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第18話 私だって悩むんです!

「どー言う事なの!!」


エリナさん、またまた激昂状態。


「おっしゃりたい事は分かるんですけど、私も実に遺憾であります。」


静かに口にご飯を運ぶ。

今日はコーディもマギーも職員棟に寄る為、遅れて来るらしい。


「エステル、飲み物ここに置いておくからね。ちゃんと噛んで食べるんだよ。」


リオンがにっこりしながら私にコップを渡した。


「……ありがとう。」


リオンさん、それって小さい子にする言い方だろう……それ。

まあなんか前より表情が明るいし、楽しいならいいのだけど。



その様子を見ていたエリナはまず、目を見開き無言でリオンを指差す。

そして次に私を2回、指差した。

怒りで我を忘れてらっしゃる……。


何が言いたいか、わかってるよ。

でもね、もう私にもどうにもならないの……。


リオンを朝イチで捕まえて話し合ったのだが、誓いをした手前、取り消せないと。

迷惑かけないので、そばに置いて欲しいと懇願された。

……ならば。


『友達』として付き合って欲しいと、将来的にはエリオット王子を補佐する事を条件に契約は成立した。

これならば問題なかろう?

まぁでも将来私が王妃にならないのであれば、エリオット王子には仕える気はないとは言われた事は、エリナには黙っておこう。


『友達』なので、敬語は無し。もちろん様付けも。

私のお世話も自分優先で暇な時に。


「こー言うのイベント横取りって言うのよ。」


「そんなこと言われても……だから言ってるじゃないか!誠に遺憾なのだよ、私も!」


昨日から頭を抱えてばかりだ。

そもそも全部を私に丸投げしといて、後でごちゃごちゃ言われるのも困るんだが!


私の横でギャーギャー怪獣のように叫ぶエリナをジッと見ていたリオンがボソリと言った。


「ローズデール嬢は噂どおりの残念な令嬢なんだね……」


『可哀想に……』そんな目で見ている。


エリナはリオンを睨みつけて。


「どう言うことよ!噂ってなんなの!?」


と詰め寄っていった。


リオンのお陰でエリナの注意は私から離れたので、ホッと息をつく。

昨日あまりよく寝れなかったので、なんだか頭の中がフワフワしてる。

あんまり食欲もないし。


と言うか、早まる婚約発表の件。

エリオット王子の突然の行動。


もう処理しきれないので、忘れてしまいたい。

あ、て言うかエリナの世界では婚約発表はいつされるんだろう?

もしや早まったのもシナリオ通りだったりして?


「師匠、私とエリオット王子の婚約発表っていつ頃されてた?」


まだギャーギャーいってたエリナがこっちに振り向く。


「そんなの4年後でしょ?婚約はしてたけど、世間的には結婚する1年前に婚約発表じゃなかったっけ?」


……やっぱり!

あー、どうしよう。

秋に発表する意味ってなんのためだよ!

『3年半後ぐらいに結婚するので、いま発表しまーす』なんて人いるか?いないよね?

聞いといて無視して無言で俯せる私に、またエリナがギャーギャー言い始めた。


あまりに頭を抱えるので、リオンが心配そうに隣に座った。


「やっぱり昨日のことで、何か言われた?」


「あー、めんどくさいことになった」


「後で、よかったら相談に乗るよ。」


リオンは心配そうに見つめてる。


「……ありがと」


頭はフワフワするし、お腹はシクシク奥の方が痛い気がする。

食堂でご飯も食べず、テーブルに頭を乗せてる私。


なんだか突然家に帰りたくなった。

……あれ?ホームシックか、私?


「エステルどうかしたの?」


コーディが遅れて来た。


「んー大丈夫。寝不足で食欲ないっぽい」


「エステル顔色悪いですよ……」


マギーも心配して背中をさすってくれる。


「ん、大丈夫……」


だんだん話すのも億劫になってきて。

みんながお昼を食べてる間、ずっと俯いていた。

あー、ヤバい。

これ大丈夫じゃないや。


そうこう思ってたら、お昼休みが終わる鐘が鳴った。

動けるうちにと。

ついて来ようとしたみんなを丁寧に断って、ひとりでノロノロと医務室へ行く。

寝不足でお腹が痛いと伝えると、熱を測られた。


「あら、あなた熱があるわよ?」


あ…もしかして。

考え過ぎて知恵熱ってやつかな……?

アハハ。


……って、笑えねえから!!



その日から私は3日寝込んだ。

その間ずっと夢うつつで、ぼんやりずっと長い夢を見ていた。


私は縦ロールをしていて、エリナに酷いことばかりを言っていた。

エリナが何度も目に涙をためている様子をずっと、ニヤニヤ笑って『自業自得ですわ』と高笑いする私。

後ろにはコーディもマギーもいて、私は彼女たちさえ召使いのようにあれこれ命令する。

二人は常に私の顔色を伺って、私の言うことをただ頷いていた。


縦ロールの私は、常にイライラしていた。

エリオット王子が私を見ようとしない事も、婚約者の私じゃなくエリナに笑いかける事も。

私が何したって言うの?

ただあなたに好かれたかっただけなのに。

ただ側にいたかっただけなのに……。


思い通りにならないイライラは我儘じゃないんだよ。

ただあなたが好きだっただけ。

好きだから、あなたに相応しい私になれるようにと頑張ってただけ。


だけどあなたは私を1度も見ないで、エリナを見つめていた。

エリナの髪を優しく撫でて、エリナに優しく微笑んだ。

そしたら私の婚約者としての立場は?

私はあなたのなんだったの?


縦ロールの私は、ひとりベッドの中で泣いていた。


『君はエリオットにしつこく言い過ぎたんだよ。』

それは婚約者がいるのに他の女性の手を取ったりするから。


『そんなキツイ目をして睨まれたら誰も何も言えなくなるさ』

これは私のせいじゃないわ。生まれ持った顔なのに。


『妹がこんなんじゃカーライトの恥だ。努力が足らなかったんじゃないのか?』

お兄様、私は必死にやったわ!


『王子だって優しく守ってあげたくなるような子の方がいいに決まってる。君みたいに強い女より』

王妃としてのマナーや教育を受けた事を生かそうと頑張ってただけなのに……!


もうやめて。

もう、やめて……。

耳を塞ぎ、頭を振る。


苦しくて、悲しくて、涙が溢れる。

お腹がずっとシクシク痛んで、心も痛くて、自分の事を後悔ばかりしている。


なんで誰もそんな事ないよって言ってあげないんだろう。

なんで誰も彼女を救ってあげないんだろう。


優しく君は正しかったよって言ってあげるだけでいいのに。

自信持って前を向いてって背中を支えてあげるだけでいいのに……!


夢の中のエステルはとても小さくて弱い女の子だった。

失恋に傷付き、自分の不甲斐なさを後悔して泣くだけの女の子。


こっちのエステルも私の一部なんだろうか?

だったらエステル。

私と一緒にこっちに来ない?

こっちは友達がたくさんいて、きっと寂しくないよ。

失恋しても大丈夫。

友達がきっといつまでも一緒に泣いてくれて、慰めてくれるよ。

もうきっと悲しませたりしないから、私と一緒に行こう。


『私』は『エステル』に手を差し伸ばす。

『エステル』は顔を上げて、その手を見つめていた。


ただジッと見つめて。

はにかんだ笑顔で、『私』の手を取った。



目が覚めると、涙が沢山溢れていた。

そして何かを掴もうと、天井に向かって手を伸ばしてた。


ゆっくりその手を下ろしながら。ジッと見る。

私は何を掴もうとしてたのだろう?

なんだか胸の奥のモヤモヤは、晴れた気がした。


「お嬢様、目が覚めましたか?」


エルが私に水を持ってきてくれた。

私はそのコップを受け取り、ひとくち口に含む。

喉がとてもカラカラだった様で、スゥッと飲み込んだ水が喉を通ると体全体が潤う気がした。


「全く心配しましたよー!あまりに目が覚めないので、心配した旦那様と奥様がこちらに向かっている様ですよ!」


「えっ……」


母と父が来るの!?

なんだか波乱な予感がしないでもないが、私は素直にとても喜んだ。

なんだかホームシック気味だったし、なんだか嬉しい。


「エステル?起きた?よかったー。ずっと熱が高くて心配したんだよ……」


兄がエルの後ろからひょっこり顔を出して私の手を握ってくれた。


「ご心配おかけしました。お兄様……」


兄も側にいてくれたんだ…としみじみ胸の奥があったかくなる。


『ひとりじゃなかった、私。』


……あれ、なんでそんなこと思ったんだろう?

私はいつもひとりじゃなかったはずなのに。


『エステルはもう泣いてないだろうか?』


…なんで自分が自分の心配してるんだろう。

熱のせいで何か混同しているんだろうか……?


「へんなの」

私はそう呟いて、ひとりで笑った。



その日の夕方。

母と父が寮に駆けつけてくれた。

二人が私を力強く抱きしめてくれたので、心の奥が満たされた様に安心した。



あ、そういえば、心配事も一つ解決されていた。


「あぁ、婚約発表なんかさせなくてよ。何があるかまだわからないんだから。」


母が黒い笑いをした。


「そうだよ、なんだかエリオット殿下が発表を急ぎたいと連絡きたらしいけど、うちが却下したから。」


『お父様だって、やるときにはやるんだよ』と、父が照れた様に笑う。

母が父の頭を撫でて『よくやったわ!あなた!』なんて頬にキスをしまくっていた。


ていうかやっぱ王子の自分判断だったんじゃないかって言う。

まぁ、もういいけどさ……。


「リリーは?元気?」


ベッドの上からまだ起きられない私。

エルの手を借りて、体を起こす。

背中にクッションを入れてもらっているときに『なんだかこれ、懐かしいな』ってフフフと笑ってしまった。


「本当は一緒についてきたがったんだけどね、あなたが具合悪いなら移ったらダメだからって置いてきたのよ」


「リリアはとてもエステルに会いたがって泣いていたよ。」


「そうよね、お兄様も私も学園に入ってしまったから、リリーはとても寂しんじゃないかと思うわ……」


「ああ、でもあの子は結構図太いとこあるから。早く学園に行きたいから今すぐ2年立たないかなーって言ってるわよ」


実の親によって、天使の裏側を知ってしまう!

でもあと2年でリリアもこの学園に来るんだなぁ。

なんだかしみじみしてしまう。


「リリーに私も早く会いたいわって伝えて下さい」


私が笑うと、母も父も笑った。


流石に目覚めたばかりなので、少し休みなさいと両親は部屋から出て行った。


誰もいなくなって、ひとり。

さっきと打って変わって、シーンとした部屋。


ベッドで横になりながら、天井を見つめる。

まだ病み上がりだからか、フワフワした感覚に体がダルい。

大きく何度も瞬きをしていると、ふと目の端に見慣れない花束やプレゼントの箱、手紙の束が見える。


手を伸ばすと、ギリギリで手紙の束が引っかかる。

指でこっちに寄せながら、無事手元に寄せることができた。


一つずつ差出人を確認する。


コーディだったり、マギーだったり。

エリナからもあるし、リオンも。

そして、エリオット王子からの手紙もあった。


丁寧に読んでいく。

マギーは私の体調を心配してくれて、今度元気になったら城下町に美味しいケーキのお店ができたから行こうって書いてあった。

コーディは学校の様子や、勉強がどこまで進んだかとか、エリナがまた何かしでかした事や。

私がいなくて寂しいとあった。

エリナは食堂でプリンの販売がされた事をまるで自分の手柄の様に、自慢げに書いていた。


リオンはエリオット王子の計らいでお姉さんの汚名に関して王様の謝罪があった事を手紙に書いていた。

これによって第2はこっぴどく王妃に叱られたことだろう。

内緒にしなくてごめん。でも、とても感謝してくれてた。夏にお姉さんのところへ家族で遊びにいくそうだ。


私は自分のことの様に嬉しくなった。

元気になったらおめでとうって言おう。

リオンは嬉しそうに笑ってくれるだろうか?


エリオット王子からは、体調の心配。送ったお花は気に入ってくれたかなど。

相変わらず当たり障りのない定型文だった。

婚約発表を早めたことの謝罪はなかったが。


早く元気になって、みんなに会いたい。

みんなでまたご飯を食べて、笑い合いたい。


私はまたウトウトと、睡魔に襲われ眠りについた。

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