六十四話 お前はお前を信じろ!姉ちゃんもお前を信じてやる、だから思いっきり弾け!
また別の日、探は特訓を終えると闘華に聞いた。
「で、聖麗さんには何か言ったんですか」
「いや、まだだ」
「おい」
「だってさぁ、あいつ話す度よそよそしくて距離感掴めないんだぞ。この間なんかふりかけ取ってくれって言ったら『ごめん、自分で取って』なんて言うんだぞ。どうしろって言うんだ」
闘華が現状の聖麗への不満をぶつける。
「ヘタレかよ」
春樹が突っ込みを入れる。
「ヘタレで悪かったな」
「でもいいのか、このままだとずっとスランプのままじゃないのか?」
探が聖麗を心配する。
「それはまずいな」
闘華は危惧感を覚えた。そろそろコンクールだというのにこの状態は流石によくない。
「無理にかっこつけなくてもいい、あんたの正直な気持ちを聖麗さんに伝えたらいいんじゃないか」
「 潜縷………そうだな、そうするよ」
★
ピアノコンクール当日、闘華と聖麗、二人の父親は参加者控え室にいた。
今の聖麗は拳を膝で震わせ緊張を露わにしている。そんな彼女に闘華は覚悟を決めて助言する。
「聖麗、お前はお前の弾きたいように弾け。余計な音など気にするな、むしろそれすら自分の音楽としろ。そうすれば今よりいい音楽ができる」
「今さらそんなこと言われても………」
聖麗の不安は拭えない。
「とにかく、お前はお前を信じろ!姉ちゃんもお前を信じてやる、だから思いっきり弾け!」
それだけ言うと闘華は恥かしくなって控え室を出ていった。
聖麗はその言葉を飲み込むにはまだ不安過ぎた。
★
聖麗の番になり彼女はピアノの前に座った。まだ彼女は不安だ、だがやるしかないのだ。もう時は来てしまった、今さら逃げるわけにはいかない。
鍵盤に触れる手が震える、その時だ。
「 お前はお前を信じろ!姉ちゃんもお前を信じてやる、だから思いっきり弾け!」
この言葉が脳裏に響き、鍵盤に触れる力が強くなった。




