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第33話 セドリックと腹をわる。

急遽うちにセドリックの部屋ができた。


本当はゲストルームなんだけど、セドリックが自分専用の家具とか運ばせてきたので、なんかそうなった。

何度も家具を運ぶために往復する馬車。

それを3日ぐらいかけて引っ越ししてきた。

馬がかわいそう……。


「て言うか、こんなあれこれ運んできて、部屋の家具なくなったんじゃないの?」


「これ前に使ってた家具で、物置にしまわせてたやつだから。部屋の家具は全部無事。」

パラパラと何かを読みながら自前のソファーでくつろぐセドリック。


「ふーん」


運ばれてきた家具をウロウロと見つめる私。

その様子をチラリと横目で見て、また目を本に視線を落とす。


「てか天敵って誰?」


「エリナ・ローズデール」


「へ?何でエリナが城にいるの?」


「……知らないし。なんかしばらく聖女の仕事をするために滞在するらしいよ」


「……ふーん」


「……気になる?」


また悪い顔して読んでた本を閉じて私を見る。


「……別に?」


横目でセドリックを見て、口を尖らせる。


その顔を満足げに見ていたが、また本に視線を向けた。


「……て言うかなんで私までここに監禁されてんの!!」


そう。

セドリックがまた逃走しないために、私と言う見張りを添えて、この部屋で監禁されている。

自分の家なのに、落ち着かない。

できれば自分の部屋に戻ってクラウドとゴロゴロしたい。

……と言うか、クラウドにも会えない。


ううう、クラウド元気かな?

もう3日もあってない……!

きっと寂しがって……

寂しがって……?


……いや、奴は私がいなくてもとても元気だろう。

しばらく見ないうちに、私というストッパーがいない為、球体目指して食べ進んでいるかもしれない。

昨日はホットケーキを焼いてもらっていたはず。

くそう、あいつ……。

私がこんな大変なんだから、聖獣として何かこう…なんか、する事あるだろ!

何かを思いつかず、なんとも間抜けな悪口になってしまったため、なんだか気が抜ける。


他にする事がないので、不本意ながらもセドリックと話すしかないのだ。


「んで、エリナとなんかあったの?」


「あぁ、何でも婚約者は自分だけにしろだとか、エステルは僕と婚約させればいいとかなんか口出しして来てたよ。」


「……エリナが?」


「の、家族。」


「……家族……!」


「僕と婚約する?」


意地悪そうな笑顔で聞いてくる。

だが目線は本のまま。


「お断りいたす!」


無表情で速攻。

そもそもどっちも婚約なんかしたくないんだよ、私は!

ブツブツ独り言のように呟く私を見て、また『ブハッ』と吹き出した。


「て言うかさっきから何を熱心に読んでるの?」


「さっきエステルの部屋から持って来たノート」


「ちょっと!なんで勝手に私の部屋漁ってんの!?かえし……。

……ん?ノート……?」


のーと?

のーと、よんでると、いったかい、このおうじ。


ヒデブ!!!!


まるで北斗神拳でも疲れた気分な言葉が口から出る。

持って、待って。

すとっぷ・ざっと。


タラタラと冷や汗が背中を伝う。

私の顔色もサーッとなくなっていくのもわかる。


「ねぇ、それ……」


「うん」


「どこまで読んだ?」


「今番外編の4つ目の最後らへん。」


それもう全部じゃないですか。


「……なんで読んだ?」


「面白そうだったから。てか、面白かった。はい」


『はい返す』と言わんばかりに私に4冊のノートを渡して来た。


「……人のものを勝手に触ってはいけないと、習いませんでしたか……」


「習った気もするね?」


読むものがなくなって暇になったのか、ニコニコと私の方を見る顔にまた怒りがこみ上げる。


「なんで読んだのか、言え。」


「エステルのその顔、僕好きだよ」


「そんなことより、質問に答えろ」


「エステルは怒るととても綺麗な顔になる」


「そんなことより……てか趣味悪ッ!怒った顔が好きとかマジドMかよ……!」


怒りが削がれて気が抜ける。

やり場のないこの気持ちに、フゥと深い息を吐く。

こいつに何言っても無駄だった。

もーいいや。

もー知らない。


ブツブツとまた独り言で気を紛らわす。

セドリックから背を向け、離れて座る。


「エステルごめんて。勝手に読んでごめんね?」


「謝る気、まるで無いよね?」


こないだ叱り飛ばしてから、セドリックは『ごめんね』の言える子になったが、それがまた軽い軽い。

水素より軽い。

こんなの言えないのと同じだ!


またブツブツ言いながら高そうな椅子の上で膝を抱える。


もーやだほんと。

もーやだこの王子。


「んで、このノートは何?」


「夏休みの自由研究。」


「は?」


勝手に読んだやつに、答える気にはなれない。

ツンとそっぽを向いたままセドリックを見ない。


「エリナは預言者なの?」


「そうかもねー」


「エステル、ごめん。教えて。」


セドリックが私の膝に手を置き、跪いた。

何言っても無駄だし、この謝罪を利用する。


「じゃ、私が長年疑問に思ってた質問に答えたらこっちも教える。」


「いいよ」


あっさり『いいよ』なんて言うと思わなかったので驚いてセドリックを見る。

以外に真面目な顔でこっちを見ていた。

…もしかして本当に反省したのか?


気を取り直して、質問。

前から聞きたかったこと。


「何でそんな色々意地悪いことして来たの?」


「……え?」


「ほら、城でカップル潰しみたいなことやったり、私にわざわざジャンケン罰ゲームを教えて来たりとか……」


セドリックは顔を困ったように傾ける。

前髪がサラリと横に流れ、それを抑えるように眉の端を指で撫でた。


「……若気の至り?」


「はぁ?」


「うそうそ、……そうじゃなくて。」


セドリックは困ったように今度は首の後ろをワシャワシャと掻いた。


「僕ね、エリオットとずっと比べられて育ったからさ。比べられてどっちが優れてるとか噂されるぐらいなら、初めから戦線離脱しようかと思ってね。

どうせ王にはエリオットがなることが相応しい。なら僕は初めからスタートラインに立たないほうがいい。

初めから戦力外なら期待もされないでしょ?

あと、グダグダ噂するやつに仕返ししようと思ったから。」


セドリックは口元を歪ませて笑った。


あー、はい。

そう言うことだったか。

自分の敵は自分で。

これは私もよくわかる。

私も自分にされた恨みは自分で晴らす派だから。


ウンウンと頷く。

だけどすぐハッと思い出す。


「……でもビクターのお兄さんとリオンのお姉さんもセドリックの噂したの?」

リオンの話だけだけど、お姉さんそんなことするような感じじゃ無いような……?

『フムッ』と顎に手を置き考える。


「あれは僕じゃ無いよ」


「えっ……」


今更セドリックじゃ無いですと!?


「ほら、大人ってさ。きっかけがあればそれを利用したいと思う人もいるじゃない?」


「……犯人知ってるの?」


「その噂で得した人がいるってことだよ。」


セドリックは指で指揮者の真似をしながら楽しそうに笑った。


……いや、笑うなよ!

て言うか、笑えねーよ!


思わず心の中で突っ込んだけど…。


「得をした人……」


「てかそれに関しては、もう忘れたほうがいい。僕が犯人で方が付いてるし、穿り返すと不幸な結果になる」


「え、怖い……」


「もう済んだことだよ。」


セドリックはフッと口を歪ませる。

それはいつも見たいな悪魔的な笑いじゃなくて、ちょっと儚げに。


「穿り返すと不幸になる……」


「そ。だからそれはもう忘れな」


納得出来ないが、これ以上は私の手に負えないと判断。

誰も不幸にしたく無いし、私も不幸になりたく無い。


「誰にも言わないでおく……」

口をキュッと結ぶように下を向いた。


「……うん、そうして」


そう言ってセドリックはまたノートを拾い上げた。


「ちょ、……もう読まないで!」


「一回見たんだし、何回見ても一緒でしょ」


「ダメダメだめ!!」


そう言ってノートを取り上げる。

セドリックは『ケチー』と私の真似して口を尖らせた。


「……もう意地悪は卒業したの?」


「卒業はしないかなぁ。だってもうこれ僕の性分だもん」


「卒業しろよ……」


ヤンデレ貫くのやめようぜ…。

ボソボソと付け加えたけど、聞こえてないと思う。


「大丈夫。僕がもしまた暴走したら、エステルが止めてくれるでしょ?」


「……いや、何で私が!」


「止めてくれるよね?」


「だから何で私が……」


「はぁ、しょうがない。不本意だけどエリナの言う通り、エステルは僕が貰おう。それで一生監禁しt……」


「もちろん任せてください、私が止めて見せましょう!」


セドリックはニコニコして私を見つめる。

とか言いつつ、目が笑ってないじゃないか。

マジやめろ。

マジ怖いから。


ビクビクと怯えるようにセドリックを避ける。

それを見てセドリックはまた吹き出して笑いやがった。


「しょうがないから、恩をいつか返してあげる。」


「恩?なんか私に恩があるの?」


セドリックが突然、私の鼻をつまむ。


「僕を叱ってくれた恩。」


「いだだだだ!!離して!…てか今なんか言った?」


「……なんでもなーい」


鼻をつまむ手が力が入る。


「だから痛いって!鼻が高くなる!やめて!」


「何で高くなるの嫌がるんだよ!」


「低すぎず高すぎず、程々がいいんだよ!分かってないなぁ」


「はぁ?」


「普通で地味が一番生きやすいの!」


「……やっぱエステル変で面白いわ。」


セドリックは今までに無い清々しく笑った。


いいんだよ、凡人には凡人にしかわからない良さがあるのだ。


ていうかめっちゃこの王子に虐待されてる!

つねられたり、つままれたり。

もう早く帰ればいいのに!!


この後質問に答えたからって、延々とノートの説明をさせられた。

私の質問は1つだったのに……。

その何百万倍の質問を答えた気がする。

これでセドリックにも秘密は無くなってしまった。


「ゲームの世界ねぇ。まぁ、何でもいいけど。僕に何も被害が無ければ。」


「被害はエリオット様のみですな……今のところ。」


「しかしエリナが王妃になったらこの国は終わる気がするな……」


セドリックは苦笑いをする。

あ、この笑い方も初めて見た気がする。


というか、すごく人間的なセドリックを見て、すごくびっくりしている。

今までは……というか昨日までは、ただの悪魔だと思ってたし。


「セドリックは今のままだったら普通なのに。」


私の言葉に目を見開く。


「はぁ?僕は普通だとダメなんだって!期待されたく無いし。」

嫌悪丸出しの顔で私を見る。


「そんなにか……」


「期待されるのは兄上だけでいんだよ。」


そういうとセドリックはメンドくさそうに目を細めた。


「そうか……」


私はまた膝を抱えて丸くなる。


「なんかこの世界疲れる」


「どの世界だって疲れるだろう……生きてるんだから。」


そういうと、セドリックはまた頭をかいた。


「まぁ、そうだね……」

私もまた膝を抱えた。



それから暫くセドリックとは、本を読んだり、色んなことを話して過ごした。

意外にもヤンデレ王子は二人で話す時は普通で、私を度々びっくりさせるのだった。

でも時折ヒョコヒョコと悪魔の顔を度々覗かせるので、私はまだまだ気を抜けないのである。


ノートのことはそれ以上聞かれなかった。

読んで何を理解したかは、私ももう聞かなかった。


彼は彼なりに、何か思うことがあったのか、逆に気にも止めてないなのか。

まだ付き合いの浅い私にはわからなかった。


その日の夕方。

またバタバタと上司騎士のダイアンさんが忙しそうにしている。

私とセドリックはそれをエントランスの階段の上から見ているところ。


……ダイアン。

どっかで聞いたことがある。

どこだ。

……思い出せない。


「……ビクターの兄だろ。」


頭を抱えて苦悩する私の心を読むヤンデレ悪魔。


「あぁ、なるほど……てかあの事件があったのによくセドリックに仕えてるんだね?しかも本当に心配してくれてたみたいだし……」


セドリックが私をすごい目で見ている。

まるで『お前よくそんなデリケートな部分をオブラートにも包まず聞けるな?』という顔で。


「いや、犯人はセドリックじゃ無いとしてもだよ!ダイアンさんには分かんないよね?」


やや、焦りながら弁解する。

それでもその顔を崩さないヤンデレ悪魔。

こわっ!!

また鼻でもつままれたら大変なので、身構える。


「……ダイアンはもう気にして無い、と思う。僕を責めるより、自分を責めている様だから」


『そういうとこが嫌いなんだよ……』


セドリックは小さな声で付け加えた。


「責められたら楽だった?」


「……いや僕が犯人じゃ無いし!」


「そうでした!!」


『こいつ……!』って顔で眉をよせた。


「うわ、その顔エリオット様にそっくり!」


思わず口からこぼれ落ちる。


セドリックはびっくりして私を見たまま固まってる。


「あ、ごめん失言でした……」


「僕が兄上に似てる……?」


「あ、いや……その眉をギュッと寄せる顔がすごく似てた。私よくそれやられるので……」


「そうなんだ……」


セドリックはなぜかすごく恥ずかしそうに俯いた。

あー、あれだ。

お兄ちゃん実は大好きっ子だコレ。


セドリックの意外な一面にニヤニヤする。

それに気が付いたかセドリックにまた鼻をつままれるのだった。


「……いだだだだ!!鼻が高くなるから!!やめて!」


「今考えてることがわかったからな。これはつまむ案件だ」


「そんな案件ない!離して!やめろー」


エントランスでギャーギャー騒いでると、ふと視界を遮られる。


「イッ……!」


セドリックが声を上げる。

その瞬間私の鼻から痛みが消え、視界が良好に。


「セドリック……お前は何をやっている……?」


あれ、眉を寄せた顔が増えた……?


「……兄上……」


セドリックの手を強い力で掴むのは、エリオットだった。


「お前はエステルに何をやっているんだ……!」


「あまりに悪態を吐くのでお仕置きを。」


「ちがうだろ、虐待だ!暴力反対!」


私がふざけてエリオットに援護する。

それをセドリックが睨んで返す。

ベーっと舌を出すと、今度は舌をつまもうとしやがった、このヤンデレ悪魔め。


私たちのやり取りに、『はぁ……』と眉を寄せ溜息を吐くエリオット。


「まぁいつからこんなに仲良くなられたんですの?」


聞き覚えのある声。


まさか。


ゆっくり顔を上げてエリオットの方を見る。

エリオットは困った様に私から視線を逸らした。


「ごきげんよう、エステル様」


声の主は当たり前の様に、エリオットに腕を組んで寄り添って立っていた。



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