メリーさん?
メリーさん?
藍川秀一
この駅のホームには、大きなディスプレイが存在していた。様々な画像へと切り替わり、色々なものを見せてくれる。目のやり場に困らない程度に、景色は賑わっていた。多くの人が行き交う中、ディスプレイの輝きはやけに目立った。目を向けている人は限りなく少ないように思えるが、視界の隅には誰もが置いているものではあるだろう。
最近になって駅構内は、めまぐるしい変化を遂げている。デパートや飲食店ができたり、お土産を買ったりなんかもできる。一ヶ月その駅に立ち寄らなければ、見たことない風景になっていることだって少なくない。
駅全体が広告で溢れかえるなど、誰が想像しただろか? 少なくとも昔の僕は考えたこともなかった。
自動販売機ですら一味違ったものを使っている場所だってある。時代の流れというものは本当に読めない。まあ、確かに面白くはあるのだが、もう少し、落ち着いて欲しかったりもする。
その日もディスプレイをただ眺めていた。電車がくるまでの短い時間、暇つぶしとして視線を泳がせる。
ディスプレイの右端に、黄色い付箋のようなものが貼ってあった。何か書いてあるようだったが、読み取ることができない。
ディスプレイへと近づき、付箋を手にとって、内容を確認してみる。
「こんにちは。見えていますか?」
なんだか少し、ばかにされているような気がした。
付箋にはそれ以上何も書かれてはいなかった。子供のいたずらというのが一番考えられるが、一体どんな物好きがこんなにも変なことをするのだろう。
次の日も、同じ場所に付箋が貼ってあった。同じように中身を確認してみる。
「受け取ったなら連絡をください」
しつこい母親の留守電に耳を傾けているような微妙な感じが胸の中に残る。そして興味本位で、返事を書いてみた。
「しっかり見えていますよ」
とだけ書き残し、同じ場所へと、付箋を貼っておく。
その次の日、その場所には青色の付箋が貼ってあった。
「名前はなんですか?」
と書かれている。急に個人情報を聞き出してきた。本名を書くわけにもいかないので、今朝食べてきた、「のりたま」と書いておく。一応名前を聞き返してみた。
次の日には、赤色の付箋がはってある。信号機でも意識しているのかもしれない。
「私はメリー、今あなたの後ろにいます」
反射的に振り返る。そこには誰もいなかった。巧妙にしかけられたいたずらに思わず笑ってしまう。
〈了〉