこりと笑って。


「僕に恩があるよね?これぐらい誤魔化せないと、なんのための騎士長?」


「……こういう為ではない事だけはちゃんとお伝えしたい……!」


ダイアンさんも必死である。

でも諦めたのか深くため息を吐くと、キリッとした顔に戻り、騎士達に指示を始めた。


「ここにいる騎士は聖女達の息がかかってない者ばっかだ。

ダイアンと同じく信頼が置けるのだけ連れてきた。」


ダイアンさんが指示する騎士達は全部で5人ぐらいだったが。

5人の姿を見ただけで、心の安心感が全然違った。

今日からビクターもリオンも安心して眠れるんじゃないかと思ったら、私は1人づつに頭を下げ、お礼を言った。

その5人の中によく見ると2人ほど騎士ではなくローブを被った人がいた。

新しい騎士なんだろうかとマジマジ見ていると、セドリックが私の頭を肘置きにして耳打ちする。


「その2人は城の魔法使い。弱み握っているから防衛魔法させるのに連れてきた。」


と、しれっと顔して言いやがる。

思わずその2人にさっきの倍のお詫びとお礼を言う私。


魔法使いの2人は怯えた顔も嫌な顔もせず、私に笑顔で答えてくれた。


「大丈夫ですよ、面白そうなんでついてきました。どうせ王子には逆らえませんけどね!アハハ!」


と、明るく。

とても明るく、笑っておっしゃっていました。


……なんだろうか。

セドリックの周りにいる弱み握られてそうな人たちは。

この悪魔にこき使われても笑っている人が多い気がする。

……ドMがドMを呼ぶとか……?


なんて悪口を考えていたら、勘のいい王子が私を睨んでいたので、この辺で黙ることにする。


とりあえずセドリック達と一緒に、サマンサ先生のいる地下へ降りる。

ここにいられるのも後1週間。

セドリックもきたことで希望が見えた。








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