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第16話 リオンを説得するには。

「それで、エステル・カーライト嬢。僕に何かご用ですか?」


「えっと、ちょっとお話を聞いて欲しいと思いまして。お時間ありますでしょうか……」


リオンは怪しげに眉を上げ、私を不審そうな目で見た。


「あなたが、僕に、ですか?」


「はい。ちょっとここでは誰かに聞かれるとまずいので……」


「……聞かれるとまずい……?」


ますます怪訝そうな顔になる。


今はお昼休みの教室である。

リオンはいつもお昼を教室で食べて、あとは図書館で過ごす。

毎日変わらない行動らしい。


『行動パターンが毎回変化ない対象は、初心者向けでイージー設定なのよねぇ』


いつ何時でもその時間に行けばそこに居るので、信頼度を上げやすいらしい……。


昨日のエリナの言葉がよぎるが、私には難易度メチャクチャ高そうに見えるのですが。

この。

リオンの、この顔を見るが良い。


ただ今お昼を買ってきたところを見計らって、捕まえようとしているところだ。

予定を狂わされて、ひどく警戒心丸出しじゃないか。

これが失敗すると、もう今後チャンスはない気がする。


何とか説得出来ないかと、焦りで変な汗が出る。


リオンはじっと俯いて、何かを考えていた。

こ、この沈黙、誰か何とかしてくれー!!

もう本当は逃げ出したい。

もういいですって言って逃げ出したい!!


喉まで出かかる言葉。

我慢出来ず、言いかける。

もう、師匠の運命なんか知ったこっちゃねー!

私諦めがいいので定評あります。



「あの、も、もういいd……」


「……わかりました、良いですよ」


「え?マジで?。」


「……え?」


「イヤナンデモナイデス」


第1段階、クリアーしました!隊長!!

思わず脳内で、敬礼ポーズ!

私やりましたぁぁあ!


脳内歓喜に打ち拉がれながら。

私がパンを抱え、廊下に出た時。

背後で隠れていたエリナが私に向かって『グッ』っと親指出していた。


くそう……あいつら、楽そうでいいなぁ……。


溜息をつきながら、リオンの後をトボトボとついて歩くのだった。



場所を指定したのは、人気のない屋上へ上がる渡り廊下。

エリナ曰くここは先生も近づかなくて、イチャイチャイベントを開催するにはもってこいの場所らしい。


イチャイチャはしませんが、使わせていただきまーす……。


階段の最上段に並んで座り、取り敢えず時間もないので昼食を勧める。

昨日エルと一緒に、厨房を使う許可をもらって焼いたパンを差し出す。


また怪訝そうな顔をされたが、『毒ハ、ハイッテナイデス』と言うと、おずおず手に取ってくれた。


第2段階、餌付けもクリアー!!


「……美味しいです。」


リオンは少し驚いた顔をした。


「でしょう!?うちのパンはりんごから天然酵母を作って2次発酵までキッチリ寝かすのでとても美味しいんですよ!!」


お陰ですごく時間かかるがな!


それを興奮気味に話す私にも、びっくりしていた。

さっきまでオドオドしてたのにね……。


「それで話とは何ですか?」


「あーえっと。時間もあまりないですし、単刀直入に聞きます。」


私は少しリオンの方へ向き直す。

リオンは黙って私を見つめていた。


「第2王子となにかありました……?」


「……は?」


「いや、勘違いならいいのですが、私も彼と色々あったので……同じ思いをしてる人がいるのを、気がついたと言うか……」


「……」


リオンは黙ったままこっちを見てる。


私は一か八かの賭けに出たのだ。

相手の話を聞き出すには、まずこちらの手の内を明かす必要があると思ったから。


「私が第一王子殿下の婚約者だと知ってますか?」


リオンはゆっくり頷く。

私はそれを見て、話を続ける。


「実は私との婚約は、王子たちがジャンケンをして、負けた第一王子と決まったのです。」


「……え!?ジャンケンですか……?」


「そうです。」


「その事実はだれから?」


「第2王子本人です……。ひどく顔を歪ませて、楽しそうにおっしゃられました。」


第2の話が出たらリオンが眉を寄せた。

だが直ぐに顔が無表情に戻り、こう言った。


「その婚約は貴女が頭の傷を理由に迫ったと言う噂を聞いたことがあるのですが……」


「な!?……そんな訳……!だって私は傷なんてどうでもいいって、婚約したくなくて抵抗したけど、聞き入れてもらえなかったし……!」


どっからそんな噂が広がっとんのじゃい!

事実無根過ぎて腰抜かすかと思ったわ!

言ったやつ出てこい……口いっぱいに砂糖詰め込んでやる……!


怒りで涙目になってくる。

その様子をリオンはじっと見つめてた。


怒りを堪え、私は続ける。


「ハゲぐらいいいんですよ……。その傷で嫁に行けないと言われるなら、私は兄の手伝いで領地繁栄を頑張って、小銭を稼いで、老後を本に囲まれて自由に生きられれば……。王子にはもっと相応しい方が居ますって……。」


溜息をつきながらボソボソと自分の将来設計を明かす。

何で私が、婚約迫らないといけないんだ……!!

思わず拳を握る。

その様子をずっと黙って見ていたリオンが口を開いた。


「ふむ。噂は間違いだったのですね」


そう言って俯いてまた考え込んだ。


ふと。

さっきまで静かだった下の階から賑やかな声が聞こえる。

座っていた階段に人の足音の振動が響きだす。

そして。

……お昼休みが終わる鐘がなった。


『……終わった!』


こっちの手の内を晒して時間切れ。

最悪の結果だ。

『あぁぁ』と絶望に頭を抱える。

今言ったことを第1に王子にチクられたら私は終わる。

第2とは、何言っても不敬罪にはしないと言う念書を持っているので好きなこと言えるのだが……。

第1王子は違う。

しかもこないだのお茶会での一件を、まだ根に持っているようだし。

あぁ、ヤバい。


鐘の音に私がダラダラと冷や汗を流しだす。

それはもう、溶けているのかと勘違いされるぐらいに。


「……鐘がなってしまいましたが、話はこれで終わりじゃないですよね?」

リオンが私を見る。


「……終わりじゃないです」


やや斜めに傾き、絶望に打ちひしがれた、私が答える。

その様子にクスッとリオンが笑う。


「分かりました。続きはまた放課後でも宜しいですか?」

「……え?良いんですか??」


私の顔に輝きが戻る。

まだ終わってない……!

まだ私は戦えるのか……!?


そう思うととても嬉しくなり、ガバッとリオンの手を両手で掴む。


「ありがとう!話を聞いてくれて。時間を作ってくれてありがとう!!」

涙目である。


リオンは少し驚いた後、少し照れて、コクンと頷いた。


放課後私の部屋で続きを話し合う事になった。

とっさに人目がつかない場所を考えたとき、それしか思いつかなかったからだ。

放課後になってまで学校で話すのは、誰に見られるかと思うと、危険だし。

リオンは『それで良いよ』と言った。


放課後のことが気になって、私はその日授業どころじゃなかった。


さっき話した内容を反芻しながら、一人で怒ったり苦悩したりしながら。

早くぅぅ!早く授業よ、終われ!

そればかり考えて目を血走らせていた。


途中アーロン先生が私を見て近づいて来たが、あまりの形相に何も言わずに授業を続けた。

『見なかったこと』にしたんだと思う……。


放課後、サッサとカバンを持って待機する。

リオンが私の方を見て頷いた。

私もそっと頷き返す。


二人で教室を出て、私の部屋まで向かう。

今度はリオンが私の後を静かについて来た。


寮の入り口まで来た時に、リオンが呟いた。


「今日のパンってまだありますか?」


「え?……ああ、まだ沢山あります!」


「……良かったら後でまた頂いても良いですか?」


「勿論です!!」


……餌付けが思ったより効いてビックリした。


部屋に入るとエルが目を見開いて動きを止める。

私が男子生徒と帰って来たことにひどく驚いていた。


お茶とパンの準備を一緒にしていると、『お嬢様、浮気はいけませんよ!』とか言い出した。

一々反論も説明もめんどくさいので、もうスルーする事にした。


リオンは私の出したパンを美味しそうに食べ始める。


「……パン、好きなんですか?」


「うん。よくうちの姉が焼いてくれていたんだ。今は自分は寮だし、姉もお嫁に行ってしまって、最近は全然食べてないんだけどね」


「そうなんですねぇ……。」


「懐かしい……」


リオンは小さく呟いた。


私は紅茶を入れてリオンに出す。

そして自分も席についた。


リオンは本当に美味しそうにパンを頬張った。

これだけ美味しそうに食べてもらえるなら、昨日頑張った甲斐があったってもんだわ。


昨日エリナが突然『お告げ』を言い出した。


「そう言えば、パンに思い出があった気がするんだよね。何だっけなぁ。パンを焼いてあげると信頼度がぐんと上がるのよ。試して見る価値ありよ!!」


突然の『お告げ』通りに、突然パンを焼く羽目になる私。

中々時間がかかり、おかげで寝不足だわ……。


目がしょぼしょぼする中、リオンがパンを食べ終わり、私を見た。


「えっと、次は僕が話す番かな?」


そういうと、俯きがちの頭を支える様に、首に手を添えた。


「えーっと。セドリック殿下と何があったかだっけ?」


カップに口を付けながら、コクコクと頭を縦に降る私。

リオンは困った様にまた俯いた。


「あ、ここでの話はオフレコでお願いします。私の内容も、宜しくお願いします……」


それを言い忘れていた。


でもその話題が出て、リオンはひどくホッとした顔をした。


「セドリック殿下は……僕は苦手と言うか、できれば一生関わりたくないんですよね。」


首元を撫でながら、リオンが言いにくそうに口を開く。


それは激しく同意する。

私だって一生関わらなくていいなら、関わらず穏やかに過ごしたい。


「それは何か決定的な原因があってですか?それとも本能で……?」


「本能って……?」


「あ、いや、野生の勘というか……『こいつ危険そうだから近づかないどこ』みたいな……?」


私が首をかしげると、リオンは『ふはっ』と吹き出した。


「何ですかそれ。中々カーライト様は見た目と違って面白い方のようだ!」


リオンは声を出して笑う。


「え!?見た目と違ってとは失礼な!人は見た目で判断してはいけないのですよ!」


私は頬をふくらませる。

まったく失礼な!…まぁ、見た目云々は自覚ありますけど!!ふんっ。


ひとしきり笑うとリオンは目元に滲む涙をぬぐいながら言った。


「すいません、話がずれてしまいましたね。」


本当にな!!

まだ頬を膨らます私に、リオンは幼さの残る可愛い顔で『ゴメンゴメン』と笑った。



「はいっ!!リオン幼少時代スチルいただきー!!!クソぉぉ、何でこの時代にはカメラが無いんだ。今の笑顔やばすぎぃー!」


「ちょっと、エリナ様!声大きい!!」


マギーが身を乗り出すエリナを小声で止める。

そう言うと、本で顔を隠しながらあたりを伺う。


「大丈夫よ、エステルやリオンには聞こえやしないわよ。流石に真向かいでオペラグラス使ってみてるとは思わないだろうし!」


オホホホと高笑いするエリナ。

それをすごい形相で見つめるコーディが言った。


「あっちには聞こえるわけがないでしょう……。ただあなたの周りの方は、ドン引きしてらっしゃるけれど……それはよくて?」


エリナはハッとした顔をして周りを見渡す。


私の寮がある生徒棟。

それに園庭を挟んで真向かいが教師棟になっている。


放課後、生徒が教師棟に行くのは補習を希望した生徒の勉強会場や、自習に貸し出されることがあるのだが。

エリナは自習している生徒を装い潜入した事を忘れ、大いにはしゃぎまくっているのだった。

流石にそれは苦情が殺到したのだろう。

速攻でアーロン先生に捕獲され、キツいお説教を食らう事となる。



「僕には9歳離れた姉がいるのですが……」


リオンがボソボソと話し始めた。


私は冷めたお茶の淹れ直しをしながら、リオンを見つめる。


「僕の父は宰相なので、その縁もあり姉は学園卒業後、進学せず15で城付き侍女に出されました。

そこで同い年ウォーレン家の長男と出会い、婚約を結んだのです。」


「ウォーレン家と言うと、騎士団長のとこのご子息ですか?」


「そうです。」


リオンが大きく頷く。


「弟さんは同じクラスですよね?確か、ビクター様。」


まあ安定して絡んだ事はないが。

人種が私とは違うタイプ。


私はえへへと曖昧な笑顔を浮かべる。


その様子を見て、なぜか頷くリオン。


まあ君も絡んだ事はなさそうだ。

何せ、こっちはガリ勉。向こうは脳筋だ。

騎士団長の息子と言うのに、剣より拳で語り合おうとしちゃう系。


「まあ、彼は別にいいのですがね、絡まない限り実害はないので。」


「そうですわね」


そしてまた二人で頷きあう。


「幼かった僕の目から見ても『仲睦まじい姿』をよく見かけるぐらいには順調だったんだ。

だけどそんな幸せはあっという間に崩れ去った……。」


リオンは悔しそうに強くテーブルを叩いた。

私は思わずビクッとして後ろへ仰け反ってしまう。


「……城内で妙な噂が流れ出したのです。

『フロア・グレイスが夜な夜な別の男と逢引きをしている』と。

もちろん全くの事実無根なのですが、出どころもわからない噂を止めることができず、憶測だけが進み、とうとう婚約は姉の不貞で破棄されました。


その後ダイアン・ウォーレンは噂を消す為、すぐ別の女性と婚約してしまいました。

姉は不貞を疑われ城にもいられず、逃げるようにうちより爵位が下の10も離れた男の後妻へと嫁ぎました。

今から4年も前のことです。」


テーブルに置かれた拳に、段々と力がこもっていく。

強く握りしめられた手は、赤く変色し始めた。

私はその拳に自分の手をそっと添えた。


「その噂知っております。うちは兄妹がまだ幼く、その噂に振り回される事はありませんでしたが、その年だけで5人、カップルが破局したと言う話でしたよね。

まさかグレイス様のお姉様が関わっていらっしゃったとは……。」


思わず、絶句する。

第2の性悪具合は知ってたが、まさか身近の人が振り回されていたとは。

しかも不貞まで疑われ、格下爵位への後妻なんて、お姉様もさぞかし屈辱を味わっただろう。


「私の兄がそんな事をされてたら、私きっと第2をぶん殴るわ……」


ボソリと口から出る。


その言葉にリオンが顔を上げる。


「女性がぶん殴るなんて言葉を言うのはどうかと思いますが。」


「あ、すみません。ちょっと本音が口から出てしまいました、訂正いたしますわ」


そうだった、この人堅物だった。

いかんいかん、言葉を選ばなければ、また怒られてしまう。

思わず口に手をやる。


「ですが、それに関しては、私も同意見です。」


リオンがまた可愛らしい笑顔で笑った。


「もぅ、ビックリしましたわ!」


私もつられて笑った。


「その件があった後、僕は姉の不貞を取り消させるため、誰が噂を流したのか秘密裏に調べて回ったのですが……。」


リオンがカップに手をかける。


「犯人はセドリック第2王子だったのです。それを知った時、証拠を持って詰め寄ったのですが、殿下はただ惚けるだけでのらりくらりと顔を歪ませて笑う。結局僕は、負けた。」


カップに口をつけながら、鋭い眼差しで私を見た。


もうね。

なるほど、である。

アイツ、もうね……。


言葉を失う。

本当に失う。

実際噂を聞いただけだと、他人事として『やりやがったな性悪』ぐらいだったんだけど。

実害体験した人からの話を聞いた上だと、『……キッツー!』しか言えないのだ。


「第2をギャフンと言わせてやらないと気が済みませんね……」


組んだ手を顎に乗せ、溜息を吐く。


「……それが。」


リオンの表情が明るく変わる。


「彼が言い訳できないぐらいの正当な言葉で、イタズラをやめさせた方がいらっしゃるとか。」


リオンはさっきと打って変わって、表情が穏やかになった。


「あの第2をギャフンと言わせた人が……!?」


絶対いるわけがない。

そんなの王様でも王妃でも無理そうだから!


「その方はとても頭が切れる方だった様で、不敬罪にならぬようにうまくセドリック殿下に誓約書を書かせ、彼がイタズラを止めるほどショックな叱り方をしたらしい。

あの殿下にだ。

あの殿下がショックで寝込むぐらいのことを言ってくれたんだよ。

僕はその方の話を聞いた時、仇を討ってくれた気がしてとても胸が晴れたんだよ……。」


リオンは感謝を表すように胸に手を当てて、嬉しそうに目を閉じた。


私は、黙った。

『誓約書…?』

その単語にひどく聞き覚えがある。


「その方のおかげで、ピタリと人を惑わせる噂は広がらなくなったらしいし、城の侍女や若い騎士達は全員感謝しているんじゃないかな?」


「……いや、まさかぁ……?」


また止めどなく、冷たいものが額から流れ出てくる。


「いや、本当だよ。少なくとも僕は、その方に忠誠を誓い、仕えたいぐらいだ。父にも聞いてみたが、誰だか分からないそうだよ……」


とても残念だと、リオンは付け加える。


私の目が明らかに泳ぐ。

もうリオンの方を見れないほどに。


その動揺具合に、リオンは何かを感じ取って目を見開く。

まさか、と。


「カーライト嬢……まさかなのですが。僕に何か言う事がありますか?」


私は何も言わず、スス……ッと目をそらす。

その様子を見ていたリオンがもう一度いった。


「カーライト嬢?僕に何か言う事は……」

「……アリマス」


私はしまいこんでいた『誓約書』を証拠に、私が働いた不敬罪ギリギリの数々を暴露する羽目になる。


「空っぽか。なんか、しっくりくるね、その言葉。」


誓約書をマジマジと見て、えらく感心するリオン。


「あの本当に、この事は、誰にも内緒で……」


いつもの懇願ポーズで泣き落とす勢いで迫る。

若干リオンは引き気味だったが、ゆっくり頷いてくれた。


「と、いう事は。」


リオンが顎に手を添え、何かを考えるように俯く。


「はい?」


何を言われるかと、怯える私。


「あなたが……。」


「……はい?」


リオンは静かに私の前に膝を折った。


「エステル・カーライト様。あなたの行動に我がグレイス家を代表し、感謝の意を示します。

我がこの身尽きるまで、貴方に忠誠を誓い、仕えることをここに誓います。」


リオンはそういうと、私の手に誓いのキスをした。


「……はぁ!?」


思わず叫ぶ私。


「どうかリオンとおよびください、カーライト様。

私はなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」


まって、待って。

頭がついて来ない。

ただオロオロするだけの私に、リオンはニッコリと笑った。


誓いのキスのまま、私の手はリオンに差し出された状態になっている。

別に私が自ら差し出したわけではない。

気が付いたら手がリオンに持たれていたのだ。


「ちょ、待ってくださ……。考える。今考えてる……!」


私はパニックとなり、ただオロオロするばかり。


「エステル様と呼ばせていだだいてよろしいですか?」


にっこりリオンは私が訳がわかってないまま話を進めている。


「え?あ、はい……?」


言われるままに返事をしていく。


「だから、待ってって……!」


私が何言ってもニコニコのリオン。

ただ私の方を見上げ、眩しい笑顔で微笑んでいるだけだった。



そんな時、突然慌ただしくリビングの方から聞こえる。

何だろう?と思う暇もなく、部屋のドアが勢いよく開いた。

下がってもらっていたエルがかなり焦った顔で目が白黒なりながら入ってくる。

と、その背後に。


すごい形相をした第1王子がそこにいたのだった。








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