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第6話 婚約無効の方法を考える。

ジャンケン罰ゲームのせいで、私はしばらく機嫌が悪かった。

意外と今回の傷は根深いのかもしれない。

フッ……寝たら忘れる脳みそ金魚と言われたこの私が、である。


家族が私の機嫌の悪さを察して、気を使われつつ遠巻きに観察されている。

でもこれ以上悟られると、またお祖父様が暴れる羽目になるのでこの辺りで落ち着きたい。


くそう。

頭にハゲが残らなければ。

これは毛生え薬を仕入れて毛を生やせば問題解決なのでは。


颯爽と書庫に篭る。

毛に関して我が家はハゲの家系ではないので、ハゲが治る本系な本は全くなかった。

あと頼るは薬草とか、魔法とか。


この世界にも魔法というものが存在するようで、今の私にはあまり関係のないものだ。

魔法は学校に行く前に検査される。

幼少になんとなく目覚めるなんて事がたまにあるようだが……もう一度言う。

なんの目覚めのない私には、関係ないものだ。


パラパラと薬学薬草の本をめくっていく。

この本もなんども読み漁ったけど、毛が生えるとかいう薬草はなかったような。

くっ、ということは未知数の魔法に頼るしかないのか……!


学校に通う年齢は10歳からなので、来年から兄は入学になる。

兄は聡明な方なので、学校行く前から家庭教師などと予習しているし、きっと魔法がニョキニョキ生えるはず。

と言うことは、なんか毛が生える方法を相談できないだろうか。


意気揚々と兄の姿を探していると、リリアと母が庭でリビングに飾る花の相談をしてた。


「お母様、お兄様を知りませんか?」


声を掛けるとリリアが私の元へ走ってくる。


「お姉様!もう体調はよろしいのですか?」


側までたどり着いたら、ギュッと私に抱きついた。


「体調はすこぶる良いのよ。機嫌が悪かっただけだけど、もう大丈夫。この戦い負けるわけにはいかないんだから、うだうだ考えるのをやめたわ!」


ガッツポーズのように拳を挙げる。


リリアは不思議そうに私を見つめていたが、ニコッと微笑んだ。


「お姉様が元気になられたなら、リリも嬉しい!」


輝くような天使の笑顔に思わず魅了されそうになったけど、なんとか踏みとどまる。


「そ、そう。私もリリーが喜んでくれるなら嬉しいわ。」


エヘヘと笑い返した。

リリア、ホントかわいい。


「エステル、サイラスなら部屋にいると思うわよ」


母が庭で摘んできた花を束ねながら、こちらに歩いてきた。


「ありがとう、お母様。」


リリアを私から剥がして、急いで兄の部屋を目指す。

後ろでリリアが私を呼んでいたが、『あとで遊んであげるから』と走り去った。


兄は自室で1人で勉強をしていたようだ。

ノックすると、部屋の中から「どうぞ」と、返事が来た。


「お兄様、エステルです。ちょっとお話しを聞いていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


私の問いかけに、すぐドアが開いた。


「エステル!」


「はい、エステルです。」


兄は嬉しそうに私の名前を呼んだ。

イケメンオーラに圧倒され、思わず復唱してしまう。

あまりに間抜けな返事に兄はふふっと笑い、「なんだよその返事!」と声を上げて笑った。


「もう体調はいいの?」


兄の部屋に招き入れられて、ソファーに腰掛ける。


「体調はすこぶるいいです。ただ機嫌が悪かっただけで!」


なんだかデジャブ。


「もう機嫌は直った?」


兄が私を覗き込む。


「はい。直ったついでにとりあえず色々対策しようと思って。」


『対策…?』と首を傾げられたが、気にせず続ける。


私は書庫から見つけてきた一冊の本を兄の前に広げる。

それは魔法がいかに素晴らしいかをえらく難しく自慢している自伝だったが、きっかけはこれでもいいと思い持ってきた。


「お兄様、魔法で傷を治すことはできますか?」


「……傷?」


「例えば、私の頭の傷を魔法で治すみたいな感じのことが……」


本のページをめくり、この本の過大評価をいかに読み漁ったかのように褒め称えてみせる。


「こんな素晴らしい方が魔法はなんでも可能だとおっしゃっているのです。私の頭の傷を消すことは可能ではありませんか?」


息継ぎするのを忘れてた。

めちゃくちゃ息が上がる。


あまりにハァハァ言うので、魔法サイコー!と、かなり興奮していると思われたらしい。

兄は私の様子にフゥと小さくため息をついた。

え、ドン引き?

会話が止まったので、若干やりすぎたかと広げた手とテーブルにあげた片足をそっと下げて、椅子に座りなおす。


「エステル、ゴメンね。魔法で傷を隠すことはできても、できてしまった傷は治癒魔法でも完璧に治すことができないんだ。」


そう言って私の後頭部に手を添えた。

その手で優しく頭を撫でる。


「やっぱり女の子だもんね……気にするよね。」


兄は悲しそうに笑った。


……いえ、全く。

とても言える状況じゃないが、全く気にしてない。


「お兄様、困らせてごめんなさい。傷が消えたら王子との婚約も破棄してもらえるんじゃないかと考えたのです…」


兄は私の頭を撫でながら「うーん」と考える。


「ハゲに毛を生やす方法も考えたのですが、うちにはハゲがいないため、ハゲに関する書物が無いので…」


どこで手に入れたらよろしいかと聞きたかったのだが、言い終わらないうちに兄が明後日の方向を向いて肩を震わせていた。

どうした、お兄様。


「ハゲって……」


一向に私を見なくなった兄は、口元を押さえて震えている。

だからどうしてしまったんだ、お兄様よ。


「は、ハゲを治す……」


兄が震え終わるのをしばらく待った。

震え終わったと思ってまたハゲの話に戻ると、また震えだすの繰り返しで。

震えなくなった頃にはひどく疲れた顔をしていたので、これ以上の会話は進まなかった。


そっと兄に挨拶をして部屋を出る。

廊下を腕組みしながら歩いていると、父の姿が見えた。


「お父様!」


声をかけると1階のエントランスから私を見上げて手を振ってくれた。

ハゲのことはお父様に聞くしかない。

私は元気よく階段を駆け下りた。


「お父様、ハゲに効く薬はなんですか?」


「おっと、いきなりなんだい?その話題は……」


若干引き気味の父に食い気味で行く私。


「ハゲを治す方法ですよ、何かいい手がありませんか?」


「ハゲを治すって…多分薄い人はみんな知りたがる方法だねぇ……」


そうでしょうとも。

私もすごく知りたいですし。


「何か知りませんか?」


父は腕組みをして首を傾げた。


「多分そんなものがあったとしたら、ハゲっていなくなるよねぇ?隣の領地の視察の件で来ている従者の人がまだ生えてなさそうだったから、きっとまだ発見されてないのかもしれないねぇ」


苦笑いしながらそう言った。


チッ。

この手もダメか。

親指を口に当てて舌打ちをする娘に、父はなぜそんなことを聞いてきたのか聞けずにいた。


「そうですか。ならまた別の手を考えてみます」


「え!?ちょっと、エステルどこに行くの?」


あっという間に走り去る私。

あっけにとられた父はしばらく訳がわからず、立ちすくんでいた。



「と言うことは、傷を治して婚約破棄計画は失敗に終わったという事か……」


自分の部屋の机に向かい、ノートに大きくバツを描く。


婚約破棄…なかなか難しい問題なのかもしれない。

片手でペンを揺らしながら、頬杖をつく。


「ハゲは治らないし、魔法でも消えないし。あとは、なんだろう?」


ノートには大きく『婚約破棄計画』と書かれている。

もちろん書いたのは私。

起きてすぐ怒りにまかせて、殴り書いたのだ。

しかし計画といえどこのふたパターンしかまだ考えておらず、どっちもダメだった事までは考えてなかった。


ハァ。

大きく溜息を吐く。


浅はかだった。

これで行けるぐらいに思ってた私。


「あー早く次の手を考えないとーー!」


頭をかきむしりながら口から漏れる、焦った時の頭の内容。


「お嬢様、何がですか?」


ひょこりと覗き込んだのは、侍女のエルだった。


いるなんて思ってなかったので、ひどく驚いて椅子から転げ落ちた。


「エステルお嬢様ーーー!!」


エルが驚いて慌てて部屋からだれかを呼びに出ようとしたので、大丈夫だと制止する。


「いつからいたの?」


落ち着きを取り戻そうと、椅子を起こして座りなおす。


「今です。ちゃんとノックしましたよ!お嬢様に急ぎのお手紙でーす!」


そう言って机に手紙を置こうとした。

ま、待て!!!


慌てて机の上のノートを手で隠す。


「おやおや?何を隠したんですー?」


反対からまた覗き込もうとするので、ノートはさっさと畳んで引き出しの奥に隠した。

油断も隙もない……。


そもそもエルは私の婚約のジャンケン罰ゲームなどの裏話を知らないので、王子との婚約を喜んでいる節がある。

まぁ普通に考えると『王妃候補なんてすごい!うちのお嬢様さすが!』なんて思っちゃうのかもしれないけど。

なのでノートを見られるわけにはいかないのだ。

心を痛めてしまうだろう……。


と言うかこんな計画、普通に不敬罪だよね、これ。


「それで、なんだったかしら?用は……」


誤魔化すように改めて聞き返す。


「あ!そうでした。これです、お手紙ー!」


そう言いながら私に手紙を差し出した。

朱色の封蝋がついた手紙を受け取って裏表を確認する。

宛名しか書かれていないけど、封蝋に押された紋章ですぐ何処からか分かり、手が止まる。


「エリオット殿下からですか?」


エルはとても嬉しそうに奴の名前を口にした。


「……そうみたいですね」


手紙を受け取ったのに、一向に封を開けない私と手紙を交互に見比べている。

そして『あっ』と声を上げると「お嬢様1人でこっそり見たいですよね!気が利かず失礼しました。」

と、テヘペロ状態で去っていった。


…勘違い、ありがとう。

もう何も言い返す気力なーし!!


このまま手紙を開けずに飾っておくと言う手はないだろうか。

開けないわけにはいかないが、どうしても開けるのに気が重い。

何度も深呼吸をして、意を決して開ける。


『エステル様』

綺麗に丁寧な読みやすい文字が目に入る。


一度目を閉じる。

まだ自分の名前しか見ていないのだが、どうも第2の言葉と嘘くさい笑顔が脳裏にちらつくからだ。

消えろ!悪霊退散!

邪念を払うようにまた、深呼吸。


目を開けて読み進める。


『うちの庭園に春の花が咲き始めてきた。是非お見せしたいので、来週一緒にお茶などいかがだろうか』


こないだ落ちる前に見たっつーの!!

思わず手紙を床に投げつけてしまった。

あー木登りもあいつらももう見たくないー!

でも返事出さないといけないー!


部屋でわあわあ暴れていたら、扉の外で様子を伺っていたエルに『エステルお嬢様ったら、殿下の手紙に照れちゃって恥ずかしがってる!』なんてルンルンで勘違いして去っていったのを私は知らない。



私は手紙の返事に悩み抜いて3日かけて書いた。

たった6文字。


『ワカリマシタ』


それを侍女に託してまた、ノートを広げてひとり苦悩するのだった。

……計画を急がなければ!

……てかこんな悩んでたら、ハゲが進行するかもしれない。


悪循環!!



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