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第44話 エステル、本気で考える。

「お兄様、コーディがタイプだと言ってましたよね?」


「……いきなりどうしたんだい?」


キョットーンとした顔で私を見つめる兄。


「生徒会長から奪ってください」


「……何をだい?」


私の突拍子のない言葉に、読んでた本をドサリと落とす。

それをサッと拾い上げグイッと兄に渡しながら。


「コーディをあんな暴力鎖国男から奪い去ってください!」


とても強い目ヂカラで兄を見つめながらゴリ押した。


「……うーん?エステルちょっと意味がわからない……」


困惑する兄に構う事なく眼力で押しまくる私。

流石の天使の笑顔も縦線が見えるほど困っている様子。


「エステル何を言い出すと思えば……!」


すごい剣幕で走っていった私を追いかけてきたリオンも何故か青ざめながら後ろに立っていた。


「だってあんな奴ら許せない……!!」


「……とりあえず、ちゃんと話して?」


兄が泣きそうになった私の頭をポンポンと撫でた。

ポツポツとサロンでの出来事を説明しだす。


兄は何かを考えるように首を傾げた。


「……そうか。エステルが殴られそうになったのは許せないね。でも庇うとはいえ、前に出るのもよくない。」


兄が私を見た。


「成人が近い男子の力で叩かれたら、エステル大怪我するところだったよ?」


「それは……、だって、コーディが……」


「庇うにしても前に出るのはダメ。女の子なんだから!」


「……はい。」


「グレイス公子、妹を助けてくれてありがとう。」


そういうと兄はリオンに頭を下げた。


「いえ、僕は……!」


リオンも恐縮したように頭を下げる。


「さて、話はわかったよ。これは僕に預けてくれるかい?」


「お兄様に?」


「……うん。この家にいる限り接触させないようにするよ。いいね?」


「……はい」


「あと簡単に奪うとか言っちゃダメね?」


人差し指を口に当て微笑む兄。

だが目が笑っていない。

……ごめんなさい!!


シュンと尻尾と耳が下がる小犬の様に小さくなる私。


それを見て兄がもう一度微笑み、自室を後にした。


我々の悪巧みは結局まとまらず、兄にチクってなんとかしてもらおう。

コーディに内緒で兄とくっつけちゃおう。

もしくはセドリックに……。

なんて話となっていた。

……浅はかですよね、知ってる。わかってる……。


結局兄になんとかしてもらおうって部屋を飛び出し兄にごり押してみたものの、怒られて終了。

……ダメダメだ。


今解決しないと、コーディはお家に帰ったら酷い結果となる。

勿論このまま学園に戻るので、家に帰るのは春休みとかになるのだが……。

それまでにも弁解する機会がなければ、あの豆腐頭どもは先に有利な手を出してしまうかもしれない。

だったら今なんとかしないといけないと、焦ってしまったのだ。


「これじゃ絶体絶命だよ」


廊下をトボトボと歩く私の後ろをリオンがついて歩く。


「まだ諦めるには早いよ。いざとなったら僕のうちに養女に貰うとか言う手もあるし……。」


……頑なに婚約者のフリはしてくれないリオン。

思う人でもいるのだろうか?

思わず見つめて首をかしげる。

……すごい勢いで目をそらされた。


「養女ならうちがもらいたい……!でもコーディのお父さんが絶対許すはずないんだよね……」


娘が政治的に利用できると考えてる節があるのに、手放すはずもなく……。

『はぁ』と溜息をこぼした。


コーディは私の部屋にいる。

というか私の部屋にいるなら絶対に豆腐頭達は訪ねてこれない。

だってお世話になってる領地の娘の部屋にワザワザ妹がいたとしても訪ねてこれるはずがないから。

ましては私はこう見えても王太子妃候補なわけで。

おかげでいくら私の部屋からコーディを呼び出そうとしても、侍女が速攻で門前払いをしてくれている。

私のできる根回しはここまでだ。


自分の力の無さにギリギリと歯がすり減る音がする。


「とにかくもう一度作戦を練り直そう。」


リオンが私の肩を叩いた。


「……そうだね。」


私は頷いた。



「とりあえず、婚約解消についてまとめると。」


ビクターが意外に能力発揮。

ダイアンさんのことがあったから詳しいのか?


「お互いの同意と連盟のサインがあれば王国に届け出れば受理される。また相手に暴力や不義、不貞があった場合、王国に訴え出て受理されれば、一方的な婚約解消が認められる。」


「……暴力で訴えよう。」


「……ただし家長のサインが必須。」


「……はいオワター!」


「……まぁ、リュカ様に不義が認められ受理されたとしても、すぐ同じような婚約者とあてがわれますわね……。」


「コーディのお父さんを買収するしかないのか……!」


「とりあえず、ターナー家より利用価値がある婚約者を連れてくるしかないんだよなぁ……」


そもそも豆腐家の利用価値とは。


……豆腐のいいとこはヘルシーなところ。

ダイエットにも最適だけど、イソフラボンは取り過ぎたら危険なんだよ。


こっちの世界じゃ、誰も豆腐なんて知らないと思うけど。

……ダメだ、頭が考えることを拒否して現実逃避をし始めた。


ううう。


「フランチェスはそれほど古くない貴族ですの。貿易で富を得て、貴族の家名を買い一代で大きくなりました。ですから父は貴族としての名誉や実績と繋がりたい節があって……。母を妻として迎え入れたのも、お金に困った古き貴族から選んだのだと思います。

母の家名を後ろ盾にますますフランチェスは爵位を上げていき、実績を得てきました。

ターナーも名は古い貴族で、贅沢し過ぎたせいで領民にもお金がなくプライドだけの貴族です。ターナー家に私がお嫁に行くと、ターナーの家に支度金という名目で多額な援助金が渡る予定なので結婚を急いでいるのです。

そのような理由から、ターナーから婚約破棄は絶対にないでしょうね。」


コーディは斜め下を向きながら、頬に手を当てている。

彼女が困ったり考え込むとやる仕草で、今日は目も曇っている気がする。


「……そーいう貴族って貴族やめればいいのになぁ。プライドばかり高くて領民は飢えるばかり……。領地返還して平民に落ちればいいんだ。」


イライラする様に爪を噛む私をコーディが困ったように笑っていた。


「それで得をする貴族もいるのです。うちの様な……。」


「それでコーディは得を得てないよね?コーディのお父さんの問題だ。と言うかフランチェス兄が継ぐ予定なんだから、全くコーディは関係ない。わざわざ娘を人身御供にしなくても『ターナーの後ろ盾くれ、そしたら援助はする』でいけるんじゃないの?」


「そうそう単純じゃないだろう……」


ビクターが口を開いた。


「うちだって代々騎士という家系ってだけでもってるぜ?ほとんど城で働いてるから爵位はあっても領地もわずかだし。……まぁほぼ男勢は家にいないから領地なんてあっても管理できないけど……。」


「……うちも父が宰相だから自分の領地は管理できるほどしかないね。管理は母と雇ってる領主に任せっきりだしね。

……エステルのとこは結構領地でかいよね。」


「…だって英雄騎士ですわよね?お祖父様。」


その通りだ。

うちのお祖父様は昔英雄騎士として戦争で数々の伝説があるほどの腕前だったらしい。

今は父と領地の管理に忙しそうだが、いまだ現役で剣を振っているし。

その伝説と功績のおかげで領地だけはたくさんもっている。

それでもお祖父様は領民を大事にして領民を守っている素敵なお祖父様。


「私はよくしらないんだよね……」


どれだけの領地があるなんて全くわからない。

カーライトをついだ時、兄が把握して管理してくれるだろう。

私はそれを上手に回せる様に手伝うのみ。


「これだけの領地を管理しているとはすごいお祖父様だよね……」


リオンが感心する様に頷いた。

私もとりあえず頷く。


「というか天下り貴族を取り締まりたかったら、エステルが王妃になってバリバリ法を改定しまくればいいんじゃね?」


ビクターが無邪気な顔して笑う。


「あはは、冗談がすぎるぞこのやろう?」


満面な笑みですが、言葉は酷いものである。


ビクターが『ん?』という顔をしたがまさかの笑顔で暴言なんて思わなかったのだろう。

気のせいだと思ってまた笑い返してきた。


無意味に2人で笑い合う中、リオンとコーディが苦笑いしていた。


「どうやったらターナーよりいい相手になれるかな?ターナーより利用価値があればその相手に婚約を保有してもらえればいいわけでしょう?

というかコーディの勉強に理解があればいいわけで。

思う存分コーディが勉強できて、時期がきたら破棄してもらう。

そしてフランチェスがターナー家より得をするなんて家名。」


「公爵、侯爵あたりだろうなぁ。伯爵に関しては王家とゆかりがあるとか、領地がデカイとか、貿易が盛んとか…あと何かしら有名だったり?」


指を折りながらビクターが呟いた。


そして全員がハッとした顔をする。


「……カーライト家が最適だね……!」


「もうわかった。私がコーディを嫁にもらう……!」


はい、結論が出た。


思わず全員が苦笑いしたが、もうヤケクソでその手で行くしかないよね!!

兄には断られたし。

諦めたくはないが、万策が尽きる気持ち。


「ともかくターナー家のお金が解決したらコーディを貰う意味がなくなるんだよね。

温泉でも出ればいいのにな、あいつの領地に。」


「それでもお金にがめつそうだから婚約は無くなりそうにないと思うぞ……」


ビクターが申し訳なさそうな顔をしながら私を見る。


「……あ、やっぱり?」


じゃあこの案はダメじゃないか!


「領地の管理できてない貴族は家名剥奪しろよおおお!」


私が思わず泣き言いいながら机にうつ伏せる。


「だから、エステルが王妃になって法を……」


「お口チャック!!」


私が叫ぶと同時に、マギーがビクターのお口に手を当てた。

王妃なんてならないからな。


「やはり私は勘当されて平民になるしかないのかしらね。そしたら奨学金申請して進学できるのに……。」


頬に手を当てて、俯くコーディ。


「もしくは何かしら国のために功績を挙げ、個人で爵位を貰うとかな?」


「個人で爵位もらったら婚約破棄できるの?」


ビクターの話にマギーが首を傾げた。


「爵位を受けた人が女性の場合、爵位を継ぐ子を産む育てなければならないため、婿を取らないといけないからな。もしくは養子を迎えることとなる。」


「養子もらうとするなら結婚しなくてもいいのか……。」


リオンが人さし指を唇に当てて考え込む。


「まぁそうなるな。」


ビクターが頷いた。


「それいいね!最悪それを目指したらいいんじゃない?」


「…だが功績なんて簡単に取れるもんじゃない。国に対して利益が出るものを発明するだとか、戦争で名を挙げるとか、そういう大変なものだぞ……」


でもなんか王妃に頼んだら『いいよ』ってくれそうで怖いけど。

それはしたらあかんやつ。


「でもコーディが功績を残して爵位貰えば、コーディのお父さんも何も言えなくなるよね?」


「そうだとしても、並大抵なことではないんだ、エステル。」


「……何か国の利益になる事を発明すればいいのよね?」


「……エステル?」


リオンが私の顔を怪訝そうに見た。

彼は私が悪い顔をしていることに気がついたらしい。


この国にはなくて、前世の記憶で使えそうなものを発明した体で世に出したら爵位取れるんじゃないの?

なんて黒い笑みをしているわけで。

流石にこーいう時に使わないでいつ使うんだ、前世の記憶。

……まぁ、大したことは覚えていないけど、何かしら役に立てそうなものはあるはず!


仁王立ちして不敵な笑みを浮かべる私。


……あれ?そういえば。

話に夢中で気がつかなかったけど、クラウドどこ行ったんだろう?

そして、あれ?


「セドリックはどこ行った?」


「……そう言えばずっと姿を見ていないわね」


コーディが辺りを見渡す。


嫌な予感。

胸騒ぎ。

あいつを放置してるとろくなことがないという妖怪アンテナがピコンピコン鳴り響く。


「……ちょっと探してくるね」


そう言って扉に手をかけたら。


「お嬢様たいへんですぅ!!」


エルが慌てて部屋に飛び込んできた。


まさか。

嫌な予感的中。


「何があったの?」


「セドリック殿下が……サロンの方へすぐきてください!!」


エルがとても動揺して半泣きで私に縋る。

みんなの顔色も良くない。

私はみんなを見渡して頷く。


「とりあえずサロンへ……!」


私たちはサロンに向かって走り出した。



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