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第3話 モブになりたい私。

扉を開けると、母アリシアがリリアと仁王立ちだった。

と言うか私たちの帰宅を待たずして状況を知る、母の何とかの耳の素晴らしさ。

兄が私を背で隠すが、ハンターの標的は父のようだ。

リリアも何故かすごい気迫で兄に詰め寄っている。


「ルーファス、サイラス。何のために2人がついて行ったのですか?」

口を開いたのは母だった。

「僕が王家に逆らえるはずないじゃないかぁぁあ……」

涙目で膝をつき、祈りのポーズをする父。

流石に助け舟を出そうかと兄の前に出ようとすると、手で止められる。


「お母様、聞いてください。お父様は悪くありません。」

兄が母に許しを乞う。

だってあれは有無を言わさずだったもんなぁ。

流石の私も何も言えなかったし……。

「そうです、お母様。ともかく話を聞いてください。」

私も兄に隠れて口を出す。

9歳にしては背の高い兄に隠されて前が見えないので、ピョンピョン飛びながら母を見る。

それに癒されてか母の口が緩み、とりあえずはお家の中へ入れてもらえた。

あー暖かくなってきたとはいえ、日も沈みかけた外は冷える……。

というか、母からの冷気も……冷える。


「大体わかっていたでしょう。クロエがあなたそっくりなエステルをお気に入りなのは!クロエとは小さい頃から一緒に王妃修行を余儀なくされてたのですが、私があなたに一目惚れをしてしまったため早々に王妃修行から抜け、陛下を押し付けたのを今でもきっと恨んでいるのです。昔っから趣味がかぶるので気が合わなかったのですが、この手で来ましたか……」

母が口元に扇子を当てて、部屋の中を行ったり来たりしている。


クロエとは、王妃様のことである。

母と王妃様は幼少の頃から王家の血筋の中で年も近かったこともあり、共に学び、歩んでこられた姉妹のような関係だったそうだ。

一つ歳が上だった母の方が社交界にいち早くデビューしたため、父を先に唾つけたらしい。

王妃は父の存在を母の結婚式で知る事となる。


『アリシアより先に生まれてさえいれば……』

王妃の結婚式のお祝いコメントだったそうだ。


というか、何だろう。

これって派手な顔の血筋なのかしら。

顔がみんな美形揃いすぎて、たまに地味な遺伝子を入れようとする本能みたいな?

肉肉野菜ごはん肉肉ごはん、時々箸休めに漬物行っとけ、的な。

王妃様もとてもお綺麗な方で、もちろん王様も顔が整っている。

その遺伝子を受け継いだエリオット様も一つ下の第二王子、セドリック様も金髪碧眼の王道王子容姿で、どちらもお美しい顔をされてる。

できたらその美しい遺伝子だけで構成された家系図を守り通して欲しいのに。

なのに何故。


父は何もかもが普通である。

本当に普通。

顔は私と同じ少しつり目のノッペリさっぱり醤油顔。

不細工とまではいかないが、社交界で女性に囲まれて困ることは……まぁ、無かっただろうなぁ。

私と違うところは背が人よりちょっと高いとこと、いつも笑顔でいる事。


田舎の没落しかけた伯爵の次男として生まれた。

なので婿に下さい要請が来た時は『でかした!良くやった!』と、ほとんど身売り状態で母に献上されたようだ。(お祖父様談

父の実家はお祖父様の援助で生きているようなものだし。

あ、だからと言って父は母に組み敷かれて生きてるわけでもなく、それを卑下するわけでもなく、マイペースだが芯の強い、私の誇り高い自慢の父である。


ここまでフォローしておいて何だが、そんな誇り高き父は母によって床に正座させられている。

かれこれ20分。

そろそろ足も限界だろうに……。


「お母様、そろそろお父様を許してあげて。」

おずおずと母に許しを乞うと、母の顔はフニャッと怖い顔を崩し、私を抱きしめた。

「エステル…!ごめんなさいね、母が一緒に行けば良かったのです……!」


実にその通りだ。

何故母が行かなかったかというと、行けなかったからだ。

王様から領地視察の件で叔父様と2人で従者に早急に会わなくてはいけなくて、動けなかったから。

どうやら従者が来るナイスなタイミングで呼び出されたようで、母は王妃にしてやられたと奥歯からすごい音を出しながら言った。


「婚約の件はお兄様もお父様も頑張って阻止しようとしてくれましたが、王妃様が是非にと仰っていて……。後はお祖父様に聞いてきますとこの話を持ち帰りました。ですがほぼ断れない様なので、確定なのかもしれません」

保留はいいけど留保はダメって言ってたしな。

要は『一旦先伸ばすのはいいけど、権利や義務はこちらにあるのだから差し押さえることは許さない』と言うことだ。

頬に手を当てて、フゥと溜息を吐く。

私のスキル『諦めよう』が発動したのを見て、母の腕に力がこもる。

お、お母様、それ以上閉めると、私、死ぬ!


「クロエめぇ……!」

お母様!死ぬって!!

周りが奥様〜!お母様〜!と気づかせてくれたので、顔が青いを通り越して黒ずんできた頃にはやっと気がついていただけて、腕から解放される。

あー死ぬかと思った……!


「でもお母様。エリオット様の反応はあまりご納得された様子ではありませんでした。セドリック様はいらっしゃらなかったのですが、エリオット様はあまり私にいい印象を持ってらっしゃらないご様子だったし。多分正常な美的感覚を持っていらっしゃると思うので、もしかすると最終的には破談になるかもしれませんね。」

満面の笑みで母を見上げると、母の目が光る。


「エステルは何か策があるの?」

「いえ、策ではないのですが……。」


コホンと一度咳払いをして喉の状態を確かめる。

あー声が出にくい…。

「私がこのまま何もせず地味に生きているのが一番かと。あとは周りが判断してくれます。相応しくないと。」

王妃がこんなおさげの目つき悪い地味な人とかダメだと思うし。

もっとしっかりしたふさわしい方を、その時選びなおせばいい話。

「流石に周りが騒げば、王妃様も口出しできなくなるのではないかと思います。」


淡々と自虐に走る私に、両親兄妹そこにいたメイドや執事までが不憫に思ったのか……私にすがりつき、おいおいと泣いた。

……いや、まあ、自虐というより、好きでしてるんだが……。


親や周りに綺麗どこが揃っている分、こっちには注目浴びない事が私にはラッキーなのだ。

その影に隠れて全く目立たないからだ。

できればモブになりたい。

カーライトの娘A表記でいい。

モブサイコー!!


何故なら注目を浴びると行動に制限がかかるから。

この世界は『何故か注目される=変なことができない』という行動が地味に制限されている。

目立つ人が鼻でもほじったらもう、あっという間に話が広がり、その人の人生は終焉を迎えるぐらいの生きにくさとなる。

鼻ほじるぐらい自由にさせろ。


そこで私の地味さよ。

自分の地味な容姿も何気に気に入ってるし、私は周りに合わせて変わりたくないのだ。

自分を磨くのであったら、将来的に役に立つスキルを磨きたい。

そのために本をたくさん読んでいるし、自分の装飾に金かけるぐらいなら、野菜や果物をより美味しく食べれるように品種改良に投資した方が利益になる。

自分が楽に生きるにはまず、地盤を固めないと。

と、言うことで地味、万歳。


将来的には結婚より、修道院で本に囲まれて引きこもり生活が目標である。

貢献して領地が潤えば、退職金いっぱい出してくれるよね?お兄様!

6歳にして、私の将来設計完璧である。

何としても、婚約破棄はしてもらわねば。


だがしかし、慎重にしないとである。

変なことしでかして、王妃に嫌われるのは不敬罪とかで一家没落とかになると両親や兄妹に迷惑かけることになる。

私はともかく、温室育ちの彼らが平民に落ちることがあったら、生きていけないだろうし。


私の自虐ネタにいまだ泣いてる周りをみて、またフゥと溜息をついた。

さて、ここからどうする、私。

とりあえず次の目標は『スキル、空気』を習得することに全力を出すことにする。

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