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第48話 エステル、一か八かの大勝負に出る。

コーディ編、最終話です。

エステルはうまく立ち回れるのでしょうか…?

王様は流石に城から出ることが出来ず、悲しみに包まれながら宰相と王妃に全てを託された。

ほんとは王妃も用事があったみたいだけど、息子の容疑がかかってると無理やりうちにやってきた。


そして馬車も私達と一緒に乗ろうとしたけど、中立の立場の人と容疑者?の我々と同じ馬車に乗ることを宰相に止められる。

……まぁそうだわな。


ターナー家フランチェス家と宰相王妃、そして警備に第2騎士団と第3騎士団・華、第3騎士団・風。

城からも護衛だけで、行きは4台だった馬車が帰りは3倍ぐらいに増えている。

……因みに華組はエリオット、風組はセドリックの護衛となる。

何故第3と第4騎士団とかじゃなかったのか。

2部に分かれた意味。


とりあえず我が家に着いて、全員でサロンへと移動する。

まるでサロンが劇場の様な大人数。

観客いっぱい……。


「……全く時間の無駄だ。さっさと進めろ。」


ターナー父が杖をギリギリと握る。

……怖っ!殴る気満々じゃないか!


思わず自分の肩をギュッと抱きしめる。

クラウドが心配そうに私を見上げていた。


「……大丈夫だよ。仇は取るからね」


私の下手くそなウィンクに『フヘッ』と苦笑いした。

そして、私の背中によじ登り、肩にへばりついた。

……重い。

絶対デブった、この子……。


ヨロヨロとバランスをとりながら、前へ出る。


「実況見分します!」


凄い注目集めている状態で、私は震える手をあげる。


「お祖父様とターナー伯爵、手伝ってもらえますか?」


「……何故私なんだ?」


ターナー父は怪訝そうな顔で私を見る。


「状況を一番わかりやすい位置でわかってもらおうと思いまして……。ダメでしょうか?」


「べナード、いいではないか。さあ手伝ってやろう。」


お祖父様に引っ張られる引っ張られる様に前へ出てくるターナー父。

そして聞こえる様に私に舌打ちをした。


「ではまずダイアンさんはこの状況を見た位置に立ってください。」


「わかりました。」


ダイアンさんは入り口右側にある、椅子の少し後ろに立った。


「おい、エステル。ワシはどこにいればいいのだ?」


「お祖父様はセドリックの位置だから…どこに座ってたんだっけ?」


私はセドリックの方を見た。


「右端のところ。ダイアンがいる場所の少し手前」


「よし、ワシはそこか。」


お祖父様がソファーに腰掛ける。


「ではターナー伯爵はこちらを持って、扉から入ってきてもらえますか?」


そう言うと檻に見立てたクラウドのバスケットを渡した。

それをすごく嫌そうにそれを受け取り、扉の前に立つ。


「では始めます。ターナー様とセドリックは私の合図で、自分たちの行動を口でその都度役の方に説明してください。」


そう言うと両手を『パチン』と叩いた。


「まず、ターナー様はこの部屋に入った時、檻は持ってましたか?」


「いえ……あ、持ってたかな?……すみませんちょっと記憶が。」


「この檻は我が家のものではありません。我が家は狩猟とか生き物を捕獲することがないので。この檻は誰のものですか?」


「……えっと、えー……」


リュカ・ターナーの視線はチャールズ・フランチェスをチラチラと見る。


「……我が家のものです。サイラスと乗馬の約束をした時、そこにウサギが出ると聞いたので、自宅にお土産に持って帰ろうと思って……」


おずおず手をあげるコーディ兄。


「……うさぎ、取る気だったんだ……」


兄がボソリと呆れた様につぶやく。

その声にチャールズが気まずそうに目を泳がせた。


「話を戻します。檻はフランチェス家のもので、あなたはその檻を持っていましたか?それとも何処かに置いていたのですか?」


「……持って入ってきたと思います。」


リュカが渋々と言った。


「では伯爵。カゴを持ってご子息の言った位置へ移動してください。」


リュカを睨みつける様に見ているターナー父は、リュカが指示した場所へとゆっくりと歩いた。


「……すみません、エリオットの騎士長様。お手伝い願えますか?」


私はエリオットの護衛長を呼びつける。


「何でしょうか?」


側に来た事を確認してそっとお願いを耳打ち。


「……わかりました。」


華組騎士長が爽やかな笑顔で移動するのを見てから口を開く。


「こちらの騎士長様には安全のためここで待機してもらいます。」


そう言ってターナー父を見上げた。


「次にご子息はクラウドを捕まえ檻に入れ、部屋から出ようとしました。」


『またか』と言わんばかりに舌打ちをして、ドアに向かって歩き出す。


「そこにお祖父様、前に立ちふさがってください。」


セドリックをチラリと見ると、『ウンウン』と頷いている。


「わかった、こうか?」


お祖父様は胸を突き出し、ターナー父を威嚇している。

……威嚇はしないでいいから……。


「おい、邪魔だ!」


説明もなしにターナー父がお祖父様を突き飛ばそうと手を出した。

それをお祖父様は避ける。


勝手に実況見分が進んだ。


お祖父様が避けた事でターナー父は勢いよく前へ倒れそうになる。


それを華組騎士長が間一髪でターナー父を受け止めてくれた。


「エステル様、これでよろしかったですか?」


イケメン騎士がにっこりと笑う。


「はい、ありがとうございました。」


前のめりに倒れて親子で怪我をされては困るので、華組騎士長に証人になってもらうのと、コケそうになったら支えて欲しいとコッソリ頼んでいたのだ。


「……なんだこれは!!」


ターナー父がひどく怒った様に声を荒げた。


「……どうでしたか?」


「どうとは何だ!!」


「……ではご子息が言われた通りに突き飛ばすとどうなるかやってもらいます。」


「おい!!質問に答えろ!」


「……すぐにわかります。」


私はターナー父を無言で見つめる。

それにまた怒りを露わにして私を睨みつける。


私が無言のまま見つめていたので、仕方なくさっきの位置へと戻った。


「ではお祖父様、ターナー伯爵を突き飛ばしてみてください。……力は加減してお願いします。」


『つき飛ばせ』と言うと絶対全力でやるだろうから、そこは加減してと付け加える。


「はっはっは!わかった。手加減な!」


私の意図を感じたのか豪快に笑い、ターナー父をポンと突き飛ばす。


「……おい!!」


突然押されたターナー父は後ろにバランスを崩す。

そこをサッと華組騎士長が華麗に受け止めた。


思わずホッとした顔をするターナー父。


「……どうでしたか?」


私はターナー父にもう一度聞いた。


「……お前はバカにしているのか!?これで何がわかったと言うんだ!!」


私はゆっくりと観客側の人を見た。


もちろん、私の言いたい事は見てたみんなが感じているだろう。

それはリュカ・ターナーもだ。

とても青い顔で震え出した。

宰相が私の顔を見つめ、ニヤリと笑い頷いた。

そして王妃に耳打ちをする。


私はターナー父の方へ向き直る。


「……よく考えてみてください。

前から突き飛ばされたら後ろへ倒れます。

顎から落ちたということは、自分の体重が前にかかっていたという証拠であります。

そこから見えるのは、どちらが嘘を言っていたかという事です。」


私はジッとターナー父を見つめた。


ハッとした顔で私を見る。


……やっとお気付きになられましたか。


「……何故あなたに手伝ってもらったかと言うと、実際体験してみると全容がわかると思ったからです。」


……言い逃れできない様に。

そう心の中で呟く。


「……王子が後ろから突き飛ばした可能性は?」


「後ろから強く突き飛ばされた場合、もっと強い力と負荷が掛かるため、顎を縫う以上の怪我をすると思います。背中を強く押されることによって、重力で頭が後ろに反ると思うので、とっさに手が出なければ胸から落ちるかもですし、床に手をつく事ができても手首で全体重を受ける訳ですから、両方骨折するかもですねぇ……しかも彼は手をつく事もなく顎から落ちている。

……と言うことは、手を何かで意識を取られてとっさに出せなかったという事。

例えば……誰かに殴りかかっていたとか……。」


私はまっすぐターナー父を見つめる。


ターナー父は眉を何度も触り、私を睨んだ。


「子供のくせに生意気な……」


「……誰が嘘をついていたかわかりましたか?」


「それ以上口を開くな。」


「……」


私はターナー父を見つめたまま。

黙って見つめた。


「……リュカ!!どう言う事だ?…貴様、まさか……!」


突然の怒鳴り声で体が震える。

……まだダメだ。

まだここに立っていないと……!

まだだ。


「……エステル、もうこっちへおいで?」


兄が状況を見て、私に手を差し伸べる。

私は思わず首を振った。


まだダメ。

まだ、勝負はついていない。

私は震える体を気丈に保って立ち尽くした。


「……父上……!こ、これには……」


リュカ・ターナーは手を振りながら後ろに下がる。


「……貴様!!!」


怒りは息子に向いていたのだが、私が見つめ立っているのに気がつくと。


「……全てお前のせいだ。お前が全部狂わせた。黙ってりゃいいものを……!」


怒りは近くにいた私に突如向く。


「戯言をほざいた場合、杖で打ってもいいと言ったよな?さあ、お前の口を噤ませてやる。

やはりあいつの孫だ。孫にまで私を狂わされてなるものか……。」


顔は黒く、怒りで満ちて。

下から見上げてた私にはもう、表情さえも見えなくなっていた。

お祖父様と何かがあったのかな?

でもそれと私は関係ない……!


恐怖に負けたくなくて。

私は見上げた目を強い意思を持ってターナー父を見つめた。

それを見ていたターナー父は笑う。


何かが鈍い音を立てて、私めがけて振り落とされた。


「「「危ない!!」」」


騎士長の言葉と同時に、遠くから悲鳴がたくさん聞こえた。

私はその場から勢いよく吹っ飛ばされ、人形の様に壁にぶつかる。


痛みとか怖いとかもうわからず、ズルズルと床に倒れた。


『エステル!!』


何かが私を呼んだ。


床に転がった私を光が包み込む。


あまりに光が強かったため、ターナー父が両目を押さえ、苦しそうにうごめく。

光は強くなり、私を包んだ。


『宿り主に危害が加えられた。我が身をかけ宿り主を守る。』


私の名前を呼んだ強く暖かい光が何かを言っている。

私に言葉をかけたかと思うと、光は益々強く輝き、そして弾ける。


光がパッと消えたかと思うと、背中に張り付いてた筈のアライグマが私のお腹に乗っていた。


「……クラウド、重いよ」


抱っこして降ろそうと体を起こす。


「……あれ?私どうしてここで寝てるの?」


目をパチパチして周りを見ると。


祖父も兄も母も父も。

そして友達みんなも、私のそばに駆け寄ってきた。


「……聖獣だ……!」


騎士の誰かが叫んだ。


聖獣……?

その言葉にハッとしてクラウドをよく見る。


「あれ?クラウド魔法の粉消えちゃってる?」


「エステル死にかけてたから、オレが助けた」


「え!?死にかけてたの?私」


「かけてたと言うより、死んでたかも?」


「えー……」


せっかく生まれ変わったのに、まだ死にたくない。

人生楽しんで老衰で死にたい。

出来れば。


「……エステル?」


「あぁ、ごめんなさいお祖父様…えっと……」


クラウドとの話に夢中でみんなを置き去りにしていたことを思い出す。

というか、頭がボーッとして……。


「そりゃ頭から血がいっぱい出たしな。」


頭に触れるとドロリとした液体が指に付く。

でも傷も痛みもない。

……変なの。


「……エステル、クラウドは聖獣なのか?」


お祖父様が私の頭の無事をそっと確かめながらそう言った。


「……はい。」


私は小さく頷く。


「なんてこった……!」


「……至急王へ連絡を。」


ヘタリ込む祖父とは別に、慌ただしく騎士さん達がバタバタとしていた。

ターナー父はどこへ行ったのだろう?

そういえば、コーディ兄もリュカの姿も見えない。


「エステル……」


よそ見をしていたら王妃が私のそばへ来た。


「王妃様……すみません、心配をお掛けして……」


姿勢を正そうとしたのだが、そっと手で止められた。


「動いてはいけませんよ、まずは怪我の具合を見てもらわないと。」


「……怪我はクラウドが治してくれたみたいです……」


でも頭がぼーっとする。

貧血かしら?

ていうか脳みその中身は無事なのかしら……。

こぼれたりしてないよね……?


心配になり、何度も頭をそっと撫でる。


「本当に心配しました。無事で本当に良かった……」


王妃の頬に涙が伝う。

そして。

私をそっと抱きしめた。


「王妃様、汚れてしまいます……!」


「そんなことはいいのです。今は無事で本当に良かった。」


王妃は私のために涙を流した。

胸が熱くなる。


「心配かけてごめんなさい……」


王妃の背中にそっと手を回した。


「エステル、クラウドは本当に……?」


お祖父様が険しい顔になり、私を見つめている。


もうバレちゃったし、今更隠すことなんてないよね?

そんな事思いながら、頷くと。


「……まずいことになったな……」


お祖父様が唇を噛んで腕組みをした。


「ダリウス様、至急城へお戻りください。王が待ってます。王妃様も宰相も……」


ダイアンさんがそっと近くによってきてそう言った。


「カーライト令嬢、とりあえず今日はよく休むんだ。後の事は私に任せなさい。

……君はよくやった。」


宰相が私の頭を撫でた。


私の意識はそこで一度途絶える。


お腹の上の重みがフワリと軽くなる。


クラウドは、どこ?

……クラウドを連れて行かないで……。


夢の中でクラウドを探す私。

いくら探しても、いくら歩いても、クラウドは出てこない。

たくさん呼び続けて、喉が枯れる。

呼ぼうとしても声が出なくなる。


クラウドはどこへ……?


『クラウドは消えてしまったよ』


どうして?


道端に誰かが座っていて通れずにいる。


『クラウドは消えてしまったのさ』


そんなはずはない、さっき話をしたもの。

探せばどこかにいるはず。


『光が弾けたのさ。お前を助けるために。』


そんな。

そんな事はない。

きっとクラウドは負けない。


『お前を守るために、クラウドは消えた』


そんな……!

クラウドはどこ!?


『……お前も消えるがいい。誰にも邪魔はさせない。もうすぐ世界は』


世界は……?


目深にかぶったフードの奥で、ニッと笑った口だけが見えた。

大きな口に、暗闇に光るトゲトゲした歯。

私に向かって大きく口が開いた。


そこで目が覚めた。


「エステル!!」

「気が付いたのね!」


マギーとコーディが同時に左右で叫んだ。


「……耳がキーンってしてるう……」


私の間抜けな答えに、マギーとコーディは泣きながら笑った。


「もう、馬鹿ね!心配してたのに、笑っちゃったわ!」


泣いてるのか笑ってるのか分からない肩の震わせに私も微笑む。


「コーディ、大丈夫?」


「私より自分の心配しなさい!もう3日も眠っていたのよ。」


「ぐえぇ?」


なんか変な声が出た。


その間抜けな声にまた2人は笑った。


マギーは外にいるみんなに私が目を覚ましたことを告げに外に出た。


「この3日でどうなった?」


「……ターナーとフランチェスは爵位剥奪となるわ。あと、ターナー伯爵はあなたに重傷を負わせた罪で牢に閉じこめられてる。リュカ様も王子に手をあげた事とか……それをごまかすために嘘ついたりで、また罪が重くなりそうね……」


「……コーディ、私を恨んでる?」


泣きそうな顔でコーディを見つめた。

コーディは笑顔で首を振った。


「良かったと、ホッとしたと。それが一番の気持ちだった。

エステル助けてくれてありがとう……。」


コーディは私の手を強く握った。


「でもあれだけ嫌だった家がなくなるとなったら、少し寂しく思うのだけど……。私、平民になるのよね。…なりたかったと思ってたけど、少し怖いの……」


コーディはそう言って泣き出した。

気丈な彼女が声をあげて泣く姿に、私も声をあげて泣いた。

コーディを抱きしめた。

コーディも私を強く抱きしめてくれた。


私は何度も謝った。

何度もなんども。


もっといい方法があったのではないか。

この件は何もせず、賠償金で方をつけたほうがよかったのではないか。

私のせいで彼女が平民になってしまう。

伯爵という後ろ盾もなくなるのだから、不安でいっぱいなのもわかる。

……私のせいだ。


私の謝罪にコーディはずっと首を振った。

私のごめんなさいと同じぐらい、私にありがとうと言った。

私たちはしばらく泣き続けた。


「……お話し中、ちょっといいかな?」


ドアを内側からノックする、兄が立っていた。


「お兄様入ってからノックは変ですよ……」


「……いや、ノックいっぱいしたから!……それだけわんわん泣いてたらノックなんか聞こえてなかったでしょ……」


兄が苦笑いをしながら、そばに寄ってきた。

コーディが顔を真っ赤にして後退りをする。

コーディのこんなところを見たことがない私は、その様子に驚き戸惑った。


「コーデリア嬢、ちょっとそこで待ってて。」


兄はニッコリとコーディに笑いかける。


「エステル、気が付いてよかった。僕はね。あんな無茶しなきゃいけなかったのかと、とても怒っているからね?覚悟したほうがいいよ。」


そういうとより一層笑顔に輝きを増し、私を見つめていた。

……怖い。

すごーく怖い。


「ご、ごめんなさい。お兄様……でもクラウドのお陰で、傷はないので!……それに私は病み上がりですし……」


そこまで言ったところで、ふと夢の内容を思い出す。


「……あれ、クラウドは?」


ゆっくりベッドから起きて、辺りを見回した。


コーディと兄が、ハッとした様な顔を見合わした。


……え?

まさか……?


何かを察する様に動きが止まる。

そして、自分の顔がみるみる血の気が引くのが分かる。


「クラウドは何処ですか……?」


2人の方を見つめ、聞いてみる。


「……クラウドは……」


コーディは何も言わず、下を向く。

兄も何か言いにくそうにそこまで言って、唇をキュッと結ぶ。


「……そんな……!まさか。」


まさか。

喉の奥が押しつぶされる様な感覚に、言葉が詰まる。


まさか……。

誰も行方を言わないこの状況に息が出来なくなった。


「私を助けるために……そんな……!!」


慌てて飛び起きる私。


「……ダメだ!まだ起き上がっては!!」


ベッドから出ようとした私を兄が止める。


「……お兄様……!!」


私の目から次々と涙が溢れた。


「……エステル、落ち着いて、聞いて。」


『……わかった?』そう確認される。


私はゆっくり頷く。


だけど涙は止まらず、私はそれを拭うことも出来ないでいた。

呼吸がうまく出来ず、しゃっくりの様な音が喉から漏れる。


泣きながら震えるわたしを、コーディがそっと私に寄り添うように肩を抱いてくれた。


もうクラウドに会えないの?

こんな事なら太り過ぎとか言わないで、いっぱいおやつ食べさせてあげればよかった。

もう会えないなら、もっとちゃんと『ありがとう』や『大好きだよ』って、いっぱい言ってあげたらよかった。

……ほんとにもう会えないの?


ただ流れる涙を隠すように、両手で覆った。


「エステル!!起きたのか?」


ビョーンと何かが私の頭にしがみついた。


……。


「おい、まだ頭の中、目が覚めてないのか?脳みそ溢れちゃったんじゃないか?」


べしべしと小さな手が私の頭を叩く。


……。


私はベッドの上に立ち上がった。


「頭の中に目はないから覚めるわけないだろう!!!」


私が勢いよく立ち上がったので、頭にへばりついた生き物はボヨンとベッドにバウンドして落ちた。


「……クラウド!!!」


「……なんだよ!!」


私は両手を広げた。


そうすると小さなアライグマは私めがけて飛んできた。

ギュッと、抱きしめる。


「……クラウド、無事でよかった。」


「……エステルもな。」


兄とコーディは笑いを堪えるように肩を震わせていた。


「……お兄様?あとで覚えとけの仕返しは済みましたか?」


ていうかこれは仕返しの域を超えてる。

私は怒っているんだから!


怒りでワナワナと震えながら、兄の方を見る。


「ごめんごめん、だって足元にずっといるのに、見えてないんだもの。でもクラウドもずっとエステルと一緒に眠り込んでいたんだよ?2人とも危ない状態だったんだからね!」


夢が現実ではなかったことを、心底ホッとする。

クラウドを抱っこしたまま、ベッドに座り込んだ。


ホッとしたほうが強すぎて、兄のイタズラはどうでも良くなる。


「……ほんとに良かった。」


「……あんまりよくはないけどね……。」


ふと入り口を見ると、リオンが立っていた。

後ろにビクターもマギーもいる。


「……クラウドが聖獣とわかった時点で、かなりの大騒ぎになってる。この3日エステルのお祖父様やうちの父も家に帰っていないぐらいだ。」


「……どういう事?」


「聖獣が目覚めたということは、この世界に危機が迫っているという事らしい。」


世界に危機……?

……えっと。

そんな事エリナは何も言ってなかったけど……?


私が何も理解できてない顔でポカンとしてたら、リオンがため息をついた。


「……色々変わってるんだと思う。なぜだかわからないけど、この世界はもしかして、エリナが知るはずもない状況が、どんどん進んでいるのかもしれない……。」


エリナの知らない状況……?


「……待って、ちょっと理解が全く追いついてない……。」


不安が強くなり、クラウドを抱きしめる力が強くなる。


「……エステル、オレ、死ぬ!」


と言われ、慌てて手から離した。


「ていうか、そっちも大事だけど、こっちも急がなきゃならない大事な用事があるんだ。ちょっとお話し中だけど僕の話を聞いてくれる?」


そういうと兄は『はいっ!』と、片手を大きくあげる。


「「……え?」」


驚いたのは私とコーディ。

後ろの3人は何か知ってる様な?


兄は私とコーディの驚いた顔に、満面の笑顔を浮かべる。

そしてサッと跪くとコーディの手を取る。


「「……え!?」」


また私とコーディの声が揃う。


「コーデリア嬢。僕と成人したら結婚の約束をしていただけませんか?」


「「えぇーー!?」」


力いっぱい叫んだら、思わずベッドに倒れた。


待って!!色々あり過ぎて、許容範囲を超えています。

限界値振り切っております。


……キュウ。



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