第66話 再会を祝ってる場合じゃないらしい。
いつも読んでくださってありがとうございますm(_ _)m
今日はホワイトデーですが、甘さは何もありません。(涙
アーロン先生もサマンサ先生も、すぐ目を覚ましたのだが。
サマンサ先生はとても衰弱している様で、ベッドから起き上がることも出来ずにいた。
父が呼んでくれた医師が魔力が故意に枯渇しているのではと言っていたが……。
魔法が使える人にとって、魔力がゼロになるということは、死を意味するということ。
一体誰がここまでサマンサ先生を……。
まあ、私の一桁ぐらいしかない魔力なら、無くなっても死にはしないだろうが……。
「いやぁ、ごめんよ。迷惑かけちゃったみたいだね……」
サマンサ先生は客間のベッドの上で苦しそうに私を見た。
私は静かに首を振る。
「先生が無事でよかった。」
「……サマンサ!」
私が言い終わらないうちに、アキラが慌てた様子で部屋に飛び込んでくる。
先生はアキラの姿を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「……アキラ!!無事だったんだね!」
「それはこっちのセリフだよ、サマンサ……!」
再会を懐かしむ様に、しっかりと抱き合った。
それを見ていたアーロン先生は、ホッとした様子でソファーにもたれた。
「先生、何があったんですか?」
アーロン先生は大きく息を吐いて、私を見た。
「……エステル嬢、君がサマンサ先生に手紙を書いただろう?
それを焼却される用のゴミ箱から発見したんだ。
届かず捨てられている事が妙で、胸騒ぎがしたんでな……。
立ち入り禁止になっている魔法学棟にこっそりと忍び込んで先生を探した。
そこの一室にサマンサ先生が魔法陣に捕らえられているのを発見した。
…それで痕跡を誤魔化す様に、あっちこっちと魔法陣をいっぱい経由してここに逃げてきたら、危うく魔力が……。」
そう言いながら、先生が頭をかいた。
『いやぁ、うっかり』とかいうレベルじゃないから……。
あははとか言いながら笑うんじゃありません……。
「……バレたら先生が危ないのでは?」
アーロン先生は静かに微笑む。
「それも覚悟の上だ。だが俺が戻らないと余計にバレる可能性がある。
夜明け前には学園に戻る。」
「……ですが、それは危険なんでは?」
リオンが思わず声を荒げた。
「……もう誰も、いなくなったり傷ついたりして欲しくないんです……」
リオンは私が誘拐された事がとても精神的にもきつかった様で、とにかく安全な方法はないのかと先生に言った。
アーロン先生はそんなリオンの肩をポンと叩き、嬉しそうに笑う。
「心配すんな、俺にも考えはある。」
「……本当ですか?」
「……ああ、とりあえずサマンサ先生を安全な所へ運べてよかった。
今学園はめちゃくちゃになってきてるからな……。
混乱に痕跡は隠せるはずだ。
それに、今ここなら手出しはできん。」
「……うちに手出しはできない?」
「そうだ。ここは今何処からも介入できない場所となっている。
聖獣の宿り主がいる場所だしな。
城からの介入も君のお祖父さんが絶対的に通さない筈だ。
多分エーコ様でも無理だろうな……。」
「……だからこそ焦っているんだと思う。
だけど時間の問題だよ。
ここも、気をつけて……早くしないと……。」
アーロン先生の言葉に、サマンサ先生が続ける。
「とりあえず、エーコを止めるには、『姿交換』を解かなくてはいけないんです。
もし姿が元に戻れば、エーコもそれ以上城や学園にい続けられない筈……!」
急がなくては、と焦る気持ち。
心臓が重くドキドキと響き始める。
「……アキラの姿を元に戻すって事?」
サマンサ先生はアキラと私を見比べる様にキョロキョロとした。
アキラは申し訳なさそうにサマンサ先生を見つめ、頷いた。
「……私はその時、現場にいたからね。
大勢のみんながいる前で、アキラが精霊から魔物に変わる姿を……。
みんなはアキラが精霊だと騙していたんだとひどく怒って、アキラを攻撃した。
私はまだ子供だったから、父がアキラと頑張っている間も何もできていなかった……。
あのとき、アキラの姿が魔物に変えられて森に逃げる様に姿を消した後も、ずっとアキラを探したんだよ……。」
アキラは微笑むのをやめず、サマンサ先生の手をそっと取った。
サマンサ先生はいたたまれなくなったのか、アキラから目を逸らした。
「あの時世界は、ひどい戦争で命を落とす者や、混乱に覆われていた。
にも関わらず、突然現れた大きく渦を巻く黒い空に怯え、なすすべも無かったんだ。
精霊王としてアキラは不吉な黒い空を抑えるために、自分の力を使って欲しいと城に出向いた。
だがその時、突然現れた魔物が、王の前でアキラを魔王様と呼んだ。
アキラもアキラの御付きの精霊たちもあっという間に黒い闇に包まれて、姿が魔物となった。
魔物になった途端、エーコが現れて…自分が本当の精霊王だと言い、あっという間に黒い空を元どおりに戻してしまった。
信頼していた王は激怒し、アキラを『魔物のくせによくも騙したな』と罵って街から追い出してしまった。
うちの父は城で学者として使えていたから、私は父と一緒に王に『それは間違いだ』と何度も伝えたが、信じてもらえなかったんだ。
それからずっと、私たちはアキラを探してた……。
その後暴走したエーコが国を混乱に落としだして、突然現れた聖獣によって封印されてしまったし。
それで世界は一旦平和になったのだけどね……。
魔族を信じた国はしばらく苦しみを強いられ、国は衰退していった。
この世界がここまで平和に戻ったのは、聖獣の加護のおかげだと思うよ。」
サマンサ先生はそういうと、私を見つめ微笑んだ。
そして続けた。
「……その時も、聖獣の宿り主と呼ばれた人がいたんだけど、あまりに姿を誰も確認してないからね。
文献にもちょっとだけしかないし、夢だとか、いないもんだと思われているよ……。
その宿り主のおかげで、国は平和に導かれた……。」
サマンサ先生はそこでひと呼吸置いた。
その間にアキラに質問する。
「そういえばアキラさんって、封印っていつ頃されたんですか?」
「この世界に来たのは100年よりは前なんだけど、そこから戦争が10年以上も続いたから……正確にはわからないかも……。でも数十年は経ってると思います。」
「……長生きし過ぎてわからなくなることってよくあるよね……」
サマンサ先生の横やりに長生きコンビは『あるある』と頷きあった。
……普通はないから。
思わず目を細めた。
「封印されてからもずっとエーコに語りかけていたよ。
ずっと……。一度も返事はなかったけどね……。」
「……そうですか……。」
とりあえずエーコの目的も知りたくなった。
なんで精霊の姿で今エリナを利用して王や学園に口出しをしているんだろう?
目的は一体なんだろう?
それさえ分かれば、解決の糸口になりそうだ。
そんなことを考えながら、頭を抱えた。
アーロン先生はしばらく休むと、色々経由しなきゃいけないからと颯爽と学園に戻っていった。
今度は偽装した馬車を使って。
本当に大丈夫なんだろうか?
すごく心配である。
とりあえず私たちはサマンサ先生とアキラを残し、部屋を出た。
まだ本調子ではないサマンサ先生と長々話をするより、アキラとも積もる話もあるだろうと。
部屋を出ると、兄が待っていた。
今の現状を知りたいということなのだろう。
私たちはそのままサロンへと移動した。
「……とりあえずエステルがいうことは理解したつもりだけど……。
このままアキラとサマンサ先生をうちで匿うにも限度があると思うよ。
向こうだって馬鹿じゃないんだ、うちをどうにかする方法ぐらい探すだろうし。
防衛の対策もしなきゃ、うちにいる事がバレたらマズイんじゃないの?君達。」
『ドキリ』とする男子軍。
その様子に兄が笑いを堪えるように口元に手を乗せた。
「防衛かぁ……向こうの出方がわからないのでどうすればいいか……」
私がため息混じりに兄を見上げた。
兄は『ふむ』と口元に手を当て、考えていた。
「エーコが変わってしまったのは、人間の王子が亡くなったからだとアキラさんがいってました。
そこを調べたら何かわかるのでしょうか?」
「調べるったって、どこにそんなの調べれれるの?
……人は自分の弱点を隠すものでしょ?
ましては100年前もの話を誰が覚えているんだい……?」
「……あー、わかった。城だ。」
セドリックが口を挟んだ。
「そう。エーコの想い人は王子でしたよね?
……王家の人は確か記録が残りますよね?」
「なるほど、城で調べるという事か……。」
リオンが呟いた。
そして、一斉にセドリックに視線が集まった。
セドリックは一瞬で状況を理解する。
とても嫌そうな顔をして私を見た。
「……僕に城で調べてこいっていってんの?」
「逆にこの中で誰が城に行けるんだ。」
「……えぇぇえ?なんとかすりゃいいじゃん。……僕以外で。」
ものすごい嫌そうである。
「いや、王家の血筋、アナタ。自分のご先祖、調べる。」
なぜか片言でセドリックを指差した。
じぶんでもなんで片言かわからないけど、この嫌そうな態度を見たら、なんとなく……。
ますます嫌そうな顔で、うなだれる。
まぁ、きっとやってくれるだろうと。
期待していると言わんばかりに、セドリックの肩をポンと叩いた。
心底嫌そうに私を睨みつけた。
私はそっと目を逸らした。
背後からずっとセドリックの視線を浴びながら話を進める。
「王子のことはこれでいいとして。
次に重要なのは姿交換について。」
私は次の議題を読むように、みんなを見渡した。
極力セドリックは視線を外しながら。
「これは情報をどうやって集めるつもり?」
「……わかりません。だけど、もう少しアキラさんやサマンサ先生から情報を頂いて考えます。
なので、情報収集ですかね……。
あとは、アキラさんが封印された場所や、そういう魔法がないかを本とか探すとか……。」
「本なんてもうサマンサ先生のお父さんがやってそうだけど……。」
ビクターが言った。
私がその言葉にすごくしょぼんとした顔をしたので、マギーがフォローに回る。
「……でも100年も経てば、新たに本などで情報が出るかもしれないじゃないでしょうか?」
ビクターが『えー?』という顔をするのを私から隠しながら、『いい考えだと思います!』と親指を立てた。
……気を使ってもらってすいません……。
私の頼りなさに、兄が私の頭を撫でながら話し始めた。
「……とりあえず、現場か……。昔のことを知る人を探すとか……。
あとは古代魔法や魔族に詳しい人を探すしかない。
サマンサ先生が良くなり次第、もっと情報を共有しなきゃ。
あとは、防衛についてだけど……。」
みんなが一斉に息を飲んで注目する中。
兄はみんなを見渡した。
「……アキラさんとサマンサ先生を連れてここを離れようと思う。
もちろん離れる場所はまだ検討中だけど……。
学園の防衛が完了するといやでもみんな戻らなきゃいけないから、それまでの2週間。
存分に色々調べるにはここでは家族が危険だ。
なので何処かに隠れて調べようと思う。」
兄の提案に思わず挙動が不審になった私。
調べるために隠れる場所なんて、辺境の別荘とか?
そんなのお祖父様に探してもらう暇あるんだろうかと。
確かに家族が危険なのはわかっているが、ここを移動する分もっと防衛的なものが手薄になるような……。
ましてはいいとこの貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが一緒なので、何かあったら大変な事に……。
これをどう伝えていいか、ものすごい不安が押し寄せてくる。
兄は考えも無しにはこんな提案しないとは思っていないが、なかなかの難点だらけに不安しかない。
「……なら、うちの隠れ家に行こう。」
後ろからの声に私たちは振り向いた。
サマンサ先生がアキラに支えられ、扉のところに立っていた。
まだ足がおぼつかない様で、すぐそばのソファーに座り込んだが……。
「学者である父の書物はある場所に隠してある。
それはエーコの手には触れてないはずだから、そこの本を調べたら何かわかるかも。」
サマンサ先生が続けた。
「あぁ、そこでもいいね。いざとなったらまた、王子に秘密の部屋でも出してもらおうと思ってたんだけど。」
兄がケロリとした顔で言った。
その言葉にセドリックがすごいスピードで兄を見る。
「……仮にも王子を便利に使うなよ……」
「……そうは言いますが、あなたほとんどうちにいるんだから、滞在費などの配慮など感謝するならば。
少しはうちに協力してくれてもバチは当たらないと思いますがねぇ?」
と、ニッコリ返した。
流石に何も言えなかったのか黙ったが、セドリックが納得できていない顔でなぜか私を睨みつける。
……兄妹なので連帯責任みたいな目はやめて欲しい。
兄の苦情は兄にお願いします……!
そう思いつつ目を逸らした。
「……とりあえず、護衛はダイアンの部下をなんとか回してもらう。
それまでリオン、ビクター頼んだよ。
みんなを守ってやって。
僕は一旦城に戻ってその王子について調べてきたらいいんだろ?
移動するなら急いだ方がいいかもしれない。
城の動きが変わったとダイアンがいってきた。」
セドリックは頭を押さえながら、機嫌悪そうに私を見る。
……だから苦情は兄に!!
目でそう訴えるが、『あとで覚えてろよ』と言わんばかりに私に微笑んだ。
……クッソ怖いって!!
「わかりました。
移動は私の魔法が移動分回復次第、移動しましょう。
その場所は魔法で移動した方が記憶に残りません。王子には私の魔力を少し残しますから、それを辿って転移の魔法で飛んできてください。」
サマンサ先生は苦しそうな表情を隠す様に微笑んだ。
「まだ無理しない方が……!」
アキラが心配そうにサマンサ先生を支えたが、サマンサ先生は首を振った。
「……大丈夫だよ。でも無理をしてでも、早くここを離れた方がよさそうだ。
我々がここにいるという証拠があると、カーライト家が危ないのは事実だ。
……気配がする。もうすぐ気配がここへくる。
さぁ、みんな行こう。……私につかまって。」
サマンサ先生は呼吸を整えると手を大きく広げ、呪文を唱え始めた。
ふと兄がコーディの頬に手を添え、何かを耳打ちした。
コーディがハッと顔を上げ、頷く。
兄は優しく愛おしそうに微笑んだ。
「エステル、コーディを頼んだよ。
僕はここで家族を守るよ。
あとは君達に託した。2週間後、何としても無事に戻ってきて。」
兄は笑顔を崩さず、呪文詠唱中のサマンサ先生に触れた。
水色の穏やかな光がサマンサ先生に移動すると、サマンサ先生に吸収されていく。
その瞬間、兄の足元がよろめく。
コーディが心配そうに兄に近づこうとしたが、兄はそれを手で止める。
「……あとは頼んだよ。」
兄は気丈に立っていた。
私たちはセドリックと兄を残し、転送魔法に導かれ、カーライト邸を後にした。




