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第4話 第二王子登場。

あれから5日経ちましたが、絶賛ごちゃごちゃしております。

何故か。

そう、何故か。


原因はお祖父様。

私の後頭部の傷のことで責任婚約が決まった事に、お母様以上の怒りを沸騰させたから。

王家どころか、お祖父様にも逆らえないお父様がまた叱られる羽目になったのだが、その話は置いといて……。


沸騰したままワシが話つけると城に乗り込んでいった元国の英雄騎士は、王様と派手に喧嘩して帰ってきたのだった。

王様あの時いなかったし、王妃様の暴走による婚約に賛成してるなんて思いもしてなかったのだけど、どうやら快く思ってくれてたようで。

お祖父様が『孫は絶対やらーん』と暴れちゃった事に対しての不起訴をお願いする代わりに、婚約の承諾の催促に呼び出された馬車の中。

結局お祖父様のせいだから、これ!!


教訓。

結局頼れるのは、己とお金のみ。

はぁ〜と盛大な溜息を吐く。

「エステルぅぅ、何もできないお父さんを許しておくれ……」

涙目で私の手を握る父。

「いいのです。お父様のせいではなく、お祖父様のせいですから。」

うん、頼るとこ間違えたよね。

脳筋いい加減にしろ。


疲れてるせいか、ウルウルしている父に親身になって相手ができず、はぁーとかふぅーとか気の抜けた返事で濁す。

「エステル、本当に嫌なら辞めてもいいんだよ。どうせお祖父様のせいなんだから、後はなんとでもなる!」

兄が励ましてくれるが、チラリと兄の顔を眺めることしかできなかった。


「ダメです。没落して一番生きていけそうにないのはお祖父様です。自分のことを棚に上げて、王国相手に戦争しようとするでしょう。そうなるともっと悲惨な結果になってしまうのが見えてます。

……あと、私まだやりたい事があるのです。まだ6歳。あと12年は嫁に行くことはない訳だから、それまでに破棄の機会を伺ってたらいいのですよ。領地開拓、進化、量産、退職金上乗せ!!」


イヒヒと自分の世界に入って笑う不気味な妹を、兄はキラキラした目で見つめてくる。

「最後のあたりはよくわからなかったけど、エステルはこんな逆境にいつもポジティブでとても素晴らしいよ!僕も協力するからね。何でも頼って!」

そういって私の頭を愛おしそうに撫でてくれた。


兄も母に似て美的感覚狂っててとても心配だ。

自分の世界に入ってイヒヒなんて笑う6歳児を可愛いと思うのは、危険だと気づいたほうがいい。

将来的には何とか標準ぐらいには軌道修正してもらわねば、カーライトが地味顔家系になってしまう。

それだけは避けたい。

頭を撫でられて困った顔してる私の反応に、また愛おしそうに頭を撫でる兄であった。


私と兄が父を慰めていると、馬車がゆっくりと止まった。

ゆっくり馬車のドアが開き、小さな手が差し出される。

「エステル嬢、よくおいでくださいました。どうかお手を」

開いたドアの光が眩しくて目を細めていると、徐々に見えてくる手の主。

「なぜ、セドリック様がエスコートを?」

どう見ても第二王子が私を出迎えに手を差し出している。


「我が兄の婚約者様の出迎えを私が希望したのです。私では不満でしたか?」

ニッコリ。

うちの兄やリリアみたいな天使の顔ではない、ニッコリ。

騙されないぞ、腹黒め。


「いえ、光栄です……。正確に言えばまだお受けする前なので、婚約者候補なのですが……」

無駄なあがきだが、つぶやくように彼の手をとる。


「よかった!」

再びニッコリ。

何がよかったんだろう、このニッコリの無駄遣いめ…。

流石にちょっと引き気味な反応に、意外だったのかキョトンとする。

私は引いてるのがバレないように、エヘヘと愛想笑いでごまかした。


門をくぐり、長い廊下を渡る。

長いよ……。

謁見の間まではまだまだ先。

お陰で沈黙に耐えきれず、世間話をする羽目に。


『暖かくなってきましたね』

『ソウデスネ』

『そろそろ庭園では花が咲き始めたようですよ』

『ソウデスカ』

『こないだのお茶会ではあまり話せなかったのですが、木登りは得意なのですか?』

『イイエ、ハジメテデス』

おいおい…その話題触れていいのか……。

我が家ではタブーだぞ。

て言うか誓って二度と登らないわ!


お陰で兄と父から妙な空気が醸し出されている。

気付け、王子。

そしてそろそろ背後から攻撃される前に黙ろうよ……。

そんな念を送りつつエヘエヘ笑う。

私の様子を見て何かを感じ取ったのか突然奴がぶっ込んできた。


「あの時実は僕も危ないって言ったんだよねぇ」

突然の砕けた口調!

「ソウデスカ……」

動揺せず、定型文で受け答える。

私の反応が面白くなかったのか、立ち止まるとニッコリと私の顔を覗き込んだ。

「と言うことは、責任取るのは僕でもよかったのに何で兄上に決まったんだと思う?」


シラネーヨ!!!

思わず叫びそうになる。

危ないわー、ほんと危ないわ。

「……サ、サァ……」

じっと私の顔を覗き込む王子に目を合わせたくなくて、目を泳がせる。

それを楽しむかのように、黒い笑いでこちらを見つめ、小声で『内緒ね』と人差し指を唇に当てる。


『僕がじゃんけんで勝ったから、兄上になったんだよ』


後ろにいる父や兄には聞こえない声で耳打ちした。

怒りがゾワゾワした寒気とともに背中を走る。

じゃんけんで負けたからだとぅ!?

私との婚約は罰ゲームかよ!


一瞬目を見開くが、王子の方は見なかった。

だが、一瞬でその事実を受け入れた。

ならばと。

そして。


いつもお母様に本をねだる時にやる渾身の技。

滅多に見せないから破壊力あるやつ。


静かに王子を見上げる。

「そうですか。それはセドリック様にとって幸運でしたわね。」

兄と妹直伝の、天使スマイル!!!(エステルバージョン!


そしてスタスタと謁見の間を目指した。

まさかの反応だったのか、動きが止まる。

と言うか動かない。

固まっている様子。

チッなんだい、私のスマイルはメデューサ並みだと言うのかい。


小さく舌打ちをして、とっとと置いていく。

お付きの人たちがセドリック様に問いかけていたが、そんな様子も遥か後ろになっていく。

こんな婚約、私だって罰ゲームだっ!


6歳の私の心はちょっとばかり傷ついた。

だけど、王子の気持ちがわかったのはこっちにとっていい情報。

と言うことは、このまま協力して婚約破棄したらいいのだ。

性格の不一致、大いに結構。

私には引きもこりの老後が待っているんだ!

フンスフンスと鼻息荒めに廊下を勇んだ。


謁見の間に入ると王様までが、また長い。

もう足が痛い。

歩きたくないので帰りはお父様におんぶして貰おう。


謁見の間から1人で通されてしまったので、策略性を感じるがしょうがない。

テクテク重い足を動かしながら王に近づいて行く。

「エステル嬢、よく来ましたね!」

王妃の嬉しそうな声が聞こえる。

「お招きありがとうございます、国王陛下、王妃様」

スカートの裾を持ち、お辞儀をする。


実は王妃の横にエリオット様もいたのだが、さっきの第二王子の言葉が蘇り、ムカつくから見えない事にした。

名前が呼ばれなかった事にピクリと眉が上がるのが見えたが、視線は絶対合わせない。

だっていないから、彼。

王様に向かってニッコリ。

そして王妃にもニッコリ。

普段笑わない私のニッコリ、貴重です。


「それで、どうだ?返事は決まったか?」

息を深く吸う。

そして。


「謹んで、婚約をお受けいたします。」

胸に手を当てて頭を下げ、膝を折る。

私のその言葉に、目の上の方で王妃様のガッツポーズがうっすらみえた。

「頭をあげるが良い。これでもう身内も同然、エステルよ」

ゆっくりと頭をあげる。

「これでお祖父様は……」

「うむ、罪には問わぬ。だが、しばらく謹慎だと伝えろ」

王様笑顔だけど、青筋見えるのですが。

お祖父様何やったんだ……。

帰ったらお説教決定だな、全く。


「わかりました…ご迷惑をおかけしました。」


もう一度深々とお辞儀をする。


「お、おい。」

視野に入らない第一王子の声が小さくした。

だけども。

私には見えないのだ!


「それでは本日は外で父や兄を待たせているのでこれにて失礼いたします」


お辞儀をしたまま後ろに下がると、王様が笑顔で私を見つめる。


「そうか、少し早い気もするが下がって良いぞ」


待ってましたと言わんばかりに、笑顔で早々に立ち去った。



バカ王子どもめ!

一切視野に入れず挨拶もしなかったのできっと今頃ワナワナしているに違いない。

よし、すっきりした。

もう忘れよう。

いちいち覚えていたら精神状態に悪影響だ。


帰りはまだ廊下に石化した第二王子がいても嫌なので、従者の方に別ルートで馬車まで送っていただいた。

そして私は、少し気が晴れたのか帰りはルンルンだった。



帰宅したらもう、緊張と怒りとスカっとしたのと、諸々の事情で夕飯も食べずに寝てしまった。

とにかく、疲れた。

母も父も心配してくれたが、いまはもう1人で静かに寝ていたかった。

今後の対策も考えつつ、私の計画はうまくやっていかないといけないんだから。

こんな事で立ち止まっている場合じゃない。


取り敢えず、目指すは婚約破棄だ。

第一も第二ももう二度と関わりたくない。

夢うつつに、えいえいおーっと力なく拳を上げるのだった。





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