七話 浜田祐輔と文芸サークルメンバーのイメージ
探とさくらが部屋から離れて歩いてると一人の男とすれ違った。帽子を深く被っていて顔は見えなかったが彼がこちらを向いたのを探は感じて後ろを見た。
「探?」
さくらも探に反応して後ろを見る。
「いや、なんでもない」
大したことではないと探は認識する。
コンコン、文芸サークルの顧問の研究室がノックされる。
「入りたまえ」
教授がノックの相手を招き入れる。
「君は…………!」
その相手を見た途端驚愕に目を見開いた。
「先生、久しぶりですね」
驚愕の相手、春樹が手を上げる。
「今さら何の用だ。君の、君のせいでみんなは!」
教授が怒りに声を上げる。
「まあ落ち着きなさいよ。確かに俺は文芸サークルの仲間たちを殺した。けど、あんたにその仇は討てない」
春樹が小さいスナイパーライフル取り出してボタンを押す。
「魔法演奏」
春樹の姿が軍人のようなポケットのたくさんついた服にガンベルトを巻き付けたのを派手にしたものになり頭部にレンズ付きのゴーグルがつく。
ジャキッ、そして標準サイズになったスナイパーライフルを教授に向けた。
教授は難しい顔でそれを見詰める。
「こいつの引き金を引けば、バーン!すぐに先生は死ぬ、復讐なんて余計なことはやめましょう」
「僕がやらなくても誰かがやるよ」
教授は少し笑って言う。
「どういう意味だ?」
「 潜縷の弟さんが来た、彼は潜縷の日記から君が犯人であることを知っている。なんとしても潜縷の仇を討つつもりだ、たとえ君がどんなに強くてもね」
「弟?ははーん、そういうことか」
春樹が変身を解く。先ほどすれ違った制服の少年が索の弟だと気づいたのだ。
「分かりました、その弟てのに気をつければいいんでしょ」
春樹は部屋を離れるとニヤリとした。
「面白いことになりそうだな、フフフ…………」
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「ねえ、これからどうするの?」
教授の研究室のある建物を出たさくらが探に言う。教授からは手掛かりは大して得られなかった、それどころか復讐を止められてしまったのだ。
「どうもなあ、他に春樹て人のこと知ってそうな人分かんないし………」
探もお手上げという状態である。ため息も出てしまった。
「よーし、ここは腹ごしらえだよ!ここの大学の売店には美味しい肉まんがあるらしいし」
さくらが元気に言う。
「え、なんで腹ごしらえ?」
突拍子もない台詞に探はわけが分からなくなる。
「ご飯食べてお腹も膨れれば何かアイデア来るかなーて」
「なるほど」
探は納得する。
二人は肉まんを買って食堂で食べることにした。
「はむっ、もぐもぐ……」
まずさくらが口に入れるとジューシーな肉汁の詰まった熱々の牛肉が中に入ってきた。
「あ、美味しい!」
「マジで?」
探も肉まんを口に入れる。
「あ、ジューシーーーー!」
「え、なんで叫んだの?」
探の叫び声にさくらが戸惑う。
「いや、あんまジューシーだったんでつい」
「あ、そう。ところで今思ったんだけど食堂で聞き込みをするてのはどうかな?」
さくらが提案する。
「聞き込み……」
「もうお昼過ぎちゃったけどまだ人いっぱいいるし、一人くらい知ってる人いるんじゃないかな」
さくらの言葉に探が周囲を見渡す。
「なるほど、その手があったか」
「でしょう!だ、か、ら、やろうよ聞き込み!」
「うん!」
探はさくらに頷いた。
肉まんも食べ終わり、探は手近な学生に話しかける。
「すみませーん。あ………」
話しかけた相手が振り向くと探は言葉を止めた。
「探にさくら!なんでお前がここに、こんな時間に高校生が来ちゃやばいだろ」
男子学生が言う。
「学校見学です、大学の許可はちゃんと取ってます」
「高校の許可は?」
「あ、えーと………」
「あはは………」
男子学生に問われ探とさくらは苦笑いする。
彼の名は浜田祐輔、索の古くからの友人で探とさくらとも面識があったのだ。
「あははじゃなくてなあ……」
祐輔が二人に辟易する。
「で、わざわざ学校サボって何の用だよ」
「兄さんのいた文芸サークルてどんな人達の集まりなんです?」
「文芸サークル?ああ、四人いるけど結構キャラバラバラだなぁ。ほら、索があんな女にモテそうな優男なのにラノベや絵描いたりしてるだろ?」
「ええ、まあ………」
探は索の性格を思い浮かべる。
「しかも紅一点があの明堂かりんだぜ?お前は知らないかもしれないがミス城東にも選ばれたこともある美人なんだよ。その上索と付き合うときた、ありえないだろ?」
「うちの兄て、案外モテるんですね」
「うん、美人さん捕まえるとか意外」
「だろ?で、もう一人が伊藤三郎つって眼鏡の根暗野郎さ」
「伊藤三郎。あ、もしかしてあの三郎さん?」
日記だと気づかなかったがフルネームを聞いて探もピンと来た。
「そう、高校からの俺達のダチのあいつだよ。前から本ばっか読んでるからこっちでも文芸サークルとかやるんだよな」
「ていうかあの人って、たまに探のお兄さんのこと変な目で見てない?なんていうか、熱視線?」
さくらが言う。
「おいやめろ、俺も考えないようにしてたんだ。そういうのはやめろ」
祐輔が嫌悪して言う。
「あれ、兄さんの日記だと三郎さんはかりんて人が好きかと思ったけどもしかしてかりんさんを庇うことでかりんさんの恋人の兄さんを守ったとか………」
探が深読みを始める。
「だからやめろって、そういうアブノーマルな話はー。もういい、三上春樹の話するぞ」
「そんなにこの話嫌ですか」
「で、あいつは……」
探の突っ込みを無視して祐輔が話を続ける。
「何考えてるかわかんね」
「は?」
「どういうことなんですか?」
探とさくらは困惑する。
「なんつうか、こんな蛇みたいな鋭い目してたんだけどいつもヘラヘラしてて何考えてるかわかんねえんだよ。自分でも言うのも何だけど俺ってチャラい系だろ?」
祐輔が指で目の形を蛇のように変えて言う。
「はい」
「あいつはチャラいつうか漫画で言うヒャッハー系なオーラがあってこええんだよ。まあ、あんなんだから人殺しとかやれるんだけどな」
「祐輔さんは春樹て人がみんなを殺したて知ってるんですか?」
「だって索と明堂が言ってたしな。間違いねえよ、普段は四人で昼飯食ってるのに二人に減ってて暗い顔してたからこっちから聞いちまったくらいだよ」
「そう、ですか………」
「復讐なんてやめとけって言ったんだけどな、結局あいつも死んじまった。やっぱ三上てやつにやられたんかな」
祐輔が憂鬱そうに言う。
「ありがとう祐輔さん、それだけ聞ければ充分です 」
探が礼を言う。
「なあ、お前は索みたいになるなよ」
祐輔が探の目的を察して言う。
「忠告、ありがとうございます。行こ、さくら」
探が微笑んで返す。
「うん」
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