四十九話 三上春樹は再び立ち上がる
三上春樹は大学の構内にいた。探に見逃されてから大学にまた通うようになったのだ。
彼は魔法使いの力でサークルの仲間を殺したが警察に事情聴取を受けることはあっても逮捕されることはなかった。彼が同じサークルのかりんを好いていてその恋人である索に嫉妬していたことは噂として広まっていた。
かりんを得るために索を殺したという動機は成り立つがそれを直接目撃したものもなければ凶器も見つかっていない。
魔法という超常的殺害に凶器などあるわけなく、また魔法という存在を信じる者もなかった。ゆえに警察も逮捕まで踏み込めなかったのだ。
探に負けてから罪を自覚した彼は贖罪の方法もなくただその意識に苦しめられる毎日を過ごしていた。
そして今、食堂で今日も寂しく一人で昼のうどんを食べていた。逮捕はされなくとも噂はある、人を殺したかもしれない彼と食事をしようとする者はいなかった。
当時はなんとも思わなかったがサークルでの毎日が楽しく感じていた。それだけに今は余計寂しく感じるのだ。
一人の女性が前を通りかかった。ドレスを着ていて大学にしては派手な格好である。
「相席、いいかな」
女性が言う。
「あ、ああ」
春樹は自分と相席など変わった女だなと戸惑った。一年生にしてはその女は老けていた。
「君はかつて魔法使いだったね 」
その言葉に春樹は思わずガタッと椅子の音を立てて立ち上がる。
「なんでそれを」
「知ってるさ、君が悪の商人から魔法使いの力を貰ったことも、貰った力を振り回した挙げ句殺した魔法使いの弟に復讐されて負けたことも」
女性は淡々と述べる。その声は小さいものだったが内容が内容だけに誰かに聞かれたのではと春樹は周りを気にした。
「安心したまえ、この声は君以外には聞こえない。君の声も周りには聞こえないよ」
女性の言葉に春樹は疑問を浮かべた。
「お前、何者だ。あいつの仲間か」
春樹は彼女がアンダーウィザーズの一味ではと警戒する。
「あいつというのは誰か知らないがわたしは君の味方だよ。君のかつての宿敵の仲間でもある」
「宿敵………まさかあいつの」
あいつという言葉がアンダーウィザーズから探を指すものに変わる。
「そのまさかさ。彼に力を貸す気、ないかい?」
「いや、俺は………」
女が提案するが春樹は迷っていた。彼は探の兄を殺した。その自分が探の味方をするなどありえないことだった。
「なら質問を変えようか。再び魔法使いになりたくはないかい?」
女は交渉決裂とは認識せず今度は別のアプローチをかける。
「それこそごめんだ!俺はもう、あんなことしたくない、こんな思いはこりごりだ………」
春樹は大事な人間の命を奪うということ、孤独になるということの辛さを二度と味わいたくないと叫んだ。もしかしたらこれよりもっとひどいことになるかもしれないとも恐れているのだ。
「もしその思いをする人達が増えるとしたら?君が過去のトラウマと孤独を抱えるのは勝手だ。だが魔法使いは君だけじゃない。君がいないところでも殺める者も、殺められる者は増えているんだ」
そんなもの自分には関係ない、春樹はそう思ったが次の言葉で考えが変わった。
「だが、それを止めているのが探くんだ」
「なんであいつが、復讐は終わったはず、俺を倒して、なのになんで………」
春樹は探の行動が分からなかった。
「魔法使いを倒すのはあくまで目的の過程に過ぎない。彼は魔法使いを狩ることで後ろにいる魔導システムの商人を狙っているのさ」
「そうか、そういやそんなこと言ってたっけ」
女の説明で春樹は思い出した。探は最初こそ春樹を仇と捉えていたが春樹の話を聞いてからは春樹に魔導システムを売った商人こそが仇と言っていたのだ。
そんなことを本当にやっていると聞いては彼も思わず口が緩んでしまうものだ。
「彼は今強い魔法使いと戦おうとしていてね。君にその気があれば彼に力を貸してくれないかい」
「ふ、分かったよ。やってやる、贖罪でも正義でもかまわねえ、もう一度戦ってやるよ」
春樹は女の頼みを承諾した。
「それを聞いて安心した。これを使いたまえ」
女が小型のスナイパーライフルのおもちゃを差し出す。いや、彼にはそれがおもちゃには見えなかった。
「回収した魔導システムの破片から同じものを再現したが君のものではなかったかな」
女が笑みを浮かべながら言う。春樹も懐かしいものに思わず笑みが零れた。
「いいや、ドンピシャリだぜ」




