二話 索の魔導システム
探は家に戻り兄の日記、ではなく変身ブレスレットを手に取る。子供でなくともかつては少年の心を持っていた探はブレスレットの力を見たことで再びそれに火がついたのだ。
ブレスレットを腕につけ少し悩む。なんという変身の掛け声にしようか。ヒーローというのは無言で変身するものではない、かっこいい変身の掛け声あってのものだ。
「よし、」
探は掛け声を決めてポーズを取る。
「武装!」
母親にばれないよう控えめに言ってスイッチを押す。姿が変わり大きな立ち鏡で確かめる。薄緑のメインカラーに緑のラインが走り各所にレンズの意匠がついておりレンズ型のヘッドフォンもついている。
「おー」
探は見とれるとポーズをとる。腕や足の向きを変えて色んなポーズを取る。
すると目の前にスマートフォンのキーボードが現れた、上にはスクリーンがあり後ろに虫眼鏡のマークがある。
探は試しに自分の名前を入れてみた。
「お、おー」
すると画面が切り替わり探の顔写真と共に様々な個人情報が現れる。生年月日、年齢、生まれた場所、血液型、親兄弟、卒業した幼稚園や学校、今通っている学校、性格までもが書かれている。
エアディスプレイを閉じ腰の武器を確かめる。
「すげー」
衣装と同じ矢印をあしらったデザインの銃が横に一つずつ、剣が後ろに一つずつあった。
探はそれらの力を確かめたくなった。だが家でやるのは危険な気がしたので外へ出ることにした。
河川敷に行き落ちている木の棒を何本か立てる。腰の銃を使い遠くから引き金を引く。
バキュンバキュン!
「な、なんだ?!」
探は驚いた。弾丸は真っ直ぐではなくカーブして棒に当たったのだ。何度か試すが同様の結果だ。
「おー、すごいなこれ」
探は武器の性能に関心する。
「へー、こんなとこに同類がいるなんて驚いたなあ」
「誰だあんた」
そこへ探の知らない男が現れる。年齢は二十歳前後の若者と言ったところで全身から堅気ではないオーラを放っている。
「言ったろ、同類って」
男は円盤型をした手のひら大の機械を取り出した。
「魔法演奏」
男は掛け声と共に機械のスイッチを押して魔法陣を出した。
「魔法演奏?」
探はその掛け声に反応する。どうやらこの力は元々そういう掛け声らしい。
魔法陣は上から男の身体を通るとその姿を変えた。その姿に探は血の気が引いた。なぜならそれはクモを象ったような黄色と黒の姿で顔もヘルメットに赤い不気味な複眼がついていた。
「同類狩りなんて初めてだ、普通のやつはすぐ死ぬからな」
クモ男はそう言うと口からネバネバした糸を射出した。
「うわ!急に何するんだ!」
探はクモ男の糸を避けて抗議する。
「決まってるんだろ、てめえを殺すんだよ!」
クモ男は叫ぶとさらに糸を射出する。
「わけわかんないよ!何だってそんなことするんだ!」
探は困惑する。
「理由なんてねえ、殺したいから殺す、それだけじゃねえか!」
クモ男は非情にも探の困惑を切る。
「うわ!」
探は敵の糸に捕まってしまう。
「ぐっ!」
探は足掻くが身体の正面に糸がまとわりついて思うように離れられない。
「ひゃひゃひゃ、いいザマだぜぇ」
クモ男が嘲笑いながら近づく。そして右腕を近づけて電撃を発射した。
「うわー!」
探は電撃に悲鳴を上げる。痛みが身体中に走り苦しむ。いたいいたい、どうしてこんな目に遭うんだ。探の中にそんな言葉が浮かんだ。
「へへへ、苦しいか?苦しいよなぁ、ひゃーはっはっは!サイコーだぜその顔はよぉ!」
クモ男は探の苦しむ顔に快楽を覚えた。
そして探の中にはこの窮地を抜け出すにはどうすればいいかという疑問が出た。すると家で見たのと同じ検索画面が現れる。指でのフリック入力などいらない、勝手にキーボードが動き検索画面に「蜘蛛の糸 抜ける方法」と出る。検索。
「魔力?」
探は検索結果が一瞬なんのことだか分からなくなる。表示されているのは「魔力で糸を溶かす」であるがこの力を使って間もない探には何のことだか分からない。
とにかく魔力らしきものを出してみようと意識する。すると身体に力が湧いて糸にそれが伝わった。ブチッ、ブチッと糸が切れていく。
「なにっ!?」
クモ男が驚いて声を上げる。
「えい!」
「ぐっ」
探はクモ男に蹴りを入れて距離を作る。腰裏に手を回すと剣が自動で動き探の手に収まる。
「はあっ!」
探が剣を振るい、キィン!キィン!という音と共にクモ男を斬り裂く。
「てめえ、よくも!」
クモ男が右腕で反撃するも探は後方に回避する。
「てめえ逃げんな!」
「逃げてなんかない!」
探は叫ぶと武器を剣から銃に変える。引き金を引き回避不能な弾丸をクモ男に浴びせていく。
「ぐあぁぁぁ!」
バスンバスン!という音と共にクモ男が悲鳴を上げる。
「う、ぐ………」
探の猛攻にクモ男がよろめく。
「とどめだ!」
探の衣装のレンズ部分が発光しエネルギーが収束する。カチッ、引き金が引かれ銃口からそのエネルギーが発射する。
「じょうだ………」
冗談だろ?俺が死ぬなんて、そんな言葉を言う間もなくクモ男は攻撃を食らう。
ドーン!という派手な音と共に吹っ飛ぶ。男の変身は解け、服も身体もボロボロだ。変身アイテムも壊れている。そんな彼に探が近づく。
「一つ聞いてもいいかな」
「なんだよ」
「この腕っていうか、この格好てなに?」
男は探の言葉に目を丸くした。
「お前、知らないで使ってたのかよ」
「貰いものっていうか、拾いものだからね」
「そいつは魔導システムっつって、使うと魔法使いになれるんだよ」
「へえ、魔法使い」
「表舞台じゃ出回ってないが裏社会じゃ結構有名なんだぜ」
「どうやってもらうの」
「普通じゃ買えねえな。闇商人がどこかにいてそいつらに運よく会うと買えるんだ、結構高いけどな」
「そっか、ありがとね」
探は男から離れる。
「待てよ」
男に呼び止められて探が振り向く。
「なんで俺を殺さない、魔法使いってのは互いを殺し合うものじゃないのか」
「あいにく俺は魔法使いになったばかりでね、そういうのよく知らないんだ」
そして探が立ち去る。男はその背中を変わったやつだと見詰める。
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「あの子、勝った?」
二人の戦いを見ていた少女が言う。彼女もまた魔法使いだ。探の劣勢を見て助太刀しようとしたがどうやら杞憂だったらしい。
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