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第52話 新学期はつつがなく?

学園に入るとまず、校庭に大きな掲示板があり、クラス分けとは別に寮の部屋の場所も変わっていた。

今まで階や階級、学年で分けられていた男女混同だった部屋割りも、仮施設も作られるほど完璧に男女別となっていた。


「……ほへぇ……?」


思わず巨大な掲示板をずっと見上げていると、変な声が口から出ていた。

部屋番号と自分の名前、そして自分のクラスの場所を探すだけでもどれだけの時間を取られたか。

ずっと見上げて痛くなった首を押さえながら、頭を元の位置につなぎ直す様に添えた。


「……コーディ、私Aだった。」


「私もエステルと同じ。マギーも確か一緒だったわ。私バリューズ姓に慣れてなくて、自分の名前まで見失ったけど……」


「コーデリア・バリューズ!なんか前よりかっこいいね。」


コーディは『……そうかしら?』と少し怪訝そうな顔を私に向ける。

私はそれを笑顔で返す。

ていうか決断してから早すぎて、掲示板自体に名前が間に合うとは思っても見なかった。

この学園、優秀すぎる……。


「なら先に寮に行こうか。ここの説明書きに、先に寮の場所を確認してから教室に行けと書いているね」


私は文字を指でなぞりながら、コーディを見た。

コーディも頬を手で支えながら、私を見つめて頷いた。


「とりあえず3人一緒のクラスでよかった。」


私達は寮がある棟にテクテクと歩いていた。


「そうね……。でもあまりに掲示板が大きすぎて首が痛いわね。あと、ワイラー嬢の名前がAにはなくてホッとしたわ」


「……これは女子も危険分子同士は分けられたくさいかな。」


「……まぁ、一応加害者と被害者ですからね……」


困った様にコーディは笑った。


私達の寮がある場所は、魔法学棟に向かう側にあった。

校庭から結構歩いてきた。


「……前より寮から教室が遠くなったね。」


「どうせだったら歴史学棟の方が日当たりが良くてよかったですわね……」


「……確かに。」


寮に着くと早速自分の部屋の階に上がり、部屋を探す。

私とコーディは部屋も同じ階にあり、場所も近くてそこは手を取り合って喜んだ。

部屋を覗くと、エルが部屋の中で私の荷ほどきをしてくれていた。


「エル!」


エルは私に気付き、笑顔で迎えてくれた。


「お嬢様、今回のお部屋あんまり日当たりが良くないですが、とても警備が厳しい場所ですねぇ」


「警備??」


なんで警備?と思わず聞き返した。

エルは笑顔で頷く。


「はい、警備です。このお部屋のセキュリティ、ふんだんに魔法が張り巡らされている様ですよ!」


そう言うと、なんだかよくわからない冊子を取り出して私に見せる。


『ベランダに出る時の注意』

『夜間部屋から出る場合の注意と警告』


パッと目につくだけでも物騒なこの2行が赤く線を引かれて物々しさを醸し出していた。


「ともかく就寝時間が過ぎると、部屋から出ては行けないらしいです!」


と笑顔で言われたが。


「……ここは刑務所かしら……?」


思わず口から出る物騒な例え。

生徒を守るためというより、生徒を閉じ込めるための牢と化してない!?これ。


「とりあえず、お嬢様は教室へ戻らないといけないのではないですか?」


と、エルに言われ『あ、そうでした!』なんて頭をかきながら、慌てて部屋の扉に手をかける。


「あ、お嬢様!」


エルに呼び止められて立ち止まった。


「どうしました?」


「クラウド様の姿が見えないのですが、どちらに行かれたのでしょうか……?」


不安そうに私の周りをキョロキョロと見渡す。


「ああ、クラウドなら私のポーチの中です。」


そういうとソッと腰元に付けていたポーチをエルに見せる。

パチンとフックを外し、中を見せた。


実は自由自在に羽根を生やしたりしまったり出来るのであれば、体も小さくできないかと聞いてみたのだ。

まぁアッサリと『出来るよ』と言うので、夏休みの工作じゃないが。

小さくなったクラウドのおうち型ポーチを作ったのだ。

とは言っても、外から見たら一見してただのドーム型のポーチだ。

そのポーチの底に綿を詰め、ベッドの様な仕様にしたのだが。

いつも使っているバスケットより居心地がいいと本人大満足だった。


エルは感心そうにポーチを見つめ『いてよかったです!』と安心した。

私も笑顔で返し、『また放課後!』と言って部屋を後にした。


コーディと待ち合わせて寮から出るところでマギーを合流できた。

マギーは私達の部屋の下の階らしい。

そんなに階も離れてなくてよかったけど、同じ階にクリスマスちゃんの取り巻きがいたらしく、そこをすごく不安がっていたが。

うちのマギーだって成長しているのだ。

何か言われても、もうキッパリとお断りをするらしい。


……えらいぞ!!

思わず目頭を抑える私に、『おおげさなんですからぁ!』と笑顔で背中を叩かれた。


和気あいあいと3人で教室へはいると、その後をよく知ってる担任が教室に入ってきた。


「みんな席につけよー!」


アーロン先生が教卓に手をついて声をかける。

私は最後までキョロキョロと見渡していたが、Aクラスにエリナの姿はなかった。


放課後当たり前のようにアーロン先生につきまとい、新しい場所へ移動した化学準備室を突き止め、入り浸ることにした。

先生はすごく迷惑そうな顔で私たちを見ていたが、半ば諦めたのかもう何も言わなかった。


「先生、なぜ男女別になったのですか?」


「先生、ビクターたち男子の方のクラスはどうなりましたか?」


「……先生、男子側の担任の先生は?」


「あと、エリナは?」


「……あー、うるさい。一気に質問するな……」


先生は迷惑そうに耳を塞いだ。

そして私達の手の甲に持っていた赤ペンで『×』と書いた。


「……なんですか、これ」


「……この印を見たら静かにするという願いを込めた」


「……多分というか、絶対効き目ないです。断言できます!」


「俺の願いが100%だからな……」


そう言うと海よりも深い溜息を私に吐きかけた。

……生臭くはないが、二酸化炭素を大量に吐かれて、いい気分はしない。

たとえイケメンにやられたとしてもだ。

私のすごく嫌そうな顔に『お前のせいだろう』と言わんばかりに、先生の顔も嫌そうな顔になった。



「はじめの質問から。なぜ男女別になったかと言う説明をする前に、エステル。」


先生が私の方を向いて手を差し出した。


「聖獣をみせろ」


「先生、特別ですからね?」


と、勿体ぶったので危うく大きな定規で叩かれそうになった。

……可愛い冗談なのにー!


頬を膨らましながら、イソイソとポーチのフックを開ける。

開くと小さくなったクラウドがこっちを見ていた。


私が『パチン』と指を鳴らすと、『ポン!』と言う音とともにクラウドが元の大きさに戻った。

それを膝に抱き、先生の方へ向ける。

これこっそり練習したんだ、昨日。

なかなかタイミング合わなかったけど、今やっとうまくいってニヤニヤと気持ち悪いぐらい顔が緩む私。


先生に向けられたクラウドはキョトンとして首を傾げていたが、為すがまま状態。

先生はクラウドを真剣な顔して見つめるとソッと撫でた。


「まさかの本物の聖獣だな……。」


「めっちゃ本物です」


「……本物だな……」


先生は困ったように頭をかいた。


「聖獣復活ですが、まだまだ大丈夫そうですよ」


「……らしいな」


先生は全部わかっているかのように返事をした。


「お前たちの夏休みの色々は、色々…本当に色々話を聞いている……」


思わず『誰からですか』と聞きそうになったけど。

きっと教えてはもらえないだろうなと口をつぐんだ。

誰かに監視でもされていたのだろうか……。


「精霊に聖獣が現れたとなった訳だ。もう学園は大騒ぎになった。…それはもう……。」


「……すいません。」


「……いやお前のせいじゃないとはわかってるが……。」


いや、言いたいことはわかりますよ……。

私はいつでも被害者という立場なのだが。

なぜこんな問題ばっか起こるんだ君の周りは!って事ですよね……?

最近誰かに似たようなことを言われて自覚はしている。


だが私は声を大にして言いたい。

『私だって知りたい。』と。


なんとも言えない顔で『えへら』と笑うしかない私に、また壮大なため息が吐かれた。


「とりあえず、色々頑張ったと言うことは褒めてやろう……」


「……ありがとうございます……」


……微妙に喜べませんけど。

私はまた『えへら』と誤魔化した。


「男女別になったのは、男子に戦闘訓練が必須科目として練り込まれることとなったためだ。」


「戦闘訓練!?」


「……そうだ。精霊に聖獣。まだまだとは言うが、備えあればなんとやらと言うだろう?そう学園で判断されたからだ。」


「えー!女子もやらせてくださいよ!」


『私もやりたかった』と付け加えてみたものの、先生がまた微妙な顔をしたので肩をすくめた。


「お前らと違い貴族の女子には無理だ。このご時世、女は嫁入りのハクをつけるが為に学園に通わせる貴族が殆どだ。戦闘訓練なんてさせてみろ。学園が潰れる事態となることだろうな……」


そう言うとまた頭をかきながら先生は続けた。


「男子は今から魔法、剣術、体術と主に技術専門の勉強が主になってくる。……今から彼らは大変だと思う……。」


「……先生。」


先生の表情でだいぶ事態が重いことに気がつく。


「私達はこんなのほほんとしていいのでしょうか?」


「女子も魔法強化授業が入るぞ。防衛など教える先生が増える。」


「それはちょっと嬉しいかも……」


コーディが思わず口を挟む。


「私もお役に立てる魔法が使えるようになりたいです!」


マギーも頷きながら先生を見た。


「……やる気があるのはいいことだが……」


本日何回目だろうか、もう魂が出るんじゃないかと思うぐらいの溜息をまた吐いた。


「俺はもうしばらくまともに寝れてないぞ…。クッソ忙し過ぎだろう、あの学園長め……!」


先生は眼鏡を人さし指で上げながら、青白い顔で額をおさえる。


「そもそも勢いで男女別にしたところで、教師の数が足らんのだ。専門科目分の教師は確保したとは言え、臨時職員扱いのやつに担任を任せるわけにはいかない。良くて副担任だ。

なので必然的に俺たち元からいた教師が、担任2クラス持つこととなるわけだ。

俺はお前達の学活が終わると次の授業が始まるまでにダッシュで男子のクラスまで行き、そっちでも学活をしなければならない。そもそも棟さえ違うのに、無駄にダッシュしないと間に合わないからな。朝からグロッキーになること請け合いだ。」


「……そんな苦労が……。」


元々生徒の私たちにこんな愚痴を言う人ではないのだが、さぞかし溜まっていたのだろう。

怒涛のごとき口が止まることはなかった。


「朝は女子クラスが終わるまで、臨時の副担任が男子のクラスをつなぐ。放課後は逆に男子が終わったら女子へと急がなければならない。この生活が改善されなければ、正社員の教師が増える前に俺はきっと過労死すると思う。」


『思う』が何故か断定的に聞こえる、怖い。


「……先生が病んでいる……!」


私はワザとらしく口を抑える。


「そりゃ病むだろう!こんな仕事体制だったら!」


溜息しか出てこない口を押さえて、肩を落とす。


「……まぁ、なんだか大変なのですわね……」


コーディさえかけていい言葉が見つかってないよ?


「……まぁ気は使わないでくれ…。その代わり、骨は拾ってくれ。」


「……先生死ぬ前提ですか……」


マギーも困惑している。


そんな時ドカドカと賑やかな音と共に準備室の扉が開くと、1週間ぶりの友人達の顔が揃っていた。


「あー、やっぱいたいた。」


「ほら、だから絶対ここだって言っただろ?」


「王子はここだって言わなかったじゃん!」


「……言ったのは私なのだが……」


「ビクター殿下達の区別付いてる……?」


わちゃわちゃしながら入って来た4人を指差しながら。


「……こいつらみんな同じクラスだからな……」


『担任はどっちも俺だ』と言わんばかりに、また溜息を吐く。

私は思わず笑ってしまった。


「お前なぁ……」


先生がすごく迷惑そうな顔をしたが、私の笑いは止まらなかった。


「いや、だって。……ふふ、クラスが別れても、あんまり変わらないことに、安心したと言うか!」


笑いをこらえながら、口元の手に力がこもるが、笑いは漏れているようで。

先生は『もう好きに笑うがいい』と呆れながら私の額をつついた。


「……私も安心した。エステル元気そうで……。」


エリオットが私を見ながら微笑んでいた。


「元気です、いや元気になりました!」


まだクスクスと笑う私にリオンやセドリック、マギーとビクター、そしてコーディが集まってくる。


クラスや寮が離れて不安だったけど、またこうやって集まれる事に安心した。

……心底。

本当にどうなるかと思ったけど……。


「……あ、エリナだが。」


先生が思い出したように呟いた。


「……彼女はどのクラスにも属さない。サマンサ先生の個人授業を受ける事になった。」


みんなの空気も静まり返る。


「……ずっとですか?」


「いや、実はまだ未定だが、初等部最後の1年は卒業パーティというイベントごともある事だから、男女混合クラスに戻そうかという話があってな。その時のクラス編成に戻ってくるのではないかという話だ。

ダンスのパートナー探さないとだろう…?その時男女別にしてるとパートナーと全く交流できんからな……。」


『あんま詳しくは言えないが…』


頭をかきながら先生は私達から目をそらす。

……あんまって、全部言ってますよね?

情報は嬉しいけど、こんな事私たちに行っても大丈夫なんだろうか?

まぁ、誰にもいいはしませんが!


「……なるほど最後でつじつま合わせが作動しているのかしら?」


思わずノートの内容を思い出す。

私はそこで断罪され、婚約破棄を言い渡される設定だ。

いまは『候補』なので、言い渡されるまでもないのだが。

今のところ、断罪される罪もなく、その罪作りも頑張っていかなければならない。

とりあえず何も思いつかないので、その時になってエリオットに頼めばいいかな?と、かなりその辺りを軽視している自分がいる。

目指せ!断罪されて引きこもり生活!なのだから。


一人で気合いのこもった拳を高らかに上げ、『えいえいおー』をする奇妙な私をみんなが見つめていた。


「……エステル何やってるんだ……」


あぁ、リオンのその顔も久しぶり!

思わず嬉しそうに笑ってしまったので、ドン引きされた。


少し変わった日常が、代わり映えのない日々に戻っていった。

お昼は一緒には無理だったが、ほとんど毎日のようにここに入り浸り、他愛もない会話で過ごしていった。


ふと思い出すのはここにいない一人の少女。

この世界の主と主張する彼女。


私は彼女を忘れることはなかった。


また会える日を心待ちにしている自分がいた。

彼女はもう私を忘れているかもしれないのだけど……。


彼女のいない月日は緩やかに流れ。

私は何事もなく毎日を変わらず友人達と過ごし、14歳の誕生日を迎えようとしていた。


もうすぐノートに書かれた本編のストーリーが始まる年となり、男女別だったクラスはアーロン先生のおっしゃる通り、統合される事となる。

4年の月日は『対象者』と呼ばれていた友人達を見違える程、逞しく、美しく変貌させた。

時折私の目に眩しく映る人物に、それを悟られないように眼鏡の奥に視線を隠した。


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