第58話 エーコとアキラ
いつも誤字報告ありがとうございます!m(_ _)m
「最後の質問の答えなのですが……」
アキラはとても言いにくそうに。
そして、かなり笑い疲れ、疲労感満載の顔で話を進めた。
「あの……続きは明日にしますか?」
「……いえっ!」
アキラはまた顔の前で手を激しく振る。
「このまま一気にお話しさせてください。こちらも今の状況を早く知る必要があるので……」
アキラは何かを焦っているようだった。
そしてとても急いでいるようだ。
「……わかりました。では質問の答えをお願いします。」
揺すっても起きない隠れキャラの獣が寝返りをうった。
思わず視線を獣に落とすが、幸せそうな、呑気な顔に小さくため息をついた。
「……2のヒロインは存在しませんでした。」
「……ヒロインが存在しなかった?」
アキラは頷いた。
「そもそもわたしたちが何かわかりますか?」
「アキラさんは、魔族の王ですか?」
アキラは泣きそうな顔で笑った。
「……それは正解であり、間違いでもあります。」
「正解でもあり…間違い……」
彼女の言葉を復唱しながら頭に入れていく。
だが今あるだけのピースだと疑問ばかりが残る。
首をかしげる私に、アキラはまた悲しそうに笑う。
「エステルさんは、ゲームのストーリーを知らないので何が本当かなんてわからないかもしれない。そして初対面のわたしが嘘をついて騙している可能性だってきっと頭の隅においていることだと思います。
ゲームを知らないからこそ、わたしの主観での流れを聞いて欲しかった。
そしてまた誰かからこの話を別の主観で聞いた時に、判断して欲しいのです。」
「……確かにすごく自分は登場人物に移入していないので、本の内容を聞くように聞いている節はあります。……まぁ、性格がこういう感じだというのもあるのですが……。
アキラさんの想いはわかりました。そのつもりで聞いていきます。」
私はアキラを見つめ、頷いた。
「わたしは精霊王です。この世界に、精霊王として生まれ変わりました。信じられないかもしれないけど、あなたを攫った者たちは元は精霊なのです……。」
背筋がゾワリと凍りつく。
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
だってあの鱗のような皮膚に覆われた姿は、間違っても精霊のイメージではない。
わたしの困惑を感じ取り、アキラは寂しそうに笑う。
「まず、その事について…遅くなりましたが謝罪させてください。あなたを攫い、怖い思いをさせ、怪我まで…。大変申し訳ありませんでした。」
アキラは私に深々と頭を下げた。
「……いえ、まぁ……なんとも言えないですけど、謝罪は受けます。」
確かに怖かったし、死ぬかと思ったし、疲れたし。
『いいよ☆』で済ませられない自分がいる。
ましては今あっちは私の誘拐事件で大騒ぎだろうし…。
「そうですよね……。
申し訳ありません、ぞんざいな謝罪のままですが…時間があまりないので、話を続けても構いませんか?」
アキラは本当に申し訳なさそうに、俯き小さくなる。
その姿を見て、私も微笑み、頷いた。
「わたしのこの姿も本当の姿ではありません。今あなたにその姿を見せれば、きっとわたしの話を聞いてくれなくなると思い、偽りの姿のままで申し訳ありません……。」
「……えっと、なぜでしょう?わたしの知ってるイメージの精霊は、小さくて光に包まれ、可愛い感じのイメージで……これが一般的な認識であってますか?」
アキラは大きく頷いた。
「『精霊』の姿に対しての認識はそれであっています。……わたしがエーコを信用しすぎたせいで……。わたしのせいで……わたしを含む、精霊の姿はエーコ……『魔王』の呪いによって、魔族へと姿を変えられてしまいました。」
「……なんという……。」
思わず言葉が詰まる。
そして振り絞る言葉。
「……これは本当に乙女ゲームですか?」
乙女ゲームってもっとほのぼのな感じではないのか。
やったことないイメージだが、こんなストーリーダークでいいのか。
シナリオライターは大丈夫か。
病んでしまっていたのだろうか……。
「……あれ、でも1のストーリーはこんな病んだ感じではないですよね?」
「2だけなんだかハッピーな終わりかたしてない気がするなぁ」
「2はバッドエンド重視だったりするのかな?」
ブツブツと考えがまとまらず、矢継ぎ早に質問していく。
アキラはまた寂しそうに笑うと、俯いた。
「その通りです。これはもう2のストーリーとはかけ離れたものとなりました。
1と同じ、2も素晴らしく攻略には厳しいものもありましたが、緩やかなラブラブハッピーなストーリーでしたよ。
……そもそも精霊王や魔王は『対象者』として、男性だったはずです。
わたしもエーコもちゃんと女性です。でも『対象者』の役割である精霊王となりました。
そもそも私たちが転生したことが、何かの間違いだったのかも?とも思いました。
だからかわかりませんが、私たちが転生した2の世界は、『ヒロイン』不在で進んでいきました。」
「……ヒロインが不在……」
この言葉がなぜかとても重く心に引っかかる。
「そもそも不在だとストーリーが進まないというか……ハッピーエンドがない状態ではないのですか?」
「おっしゃる通りです。」
アキラは強く頷いた。
「おっしゃる通り、ヒロイン不在だと残るは争いしか残りませんでした。
ヒロインが選んだ『対象者』が主となり、国をまとめ導く存在だったのだから……。」
私は言葉を失う。
アキラは寂しそうに目を伏せた。
「わたしとエーコの意思とは関係ないところで、精霊と魔族の争いは酷く広がっていきました。
ゲーム通りに人間界をどんどんと巻き込んでいきました。
わたし達は必死で『ヒロイン』を探しました。
こんな争いをやめさせるために。
……本当に必死に。
エーコもわたしもこんな結果は望んでなかったから。
そんな時、エーコが愛して焦がれていた『対象者』のひとりとなる人間の王子が、結局戦争で命を落とす結果となりました。
彼女は彼を救おうと必死で動き回りましたが、原因を作ったと思われている魔族の王が息絶え絶えの王子に近づくことさえできませんでした。
そこから……エーコは変わっていきました。
わたしを避け、ヒロインも探すことをやめてしまいました。
それでもわたしは、エーコの側にいようと彼女を探し続けました。
そしてやっと会えた時に、わたしや世界に呪いをかけて、わたしと自分の姿を、精霊と魔族の姿を交換してしまったのです。
精霊達は魔族の姿となってしまった自分を忌み嫌い、隠すように魔族が住んでいた世界へと閉じこもるようになりました。
精霊は水、風、火、木などの自然の力によって力を得ます。
なので影に隠れてしまったわたし達は、力をどんどんと失っていきました。
ただのなんの力もない、魔族として……。
争いは表立っては精霊の勝ちとなり、わたし達精霊は、魔族として扱われるようになりました。
魔族は精霊の姿をして、人間を惑わし、世界は幸せより憎しみや苦悩が満ち溢れていきます。
わたしはそれでもこの世界を正そうと、エーコに語りかけ続け、『ヒロイン』を探し続けました。
何年も、何十年も…。
100年後の1の世界に期待を込めて……。」
アキラは静かに目を閉じて祈るように両手を顎のあたりで組んだ。
「こんな姿になっても、長い年月生き続け正しいことをしようと心がけると、少なからず味方もできました。
わたしの言葉や、感じた事、見てきた事を語り継ぐもの。
それを書物に残すものも現れ、世界に疑問を持つものも…。
ですがそういったものはすぐ、エーコによってエーコの望むものに書き換えられていきました。
わたしは絶望しました。
ここまで希望を捨てずがんばってきたのですが、流石のわたしも心がくじけてしまいました……。」
アキラは相変わらず、悲しそうに笑う。
笑うというより、泣かないように口角を必死であげているようにも見えた。
私はソッと俯いたアキラの頭を撫でた。
というか、距離的にそこしか手が届かなかったからという言い訳です。
私が撫でる手にびくりと体を強張らせたが、顔を上げ、驚いたように私を見つめた。
私は何も言わず、アキラの頭を撫で続けた。
アキラは口の端を震えさせ、目に涙が浮かぶ。
「悲しい時は誰かに悲しい事を伝えたり、たくさん泣くとスッキリします。
遠慮せず、泣いた方がいいです。
知ってますか?
泣かない人の方が、『弱い人』らしいですよ?
泣ける人は自分が弱い事を理解しているので、向上心があります。
その分、成長して強くなれるチャンスがたくさんあります。」
『私は励ませているのだろうか』と思わず不安になった。
こういうのは昔から苦手だ。
理論づけて何かを語るのは好きだけど、いつも見当違いな事を言ってしまうのが悪い癖で……。
アキラは私をクリンとした目で見つめていた。
思わずしどろもどろに弁解しだす。
「えーっと、すいません。何が言いたいかというと……」
私のうろたえ気味にアキラは目にためた涙をこぼしながら、笑った。
ちゃんとした笑顔で。
「ありがとうございます。言葉が身に染みました。
そうですね、ちゃんと泣いた方が成長出来るのですね……!」
アキラは『ふむふむ』と考え込むように頷いた。
……そんなちゃんと言われると恥ずかしくなる。
「すいません、偉そうに言っちゃって……」
「いえ、なんだか嬉しくて……!」
涙を拭い、私に笑いかける。
「本の著者……」
アキラの話をふと反芻した。
突然の独り言に、アキラがキョトンとする。
「あ、いや……最近読んだ本のことを思い出しまして……」
「本ですか……?」
私は腕組みをして首をかしげる。
「アキラさんが先ほど言ってた味方について、考えていました。
本に記す人がいたって……」
「……はい。争いが『魔族』が負けて終焉してから、わたしの話に耳を傾けてくれる親子がいたのです。
でも本はエーコによって都合のいいものに変えられましたが……。
その親子にはとてもお世話になりました……。」
「……その親子は……いや、その子供の方はもしかして。赤毛で金眼ではなかったでしょうか?お母さんは人間で、お父さんがエルフで……。」
アキラがまたキョトンとした顔をする。
「……ええっと、わたしそこまで言いましたっけ?」
……ビンゴ!!!
わたしは盛大にため息をつきながら頭を抱えた。
これは繋がった。
アキラさんとサマンサ先生を合わせるべきなのでは、と。
よくわかってないアキラに私は向き合った。
「……その子供の方はサマンサ先生といって、今私の学園で教師をしてらっしゃいます。」
アキラは驚いて目を見開く。
「サマンサが……!?」
震える手で口元を押さえた。
「とにかく話が終わり次第、サマンサ先生と接触を……」
そこまでいってふと言葉を詰まらせた。
エリナの顔がふと浮かぶ。
サマンサ先生に会いに行くには、エリナに会う確率も高くなる。
今現在の『ヒロイン』であるエリナと、アキラが出会っても何も影響しないんだろうか?
1と2の主要人物が混ざり合うとなんか化学反応とか起こらないのかしら……?
まぜるな危険!みたいな……。
色々言いかけて黙り込む私を困ったように見つめるアキラ。
「……あ、すいません。実はサマンサ先生、現在のヒロインの特別指導員なんです。なので会いに行くとなると、彼女にも接触する可能性を考えてまして……」
アキラはまた目を見開いた。
「1のヒロイン……。1にはヒロインがいる……」
困惑したように俯いた。
「アキラさん、すみません……話の腰を折って脱線しまくってしまって……。話を戻してもいいですか?」
とりあえず、この話は後だ。
今は話をつなげていかないと……。
私はアキラを見つめた。
アキラは無言で頷く。
「……そうでした。
私は心が挫け、エーコからもこの世界からも手を引こうとしました。
魔族として生きるのであれば、もうこのままヒッソリと生きていこうと……。
全てを諦めかけた時、1つの噂を耳にしました。
『聖獣が目覚めた』と。
聖獣はこの世界がピンチになったとき目覚めると言われていましたが、隠しキャラ認定されていたためか、ヒロイン不在だったためか……争いが起きているときは一切出ては来なかったのになぜに今と、とても困惑しましたが、わたしはこれは最後のチャンスだと思いました。
エーコも噂を聞きつけて、聖獣を探し始めます。
わたしは彼女が聖獣と出会うまで、ジッと影から追いました。
何も力のないわたしには、聖獣を探すツテもないので……。
彼女が見つけるまで、ただひたすら待ち続けました。
その時、わたしは気がついてしまったのです。
エーコが『ヒロイン』の代わりを務めていることに……。」
「エーコさんは精霊王としても、ヒロインとしても存在していたのですか……?」
アキラは頷いた。
「これはわたしの主観でしかないのですが、久々に見た彼女は…立ち回りが『ヒロイン』としての行動をしているように見えました。
世界を操ることに成功した彼女が、なぜ『ヒロイン』として立ち回っているのか……全く理解ができませんでした。
そんな事してももう王子が生き返ることはないのに……。」
アキラはまた涙を流した。
今度は悔しそうに……。
私は考え込むように黙って腕を組んだ。
「しばらくしてエーコは聖獣へとたどり着きました。
聖獣はエーコを見つめると、エーコに何かを言っていました。
エーコはそれに対してひどく怯えていて……聖獣は何も言わずエーコの自由を奪い、壁に貼り付けたまま何かを話していました。
その様子を見てわたしは見てられず、エーコを庇うように聖獣との間に立ちふさがりました。
聖獣は私に言いました。
『お前たちは選択を間違えた。いるべきではないモノのせいで、世界は狂ったんだ』と。
私は『確かにこの世界は狂っている』と聖獣に言いました。
聖獣はわたしとエーコを見比べ、其々に『選ばれたものが世界に生まれ変われば、それがお前たちが救われる時だろう』と言い残し、私たちを封印しました。
封印されし時に、エーコは最後まで抵抗していました。
『この世界は選ばれた自分のものなんだ』と。
『いるべきではないのは、この世界に要らないものは、アキラ……お前だ』と。
彼女はそう言ってどこかに封印されました。
彼女はこの世界を救うと言いました。
この世界は自分のものなんだから、もう一度この世界を正すんだと。
精霊たちが私を探し、目覚めさせたということは……エーコがこの世界に目覚めたということだと思います。
選ばれしものの手によってしか封印は解けないと言っていました。
エステル、あなたはエーコの封印を解きましたか?」
封印を解いたか……。
そう聞かれると、もちろんアキラ以外で解いた覚えがない。
私はブンブンと首を振る。
アキラは『そうですか……』とまた泣きそうに俯いた。
「アキラさんが知ってる話は、これで全部ですか?」
「そうです。私が早急に知りたかったのは、エーコが目覚めたかどうかです。」
「では、選ばれた人……というか、この世界に生まれ変わるということが転生者を指すのであれば、1のヒロインも転生者なので、もしやあっちの封印はエリナが解いてしまった可能性もあります。」
そこまで言った時、私はまた何かを頭の隅で思い出す。
「……ん?エーコってそういえば聞いたことあるような。」
今更感は否めないが、ふとどこかで聞いた覚えがあると。
さっきまで話を真面目に聞いていたので、さほど気にならなかったササクレがとても気になってくる。
『エーコ、エーコ……』
何度も名前を呼んでみる。
ぼりぼりと頭をかく。
喉まで出かかっているような、この何というか……思い出せそうなのに降りてこない、この気持ち。
だんだん頭をかきむしり出す。
流石のアキラもオロオロし出す。
「え、エステルさん?大丈夫ですか?」
空が白々と明けてきているのが遠くで見える。
どこで聞いた?
どこで、誰から。
他に誰がいた?
その時私は何していた……?
断片的に思い出そうと必死にキーワードを集めた。
「…エステル、さん?」
アキラが私を覗き込んだ。
その時。
「エリナが連れていたメイドが確かそんな名前だったろー?」
生臭い息を吐きながら、白い獣があくびをしながらそう言った。
「あーーー!!」
突然に叫ぶ私に、ビビり倒す1匹と1人。
「エーコさんは起きてます、アキラさんより早く。
そして今のヒロインと多分一緒に行動していると思われます。」
アキラの顔が恐怖で怯えるように、引きつり固まった。
私は無言でアキラの前に座りなおす。
「アキラさん、私もエリナに……遠巻きにですけど、この世界に私はいらないと言われたことがあります。
その時私も自分の存在理由を自問自答して寝込んだことがあります。
でも……この世界がたとえ誰のものだったとしても、私は必要なんだと言ってくれる友達がいます。
私が多分乙女ゲームを知っていて、そのストーリー通りに『悪役』に徹していたなら、この世界は『ひとり』の為に、その人の思う通りに進んだのかもしれませんが……。私の友はこの世界は誰のものでもないと言いました。本当に世界は『ヒロイン』の物なのかと。
私はその友の言葉に救われました。
なので、今度は私がアキラさんを救いたいです。
私はこの世界がストーリー通りでなくても、狂ったとは思わないから。」
私はアキラに手を差し出した。
アキラはその手を見つめ、目からはらはらと涙がこぼれていく。
だがそれを拭いはせず、ゆっくりと私を見上げた。
「わ、わたしは……!わたしの世界も、狂ってはいませんか?
わた、わたしも、救われてもいいのでしょうか……?」
とめどなくいろんな感情が湧き上がるようで、言葉に詰まりながら、ひきつりながら。
私に手を添えてた。
私はそれを強く握り返し、頷いた。
「この世界は、誰の世界も狂ってはいないし、きっと誰も自由でいいんだと思います。
だから、アキラさんも一緒に行きましょう。
もう1とか2とか関係ないです!」
もうストーリークラッシャーとでも呼んでくれ。
私は色々吹っ切れた。
これはもう、やるしかないのだと。
ストーリーが何だ。
乙女ゲームが何だ。
この世界はゲームじゃない。
私たちは生きているんだから。
私の得体の知れないやる気に、クラウドが冷めた目で見つめ、やれやれと言わんばかりにあくびをした。




