一話 兄の変身ブレスレットと日記を見つける
「なんでだよ、なんで死んじゃうんだよ兄さん!うわー!」
少年が霊安室で兄の亡骸にすがりついて泣いた。彼の名前 潜縷探、兄を索と言う。索は交通事故でも病死でもない。殺人である、であるのだが………。
「恐らく事故ではなく殺人でしょう、ですが………」
病院の医者、ではなく刑事が躊躇いがちに口を開き索の身体を覆っていたシートを持ち上げて素肌を見せる。
「ひどい………」
索の母親がその惨状に顔を歪める。索の身体にはところどころ火傷があり特に腹部の跡が酷かった。
「誰がこんなとこを!誰がこんなことをしたんです!?犯人は見つかってるんですか!」
探が声を荒らげて刑事に詰め寄る。
「それをこれからやります。なんとしても、お兄さんを殺した犯人を捕まえます!だから、安心してください」
刑事の言葉に探が彼から距離を取る。
「ただ、一つ気になることがありまして」
刑事が索の火傷跡を指さす。
「火傷跡を見て分かるように跡が円状になってるんです。恐らく、燃えたバットやボールを何度も叩きつけられたのでしょう。ですがそれで本当に死ぬとは思えないというか………」
刑事は自身の迷いを吐露するように言う。
「いえ、なんでもありません。とにかく、犯人は捕まえます」
だがこの場で個人的な見解を言うのは不味いと思い言い直した。
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探はその後母親と索の遺品整理をすることになった。索は一人暮らしだが索の遺体を確認した警察署からはあまり離れていなかった。様々な物を両親と確認しながらダンボールに詰めていく。
その中で探は奇妙なものを見つけた。おもちゃのブレスレットのような。
「戦隊もののブレスレット?」
探が首を傾げる。そう、それはあたかも戦隊ヒーローが変身するのに使うような形状のものだったのだ。
この年になって兄にもそういう趣味があったのか、それともたまたま気が向いて買ってみたのか、探は益々首を傾げるばかりだ。
とにかくボタンを押してみる。何の戦隊かは知らないがボタンを押せば音くらい鳴るだろう。カチッとな。キュイイン、すると鳴ったのはブレスレットだが光が探自身の身体を包んだ。
探は驚きの言葉すら出ない。その姿はさっきまでとへ別のものに変わっていたのである。
「探?」
異変に気づいた母親が探の方を向く。探は咄嗟に同じボタンを押した。探の姿が元に戻る。
「あ、いやなんでもないよ、懐中電灯があったなって思っただけだから」
探は慌てて取り繕う。
「あ、そう」
母親が自分の作業に戻る。
探の乱れていた呼吸が正常値に戻る。まさか本当に何かの変身アイテムとは思わなかったのだ。後からちゃんと調べてみないと。
「日記?」
今度はブレスレットのあったのと近く、机の上から日記帳を見つけた。あの兄にも日記をつける癖があったかのかと探はまた驚いた。ページは開きっぱなし、まるで何かを訴えんばかりの姿だ。
探はそのページを見てみる。
三月〇日
これを残す頃には俺はもうこの世にはいないだろう。これはそう、遺言書のようなものだ。俺は力が残りわずかで何かを残すのも手一杯だからな。俺はやつらの仇を討とうとあの男に再び挑んだ。だが適わなかった、あの男は強すぎる、いや、違うな。俺が弱かったんだ。あの男と俺もまた死んだやつらと同じ友だったんだからな、本気には、なれないさ。だから俺は負けて、そろそろ死ぬそういうことだ。
もう一つ個人的な遺言と共に弟の探にメッセージを送る。俺はこういう趣味だからこんな遺言とあれを机の上に置いたが仇討ちなんてやめとけ、俺の二の舞になるぞ。いいか、絶対だぞ。
日記の文面はかなり意味深で、なおかつ奇妙なメッセージだった。兄は友人の一人に殺された?それも他の友人達も殺されて?そして最後に念を押す仇討ちを止めるメッセージ、まるでこの日記の前のページを見て自分達の身に何が起きたか、それを知った上で探に何をするか見極めろと言ってるようなものである。
探は前のページが気になった、だが隣の部屋には母親がいる。下手に動けば気づかれる、ここは自分一人でやるべきと判断した探は日記とブレスレットを自分のバッグに仕舞った。
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