第59話 誘拐された本人が誘拐されたことを隠したがる。
いつもありがとうございます!m(_ _)m
「ねぇとりあえず、姿交換の呪い、解く方法とか誰か知ってる人は?」
「そんなの知るわけがない……」
ブラーンと情けなく両手で抱えられている白いアライグマを尋問中だ。
「ねぇ、100年前に封印したのって、クラウドのお母さんとかお父さんなの?」
「……生まれてないものは知らない……」
「じゃぁ、クラウドのお父さんとかお母さんに会う方法は?」
「……生きてることはわかるけど、場所はわからない……」
「……何でわからないんだ!巣はどこだ!実家はどこだ!」
「……巣とか実家ってなんだよ……!ともかくオレは物心ついてすぐ、フラフラしたらあそこに行き着いたの!」
「物心ついてフラフラする聖獣ってなんだろう……」
違う疑問が生まれてくる始末。
ともかくクラウドは何もわからないというし、この聖獣から何も引き出せないことはわかった。
どっちもスマホ持ってくれてたらいいのに……。
じーぴーえーす!
と、ぶっ込んで考えてたら閃いた。
「ねぇ、クラウドのお父さんとかお母さんに話しかけることはできないの?ほらいつも私にやってるみたいな、脳みそ通信みたいなやつ」
「通信してどうすんだよ……」
「いつか質問が出てくるときがあるかも知れないから……」
「今はないのかよ!!」
あるっていえばあるような。
でもないといえば今はないような……。
ボヤんとした状態でその貴重かも知れない1回を使うことが正しいとはいえないという、現実的判断。
抱えたままのクラウドからそっと目をそらすと、盛大にくしゃみをお見舞いされた。
ちっくしょーう!
「とりあえず、策を練らなければ。」
アキラとクラウドが見つめる中、ウロウロと部屋を歩き回りながら、考える。
「100年前の流れはわかったけど……。」
2の世界観は理解したつもりだが、今現実の1の世界。
……まぁ、区別する為に言ってるだけで、この世界が乙女ゲームだとかいうものだとはもう認識していない。
ただ自分の今、目の前にあるピンチを解決する策を練る。
なんだかストンと自分の中で落ちるものがあって、晴れ晴れとした気持ちになる。
『これでいいんだ。』
私は小さく何度も頷いた。
「とりあえず、私の寮に来てエリナのノートを読んでもらいたいのと。
それから今の現状を説明したいです。
なのでここから出ないと……。」
『一刻も早く』である。
私が誘拐?されてから、うだうだアキラさんと語ること一晩。
そして今現在、飲まず食わずで私がいなくなった時間に到着してしまったので、まるっと24時間経過している。
そろそろヤバい。
実家にも連絡が入ってるだろうし、学園もえらいことになってることが予想でき、一瞬めんどくさくなって帰りたくなくなったが……。
「アキラさんも一緒に来てもらえますか?」
アキラは目をくるりと丸くする。
見開いたままの瞳で、私を見つめる。
戸惑うようにクラウドを見て、自分の後ろを振り返ったり。
「わたし、本当に行っても……?」
「ただ今はエーコサイドにはバレないようにしないとなので、サマンサ先生には折を見てしか会いには行けませんが……。とりあえず、今の現状をアキラさんが知ってから、そこから色々一緒に考えたいのですが……」
と言いつつ、いつも考えるより行動になってしまいがち。
おかげで生傷は絶えない。
足の先の痛みを思い出して、1人苦笑う。
クラウドがじっと私の動きを見ていたが、のそのそと私によじ登り始めたので、抱き上げた。
「ここから帰る前に、帰ってきた理由を先に考えて帰ったほうがいいな……」
「あー、『連れ去られましたが自力で逃げ出してきました!えへへ』って言おうかな……」
「……アキラを連れて帰りたかったら、『偶然通りかかった所を助けてもらった』だとか、『一緒に閉じ込められてたから連れてきた』とかの方が。」
「その場合、『偶然助けてもらった』だとお礼言ってさようならになりかねないね……」
「だったら『一緒に逃げてきたが、記憶喪失っぽいから保護しなきゃ』じゃないかな?」
「学園で保護になると困るから、カーライトで保護してもらわないとだよね……」
「……本当はアキラに誘拐されたんだけどな……」
クラウドは冷ややかな目を私に向ける。
アキラは私とクラウドのやり取りを目で追いながら、申し訳なさそうに俯いた。
その時バタリと大きな音を立ててドアが開いた。
「精霊王様!」
突然現れたフードの男がアキラを抱きしめた。
「リュー、私はもう王ではありません……」
モゾモゾとリューと呼ばれた人から抜け出そうと抵抗するアキラ。
それでもビクともしないリューの腕。
アキラは『キッ』とリューを睨みつける。
思わずクラウドを抱えたまま後ろに下がる。
はたから見たら、知らない人が入ってきて警戒している私。
『離れた位置で観察しようとするなよ……?』
クラウドの鋭いツッコミに、『グハァ』とダメージを負う。
なぜバレた。
ちょっとドラマが始まりそうだと期待したのに。
「リュー、エステルさんにお水かお茶か、とにかく飲み物を……!」
「……その前にアキラ様、ここから出るつもりですか?
……まだ封印が解けて間もない。
世界は100年前より狂っているかもしれない。
安全かどうかもわからないのに。」
リューは抱きしめた腕を緩まず、アキラを強く抱きしめ続ける。
アキラは苦しそうに身をよじった。
……というか、死ぬんじゃ?
流石に締めすぎでは。
アキラの顔色がだんだん青く見えてきた。
アキラはリューの腕を『ロープ!タオル!!』と言いながら、バシバシと叩き出した。
アキラさん……プロレスとボクシングの用語混ざってませんかね……。
わかる私も凄いが……。
「あのー……。」
私が我慢しきれず話しかける。
リューが私に目線を向けてるが、何も言わず見つめるのみ。
整った男らしい顔に、トカゲのような金色の目に、緑色の皮膚。
所々、鱗で覆われている。
黒く長い髪の毛が、抱きしめたアキラの頬に当たっていた。
「……用は済んだのか?なら帰っていいぞ。」
アキラを抱きしめるのをやめず、私を怪訝そうに見つめるリュー。
……いやお前らが連れてきたんだろうが!!
思わずツッコミ入れようとしたが、グッと我慢。
「帰りたいのは山々ですけど……、とりあえずここがどこだかわからないので帰るに帰れません……」
「リュー!あなた達が無理やり連れてきたんでしょう!!」
『ぷはぁ』っと腕から抜け出たアキラがリューの方を向き直り指をさした。
「とりあえずお水を。あと色々用意して私もエステルさんについていこうと思います。」
「アキラ様、また人間を簡単に信用する気ですか。
コイツは聖獣使いでしょう。
また封印されたらどうするつもりですか?」
「……そうならないように、頑張ってみます……」
「ですが……!」
アキラはリューににこりと微笑み、私の方を向いた。
「エステルさん、彼はリューと言って私が精霊王だった頃の騎士です。えっと、攻略対象者の……。」
アキラがゴニョゴニョと語尾を濁らせた。
『ははぁん』
私は黒い笑いでニヤリと口角を吊り上げた。
「その照れ様はアレですね?もしやリューさんとアキラさんは……!」
アキラさんは顔をトマトのように赤くして『チガウチガウ』と、両手を振り続けた。
その様子を首を傾げながら、またアキラを大事そうに抱きしめるリュー。
『ヒロイン』の入る隙間なんかないじゃないか!っていうぐらい、相思相愛という言葉がお似合いだった。
今度は優しく、少しでも離れたくない様子でアキラの髪の毛に頬を寄せる。
封印されて長い時を彼女を探していたのだろうか?
それとも場所はわかっていたが、封印を解く鍵をずっと待ち続けていたのだろうか。
アキラに添える手はとても愛おしそうだった。
ラブラブカップルを放置して、ふと考え込んだ。
「……しかしなぜ『ヒロイン』は不在だったのだろうか?」
また考えながらウロウロしていると、扉の所でローブの人とぶつかってしまった。
水を持ってきてくれたのか、ガシャンとガラスがぶつかる音がした。
「わ、すいません……」
ローブに水がかかってしまい、機嫌悪そうにフードの腕をまくった。
とりあえずそこに置いてたタオルで拭こうとして、気がつく。
彼の腕にはクッキリと噛み跡が。
恐る恐る見上げると、すごく怪訝そうな顔をした魔族風の人が立っていた。
「……その節は噛んでしまってすいませんでした……」
えへらと愛想笑いをする様に頭をかく。
噛み跡クッキリの人は、無言で私にお水を渡すとスタスタとアキラの方へよって行った。
「若様、アキラ様。俺もコイツについていくのは心配です。」
考え直すようにアキラを説得し始めた。
このままウダウダ平行線な話してしても仕様がないし、時間ももったいないので。
「とりあえずアキラさんのことが心配でしょうから、皆さんでついてきてくださっても……。
あ、でもその姿ではまずいので、『ヘンシーン』とかしてくれると助かるというか……」
「……ヘンシーンとは……?」
「えーっと、アキラさんに似せて人間ぽい感じとか、はたまた何かのペット的な感じとか……?」
「……蛇とか、トカゲとか?」
「……爬虫類はちょっと……。」
「……」
「いや、差別しているわけではなくてですね!!蛇とかトカゲを家の中に入れるのは止められるというか…!流石にうちの母が……!」
私とリューのやり取りに『ブフッ』とアキラが吹き出し笑い転げた。
それを黙って見つめる我々。
リューさんに至っては『またか』という顔で。
ほとんど無表情で眺めていた。
「ですので、あの、何か対処法があったらいいなーと……!」
こっちもね。
誘拐された被害者なのになんとか加害者を作らないように穏便に流したいわけですよ……。
それを必死になっているのに、この人たちは……。
封印から目覚めた精霊王は爆笑しているし、そのお付きの精霊たちはそれをほのぼのと眺めている始末。
少しは私の努力もくんでくれよ!
思わず目を細め、じっと見つめる。
私の目線に気がついて、あわてて笑いを止めようとアキラが慌てる。
この人の笑いのツボは、時限爆弾並みだわ。
そう思いながら恥ずかしそうにするアキラを見つめていた。
とりあえず、私はここから出たい。
急いで出ないといけない。
彼らを連れてここから出ること考えないと、この人たちに任せていると何も進まないのだけはわかった。
私は頭を抱え込んで、深くため息を吐いた。




