第47話 火蓋が切って落とされたのだけど
「では経緯を。まずは訴えを起こしたリュカ・ターナー。其方から話せ」
「……はい。」
豆腐2号が喉元を押さえながら咳払いをした。
「先日、夏休みの休暇中に招待されたサイラス・カーライト家で生徒会のメンバーと休暇を楽しんでおりました。私がカーライト家のサロンにて、カーライト家のペットであるタヌキが私に噛み付いてきまして……。その時の傷がこちらです。」
そう言うとチラリと左腕を出した。
腕に遠目から虫刺されのような赤いものが見えたが、歯型なのか!?と言う疑問が残る。
そもそもクラウドはビビって反撃さえしてないぽいから、クラウドのつけた傷じゃないのは明らか。
私は大きく息を吐く。
その態度をチラリと睨むように見た豆腐。
「これが噛まれた証拠です。噛まれた事で何か野生の動物特有の感染症などにかかったら危ないと思い、タヌキを檻に閉じ込めようといたしましたら、こちらのセドリック王子が突然私に殴りかかってきたのでございます。私は訳がわからず思わず後ろに避けましたら、今度は突き飛ばしてきたので、バランスを崩し、前側に倒れてしまった訳でございます。…その傷がこの顎に、…5針は縫いました。」
痛そうに顎のガーゼを外し、傷を王様達に見せる。
見せたら再びガーゼを素早く貼り付けた。
……バッチリ3針な。
5針とか多く見積もってんじゃないよ……。
「ターナーの言い分はわかった。次にセドリック。」
「はい。」
「今の言い分に間違いなはないか?」
「間違いだらけですけど?」
「……セドリック!」
セドリックの言葉にいち早く王妃が怖い顔で静止した。
その顔を見てとても嫌そうな顔をして。
「異議があります。全て間違いでございます。」
と不本意そうな顔をしながら言った。
「……と言うと?其方も説明してみよ。」
「……はい。」
セドリックは渋々立ち上がり説明を始めた。
「そもそも、サロンにいたのは僕が先。エステルの部屋から本を持って来たので読んでたら、後から檻に入れたクラウドを……えーっと?」
セドリックがリュカ・ターナーに指をさした。
「名前なんだっけ?」
リュカ・ターナーの顔がカッと赤くなると同時に。
「「「リュカ・ターナー!!!」」」
王妃、本人、リュカ・ターナーの両親、フランチェス父、兄の声がピッタリと揃った。
「あぁ、そうだった。……ていうか一回も名乗られた覚えもないから知ってる訳ないんだけど?」
と早口で言った。
「んで、そのリュカ・ターナーがクラウドを檻に入れてサロンにやって来た。僕は『それはエステルのペットだから檻から出して』と言った。そしたら彼は『害虫は駆除する』と聞いてくれなかったので『言ってることが理解できないなんて虫けら以下だなぁ』と言った。そしたら、ほら。今と同じ顔して『年下のくせに生意気だ』と言って、僕に殴りかかって来た。ダイアンが『危ない』って言いながら走って来たので、メンドくさいから僕が避けたら勝手にそのまま前にコケた。」
『以上!』と鼻をフンと鳴らした。
「……クラウドとは?」
王様がセドリックを見た。
「……発言をお許しください、エステル・カーライトと申します。」
私は静かに手をあげる。
「うむ、よい。申してみよ」
王様の顔が私と目が合って少し綻ぶ。
しばらく会ってないけど、王様お元気そうで何よりです。
「クラウドとはこの子です。私のペットでアライグマです。」
私はバスケットにいたクラウドをそっと抱き抱え、みんなに見える位置に座らせる。
クラウドはキョトンとした顔をしてフンフンと辺りの匂いを嗅ぎながらキョロキョロした。
「おお、これがクラウドか。我が国のシンボルとなるアライグマをペットとは、流石であるな!」
王様私に激甘発言。
王妃もいっしょになってニコニコしている。
「……オホン、ちょっとよろしいか?」
大きな咳払いをして、ターナー父が手を挙げた。
「申してみよ。」
王様が答えた。
「王子はうちの息子が嘘をついていると仰るのかな?まるで真反対な発言をされているが?」
『嘘をついてんだよ』と、弁護側の人間は全員顔がスンとする。
「檻に入れた証拠にクラウドの鼻が檻の金網がクッキリ残るぐらいに毛が抜けてるし。そもそもこっちにはカーライトの侍女やうちの騎士が全部見ているから証人だって沢山いるんだけど?」
セドリックの発言に鼻で笑うターナー父。
「失礼なことを言うようだが、自分付きの騎士に口裏合わせるぐらい可能だろう?自分付きの者は証人として効力はないはず。」
『やれやれ、これだから子供は』
言いはしないが態度がそう言っている。
あと、顔で。
そんなことを言いそうな目でセドリックを見ている。
セドリックはムッとした顔をする。
「騎士は確かに我が王国に忠誠を誓うておるが、やってもいない事をやったなどと言う騎士はうちには1人もおらん。勿論、やっている事を忠誠心でやってないと言うこともだ。」
ムッとしたのは王様も一緒だったのかもしれない。
眉がよってるとこが誰かさんにそっくりだ。
思わず細く微笑むと。
「カーライト伯爵令嬢、何がおかしい?」
ターナー父が迫力のある顔ですごんできた。
「あ、いえ。……思い出し笑いです、申し訳ありません。」
思わず両手で口元を押さえて謝罪するが、ターナー父の機嫌は悪くなったままだった。
「あなたの家で起きた問題だ、他人事のような事では困るのだよ!全く祖父の栄光に胡座をかき、甘やかされて育つからこうなるのではないか。」
お行儀悪ーい、この子!躾がなってなーい!
ってっことですね、すみません。
流石の祖父も黙ってません。
「ターナー。失言が過ぎるのはそちらの方だ。こっちの家庭の事情に口出すのであれば、俺がお前の家の事情にも携わってやろうか?色々噂で聞いておるぞ?」
祖父が笑顔で顎を撫でながらターナー父を見つめる。
ターナー父は祖父を横目で睨みつけ、顎を突き出した。
「いまだ過去の栄光にしがみつき、振りかざしているお前に何が出来るか?我が家に問題などない。」
その顔のふてぶてしさに祖父は豪快に笑った。
「そうか、お前はその過去の栄光が欲しかったのか!遠慮せずそう言えば最前線に立たせてやったものを!」
「……な!?」
「……もうよせ。いまはお前たちがいがみ合ってる場合ではないだろう。」
王様が額を押さえ溜息を吐きながら続けた。
「ともかく、我が国を守る騎士が信用に値せんと言うことは、その発言それなりの理由があるのだろうな?」
王様がターナー父を厳しい目で見つめた。
ターナー父は息子をチラリと見た。
リュカ・ターナーは頷いて発言のため、手を挙げた。
「セドリック殿下はそこの騎士の弱みを握っているのか『自分の言うことが聞けないとクビにする』とおっしゃられておりました。」
……わぁ、ありえそうなことを言うなこの人。
セドリックの普段の行いとは。
だがダイアンさんの顔。
『はぁ!?』って顔である。
この顔を見れば何となく答えが想像はつく。
「ダイアン第3騎士長、発言せよ。」
「……はい。私は殿下をお守りするのが職務でありますので、日々の行動を注意し、付きまとっている存在で御座います。なので殿下に疎まれているのも事実です。
ターナー公子がお聞きになった言葉は私を脅していたわけではなく、『付いて来るな。行動を制限するな。それが聞けないのであればクビにする。』この言葉は1日に5回は仰る殿下の口癖の様なものです。
これはどの騎士が付いても同じ事をおっしゃられているので、きっと近くにいれば誰もが聞ける事だと思っております。私の証言が不確かなものだと疑われるのであれば、学園の教師、教授などに聞いていただけると覚えておいでの方もいらっしゃるでしょう。
ターナー伯爵、エボン先生をご存知ではないですか?セドリック殿下はこの口癖をあまりに仰るので、エボン先生から再三にわたって注意をいただいております。よかったらお聞きになってください。」
よく回るな、この口。
思わずダイアンさんを見つめる。
主に口元。
ものすごい爽やかな笑顔で説明する。
エボン先生の名前が出た事で、ターナー父が渋い顔をした。
「……その件はわかった。」
あれ?アッサリと認めた。
余りにアッサリと認めたので、リュカ・ターナーが父親の顔をびっくりした顔で見つめている。
「……エボン先生はうちの父とターナー伯爵の恩師なの…。だから聞かなくとも認めるしかないわね。うまいとこ突いたわ……。」
後ろからコーディがコソコソと耳打ちをしてくれた。
……なるほど。
恩師なんて自分の若い時を知ってる存在だろうし、自分の都合のよい口裏も合わせてもらえない。
どっちにも真っ白な中立な証人となる。
ダイアンさん、侮れないな。
ダイアンさんはニッコリと笑顔をキープしつつ話を続ける。
「自分の発言が証人の効果がないのでしたら、職を辞す覚悟で証言させていただきます。
私は王国、並びに王に忠誠を誓っております。殿下には王の命令で付き従っておりますが、殿下の都合が良くなる様な命令を私が聞くことは、まずありません。
私の忠誠は国に、王にあります。
その上で再び証言させていただきますが、『リュカ・ターナー公子はセドリック殿下がおっしゃられた通り、殿下に殴りかかり、避けられた事で前に倒れられた』これが私の見た事実であります。」
ダイアンさんは右手を胸に置き、綺麗にお辞儀をした。
「……これについては何か意見はあるか?」
眉を寄せ、王様はターナー父の方を見た。
ターナー父は表情を変えず、ダイアンさんを見つめている。
「我が息子が嘘をついていると、お前は言うのだな?」
「嘘か誠かの判断は私がするものではありません。私は見たままを証言いたしました。」
ダイアンさんお辞儀したままの姿勢で質問に答えた。
「これでは話が平行線だ。私は息子を信じ、訴えを起こすとする。賠償金と謝罪、息子を怪我させた事をについて、当事者が罪を償う事を求める。」
ターナー父は立ち上がり、扉の方へ歩き出した。
「ま、待ってください。」
思わず、手を上げてしまった。
まさかの私の挙手に、家族友人一同が『エステル!?』という顔をしている。
…そうだよね、私ごときが発言するなんてね?
でも、このままだとうやむやになってしまう。
一番怖かったのはクラウドだ。
怖くて、痛かったと思う。
本当に罪を償わなければいけないのは……?
「……エステル、なんだ?申してみよ。」
王様も驚いた顔で私を見ている。
「あの、すみません。ターナーち……伯爵、私の話を聞いてください。」
入り口に向かう途中で振り向き、怪訝そうに私を見つめる。
「……子供の戯言を私が聞くとでも?」
「……子供の戯言かもしれません。でも、私の話を聞いてから、ターナー公子とどちらが正しいか判断をして欲しいと思って…発言をお許しくださいませんか?」
「……言い訳ばかり並べる子供は我が家では杖で打たれる罰。お前の戯言が聞くに値せぬと思ったら、杖で叩いても文句は言わんな?」
私は唾を飲み込んだ。
これは賭けだ。
例え叩かれても、この人を黙す何かを知らしめないと。
この陰険オヤジをこの場から帰してしまえば、私たちの立場は悪くなる。
「……ご納得されなければ、それも仕方ありません。」
「エステル!?」
兄が立ち上がった。
「バカなことを言うな。杖で殴られたら擦り傷どころじゃ済まないぞ!?」
お祖父様も私をかばう様に立ち上がる。
「待って、口出しはしないで。証拠がないなら、反論できない状況を説明するしかないんだから……。」
小声でみんなを制す。
そして。
「申し訳ありません、皆様。説明するには我が家でもよろしいでしょうか。ターナー公子がセドリック殿下に突き飛ばされたという事件現場でご説明したいのですが……。」
「……茶番にはつきあっていられんな!」
ターナー父は肩をすくめる。
「……ご子息の嘘がバレるのが怖いのですか?」
ギュンと首がこっちに凄い勢いで向き、凄い怖い顔で睨まれた。
「……失言でしたぁ!」
でも戯言じゃない。フン。
「……そこまで言うなら行ってやろう。ダリウス、案内しろ。」
のってきた……!
怒りのターゲットは私に向いた。
どうやってこじつけて私を杖で殴ってやろうかと考えているに違いない。
これは一種のチャンスだ。
現場で同じ状況で確証を掴めば、私たちの勝ち。
負けられない。
賠償金と名誉の問題だ。
「エステル、いいのか?」
お祖父様が私に言う。
「はい、お任せください。」
私の言葉に祖父は満面の笑みを浮かべた。
「この戦争、勝てる勝算があるのか。……面白い!」
大きな手で私の頭を豪快に撫で回す。
「ターナーとフランチェスが逃げぬ様、ワシが必ず連れて行こう。エステル達は先に戻れ。」
そう言うとターナー父の方へツカツカと歩いて行った。
ヤバい。
緊張で手汗やばい。
ギュッと握って開く。
じっと自分の汗ばんだ手のひらをみつめて『よし!』と頬を叩き、気合いを入れる。
……最後の戦いだ。
ここで失敗するにはいかない。
私はみんなを見て頷くと、ニッと笑った。
みんなもつられて笑う。
さあ、最終決戦の舞台へ……!




