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第2話 ハゲの責任を取らされる王子。

兄のサイラスと妹のリリアはとても母に似ていた。

蜂蜜色のフワリとしたくせ毛な髪質に深いエメラルドグリーンのくっきりした瞳。

2人ともまるで天使が舞い降りたかの様な容姿端麗ぶり。

なにせ素の遺伝子を持つ母はその昔社交界で競争率No. 1と言われていたカーライト嬢!

しかも王族の遠い親戚に当たる、由緒正しい家系。

よくTHE.普通の父が母を射止められたと思うけど、意外に母の一目惚れからの猛アタックだったらしい。

まあ次男だし婿を募集していたカーライトには父は合格だったのかもしれない。


私はと言うと父の遺伝子が強く受け継いじゃった様で、少しつり上がった胡桃色の瞳に同じく胡桃色の重めな直毛ヘアーをツインテ……いえ、邪魔にならない様に左右で2つに結ってもらっている。

ちょっとオシャレに見栄張ってみたけど、要は茶色。

そしてこの地味顔。

顔だけ見ると、ちょっとあの子意地悪そう的な。

目力すっごーみたいな……。


母に似たのはこの透き通る白い肌のみ。

私だけ不公平感極まりないが母は父の顔が大好きなので、それはそれは可愛いと愛してくれている。

親のひいき目120%なのは、大丈夫、わかってる。


父も父で自分そっくりな私でも娘補正で溺愛してくれてるので、それなりにここまでグレずに育ってきた。

兄妹の容姿を見ているので、身の丈も理解済みだ。

なので兄妹が表舞台で輝こうものなら、自分は裏でのんびり本でも読んでいようとあぐらをかく始末。

注目集める人が集めればいいのだ。

そう思っていたが……。


「ですから、エステル嬢の木から落ちた原因はうちのエリオットにあると言うことがわかりました……」

王妃が深々と頭を下げる。


は……?

木から落ちた原因てなんだ。

私が勝手に登って落ちただけなのに……。


訳がわからず、ポッカーンとお揃いのアホ面を並べて言葉を失う親子に、付き添いの兄が申し訳なさそうに喋りだした。

「どう言う訳でしょうか?少しおっしゃっている意味が……」


王妃はハンカチをそっと目頭に当て、涙をそっと抑える。

「あの時木に登るエステル嬢を見つけて、エリオットが大声を出してしまったらしいのです。……危ない…と。」

王妃の横に佇むエリオット王子が気まずそうにうつむいている。


「王妃様、それは殿下のせいではありません。エステルを気遣ってお声をかけてくださったのでしょう…。責任を感じられることは一つもありません」

9歳とは思えない兄が淡々と父の代わりに私をフォローしてくれている。


「いえ、そう言うわけには……。聞くところによると、エステル嬢は頭部に怪我をしたと…。それは一生残る傷だと言うことも……」

王子がおずおずと話し出す声に父もハッと意識を取り戻した。


「後頭部がちょっと禿げただけですので……」

おい!親がハゲとか言うな!

毛穴4つ分、毛が生えなくなっただけだ!

心の奥で壮大なツッコミを入れる私。


キッと父を険しい顔で睨むと、目の端の方で王子が私を見つめていることに気がつく。

パッと目が合うと、壮大に怯えさせてしまったのか視線がそらされた。

うう、すいません…目力強すぎて……。

ぎゅっと下を向く。


「ですが、エステル嬢に一生残る傷がついたとなると、将来で傷モノ扱いされて婚姻に影響が出る場合も……。」

王妃が溢れる涙を再び拭う。

あー、そんな事もあるのか……。

なんてめんどくさい世界。

後頭部の傷なんて、かき分けて探さないとわからないでしょうよ……。

ポリポリと他人事のように頭をかきながら考えたけど。


「正直そんなことで嫁に行けないなら、無理に行かなくてもいいかなぁ。お兄様の手伝いで自分の領地を繁栄させて、最終的には修道院か孤児院でシスターにでもなったらいいかなと思います。」

父も兄も、王妃も王子も。

近くで待機していた騎士やお茶を入れていた執事も一斉に、すごい顔で私を見る。

あ、しまった。声に出しちゃってた。


「あー、えっと、大丈夫です。気にしないので。自分が落ちた責任は自分にあります。却っていらぬご心配とご迷惑をおかけした事を深くお詫びいたします」

そう言い直して、スカートの裾を持ちお辞儀した。

今度は王妃と王子がポカーンとした顔で止まってしまわれたが。


「まぁ、娘もこう言っているので、どうか気になさらないでください……」

父のフォローも入るが、ちょっと心にも耳の奥にも届いてない様子。

えー、どうしよう。


と言うか父も兄も修道院でシスターなるって何!?と言わんばかりに、口をパクパクさせて何かを訴えている。

いや、怖いから。


「そう言うわけにはいきません。」

王妃様がさっきと比べ物にならないぐらいのはっきりした声で言った。

「こんな小さな女の子に将来独身を貫く覚悟など…嘆かわしい!」

王妃は私の方を向き直り、涙を拭うと、こう言った。


「エリオットに責任を取らせて、エステル嬢と婚約させます。」


これには父も兄も本人も驚いた。

まさかの展開である。

ポッカーン顔選手権、2回戦目こちらのターンが巡ってきたようである。

今度は兄も加わり、3人でポッカーン。


本人の意思無視もいいところだ。

王子はどう思っているんだ。

チラリと横目で王子を見ると、説得されたのだろうか…やや引きつった笑顔でこちらを見ている。

ひえええー。

可愛いお顔が台無し!

絶対納得してないよね!?


流石に言葉が出ずに固まっていると、王妃が私の頬に手を伸ばしていた。

「エステル、怖かったでしょう。本当にごめんなさいね……。小さい頃からずっと自分の娘のように見てきたので、可愛いあなたにできる限りの事をしたいと思います。何かあったら言うのですよ……」

そして、王妃にぎゅっと抱きしめられた。


えええー、待って。

お兄様なんとか言ってー!!

目で兄に訴える。

目力のおかげか、兄がハッと現世に意識を取り戻す。


「お、王妃様待ってください。エステルに次期王妃は向きません!ですから……」

「いいえ。これはもう決定事項です。」

最後まで言わせてもらえず、兄がグッと黙る。


お兄様使えねええ!!

こうなったらお父様、いきなさい。

今度は父にカッと目を見開く。

私の視線にハッと意識を取り戻したが、王妃様の笑顔に父は何も言えなくなった。

権力ぅぅ!!!

権力に負けたよ、お父様。

仕方ない、自分でなんとかするしかない。


「王妃様」

抱きしめられたまま、王妃様を見上げる。

「エステル、どうしましたか?」

笑顔、眩しすぎる…。

ウッと眩しさに目をそらしそうになったが、耐えろ私。

私も最大限の笑顔を絞り出す。


「王妃様、お祖父様に聞いて見ないと私には判断できません。婚約に関してもしやお祖父様が用意した相手がいるかもしれないのです。なので……一旦保留でオネガイシマス」


最後ちょっとビビって片言になってしまいましたが、何とかこの場は持ち帰らせてもらった。

流石にお祖父様の名前を出したら王妃様も一旦保留を受け入れてくれたが。


「ダリウスが出ようが何だろうが、保留しても留保はいたしません」と、笑顔で言われた。

わーい私の思惑バレてる。

お祖父様でも握りつぶさせないってことですよね。

まあ普通王族に申し込まれたらこっち優先だわな。

しかし、王妃何故そこまで……。


今回のポッカーン合戦、あえなく敗退。

てか6歳同士で婚約って。


何とか馬車に乗る。

兄と私は合戦の敗退に燃え尽きて抜け殻のように座っていた。

父は母になんて言おうかと唸るのであった。

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