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第17話 突然のSYU☆RA☆BA☆

何だこの状況は!?

私が知りたいわ!


王子の目に入ったのは、リオンが跪き、私の手にキスする格好。


「おい貴様!エステルから離れろ……!」


王子は私の部屋のテーブルにあった、パンのガス抜きに使用した『めん棒』を手に取って構える。


リオンは何も言わずスッと立ち上がり、私をかばうような姿勢で立ちふさがった。


遅れてコーディとマギーが部屋に入ってくる。


「何だこの状況わーー!!!」


両頬に手を当て、絶叫する私。


待って待って。

本当に待って。


誰かこの状況を説明してほしい。

いったい何でこうなった!?

リオンが跪く前あたりからもう記憶が曖昧なのですが!


パニックに狼狽える私をコーディとマギーが心配そうに見ている。


「もう一度言う。私の婚約者から離れろ。」


「僕は彼女に恩があり、忠誠を誓った身。命令以外で離れる事は死を意味する。」


いや、離れていいから!!

てかそっちの人も婚約者とか大きな声で言うな!!


パニックで頭がグルグルしてくる私。


その悪環境を制したのは……。


「みなさん、今日はお引き取りください。

妹はとても疲れております。続きはどうか、この部屋から出て外でなさってください」


天使の笑顔はこの3年で少し大人びた顔になっていた。


「お、お兄様…?」


「うん、僕だよ。もう大丈夫だから、こっちにおいで。」


兄が両手を広げる。

私はリオンと第1王子の横を通り、ヨロヨロと兄の腕の中へ身を預ける。

その様子を二人は悔しそうに見つめるのだった。


「わかりました、今日の所は引き上げます。エステル様、パンごちそうさまでした。話の続きは後日ゆっくりと。」


リオンは脱いでいた上着をとカバンを抱え、丁寧にお辞儀をして、笑顔でドアから去っていった。

残された第1王子は。

口惜しそうにリオンの後を追うようにドアから出て行く。


久し振りの兄の顔に、ホッとして力が抜ける。


「エステル大丈夫?君のお友達が僕を呼びにきた時、何があったのかと肝が冷えたよ。」


私を抱きしめたまま、兄もヘナヘナと一緒に座り込む。


見上げると兄と目が合う。

兄は天使顔負けの笑顔で私を見つめていた。


「お、おにぃさまぁー!!」


兄の胸元で涙が溢れた。

緊張がほぐれ、涙が出たようだ。


「エステル何があったんだい?」


兄は『よーしよし』と私が泣き止むまで頭を撫でてくれた。


一頻り泣くと、心も頭も落ち着いてきた。

ムクリと顔を上げると、兄がまた私の頭を撫でた。


「ゴメンね、なかなか会いに来れなくて……。僕、生徒会の手伝いやってるから、入学式が終わったあたりから、ずっと缶詰状態でさ……」


「いえそれはしょうがない事なので、大丈夫です。」


テーブルには兄と私、コーディとマギーも座っている。

新しくエルのお茶を淹れなおしてもらい、温かいお茶に口をつける。


「僕が生徒会から帰る時に自分の教室に寄ったら、君の友達という彼女たちが訪ねにきてくれていて……」


チラリと兄がコーディの顔を見る。

コーディが恥ずかしそうに俯いた。


「エリナ様が先生に連れていかれたので、ほっといて帰ろうと二人で寮に向かってたのですわ。

そしたら寮の入り口の前に、エリオット殿下が怖い顔をして行ったり来たりしていて……。」


コーディがマギーを見てお互いで頷きあう。


「そうですわ、それでもしやと思い様子を伺っていると、エリオット殿下がブツブツ呟いてるのが聞こえて……」


『婚約者が、別の男と部屋に…』


「その言葉を聞いて、マズイと思って。でも私たち殿下を止めるほどの力はなかったので……お兄様を思いついたのです」


第1王子は教室から二人で出る私とリオンを見かけたようだ。

こっそり様子を見ながらついて行くと、リオンと私は部屋に消えていったので、自分の取り巻きの騎士と一緒にアレコレ誤解をしてしまったようだ。


まあ扉を開けてみたら、私にリオンが跪いていたわけだから、沸騰したのだろう。


「……それで、エステルはなんでこんなことに?」


……その通りである。

むしろ私が聞きたい。


ガーッと頭をかきむしりながら、事の経緯を話す。

勿論エリナのことは伏せて。


「グレイス様がどうやら、第2に不穏な思いをしているんだろうなと思い、私と同じかと思って声をかけたんですよ。」


その後のことをアレコレ省きながら説明する。

勿論オフレコなのだが、兄もコーディたちが知ってる所は話す。


兄も私が誓約書を書かせてボロクソ言ったことも知ってるので、リオンが私に感謝して忠誠を誓った所は、声をあげて大笑いしたのである。


笑い事じゃなーい!!


そもそも、状況は最悪だ。


恩を感じて忠誠を誓うのは、第1王子にだったはず。

私にではない。

そしてあの状況では、仲良くなるどころかどうみても敵対関係だ。


「マズイよー、怒られるこれは。」


頭をかきむしりながら、エリナの顔が思い浮かぶ。

これを知れば、彼女はきっと激昂するだろう。


「おこられる…?」


エリナを知らない兄はキョトンとした顔で私をみた。


「いや、こっちの話…」


私はエリナに対してだったのだが、兄は王子だと勘違いしたようだ。


「ちゃんと話せばわかってくれるんじゃないかな?」


『そもそもこんなことで怒るなんて、小さいなぁ』と小さな毒を吐く兄。


その言葉にコーディもマギーも笑顔が戻った。


「ともかく、先に殿下と話すべきですわ。不貞なんて騒がれる前に……」


コーディが溜息をつく。


「あ、それでもしや破棄なんてことには……?」


「「ないですわ」」


マギーとコーディの声が揃う。


「……やっぱり?」


私たちのやり取りに『ぶはっ』っと兄が吹き出した。


「エステルはいいお友達ができたんだねぇ」


兄がしみじみ言う。

私は照れくさくて、少しはにかんで、頷いた。



兄はまだ仕事が残っているとかで、早々に教室に戻っていった。

落ち着いたら、また部屋に尋ねてきてくれると約束して。


「いいかい?今日中に王子の誤解を解きに行くんだ。グレイス君は後回しでも、ちゃんと話をするんだよ。」


私に何度も念を押す。


『ワカリマシタ』と強張った顔で言う。


「『真面目は思い詰めると何をしでかすかわからない』らしいからね。」と兄が付け加える。


どっちも真面目属性なのですが……。


恐ろしい。

速攻でいってきます。

背筋が凍る、私。


と言うか。

何かが足りないことを気がついた。


キョロキョロと辺りを見る。

その様子にコーディがフッと鼻で笑った。


「エリナ様なら、アーロン先生のところでお説教中ですわよ」


私はやっと前回の経緯を知ることとなる。



コーディたちと別れ、私はエルと重い足取りで第1王子の部屋へと向かっている。

なんの言い訳をしようか、どう説明しようかと。

それを考えながら、発狂しそうなぐらい頭を抱えていた。


「お嬢さまぁ、中々進みませんねー、おみ足が。」


エルがまるで『抱っこしてあげましょうか?』と言わんばかりに私に向かって両手を広げる。

いや、抱っこは遠慮します…。

無言で首を振ると、すごく残念そうにうな垂れた。


なんで抱っこしたかったの……。


そんなやりとりをしていると、第1王子の部屋の前についてしまった。

ノックをすると、部屋の前で待機中の騎士が一人でてくる。


軽くお辞儀をすると、察してくれたようですぐ部屋に通される。


侍女が王子を呼びにいってる間、私はテーブルに案内され、エルは入り口で待機することになった。

第1王子の部屋はいつもより騎士も侍女も沢山いて、少し騒がしい状況になっていた。

私が怒らせたせいだろうか?


暫く何も変化ない時間が過ぎていく。


怒っているのだろうか。

それで『私に会いたくない』とかなのだろうか?


だとしたら今日はこれで帰って、また1ヶ月後ぐらいに挨拶すれば、いい感じに忘れてたりしないかしら。

あ、でも。

あの時は失礼しましたとか1ヶ月後に言われると、思い出し怒りが出ても嫌なので、そのままフェイドアウトしてもいい気がしてくる。


一人で考える時間がたくさんあり過ぎて、どうやったこの場をうまく騎士や侍女に見つからず逃げられるかなんて、脱出ゲーム並みな事まで考え出す始末。

要は暇なのである。


私は頬杖をついて、椅子に座っている足をブラブラしながら、もう違うことを考え始めた。

エルが『お嬢様お行儀が……!』なんて合図してることも気がつかないくらい。


ボーッとしてたら、突然目の前に顔が現れる。


「ぎゃー!?」


突然の誰かの顔に、ビックリして叫んだ。

椅子から転げ落ちるかと思った……。


「またエリオットを怒らせたんだって?」


自分の天敵が目の前に現れた事に、思わず眉を寄せる。


「……はぁ」


気の無い返事を彼に向ける。


私のその態度に、満面の笑みを浮かべる第2。

……ドMか!


「相変わらず面白いねぇ、君は。」


テーブルに腰をかけて、私の方へ向く。


「ものすごーく怒ってるから、弁解大変だと思うよ?」


そしてまた楽しそうに顔を歪ませた。


「あなたが以前城で起こした事件のせいですから。」


私の言葉に、第2は首をかしげる。


「僕が起こした事件?」


腕組みして悩む振りをする、第2。


「何のことだろう?わからないや」


そう言うと、表の顔でニッコリと笑った。


「分からないなら私から話すことはありません。」


私も笑顔で返す。


第2は口を歪ませて、楽しそうに笑う。


「エステル、エリオットが嫌なら、僕と婚約し直そうか?僕なら王妃にならなくて済むし、気楽だよ?」


第2は私の顎を掴み、強引に自分の方へ向かせようとする。

私は手で払いのけて、軽く第2を突き飛ばした。


「ジャンケンに勝った方も負けた方も、絶対、いや!!!」


貴様なんか願い下げだ。バカめ。

そして腕を組んで、フンと鼻を鳴らして睨んでやった。


第2は『ジャンケン?』と首を傾げたが、すぐいつもの顔で笑う。


「なんだ。まだそのことで怒ってたんだ!エステルは可愛いなぁ。」


そう言うと、腹を抱えて笑い続けるのだった。


「もうお前、早く自分の部屋に帰れ!!」


憤慨して叫ぶ。

腹が立ち過ぎて、だんだん疲れてくる。


私の数々の暴言には『誓約書』という、強い味方がある。

周りの大人がオロオロする中、第2は気にせず笑い続けるのだった。


その笑い声にやっと、第1王子がやって来る。


私が怒りで興奮してる横で、自分の弟がゲラゲラ笑い転げているのだ。

どう考えても異常。


第1王子の命で第2は御付きの騎士に、引きずられて自室に連れていかれた。


やっと部屋から人が少し減って、静かになる。

人が多かったのは、王子二人分の御付きがいたせいだったのね。

そんなことを納得していると、王子が人払いを指示していた。


テーブルを挟んで、二人きり。

少しの会話もない。

相変わらず沈黙が続く。


まあ今日はお茶会ではなく、私の言い訳謝罪会見のためなのだが。


イライラしているのだろうか、第1王子がカタカタと足を揺らす。


「……あの。」


意を決して私から話し出す。


第1王子は無言のままこちらを見ようとしない。

私は構わず話を続けた。


「あの、先ほどはすいませんでした。変なところを見られて動揺してしまい、殿下には誤解を与えてしまったのではないかと……」


「……エリオット。」


「は?」


「だから、エリオットと呼べ。」


「……え?」


「リオン・グレイスにはリオンと呼べと言われていたではないか。俺の事もエリオットと呼べ。」


待て。

君はどこから聞いていた……?

またグルグルと考えと頭がついていかなくなる。


手で『待って』と第1王子に合図する。

そして頭を抱えた。


「えーっと、王子。」


「エリオット。」


「えっと……」


「エリオットだ、エステル。」


「エリオット……様」


「様もいらん!」


「いえ、まだ婚約の身ですので流石に様は勘弁してください……。」


「……チッ」


は!?いま舌打ちしたよね、この人。

一体何が。

エリオット王子の何かが違って見える。

この人の実は第2と違った意味で腹黒なのでは……。

やさぐれているように見えるエリオット王子は腕組みをしてフゥーと深く息を吐いた。


「えっと、いつから聞いてました?でn……エリオット様。」


「リオンが君に忠誠を誓うところあたりが聞こえてきたので部屋に侵入した。」


「……なるほど。」


「一体全体、彼がどういう経緯で君に忠誠を誓うことになったのだ?」


「えーっと。説明してもよろしいでしょうか。」


「ああ、聞きたいものだ。不貞の疑いを晴らすべき正当な言い訳を。」


あー、不貞とか言っちゃった。

しかも言い訳って。

これは結構な誤解があるらしい。


そんなさー、罰ゲーム婚約者にそんな思い入れはないだろうに。

リオンの影に焦ったか、政治的に逃げられると困るからか……?


はぁーと溜息をついた。

まあいいや。とっとと説明して帰ろう。

結局原因は君のバカな弟のせいだ。


「実は。」


エリオット王子には、お姉さんのことを話した。

第2が何をやったのか、どんな影響があったのか、どれだけみんなが振り回されたのかを。

グレイス家はお姉さんの不貞疑惑により、家名や評判が落ちていた事も。


もちろんお父さんが宰相なので、表立って噂することはないだろうけど。


できたらお姉さんの名誉も回復してあげて欲しい。

そして落ちてしまった名誉の回復も。


ウォーレン家との婚約はもう元には戻せないだろうけど、お姉さんがこれから出来たら穏やかに過ごせるように協力して欲しいと言った。


私の誓約書による暴言で第2の鼻っ柱がチョロっと折れたお陰で、人をからかって遊ぶことがなくなったとこは、ぼかした。

むしろ私のおかげだと信じたくない。

絶対私のせいではない。

そう信じている。


「その相談を乗っていたから感謝して忠誠を誓ったというわけか?」


「ハイソウデス」


「……なんだその顔は……?」


「オキニナサラズ!」


ぼかした分だけ目が泳ぐ。


その様子を横目で見ていたエリオット王子。

そして頭を抱えた。


「……すまない。」


エリオット王子が私に頭を下げる。


「まさか愚弟がそんなことをしていたとは。噂は知っていたのだが、そこまで酷い話になっていたとは気がつけなかった。兄として謝罪する。」


「いや、私ではなく、リオン様に……」


「……そうだな。そうする。これは事実を確認して、母上や父上に報告することを約束する。」


「あー、それは是非。もうやってないとはいえ、結構な罪だと思うので、キツくお仕置きしてやってください。」


私はにっこり笑う。

だって、第2が叱られるとこを想像するだけで、気が晴れた想いだ。

明日リオンに教えてあげよう。ウヒヒ!


「で、ともかく。不貞とかでは無いので。あ、でも破棄するのであれば処分は私だけにして、お父様や家族には……」


「婚約破棄はしない!」


……人の話を最後まで聞け。

と言うか10歳にして不貞扱いされるとは思わなかったが。


「あ、それと。俺とエステルの婚約発表が早まった。本当は普通科卒業と同時にだったが、秋には発表する事となる。」


「え!?なんでですか?」


自分の目の前が突然暗くなる感じがした。

一瞬死んだわ、私。


「君がもう不貞を働けないようにだ。」


エリオット王子が不敵に笑う。


「だから不貞では無いとあれ程……!」


「それはもう誤解だとわかってるが!……発表してしまえば君に寄り付く者も少なくなるだろうと判断された。」


誰の判断?!それ!

……なんなの!?私に意地悪したいの?

なんか意地になってない……?


もう訳も分からないし夜も遅いので、話が終わると早々にお暇しようとした。

納得できないけど!!


不意にエリオット王子に呼び止められる。

振り向く前に、後ろからギュッと抱きしめられる。


……は?!

な、何やってんのこの人!


今日の私の感情はとにかく忙しい。

怒ったり、泣いたり、動揺したり、興奮したり。


緊張に固まる体はすぐ離されたが。

私はその日、クッソ疲れていたのに、また寝付けずにいたのだった。

なんでギュッとしたのか詳しく教えてからいけよ!!

あと何で発表早めるんだよ!!

エルと一緒で『突発的に抱っこがしたくなる病気』だったのか!?


私は眠りにつくまで、枕を何度も拳で叩き続ける羽目になった。

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