第29話 エリナの気持ち(2)
長くなりそうなので、分けましたm(_ _)m
今回もエリナ視点です。
学園に入り、今日はクラス発表の日。
なんとか必死に勉強をして、エリオットと同じクラスになった。
テストの出来も前世合わせて人生で1番の出来だった位。
私の名前とエリオットの名前を発表掲示板で見つけた時、もうホント天にも登る気持ちだった。
いち早く教室に移動するとまだ誰も来ておらず、流石に早過ぎたか?と思わずきょろきょろ見渡す。
誰もいない教室の黒板に席順の表がと文字が書かれていた。
『来た者から荷物をしまい、席に着席しておく事。』
自分の名前を確認する。
私の席はどうやら真ん中辺りの様だ。
すぐにもう一つ気になる名前を探す。
『……!』
思わず顔が緩む。
私の席の斜め前の席にあった彼の名前。
まさかこんな近くに居られるなんて。
授業中私は、彼を斜め後ろから眺めることも出来る特等席。
……もう、運命だわ。
これは絶対、運命。
また顔が緩む。
ポツポツと人の出入りにハッと我にかえる。
……危ないわ、変な子だと思われないように完璧にしなきゃ。
最初が肝心……!
私はいつ彼に見られていいように、鏡で何度も練習した微笑みを維持する。
だが30分もしないうちに根をあげる。
……顔が、キツイ。
これは長くできない……頬がつりそう。
時計を見るとまだまだ時間は早かったので、私は気分転換に教室から出た。
今日は朝から精霊を見てないことに気が付く。
自分の頬をグニグニとマッサージしながら精霊を探して中庭に出る。
中庭には『彼女』が隠れるように『取り巻き』と楽しそうに話をしていた。
ふーん、早速取り巻きを従えてんだ。
これはストーリー通りね。
やっぱり大まかな流れは変わらないってことなのかしら。
……あれ?でも彼女達A組にいなかったような……。
そう思いながら、こっちの姿はバレないように隠れつつ、後ろを通り過ぎようとすると。
彼女達が楽しそうに話す声がする。
気が付かれない様に一度通過し、植え込みから覗き込む。
エステルとコーデリアが手を取り合い、仲良さそうに微笑み合ってる。
……あれ?コーデリアもマーゴットもエステルのことあまり好きではなかったはず。
エステルはワガママで、2人を下僕のように使っていたからだ。
あれはどう見ても仲の良い友達に見える。
2人が笑いあって『これからも仲良くしてね』なんて固く握手なんてしてる。
しかも入学してすぐ取り巻きに加わるはずのマーゴットもいない。
あれ、マーゴットはAにいた気がするが……?
これはストーリー通りではない……?
どう言うことだ。
私が1人で激しく狼狽していると、2人はクラス発表を見に行くと歩き出した。
と言うか、見に行くの遅すぎる。
普通登校してすぐ見に行くもんでしょ!?
ブツブツ言いながら追いかける。
……どこのクラスなんだろう?
私が見落としただけで、やっぱりAだったのかな?
私はコソコソと見つからない様について行った。
彼女達は手を繋ぎあい、クラスの発表を見ていた。
「コーディ!2人ともBだよ!やった!!!」
「エステル!!やりましたわね!!」
2人が手を取り合って喜びあってる。
……はぁ?Bってどう言うこと!?
確かゲームの中のエステルは、ずっとエリオットと同じクラスだと言っていた。
と言うことはやはり、ストーリーが違ってきている。
どうなっているんだ。
流石に発表までされたのに、クラスを変える事ができない。
そもそも私にそんな力はない……。
冷や汗が額から頬を伝う。
こんな時に精霊は見つからず、誰に相談していいかわからず立ちすくむ。
『どうしよう……』
私の動揺にすぐ精霊は気が付き、私の側に来た。
『エリナ何を困っているの?』
『どうしたの?』
「助けて……」
『え?』
「運命が変わってしまう……」
『エリナ落ち着いて?』
『何があったの』
「悪役令嬢が私とクラス違ってて、それで、ストーリーが変わってしまうから……」
ボソボソ泣きそうになりながら精霊に説明しようとする。
『アキラの二の舞だ』
『もう初めから排除するべきじゃない?』
『要らないね、あれもう消しちゃおう?』
「ダメ!消すのはダメ!でも何か他に方法は……?」
『エリナは優しすぎるんだよ』
『邪魔なら消せばいいのに』
『エーコならきっとそうしてたよ』
精霊達はクスクスとエリナの周りを飛び回った。
消すなんて野蛮なことはできない……。
そんなの恐ろしすぎる。
でも……どうしたら……。
その時。
彼女達は何か言われ、あっと言う間にアーロン先生に連れていかれてしまった。
呆気にとられて見送っていると、先生に君も早く教室に戻れと言われ、渋々戻る。
ドキドキしながら教室で頭を抱えていると、エステルとコーデリアがとても落胆した様子で先生に引きずられる様にAクラスに入ってくる。
彼女達は先生の採点ミスでBになったらしく、再計算するとAだと言う結果になったらしい。
ホッとしたのと、なんとも言えない気持ちが蘇る。
……やっぱり運命は私に味方したのだと歓喜に震えた。
こんな奇跡はあり得ない。
さっきまで悩んでいたのが嘘のようだと1人で笑うのを手で隠す。
やっぱり彼女の軌道修正は側で見守りながらやるべきだと自分で納得した。
あと、転生者ということも聞いてみよう。
次の日私は、わざわざ彼女を追って声をかける。
『あなた、私と同じ転生者でしょ?』
あの時の彼女の顔。
私は今でも思い出すと笑ってしまう。
「エステルの顔、面白かったなぁ」
クスクスと笑う。
思い出し笑い。
こんなことがなかったら、もっと仲良くしたかった『友達』。
別にこの世界にこだわらなくてもいい位、毎日は楽しかった。
初めて出来た、『人間の友達』。
あれ?なんで私は……どうして……。
『エリナまた考え事をしているの?
……ねぇ、そんな事より外を見てごらん?』
誰かの気配にハッと思い直す。
あれ今何を考えていたっけ?
「外?」
『天気が良いよ、とても。今日はどこへ行くんだっけ?エリナ』
精霊に言われた通り、窓の外はとてもいい天気だった。
外には運動部が休みの日なのにランニングしている姿が見える。
私はしばらく眺めていたが、何か思い出したかの様に窓をそっと閉めて、壁に掛かっていた時計を見上げた。
「時間なので、エリオット様のとこへ伺います」
私はニッコリ侍女に笑いかけ、何かを思い出しかけていた回想に蓋をするのであった。
足取りは軽く、あっと言う間にエリオット様の部屋へと着いてしまう。
ノックを3回。
ゆっくりとドアが開く。
侍女に案内され、室内へ入る。
『ああ、ここが彼の部屋……!』
初めて入るエリオット様の部屋に、言い知れぬ感動が体を震わせる。
御付きの侍女に『寒いですか?』なんて聞かれてしまったが、決して寒い訳ではない。
私は感動しているのだ。
奥へ案内されると、小さな4人掛けの白の丸いテーブルに、それを取り囲むように椅子が並んでいた。
そして、金髪の少年が座っている後ろ姿が見える。
手にはカップを持ち、お茶を口に運んでいるところだ。
私の胸はまるで荒れ狂う太鼓の様に高鳴り、足を早め、後ろからそっと手を肩に置く。
「お待たせしました、エリオット様……、エリナでございます。」
彼は私の手にそっと触れ、振り向く。
「……はぁ?兄上じゃないし。てかキモいから触んないで。」
そして私の手を払い除けるのだった。
「え……?」
一瞬訳がわからず立ち竦むが、すぐにそれが弟の第2王子と分かる。
「……も、申し訳ございません。後ろ姿でしたので、間違えてしまいました。」
ドレスの裾を掴み、頭を下げる。
セドリックは鼻を『ふん』と鳴らして立ち上がった。
「マジでキモいんだけど。脅して婚約してまるで悪役だね。僕よりよっぽどキミ、性根が腐ってる」
そう言いながら顔を歪ませて笑うのだった。
はー!?お前よりマシだわ!!!
と、言いたいのをグッと堪える。
二卵生だが、作りは似てる顔してるはずなのに、何故ここまで性格が違うんだ。
しかも自分の方がマシだと言いやがる。
私は自分の世界を軌道修正したかっただけだ。
しかも精霊がそう言ったのだ。
私は『友達』に従っただけ。
思わずセドリックをジッと睨み付ける。
セドリックは面白そうに私を見て、ニヤリと笑った。
「お前とは話す気にもなれないな。エステルと大違いだ。」
私の頬がピクリと反応する。
何故そこでエステルの名前が出てくるんだ。
しかもこいつの口から。
私の握った拳はワナワナと震える。
その様子に精霊が口を出す。
『この子嫌い』
『なんでエリナに意地悪言うの?』
『もうこいつから消しちゃおう?』
「……消すのはダメよ……」
私の声にセドリックが反応する。
「は?何1人で喋ってんの?……て言うかさ、そー言うとこ、本当キモいから。
本当は幻覚でも見てんじゃない?
兄上と結婚したいが為に、見えるとか嘘ついて気を引いてるんでしょ。」
セドリックが珍しく眉を寄せる。
あぁ、こうやって眉を寄せると、やはり似ている。
そんな事をボーッと考えてた。
嘘をついてると言われ。
幻覚だと言われ。
私は腹が立つより、何故かその非難の言葉を浴びせられている主が、自分じゃない様に冷静だった。
『セドリックは何もわかっていないんだ。
だってまだ子供だからね。
許してあげなきゃ。』
誰かが私の頭の中で言う。
……誰なんだろう?
さっきから、いつもいる精霊ではない『誰か』が私に話しかけている。
『でも悪い子には、お仕置きが必要だね。
子供は悪い事をしたら、ちゃんとお仕置きされて反省しなきゃ。
エリナ、ワタシに任せて……』
……あなたは、誰?
『ワタシはキミの一番の味方だよ』
……味方?
『そう、ワタシはキミの友達で、良き理解者さ。』
……あなたは、誰?
『私は、エーコ。さぁ、私を受け入れて。聖女様』
私が俯いたまま黙っている様子を不審に思ったセドリックが、私に近づいてくる。
「おい、図星を指されて何も言えなくなっちゃった訳?」
私に手をかけようとした時。
私は勢いよく顔をあげた。
「無礼者め!我を誰だと思っている。貴様ごときが軽く触れて良い体ではないぞ!!」
今度は私がセドリックの手を払い除けた。
セドリックは強く払われた手を押さえ、戸惑った顔で後ろに下がる。
「はぁ!?お前こそ僕が誰だと思ってんの!?」
セドリックは怒りを露わにして私へ掴みかかろうとしたが、御付きの騎士に制される。
「セドリック様……お下がりを……」
今までとは全く違う『エリナ』の気配を感じ取った様だ。
「は??なんで僕が下がるんだよ!!」
騎士は激しく暴れるセドリックを羽交い締めにして、あっという間にその場から連れ去った。
「……エリナ様、失礼致しました。すぐにエリオット殿下が参ります。もう暫くお待ちください……」
侍女はそう言って私に頭を下げた。
私は言われるがまま椅子に座ると、すぐお茶とお菓子がテーブルに運ばれてくる。
私はそれを眺めていた。
……さっきの言葉は誰?
誰が言ったの?
エーコが私の代わりに言ってくれたのかな?
私はぼんやりする頭で理解しようと考えていた。
だが頭の中にモヤがかかった様に、何も考えが繋がらなかった。
『エリナはただ王子を見て喜んでたらいいの。嫌なことは全部、ワタシに任せて、ね?』
誰かが私の耳元で笑った。
「……分かったわ。そうする」
独り言の様につぶやいた。
「すまない、遅くなってしまって……」
扉から急いだ様子のエリオット様が入ってきた。
「いえ、そんなに待っていないのでお気になさらないでください!」
私はとびきりの笑顔を彼に向ける。
……私のために急いできてくれたのかな。
エリオットは一生懸命に呼吸を整えていた。
耳元から首筋に汗が伝う。
その汗さえも愛おしく思い、目を細める。
「……話は聞いた。先程は我が弟セドリックが、聖女様に向かって無礼を働いてしまった事を、王家を代表して兄の私が深くお詫び申し上げる……」
そう言うと彼は跪き、私の前で頭を深く下げる。
「やめて下さい!聖女様だなんて……私はあなたの婚約者です。エリナとお呼び下さい、エリオット様。」
私は慌てて彼と同じ様に膝をついた。
それでも頭を上げようとしない彼の肩にソッと手を添える。
「さぁ、あちらで一緒にお話しして下さい。」
私は彼に笑いかける。
エリオット様は私を一瞬見たが、困った様に目を逸らした。
「今日は私のお会いする前に、何か予定があったのですか?」
私は並べられていたお菓子を一つ摘んだ。
それを食べるわけでもなく、お皿に乗せ、眺める。
エリオット様はまた困った顔をしてボソボソと話し始めた。
「……予定は無かったのだが、少し手伝いをしたくなって……。すぐ戻るはずだったのだが……思いの外、時間を忘れてしまった。」
『すまない』と頭を下げる。
「私が早く来過ぎただけですので、どうかもうお気になさらないで。」
微笑みながら彼を見つめる。
さっきから全然目が合わない。
セドリックの所為で気を使っているのだろうか。
それとも緊張しているのか。
エリオットは落ち着かない。
なぜかオドオドしてる風にも見える。
「手伝い、ですか……」
私は独り言の様に呟いた。
その言葉にエリオットは目を輝かせ、顔を上げた。
「そうなんだ。私はほとんど見てるだけで役には立たなかったのだが、夏休み前であまり集まれないかも知れないと先生に言われて。
今日私は参加するはずでは無かったのだが、どうしてもと入れてもらったんだ。
……みんなでノートを書く作業というのがまた、今までした事なくてとても楽しかった……。」
エリオットはそれを思い出すかの様に笑った。
……先生の手伝いだったのか。
しかも夏休み前にみんなでノートを書くなんて、希望補習か何かだったのかしら。
勉強なんて授業以外でやりたくないから、私が知らなくて当然ね。
なんて勉強熱心なんだろう。
さすが次期王になられる方だわ。
私は1人で納得して悦に入る。
そしてあまりにも楽しそうに話す彼の微笑みにつられ、微笑む。
やっぱり私にはこの人だわ。
勉強会の事を嬉しそうに話す彼と、それを微笑みながら聞く私は、とても良い時間を過ごした。
部屋に帰りふと考える。
初めて2人でお会いして、あれだけ話が弾むなんて。
強引なやり方だったかも知れないけど、うまく行ってる気がする。
やっぱり私たちは……!
今日の思い出を思い出してニヤニヤしてたら、ふとエステルの顔が浮かんだ。
どうして浮かんだのか分からないけど、エステルの事を考えると泣きたい気持ちが湧いてくる。
「エステルたち、今何やってるんだろう……」
横になった状態で天井をじっと見つめる。
彼との運命が軌道に乗れば、前と同じ様に話せるのではないだろうか。
そんな自分勝手な思いが浮かぶ。
こんな私を、彼女は許してくれないだろうか。
もしかすると謝ったらもと通りに戻れるのではないか。
甘い考えも浮かぶ。
「エステル怒ってるかなぁ……やっぱり」
ジワリと目が熱くなり、視界が歪む。
『エリナ泣いてるの?』
『誰かに虐められた?』
精霊達が私の頬を触れる様に近くに来た。
「ううん。私って自分のことしか考えてないバカだなあって反省してたの。」
精霊は何故か『クスクス』と笑って私の周りを飛び回る。
『エリナはバカじゃないよ』
『エリナは素晴らしい存在だよ』
「そんな事ないよ……」
『そんな事あるよ』
『だって、エーコに認められたんだから』
「……認められたって?」
『エーコは今まで誰にも姿は見せなかったけど、エリナならいいって言ってたよ』
『そうそう、エリナはエーコが認めた友達だからって』
「……友達……」
その言葉に思い浮かぶのは彼女の顔。
またエステルの事を考える。
『エリナ、エーコが会いにくるって』
「……いつ?」
『今からだよ』
「え……?」
精霊達はクスクスとバラバラに飛び回ったかと思うと、数個の光の玉が集まっていく。
な、何が起こってるの?
不安に駆られ、思わずベッドの端の方にズルズルと後退る。
集まる光は強くなり、だんだんと人の形となっていく。
『エーコが来た!!』
精霊達が喜びの声を上げる。
『エーコ!!会いたかった!』
『エーコだ!!』
『エーコ今までどこにいたの?』
沢山の精霊達が歓喜の声を出す。
……な、なに?何が起こってるの?
精霊達とは裏腹に、私は今までに無い恐怖に震え出した。
『エリナ……』
光ははっきりとした人型になる。
『エリナ、初めまして。ワタシはエーコ。キミのお陰で長い封印から目覚めることができた。ワタシはこの子達の『親』でもあり、この子達の『王』でもある存在……』
肩に付くか付かないかぐらいの黒い髪を片方を耳にかける。
黒い瞳の女の子が立っていた。
格好は前世でも見覚えある紺色のブレザーに同じく紺のベスト。
短めのチェックのスカートに紺色のハイソックスにローファー。
エーコの格好は『女子高生』姿だった。
エーコはブレザーのポケットに両手を突っ込んで私を見つめニッコリ笑う。
私は今の状況を飲み込めずに震えることしか出来なかった。




